仮面ライダーゼッツ Dimension Darkness   作:Leona

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クロスオーバーというよりはスターシステムかもしれない、とも思ってますがとりあえずタグはそのままで。感想高評価お待ちしてまーす


Case2 :変わる

 それからさらに数年の時が過ぎた現在──

 カラン、と控えめなアンティークベルの音が、深く焙煎された珈琲の芳醇な香りに満ちた店内に響いた。

 表向きは平穏な日常が営まれる街の片隅。喫茶『アルカナ』のレトロなランプが落とす暖かな光の中で、安室透は人当たりの良い柔和な微笑みを浮かべながら、純白のクロスでグラスを磨いていた。

 

「時雨くん。先日の木曜日、君は大学の講義を休んでいたね。駅前の防犯カメラにも、君によく似た青年がひどく慌てた様子で走り去る姿が映っていたのだけれど……何か、急ぎの用事でもあったのかな」

 

 安室の声は、極めて穏やかで、まるで日常の他愛もない世間話をしているかのようだ。しかし、その細められた瞳の奥には、対象の僅かな嘘や動揺すら決して逃さない、公安警察の捜査官特有の冷徹な光が刃のように潜んでいる。

 カウンター越しで布巾を動かしていた奏多は、必死に呼吸を整えて平常心を装った。十年前の都市消失事件以降、この街の裏側で暗躍する極秘防衛機関「CODE」の存在、そしてナイトメアが引き起こす超常的な事件の痕跡を、この眼光鋭い男は確実に嗅ぎ回り始めている。背筋をじっとりと冷たい汗が伝い落ちる感覚があった。

 

「気のせいですよ、安室さん。その日は……少し熱っぽくて、一日中家で寝ていましたから」

 

「そう。それならいいんだ。ただ、最近はこの街も不可解で物騒な事件が多いからね。君も気をつけて」

 

 安室が静かに微笑みを浮かべたその瞬間、店の奥の薄暗いボックス席から、カチャ、と硬質な音が響いた。

 そこに座っているのは、紫の瞳を持つ少女、森亜るるか。彼女は季節外れの紫色のパッケージのアイスキャンディーを無表情のままかじり、淡白な視線を奏多へと向けていた。彼女の華奢な指にはめられた銀色の刻印の指輪が、鈍く光る。それは、新たな「夢主」が発見され、ナイトメアが出現したということを告げる、絶対的な任務開始の合図だった。

 

 奏多は安室の視線をやり過ごすように裏口からアルカナを抜け出すと、足早に自身の拠点である里親の家の隠し部屋——ゼッツルームへと向かった。

 分厚い防音扉を閉め、外部からの干渉を完全に遮断する。部屋の中央に置かれたリクライニングチェアに深く腰掛けた奏多はCODE製の睡眠薬を口に含み水を飲むと目を閉じた。

 

 「……ダイブ開始」

 

 間もなく、自身の意識が泥の底へと沈み込んでいくような強烈な浮遊感に襲われた。現実世界の輪郭が溶け落ち、次いで、冷たくてひどく生臭い風が彼の頬を撫でた。

 目を開くと、そこは果てしなく続く灰色の回廊だった。

天井からは無数の歪な鳥籠が吊るされ、上下左右の重力感覚が曖昧に溶け出している。ここは現実ではない。

 

ある一人の人間——「夢主」の深層心理が構築した、閉ざされた夢の世界である。空には昼間だというのに赤い月が空に浮かんでいる。それは、ここが現実ではなく夢の中だということを示すものの一つだ。そして、空間を満たしているのは、古びた鉄が錆びていくような不快な匂いと、どこからか聞こえてくる、押し殺したような嗚咽の声だった。

 

 「……さて、夢主を探さないと」

 

 ナイトメアが引き起こし、夢主の歪められた夢の世界。深層心理にある願いを反転させた物を叶えたり、罪悪感や忌避感を悪夢として見せることで、複数あるとされる心の扉を開くことで夢主は夢の世界に閉じ込められ二度と目を覚ますことはなくなる。そして入れ替わるようにナイトメアは夢主の体を取り込み、現実に現れてしまう。と、言うのがCODEで教えられたことだ。

 

 夢に関係のない人間が夢に入り込んだ場合、その夢の住人として役目を与えられる。今回は警官らしい。らしい、と分かったのは、俺の格好が警察官の制服でかつ、今目の前でナイトメアに襲われている男性を見つけたからだ。

 

「っふ!」

 

 奏多は咄嗟にカプセムを実体化させ、虚空へと翳した。

 

 『バリア!』

 

 『なんだぁ、お前? 俺はそいつの悪夢を叶えるんだよ、どけ』

 

 バリアカプセムの力によって、薄緑色に輝くドーム状のエネルギーフィールドが夢主である刑事の頭上に展開され、怪人の放った無数の凶弾を間一髪で弾き返した。突然の出来事に腰を抜かし、驚愕に目を見開いている男性に対し、奏多は「そこから動くな」とだけ短く告げて振り返る。

 

 眼前にそびえ立つのは、全身に銃器や薬莢のような無機質な造形を繋ぎ合わせた異形の怪人。かつての因縁を彷彿とさせる、ガンナイトメアの同位体だった。その全身から伸びる銃口が、軋むようなノイズを上げながら一斉に奏多へと向けられる。

 

 「お、俺は……あの時、あいつを撃てなくて……」

 

