プロメテウスの火負い   作:かゆ、うま2世

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運命は人を嘲笑う

空を駆けた

初めて皆を殺した時からだ。使えるようになった、酷く劣化した半神の権能。美しい黄金だったはずの浪漫の糸は、どす黒い色に濁っている

糸を立体物に繋げ、自分の身体を引っ張って飛ぶ。天空の権能も併用すれば、空気抵抗を気にする事なく、走るよりも遥かに早い速度で移動できる

 

 

「───次!」

 

 

空を駆け───トリスビアスの分かれ身に斧を振り下ろした

人形へと変わったそれに視線を向けることさえせずに、蜘蛛の子を散らすように逃げ去る他の分かれ身に斬りかかる

 

速度で追いつき頭に一撃。糸を伸ばして心臓を貫く。首をへし折る。片っ端から殺していく

 

 

「………そろそろか」

 

 

酷く暴れた。そろそろ───来た

 

 

「づっ、んんっ!」

 

 

突如目の前に飛来した、獅子の形をした赤い結晶──紛争の半神モーディスが来た

結晶の片方を破壊し、もう片方を逸らしながら着地する

 

 

「貴様、外道に堕ちたか」

「かもね」

 

 

文字通り降ってきたモーディスの拳を斧で受ける。……強い。重い。手強い──けど初めてのことじゃない

上に弾けば喉がガラ空きになる。ほんの一瞬の隙だけど、喉を裂くには充分過ぎる隙だ

 

 

「ぐっ……!」

 

 

命を奪うに足る、致命の一撃──だが相手は不死身のモーディス。第10胸椎を破壊しない限り何度でも立ち上がってくる。起きてくるまでの僅かな隙に、背を破壊───

 

 

「ラブカッ!」

 

 

ピンポイントに僕だけを狙って流れる、文字通りの激流。……海洋の半神セイレンスだ。時間をかければ集まってくる。この激流を避けた先には

 

 

「はあぁっ!」

 

 

ファイノンが剣を構えて待っている。完全に皆が集まり切る前に、せめて1人は仕留めなければ

ヘリオスの一撃を斧を引っ掛けるようにして防ぎ、勢いで身体を捻って蹴りを放つ

 

 

「ぐっ──!?」

 

 

即追撃──に移るもすぐさま阻止が入る。モーディスが投げる結晶に、セイレンスが操る魚群。互いが互いの隙をカバーしている。………面倒だ

 

 

「ラブカ……何故…」

 

 

何回聞いたかわからないセリフ。何回聞く事になるかわからないセリフ

どの輪廻でも、セイレンスは僕の事を戦友だと呼んで、殺さず止めようとしてくる。……あとは、キャストリスさんも同じだっけ。サフェルさんが前に言ってたように、自分に触れられる人を手放したくないだけかもしれないけど

 

 

「っ───!」

 

 

互いに向かい合い、駆け出す。真ん中にモーディス、その両側にファイノンとセイレンス。この並びなら───

 

 

「なっ!?」

 

 

ファイノンとセイレンスに向け、地から生える黒い結晶を伸ばす。紛争の権能──といっても僕にできるのはこのぐらいだ。モーディスのそれより強度も自由度も低い──けど、隙を作るには充分。ここで確実にモーディスを殺す

 

 

「───クソ」

 

 

手元から、斧が弾かれて空を舞った。セイレンスが僕が出した結晶の一部を砕いて投げた。武器を失った、素手でモーディスと相対する──はぁ

 

 

「は───っ!」

 

 

モーディスの拳が迫る。ギリギリを狙って避ける。カウンターで頭に拳を振り下ろして一度殺す。そのまま──腹側から拳で第10胸椎を貫いた

 

 

「………ごめん」

 

 

胸の奥がズキリと痛んだ。だとしても、その痛みに反応している暇はない。背後から迫るファイノンとセイレンスに意識を集中────止まった。幸運だった

 

