プロメテウスの火負い   作:かゆ、うま2世

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それが正しい事だとしても

「───あれ」

 

 

ここ……は、オクヘイマだ。いつもと変わらない、僕の…故郷とも言える場所。ただ……少し、向こうが騒がしい気がする。何かあったのだろうか……というか、僕は今まで何して…

 

 

「…あ、アナイクス先生!何かあったんで───」

 

 

耳の横を、何かが高速で通り抜けた

アナイクス先生が、僕に何かを向けている──銃、だ。いつも先生が使ってる、銃。だとする、なら、今通り抜けたものは

 

 

「………先、生?」

 

 

頬に触れる。指に、べったりと赤い何かが付いた。血だ……血だ──何で?わからない。何で、先生が僕に向かって銃を

 

 

「先生、まっ───ぶな!?」

 

 

2発目を、咄嗟に取り出した手斧で弾く。いつか、ヘレクトラから贈られたそれは、銃弾を弾いて尚健在だ

状況、状況がわからない。足を狙われた、殺すつもりはないのか?すぐに3発目が来る。どうすればいい、どうするべきで

 

 

「ごっ───!?」

 

 

腹に──重く、鋭い打撃。何かに蹴られたことだけはかろうじてわかって、地面に転がってから、それが何か見ようとして

 

 

「セファ、リア…ねぇ、さん……?」

 

 

冷ややかな、怒り──初めて見る、家族の顔。なんで、どういう状況だ、状況は──何もわからない、わからない──

 

 

「は、ぁッ!」

「ファイノ──クソっ!」

 

 

跳躍と共に、落下を伴って振り下ろされるヘリオスの一撃を、手斧を以て受け止める。小さな斧に両手を添えて、少しの間抑え込んで──持ち手を強く握り、斧を横に引いた

剣を凌いだ、ファイノン君は体勢を崩している。斧でも、拳でも何でもいい。とにかく何か、反撃を──

 

 

「っ!?ぐっ……」

 

 

真横から迫っていた、獅子のような赤い結晶。軌道を逸らして直撃は避けても、衝撃までは逃しきれなかった。身体は空へと投げ出され、程なくして地面に叩きつけられる。見覚えのある、大きな木の下──生命の花園か、ここは

 

 

「………ヘレクトラ、キャストリスさん…」

 

 

2人とも、武器を構えて僕を見ている。一体どうして……僕が、何を───

 

 

「………皆」

 

 

僕を追ってきた4人も含め、合計6人。全員が一斉に武器を構える。どうして、なぜ──その疑問まま、声を絞り出した

 

 

「何、で、なんでこんな───」

「あんたがライアを殺したからでしょ」

 

 

底冷えするような、聞いたことのない、セファリア姉さんの声が聞こえた。殺した……僕が、アグライアを?

 

 

「は、は…なに言ってんの姉さん。そんなわけ」

「…………ラブカ、斧を…見てみろ」

 

 

震えた、ヘレクトラの声が響く。斧に視線を移すと──黄金に、染まっている

黄金裔だけが持つ、黄金の血。なら、これは、これは……

 

 

「───ぁ」

 

 

思い──出し、た。僕は、僕は……

 

 

「それとも……何?いつも火種火種ってそればっか言ってるから、とうとう人の見分けもつかなくなったってわけ?」

「ち、ちが、僕は」

 

 

何が──何が違うって言うんだ。何も違わない。僕が殺した。僕を拾ってくれた人、僕を育ててくれた人、僕に…名前をつけてくれた人を

 

 

「ぼ、くが……アグライアを」

「さっきから何?自分で殺しといて罪悪感って?……なぁんだ、意外と良心はあったんじゃん。いっつも何かが憎くて憎くて仕方ないって顔しといて」

「止めろ、ネコザメ」

「念願の火種をゲットした気分はどう?ライアの次はあたし達なんでしょ?……ねぇ、なんか言ってみなよ!」

 

 

言葉なんて出てこない。出てくるはずがない。今更……今更何を言おうって言うんだ。殺した。アグライアを、火種欲しさに

 

 

「……ラブカ、キミを捕らえる。話があるなら、その後で…」

「──捕らえる必要なんてない。今ここで殺す。それでいいでしょ?」

 

 

殺す──殺される。皆が殺しにくる。僕が死ねば、そこで終わりだ。カスライナ君が繋いだ旅も、皆の犠牲も、全部……全部、徒労に終わる

なら、なら……今、僕が取るべき選択は

 

 

「…………おやめ、ください。プロメイア様…」

 

 

斧を握って、立ち上がる。ヒアンシーさんとトリビー先生以外、殆どの半神がこの場に集まっている。なら──なら、今ここで、全員殺してしまえば

これが──最適解なんだ、きっと。この方法しかない。皆を殺して、火種を集める、それしかない──それしかない!

