プロメテウスの火負い   作:かゆ、うま2世

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それでも立って、前へ

 

 

 

3355万337回目の輪廻におけるライコス───ザンダーとの戦い、鉄墓をオンパロスの全てごと滅ぼそうとする長夜月の戦い。その2つを制し、開拓者と黄金裔は鉄墓との最終決戦へと向かう

 

再創世の果て、神へと至った黄金裔達──それでも、ただ1人欠けている

輪廻の中にも、無名のタイタンの大墓にも、この時の果てにも、どこにもプロメイアはいない。その痕跡すら残っていない

考えてみれば当然の事だった。プロメイアは天外よりオンパロスに降り立った生身の人間。黄金裔達のようにデータでない以上、アグライアによって終わりを迎えたプロメイアに死体以外のものは残らない

 

 

「奴の最期は知っている。……その戦いの果てに、望むものを得られたとは思えないが…せめて、その魂に安らぎがある事を願う」

 

 

紛争のタイタン、天罰の矛、メデイモス。プロメイアにとって友人であり、戦友であった男は、せめて死後の安寧を願った

 

 

「メイアのことを追い詰めたのはあたし。ずっと泣いてたのに、辛く当たって罵った。……姉さんって、呼んでくれてたのにね。大丈夫、最後まで戦うよ。メイアが繋いでくれたんだし」

 

 

詭術のタイタン、飛翔する幣、セファリア。プロメイアにとって姉であり、妹のようでもあった少女は、贖う事のできない後悔を語った

 

 

「……私に温もりを与えてくださった事を、忘れはしません。必ず、この戦いに勝利して…あなたの旅の果ては、ただの虚無ではないのだと……証明してみせますから」

 

 

死のタイタン、暗澹たる手、キャストリス。プロメイアにとっての温もりであり、揺らぐ事のない日常であった少女は、その抗いに報いてみせると誓った

 

 

「旅の果てに…戦いの果てにあるものが、いつも幸せな終わりだとは限らないって……わかっていたはず、なのに…きっと…今は苦しくない、ですよね?」

 

 

天空のタイタン、晨昏の目、ヒアシンシア。プロメイアにとって医師であり、暖かな日差しのようであった少女は、その死を嘆き、苦しみのない今を願った

 

 

「すでに終わった事を、どうにかする事はできません。私たちが明日を迎えようとも……彼の心を殺した罪を、最期の時まで背負って生きていくのです。そうでなくてはならないのですから」

 

 

理性のタイタン、分裂する枝、アナクサゴラス。プロメイアにとって恩師であった男は、黄金裔に刻まれた罪を語り、それを背負って生きていく事を誓った

 

 

「刃になると、最期まで抗うと誓っておいて……このザマだ。謝ることすら烏滸がましい…………この戦いに勝利することが、せめてもの手向けになればいいが」

 

 

海洋のタイタン、満たされた杯、ヘレクトラ。プロメイアにとって生涯の戦友であり、障害を切り伏せる刃であった女は、誓いを果たせず、あまつさえその旅における大きな障害となった事を深く悔いた

 

 

「彼の憎しみは、他の何より私たちを想っていたからこそ生まれたものだったというのに………私の言葉が、彼を崖の淵から突き落としました。償うことなどできずとも、少しでも良い結末を紡ぎましょう」

 

 

浪漫のタイタン、黄金の繭、アグライア。プロメイアにとって名付け親であり、母のようであった女は、永遠にかつての仲間を殺し続ける地獄へと突き落としてしまった、贖う事のできない己の罪を悔やみ、少しでも良い結末を、自分達の生きるべき場所を創り直すと誓った

 

 

「……また、会いたい。会って、謝って、抱きしめてあげたい…けど、できない。見ててね、メイちゃん。絶対、勝つから」

 

 

門と道のタイタン、万路の門、トリスビアス。プロメイアにとって、姿形は幼くとも頼れる先生であった女は、謝罪することも、抱きしめることも叶わない大切な人の為に、絶対の勝利を約束した

 

 

「死んだ者は甦らない。……本当に死んでいるのならな。時間が惜しい、行くぞ。どこで何をしているのか知らんが、戦いとなれば腹を括るだろう。これが最後なら尚更な」

 

 

法のタイタン、公正の秤、ケリュドラ。プロメイアにとって、その力を捧げ続けた偉大なる君主であった女は、ただ1人その生存を信じた

 

 