 

「来たか」

 

 

世界の全てが止まっている──というよりも、僕と彼女だけが早く動いている。詭術の半神サフェル。飛翔する幣を投げている間のみ行える超高速移動。詭術の火種は僕の中にもあり、権能の発動条件は満たされている

糸を伸ばして斧を拾い、そのまま背後に振り下ろす。ファイノンの頭を割り、セイレンスの喉を裂いた

 

 

「………なん、で」

 

 

困惑しているサフェル。隙だ。距離を詰めるのは一瞬で済む。咄嗟に出た攻撃を狩るのは容易い。腹を裂いてから喉に一撃。それで終わった

 

 

「プロメイア、様」

 

 

キャストリスさんが来た。知らせを受けて必死に走ってきたのだろう、額には汗が浮かんでいた。焦燥が滲んだ表情で、眼前の惨状を受け止めきれず、口を震わせる

 

 

「……どう、して?あなたの手は…私と違って…あんなにも……暖かいのに」

 

 

話す事なんてなかった。血に塗れた斧を持って、一歩一歩、近づいていく

 

 

「これがあなたの望みだったのですか、プロメイア」

 

 

足を止めた。アグライアの声だ。だとするとこの場にいないのはアナイクスとヒアンシー、それと残りのトリスビアス。ヒアンシーとトリスビアスはオクヘイマの住民を避難させてる。アナイクスは樹庭。この2人を殺せばひとまず落ち着ける

 

 

「……望みか、はは、どうかな。もう…わかんないや」

 

 

もう……僕にはよくわからない。救いたかったはずの皆を当たり前のように殺した。なら、僕にとっての皆は、もうその程度の存在になったのかもしれない

 

 

「このような行いが、本気で世界を救うとでも?」

 

 

わからない。僕にはもう、わからない

 

 

「……あの時キャストリスさんを庇ったりしなければ、僕の記憶は消えなかったかもしれない。そうだったら、こうやって皆を殺し続ける事もなかったかも」

「何、を……?」

「じゃあ、あの時見殺しにするのが正解だったのかな。どうなの、アグライア」

 

 

アグライアの解答は、剣を取る事だった。そりゃそうだ。僕の言ってる事なんて何一つ伝わらないだろう。当然だ。当然の事だ………はは

 

 

「これ以外の方法があるなら教えてくれ。記憶を無くした僕が、これ以外の方法で火種を集められるなら──そんな方法があるなら教えてくれよ!」

 

 

わからない。この間違いを選び続ける以外の道なんて、僕にはわからない

 

 

「…………そんなものが、あるわけない」

 

諦めたように、静かに呟いた。目を瞑り、祈るように、懺悔するように天を仰ぐ

 

 

「……一応聞くけど、火種くれる?」

 

 

2人とも、首を横に振るばかりだった

 

 

 

 

 

 

 

走って、飛んで、殺した

後悔はしても、迷う事はしなかった。皆殺しにした

腹が減った

どれだけ戦いを、輪廻を重ねても、皆は手強かった。負ける事など許されないから、ただ必死に力を求めた。強く、強く、もっと強く。全てが終わっても皆と一緒にはいられないけど、鉄墓との戦いで戦力にはなれるかもしれないし

 

もっと強く。もっと強く。力を強く、技を巧く、足を速く、頭を賢く。全てを求めた

 

それ以外の事は、とりあえず頭から追い出した

みんな美味しそうだった

いつかカイザーに言われたように、誰の命を奪おうとも躊躇うことのないよう

 

何千回、何万回と輪廻を繰り返した。その度にカイザーの下で戦い、火を追う旅が終わるその瞬間に裏切り皆から火種を奪う───それを繰り返した

 

皆の旅を止めぬように。皆の歩みを無駄にせぬように。強く、強く、強く、ただひたすらに強く、それだけに貪慾に、強く、強く強くアグライアを食べたただ強くもっと強くもっともっともっともっともっともっと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