 

 

 

「っ!全員構えろ!」

「火種、を───!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………プロメイア、様?」

 

 

膝を、ついた。斧も、僕の手には握られていない

 

 

 

「…………できない」

 

 

僕には…そんな選択はできない。もう既に手遅れだ。アグライアを殺した。それでも──できない

 

 

「アグライアの事は……本当に、すまないと思ってる。取り返しのつかない事をした。償いようもないことも、ちゃんとわかってる」

 

「でも…鉄墓が解き放たれれば、もうオンパロスだけの問題じゃない!僕たちの旅は!他の世界をぶち壊すためのものじゃない筈だ!」

 

「だから……頼む、信じてくれ───頼む、から……」

 

 

懇願、祈り。いずれにしても、伝わらない想いだ。僕が、アグライアを殺した──それだけで、十分過ぎる理由だ。弁明の余地はない。こんなものが聞き入れられるわけがない。こんな、ものが

 

 

「………話を、聞いてみても…良いのでは、ないでしょうか」

「…え?」

 

 

キャストリスさんが、口を開いた。真面目な表情で、皆に向かって静かに語りかける

──は?何で──何で

 

 

「正気?自分に触れられる人を手放したく無いだけじゃないの?」

 

「いいや、ワタシも同意見だ、ネコザメ。それに……ラブカが金のマスを手にかけたように、ワタシもカイザーを手にかけた。ラブカを殺すなら、ワタシも同じように死ぬべきだ」

 

「……サフェルさん、確かに彼はアグライアを殺したけど……彼が火を追う旅において、常に最前線で戦い続けたのも事実だ」

 

「…ヤツは、ファイノンやキャストリスの命を救った事がある。初めから俺たちを殺して火種を奪うつもりなら、説明のつかない行動は多々あった」

 

「万が一彼の言葉が真実であれば、我々は世界を救うべく、世界を滅ぼす事になります。……セファリア、恨みはわかります。それでも……どうか冷静さを保ち、物事を俯瞰してください」

 

 

 

「……あたしは、絶対反対。でも…好きに、すれば」

 

「一度ラブカを捕らえる。その後に話を聞く、それでいいな?」

 

「異議はない」

「私も、同意いたします」

「それで良い……というより、それしかないでしょうね」

「僕も───」

 

 

 

「………キュレネ?」

 

「────は?」

 

 

立っている。いるはずのない人が、立っている。立って、僕の方へ歩いてきて、膝をついて、顔を覗き込んだ

 

 

「立って?」

 

 

いつもの、声色だ。焼け野原で話をした時と、同じ。いるはずのない人間が、いつも通りの調子で、僕に接してくる

 

 

「なにをしてるの?早く立って?」

 

 

立って──立って、何をするって言うんだ。何をしろって言うんだ。僕に──僕、に

 

 

 

 

 

「あなたは…どうして、旅に出たのかしら?」

 

「皆に報いる為でしょう?」

 

「道半ばで斃れたカイザー?」

 

「あなたの刃となって、最期まで障害を斬り続けたセイレンス?」

 

「あなたに名前をつけて、あなたを愛し続けたアグライア?」

 

「世界の為に、嘘を紡ぎ続けたセファリア?」

 

「たとえ千に分かたれても、世界の為に旅を始めたトリスビアス?」

 

「あなたを教え、導き続けたアナクサゴラス?」

 

「医師として、友人として、あなたを案じたヒアンシー?」

 

「あなたを信じて、前途を切り開いたモーディス?」

 

「あなたを庇って死んだファイノン?」

 

「あなたに全てを託して消えたカスライナ?」

 

「…………それとも、あたし?」

 

 

うまく、いきが、できない

頭も痛い、手も震えている。寒い、暑い、溺れそうで、干からびそうで

 

 

「いつかこうなる事は、わかっていたでしょう?どうすればいいのかも、ずっと昔から知っていたはずよね?」

 

「あたし達の旅を止めないで。ただ進み続けるの───殺しても、殺した後も」

 

 

 

斧を、握る

 

 

「何故──その名前を知っている!」

 

 

誰かが叫んでいる──けど、もう関係ない。やるべき事は、これ以上ないほど明確だった

 

 

 

 

 

 

 

「───火種を寄越せぇぇぇぇえッ!」

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

ずる、ずると……死体を、引きずって歩いている。僕が殺した、殺した、殺した

第10胸椎を破壊した、首をへし折った、抉った、裂いた、頭を割った、腹を裂いた、首を落とした、血だ、血が、血しか

 

 

「は、ひゅ───ぅ、ふー……」

 

 

もう、喉は枯れている。吐くようなものも、もう残ってはいない。手は真っ黒に汚れていて、爪の隙間に肉片が詰まっている

僕が──僕がやったんだ。やり遂げた──やり遂げてしまった

 

 

「は、は、はははっ」

 

 

黄金裔の皆の死体を、生命の花園に集めていた。この行為には何の意味もない。ただしたかっただけだ。してないと、頭がおかしくなりそうだったから

最後に運んだのは、アグライアの死体だった。特に顔面の損傷がひどかった。何度も何度も、殴るように斧で潰したから

 