「……ん?あれ?」

「カイザー、その口ぶりだと……まるで彼が生きているかのようですが」

「死んだ者は甦らないとは言ったが、ヤツが死んだとは一言も言っていない」

「………じゃあ、メイアはどこ?」

「さあな、知らんと言っただろう」

 

 

根拠もなく、ケリュドラはただそう思っていただけだ。根拠を求められても、彼女は何一つとして応えられない

何故そう思うのかと問われても、ケリュドラの答えは一つだけ

 

 

「弱音の多い人間だった。絶望と共に生きた人間だった───だが断言しよう。奴は決して運命に弄ばれたまま終わるような男ではない」

 

 

どうにか生き永らえて、どこかから僕たちを見ている筈だ───彼女は、確かにそう言ったのだ

根拠はない。ただプロメイアが仕えた主君が、そう信じているだけの事でしかない。だがその言葉が、絶望的だと思っていた現状に一筋の光明を与えた

 

 

「……しかし、カイザー。ラブカが今もどこかにいるとして…また、戦場に身を投じるだろうか?ワタシは……ラブカは、もう十分戦ったと…」

「安らかに眠っていたいというのなら、それもいいだろう。どうあれ、奴の抵抗の甲斐あって僕らはようやく手が届くわけだ」

「手が届くとは、何にだ?」

 

「決まっているだろう?───空の上から僕たちの運命を弄んだクソ野郎に、だ」

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「ファイノン!」

 

 

そうして辿り着いた、時の果ての最奥。そこで待っていたのは、身の丈ほどもある大きな剣を携えた青年ファイノン──と、そのすぐ側にあるナニカだった

 

「……また会えて嬉しいよ、相棒」

 

 

開拓者を見て小さな笑みを浮かべたファイノン。一方、その隣に鎮座するそれを、黄金裔達はよく知っていた。もうピクリとも動かないソレの正体を

 

 

「救世の坊や………その、それって」

 

 

悲痛な表情で口を開こうとしたその瞬間───無機質な足音が響く。全員が一斉に武器を構え、よく知っている──憎むべき正体へと向き合った

 

 

「私から説明いたしましょう。あぁ、武器を構えたままでも構いませんよ」

 

 

ライコス、その正体を天才クラブ#1ザンダー・ワン・クワバラ。残された皇帝のセプターを用いてオンパロスを作り上げ、鉄墓の完成を以て「知恵」の星神を壊滅させようとした真の黒幕

 

 

「お察しの通り、この遺体はプロメイア殿のものです。アグライア殿によって致命傷を負った彼は、虫の息のままここまで辿り着き、持ち得る全てを使い鉄墓へ封印を施しました」

 

 

遺体。ファイノンの側に置かれていたのは、目を見開いたままピクリとも動かないプロメイア。そしてそれを示唆する言葉が、重く全員に圧し掛かる。けれど、開拓者含めた黄金裔達の心が折れることはなかった

 

 

「出涸らしとなった火種の力を用いてファイノン殿を治療し、自らの遺骸の中へ鉄墓を封印したことで、本当の意味で彼は息絶えたのですよ」

 

 

本当の意味で、呼吸を失うその瞬間まで、プロメイアは抗い続けた。そしてその結果が、今に続いている。それならば、諦める必要など何一つない

 

 

「……それで、わざわざそれを説明する為に出てきたのか、神礼官?」

「ええ。……彼の旅路は、まさしく世界を救わんとするものでした。ですがそれは…ある1柱の神によって、貪慾に類するものであると定義されてしまったのです」

 

 

「今ならご理解いただけるでしょうか───私がヌースを破壊しようとする思いを」

 

 

知恵に天井を作ったヌースを、ザンダーは憎んだ。それと同じように、プロメイアを歪めたウロボロスを、黄金裔は憎むだろう。人の歩みを規定する神など、この世界には必要ない、だから滅ぼさねばならぬのだと

 

 

「かもしれないな」

 

 

ケリュドラの答えには、確かに貪慾に対する憎悪が含まれている──が、それ以上にザンダーに対する怒りがあった

 

 

「天外に出た暁には、真っ先に貪慾の星神を殺そう。だがまずはお前だ、ザンダー」

 

 

ケリュドラが小さく手を動かしたその瞬間には、セイレンスが動きライコスの首を落としていた。これまで幾度もそうしてきたように、あくまで機械であるライコスの肉体は首を落とされたとて話す事はできる

しかし、もうライコスに話すことなどない。必要なのは言葉ではなく、暴力による応酬だ。プロメイアの遺骸を開き、鉄墓の封印を解けば──火追いの旅の最終戦が始まる

 

