「……で、なんであんな勝手に決まってるの?」
本部通路を歩きながら、
結が深い溜息を吐いた。
「俺に聞かれても」
「だよね」
即答だった。
前崎譲。
第一印象。
怖い。
以上。
紡の中ではまだそれ以上の感想が出てこない。
「でもまあ……譲さんが直接声掛けるの珍しいかも」
「そうなの?」
「うん。気に入った人しか拾わないから」
「全然嬉しくないんだけど」
「失礼だなぁ」
結が少し笑う。
そのまま、
本部内のエレベーターへ乗り込んだ。
⸻
「そういえば前崎部隊ってどんな部隊なんだ?」
「んー……」
結が少し考える。
「問題児部隊?」
「嫌な予感しかしない」
「大丈夫大丈夫」
大丈夫じゃなさそうな言い方だった。
「基本少人数で動く部隊なんだけど、今ちょうど人少ないんだよね」
「少ない?」
「他の隊員、別任務で出払ってるから」
「あー……」
「だから今いるの、
ほぼ新人だけ」
その言葉に、
紡は少し不安になる。
新人ばかり。
つまり。
「大丈夫なのかそれ」
「……まあ、譲さんいるし」
結が微妙な顔で答えた。
安心していいのか分からない。
⸻
エレベーターが停止する。
扉が開いた瞬間。
「お、来た来た」
明るい声が響いた。
広めの訓練室。
そこには三人の隊員がいた。
⸻
最初に目についたのは、
橙色寄りの茶髪をした少年だった。
「君が新人!?」
距離近い。
めちゃくちゃ近い。
「え、あ、はい」
「俺、朝比奈晴人! 同期!」
握手まで速い。
勢いに押されながら、
紡も軽く頭を下げる。
「一色紡です」
「よろしく紡!」
「お、おう……」
距離感がすごい。
⸻
「……うるさい」
ぼそり。
静かな声が聞こえた。
視線を向ける。
壁際。
白髪の少女が立っていた。
白羽透。
淡い白銀の髪。
無表情。
感情が読めない。
「透ちゃんまたそんな言い方〜」
「……事実」
小さく返す。
それだけだった。
⸻
「気にしないで。透、元からああだから」
今度は青みがかった黒髪の少女が近づいてくる。
切れ長の目。
どこか冷静そうな雰囲気。
「雨宮澪。よろしく」
「あ、一色紡です」
「知ってる」
「え?」
「適性検査、噂になってるから」
またそれだった。
紡は思わず顔をしかめる。
「そんな広まるもんなの?」
「前例無いから」
澪は淡々と言う。
「全美徳高適性。しかも数値異常」
「やっぱ変なんだ……」
「変」
即答だった。
ちょっと傷つく。
⸻
「でもすごいよなー!」
晴人が割り込んでくる。
「俺なんか勤勉しか適性無かったし!」
「普通はそれが正常」
澪が呆れたように返した。
「ちなみに透は節制系」
「……」
透は小さく頷くだけ。
「澪は救恤系だっけ?」
「そう」
「結は慈悲系だし、
前崎部隊って支援寄り多いよな」
晴人の言葉へ、
結が肩を竦める。
「譲さんがそういう人だからね」
⸻
その時だった。
訓練室の扉が開く。
「おー、揃ってんな」
前崎譲だった。
片手には缶コーヒー。
相変わらず目付きが悪い。
怖い。
「譲さん遅いです」
「煙草吸ってた」
悪びれない。
澪が呆れた顔をする。
どうやら日常らしい。
⸻
譲は室内を見回し、
軽く手を叩いた。
「んじゃ実力確認するぞ」
「模擬戦?」
晴人が少し嬉しそうに聞く。
「二対二な」
譲が適当に指を差した。
「晴人、紡」
「お」
「透、澪」
澪が眉を寄せる。
「バランス悪くないですか?」
「実戦にバランスなんかねぇよ」
譲が即答した。
⸻
数分後。
訓練フィールド。
模擬障害物が並ぶ広い空間。
結は外周モニター席へ移動している。
『怪我しない程度にね』
通信越しに声が響く。
「それ譲さんにも言って」
『無理』
即答だった。
⸻
開始音。
瞬間。
透の姿が消えた。
「は!?」
紡が反応するより先に。
横。
気配も無く、
透が接近していた。
「っ!」
ギリギリ防ぐ。
静かだ。
怖いくらい。
足音も、
呼吸も聞こえない。
⸻
「晴人!」
「おう!」
晴人が前へ飛び出す。
だがその瞬間。
澪が手をかざした。
「――『境界』」
青い線が走る。
晴人の進行ルートへ、
半透明の壁が展開された。
「うおっ!?」
激突。
勢いが止まる。
「マジかよ!」
「前出過ぎ」
澪が冷静に返す。
⸻
その隙に透が晴人の死角へ回る。
短刀が振り抜かれる。
「っ、やば――」
瞬間。
紡の胸に鋭い痛みが走った。
「……ぐっ!?」
遅れて、
晴人の脇腹へ入るはずだった一撃が浅くなる。
晴人が目を見開いた。
「紡!?」
紡の制服の脇腹が裂け、
赤く滲む。
『耐界』。
仲間へ向かった負荷を、
無意識に肩代わりした。
⸻
「え、お前今……」
晴人が固まる。
紡自身も驚いていた。
痛い。
でも。
「……大丈夫」
そう言いながら前へ出る。
⸻
譲が少し目を細めた。
「なるほどな」
煙草を咥えたまま呟く。
「そっち系か」
⸻
その時。
透が初めて、
少しだけ目を見開いた。
紡を見る。
痛がってるのに、
前へ出ようとする少年。
その姿を見て。
どこか、
理解できないものを見ているようだった。