 

「はは、ははは……」

 

 

今さらどんな感情なんだろう。よく、わからなくなってしまった。涙すら出ていない──出た瞬間に、火種の熱が蒸発させる

気になることが、あるとするなら──アグライアは、死ぬ時どんな顔をしていたのだろうか。怯えただろうか、恨んだだろうか。僕を、呪っただろうか

 

 

「は、ははは、ははははは────キュレネぇッ!」

 

 

叫んだ。僕の背中を押した、あの人の名前を

呪うように、怒るように、恨むように

 

 

「殺した!皆殺したぞ!これでいいんだろ?これで───これでいいのか!?本当にこれで、オンパロスは…皆は救われるのか!?」

 

 

叫べど、叫べど、ただ誰もいない空間に、虚しく声が響くばかりだ。当然だ。あんなもの、僕の心が勝手に造り上げた幻影なんだから

そもそも───あの人は、あんな状況で、あんな風に僕の背中を押したりしない。あんな言い方はしない。僕だ。僕自身だ。僕自身が、僕を追い込むために言わせていただけ

状況や環境のせいじゃない。最終的に選んだのも、実行したのも僕だ。そのくせ罪悪感に耐えられなくて、誰かに背中を押されたことにしたかった。本当に、本当に……なんて、どうしようもない

 

 

「は、はは………」

 

 

アグライアの死体を、皆の隣に並べて………座り込んだ。立つ体力はあっても、気力の方がダメだった

火種は集まった。また時を戻さなければならない。何度も、何度もしてきた事が、今はひどく、重くて───

 

 

 

 

 

「なんとも──勇ましい活躍でしたね、プロメイア殿」

 

 

よく知っている電子音だった。人のそれとは決定的に違う、機械が発する声だった

 

 

「あなたが黄金裔からの信を得られなかったのは、単純な話に過ぎません。あなたは面倒だったのですよ。どれほど絆を紡ごうと、その時が来れば全ては無に帰す───結果としてあなたは、皆様の事を知っているから、と対人関係において積み上げるべき様々なものを蔑ろにしたのです」

 

「ですが、それはごく自然な反応です。……さて、本題に入りましょう。私は提案をしに来たのですよ、プロメイア殿」

 

 

胸に穴の空いた、機械野郎──このオンパロスを地獄に変えた、空の上から僕たちの運命を弄んだクソ野郎

 

 

「提、案?」

 

「えぇ。あなたは半神の皆様を正面から皆殺しにしました。戦闘中に見せたのは、恐らく半神の権能でしょうか?カスライナ殿にはできなかった事です……やはりあなたの出自にかかわるのでしょうか、異界の住人よ」

 

「私からの提案は──その強大な力を持って、このオンパロスという洞窟を抜け出し、天外へと旅立ってみてはいかがでしょうか」

 

「あなたに手を出す事はしないと約束しましょう。ただ、あなたの中で蠢いている力を……少々整えて差し上げるだけ」

 

「破壊の限りを尽くすのも良いでしょう──ですが、あなたには人助けの方が合っているかもしれませんね。天外には、あなたが憎むもの…壊滅の尖兵が溢れていますから。あなたは憎しみのままに戦うだけで、正しい称賛を受け取る事ができるでしょう」

 

「あの無知で愚かなる黄金裔のように、剣を向ける事など────」

 

 

斧を、振るった

肩口から、袈裟に一閃。刃は容易く通り抜け、頭と身体を二つに分けた。膝をつき、倒れる身体。転がる頭──に向かって、すぐさま駆けた

 

 

 

 

 

「───クソ、クソ!クソ野郎!ふざけんなよ!何が愚かだ、皆は何も悪くねえよ!!悪いのは全部僕と、お前だろうが!」

 

「僕も!皆も!テメェみてえなコミュ障のクソジジイに構ってる暇ねぇんだよ!死ね、死ねよ!とっとと諦めて死ね!テメェが死んで!僕も死ねば全部丸く収まるんだよ!死ね、死ね!皆に土下座してから死ね!死ね──死ね!」

 

 

 

何度も何度も、転がった頭を踏み砕いた。ぐちゃぐちゃに砕けるまで、パーツ単位でバラバラになるまで、パーツすら砕け、塵と化すまで

 

 

「はぁ、はぁ───は、はは!もう二度と話してやらねえ。テメェのやってきた事が無駄になるのを見てればいい!ただ訳の分からないこと喚き散らすだけの生涯に、生き甲斐でも見出してろ!」

 

 

そんな言葉を吐き捨てて、その場に仰向けになった。僕の言葉は、ただ誰もいないオクヘイマに虚しく響くだけ。……皆死んだ。僕が殺した。多分……次も、同じことをする

 

 

「ふ───はは……ははは……」

 

 

早く、早く───皆を助けに来てくれ、救世主

 

 

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