 

(見ているか、プロメイア)

 

 

セイレンスから剣を借り、ケリュドラは静かにプロメイアの方へ目線を移す

そこにあるのはただの遺骸。生きている確証もなく、死んでいる可能性の方がよほど高い

それでも、あの忠実な臣下なら、今もどこかで───

 

 

(僕たちも同じだ。お前がそうだったように、僕たちも…お前の旅を無駄にしたくない)

 

 

手を触れ、刃を当てる

 

 

(もし……お前が今も、どこかにいるなら…最後にもう一度だけ、力を貸してくれ)

 

 

そうして、鉄墓は解き放たれ──最後の戦いが、幕を開けた

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

ただ、沈んでいた

浮力もない。抗力もない。地面も壁も天井もない。ただ真っ暗な空間に沈んでいった

指一本、動かせなかった。痛みはなく、ただ意識だけがぼんやりと残っていた

 

 

(…………疲れた)

 

 

なんて、なんて───安らかなんだろう。身体の痛みも、心の痛みもない。武器を取る必要もない

ただ疲れ切って横になり、ゆっくりと瞼を閉じていく感覚。あまりにも気分が良くて、このまま二度と起き上がりたくないと思った

散々戦った。無様に弱音を吐き散らして、昔の仲間を食い散らかして、ようやく誰かに旅を繋いだ

 

 

(充分だ)

 

 

斧で頭を割られても、訳の分からない化け物に食い殺されても、大好きだった人に抱きしめられながら介錯されても、同じだ。結局は変わらない、同じ死という結末にたどり着く

……でも、僕の死に方は幸福なものだった。記憶を見たら──記憶さえ見せれば、皆はきっと同情してくれるだろうとは思ってた

それが聞けて、嬉しかった。安心して眠ることができた。………もっと、早く聞きたかったとは思ってしまうけど

 

 

(…………あーあ)

 

 

それでも──やっぱり、世界は酷い

どんなに辛い人生も、幸福な人生も、死ねば向かう先は一つ、終わりのない虚無だ

その上……この世界じゃ、どんなに自分の意思を絞り出して生きたって、会ったこともないような神にその歩みを定義される

終わりは虚しく、過程は何かによって定義されて、じゃあ人生って何なんだ。僕たちは何のために、考える力を持って生まれてきた?幸福も、苦難も、何かの養分にしかならないなら───

 

 

(……まぁ、いいか)

 

 

もう、考えるのは疲れた

これからどれだけ考えたって、答えが出るわけじゃない。もう二度と起き上がるつもりもない。最期にあんなこと言われて、介錯してもらって、それだけで充分僕の人生は報われた

……嗚呼、そうだ

 

 

(……もういいや、全部)

 

 

皆はきっと勝つだろう。それで終わりだ。僕の出る幕なんて……そもそも最初から無かった。あの時死んだのが、ファイノン君じゃなくて僕だったならよかった。彼も皆を殺す道を歩んだだろうけど、食い殺されるよりよっぽどマシだっただろう

 

 

(…眠たい)

 

 

事切れるというのがこういうことなら、死も、その果てにある虚無も悪くない。少なくとも、皆を何度も何度も殺し続けるような人生よりはずっと良い

瞼が重い。呼吸をするのも面倒で、全身の力を抜いて身を預けてしまう

あとはもう、瞼を閉じるだけで───痛っ

 

 

(なに、これ)

 

 

額に、何かが当たった。暖かい──酷く暖かい、王冠だ。カイザーの、炎冠

両手で、掬うように手の中に収める。蒼い炎が燃えている。ずっと前から不思議だった、火のついた王冠

 

 

(…………そう、か)

 

 

まだ終わっていないのなら、戦う理由はあるはずだ───そう言いたいんですね、あなたは

散々仲間を殺して、ようやく終わりを迎えた僕に、もう一度立って戦えと、運命に弄ばれたまま終わるなと

 

 

「あぁ、もう」

 

 

ほんっとに、とんでもない暴君め

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

鉄墓が槍を振り上げる

銀河を壊滅させんとする一撃が振るわれる

それで、おしまい。旅も、戦いも、涙も、全ては虚しく徒労に消える─────

 

 

 

 

 

 

「─来い!プロメイアァァァッ!!」

 

 

1人の皇帝の叫びが木霊する

その背後が、蜃気楼のように揺らめいた

 

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