 背後で夢主の刑事が、己の過去のトラウマに囚われたようにうわ言を呟き始めた。この夢の世界は、彼が過去に犯した取り返しのつかない悔恨——引けなかった引き金への罪悪感が作り出した牢獄なのだ。

 

 全身に銃や銃弾のような造形のあるナイトメア、ガンナイトメアといったところだろうか

 

 「逃げられないなら、壊すまでだ。お前という悪夢ごと、な」

 

 奏多の声は、果てしなく静かで、しかし絶対的な殺意を帯びていた。

 彼は取り出したゼッツドライバーを胸に巻きつけ、中央部の空洞にダークネスカプセムを装填すると、側面に備えられた物理スイッチ──トリガムに指を這わせる。カチッ、という硬質な起動音が、夢の世界の静寂を切り裂いた。

 

 『ダークネス!』

 

『メツァメロ! メツァメロ!』

 

 無機質なシステム音声と共に、ドライバーの中心が禍々しい赤黒い光を放ち始める。奏多は左手で自らの顔の半分を隠すようなポーズをとりながら、右手でドライバーに装填されたダークネスカプセムを激しく回転させた。

 

「変身!」

 

 夢の世界の灰色の空間が、奏多の足元から這い出す漆黒の闇によって急速に塗り潰されていく。周囲の光を根こそぎ奪い去る絶対的な虚無。

 

 『バッドナイト! ライダー! ゼ! ゼ!ゼ! ゼッツ!』

 

 胸元のドライバーから放たれた次元を引き裂くような闇が全身を包み込み、漆黒の装甲へと変換していく。瞬時にドライバーからブレイカムゼッツァーを実体化させ手に取ると、圧倒的な威圧感を放ってガンナイトメアへと迫った。

 

 『邪魔を、するなァァッ!!』

 

 ガンナイトメアが咆哮と共に、全身の銃口から無差別な弾幕を放つ。赤い弾道が網の目のように空間を埋め尽くすが、ゼッツは歩みを止めない。

 

『グラビティ!』

 

 ソードモードのブレイカムゼッツァーに重力を司る紫色のグラビティカプセムをセットしそれを振るうと、2人の間に重力場が発生した。

 弾丸はゼッツに届く直前で見えない泥沼に捕らわれたように急減速し、火花を散らして力なく地面へと落ちていく。

 

『な、に……!?』

 

 「お前の弾は、もう誰にも届かない」

 

 ゼッツは重力場を解除すると同時に、圧倒的な踏み込みでガンナイトメアの懐へと潜り込んだ。ブレイカムゼッツァーの鈍色の刀身が、重力を纏った斬撃となって怪人の銃身装甲を深く抉り取る。

 金属が拉げる嫌な音と共に、黒いマリスの泥が傷口から噴き出した。しかし、ガンナイトメアは痛覚を持たないかのように、至近距離で腹部の巨大な砲門をゼッツに向け、そして背後にいる夢主をも巻き込むようにエネルギーの充填を開始した。

 

「何もさせないっていっただろう?」

 

 焦ることなくブレイカムゼッツァーを変形させガンモードへと切り替え、セットされたグラビティカプセムを撫でるように回転させ銃口をガンナイトメアへ向けた。

 

『ブレイカムバレット!』

 

『あがっ!? グォオオ!?』

 

 重力が極限まで圧縮された強烈な光線が直撃すると、ガンナイトメアの巨体は目に見えない巨大な手に握り潰されるように不自然に歪んだ。砲門も飴細工のように捻じ曲がり、放とうとしていたエネルギーが内部で行き場を失い、凄まじい暴発を引き起こす。

 しかし、それでもなお怪人は致命傷には至らず、黒い泥を撒き散らしながら辛うじて立っていた。

 

 『まだ、まだ……悪夢、を……』

 

 「なんてしつこさだ、全く」

 

 ゼッツは短くため息をつくと、ドライバーの脇にあるトリガムを三度、連続で押し込んだ。

 カチッ、カチッ、カチッ。

 呪術的な電子音声が冷酷な死刑宣告を告げると共に、ゼッツの右脚へと絶対的な破壊のエネルギーが満たされていく。

 

 「おおおおッ!」

 

 『や、やめッ!?』

 エネルギーがチャージされ、黒く輝く右脚で、ゼッツは怪人の装甲へ一度、二度と重い蹴りを叩き込んだ。確実に、絶対に逃さないための痛打。

 

 ナイトメアは、ここで完全に消し去る。だから、これで決める。

 ゼッツは大地を砕く勢いで跳躍し、弾丸のような速度で降下しながら、必殺の跳び蹴りを放った。

 

 『ダークネス! パニッシュ!!』

 

 『あ……が……ッ』

 

 ガンナイトメアの巨体を貫くように叩き込まれた蹴撃。

 ゼッツが着地して間もなく、怪人の背後で重力と破壊のエネルギーが臨界点を超えて爆発した。ガンナイトメアは空間に溶けるように崩壊し、無数の紫の蝶の姿となって虚空へと消え去っていく。

 

 「……終わったぞ。これで、あんたの時間は動き出す」

 

 赤い月が徐々に色褪せ、夢の世界が崩壊へと向かう中、ゼッツはへたり込む刑事を見下ろした。その視線の先で、夢主の身体が光の粒子となって現実へと帰還していく。彼が目を覚ませば、この不可思議な黒い戦士の記憶は、曖昧な夢の残滓として消え去るだろう。

 だが、それでいい。ゼッツのことも、ナイトメアのことも、一般人に知られてはならないのだから。

 

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