ごり、と酷く硬い感触があった。口の中に何かある。鉄の味がする

 

アグライアがいる。死んでる。僕が殺した。腕がない。どこに───僕が持ってる。歯形のついた右腕。アグライアのもの。ごり、ごり、がり───

 

 

「あ」

 

 

何で、何でこんな事?違う、違う違う違う僕の意思じゃない。空の上だ。何かが僕を見てる

この世界には運命があって、運命には神様がいて───僕を見ているのはそれだ。見られて──見られたからようやくわかった。僕はその道を歩みたかったわけじゃないのに、チカラを貪慾に求めてしまったから其れの目についてしまった

 

 

「あ、ぁあ、ぁ」

 

 

あたまがいたい。からだがわれる。だめだだめだだめだみるなみるなみないでみないでみないで

 

 

「ぉ、ぇ」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

片目が見えない。右足がないから歩けない。体重が偏りすぎて立つ事もできない。水面に映る僕を見た

僕を見ていたあの神の下半身にそっくりだった。緑色の身体に、背中側に開いた大きな口。身体から伸びる4本の触手の先にも口。貪慾に目をつけられただけの事はある見た目だと思った。笑った

 

 

「……プロ、メイア?」

 

 

キュレネの顔が、引き攣った。そんな顔をさせて申し訳ないと思った。ただ笑っていて欲しかったのに。いつからだろう。この子の笑顔を見なくなったのは。いつだっただろう。この子の笑顔を最後に見たのは

 

 

「治る、かな」

 

 

聞かずにはいられなかった。他ならぬ自分がよくわかっているはずなのに。勝手に口から漏れたように思った。声を発した僕自身に覚えがなかった

 

 

 

 

 

 

「………きっ、と、治るわ。天外程じゃなくても、オンパロスだって…広いもの。きっとどこかに……どこ、かに」

 

 

答えを言っているようなものだった。もう元には戻れない。神に魅入られるとはそういうことだと、現実を突きつけられた

 

 

「───適当なこと、言うなよ!」

 

 

右半身が勝手に動いた。飢餓のままに、僅かに感じた苛立ちのままに、目の前の少女を喰い殺さんと触手を伸ばす

 

 

「っ……ぁ…!」

 

 

望み通りにキュレネの左腕を喰らい、次は頭だと別の触手が伸びていく。止めようと思った。身体は止まらなかった。僕の身体は僕の意思とは関係なしに動いた

頭に迫った口が閉じる。豆腐のように頭蓋を砕き、脳を捕食するだろう───はずのそれが、寸前で止まった

 

 

「キュレ、ネ?」

 

 

片腕を失った少女が、真っ先に僕を抱きしめることを選んだからだった

 

 

 

「………ごめん、なさい」

 

 

残った腕で頭を抱いて、ただその6文字だけを呟いていた

 

 

 

……僕にはもう、わからない。どうしてこんな事になったのかも、どうしてキュレネが謝ったのかも

キャストリスさんを庇ったから?皆を殺すことを選んだから?貪慾に魅入られてしまったから?

 

僕はただ帰りたかっただけだ。皆の旅を無駄にしたくなかっただけだ。強くなりたかっただけだ。欲張り、だったのだろうか

 

誰か、これを見ているなら教えてくれ。僕はどこかで、何かを見落としたのだろうか?

 

 

ただずっと、深い霧の中を彷徨っているんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……この記憶を見てる人がいるなら、僕はやり切ったって事になる」

 

「どうかな、僕は……皆に胸張れるような人になれたかな。なんて…はは、わかるのはいつになるだろうね」

 

「でも、頑張るよ。さっき皆に頑張ってこいって言われたばっかだし。天外からの助けが来た時、僕が無事そうなら一緒に戦おう。ダメそうなら……ごめんね」

 

 

「よし!それじゃ………また、明日!」

 

 

 

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