『灰色の世界から』   作:nls

3 / 4
「前崎部隊の新人たち」

「……で、なんであんな勝手に決まってるの?」

 

本部通路を歩きながら、

結が深い溜息を吐いた。

 

「俺に聞かれても」

 

「だよね」

 

即答だった。

 

前崎譲。

 

第一印象。

 

怖い。

 

以上。

 

紡の中ではまだそれ以上の感想が出てこない。

 

「でもまあ……譲さんが直接声掛けるの珍しいかも」

 

「そうなの?」

 

「うん。気に入った人しか拾わないから」

 

「全然嬉しくないんだけど」

 

「失礼だなぁ」

 

結が少し笑う。

 

そのまま、

本部内のエレベーターへ乗り込んだ。

 

 

「そういえば前崎部隊ってどんな部隊なんだ?」

 

「んー……」

 

結が少し考える。

 

「問題児部隊?」

 

「嫌な予感しかしない」

 

「大丈夫大丈夫」

 

大丈夫じゃなさそうな言い方だった。

 

「基本少人数で動く部隊なんだけど、今ちょうど人少ないんだよね」

 

「少ない?」

 

「他の隊員、別任務で出払ってるから」

 

「あー……」

 

「だから今いるの、

ほぼ新人だけ」

 

その言葉に、

紡は少し不安になる。

 

新人ばかり。

 

つまり。

 

「大丈夫なのかそれ」

 

「……まあ、譲さんいるし」

 

結が微妙な顔で答えた。

 

安心していいのか分からない。

 

 

エレベーターが停止する。

 

扉が開いた瞬間。

 

「お、来た来た」

 

明るい声が響いた。

 

広めの訓練室。

 

そこには三人の隊員がいた。

 

 

最初に目についたのは、

橙色寄りの茶髪をした少年だった。

 

「君が新人!?」

 

距離近い。

 

めちゃくちゃ近い。

 

「え、あ、はい」

 

「俺、朝比奈晴人! 同期!」

 

握手まで速い。

 

勢いに押されながら、

紡も軽く頭を下げる。

 

「一色紡です」

 

「よろしく紡!」

 

「お、おう……」

 

距離感がすごい。

 

 

「……うるさい」

 

ぼそり。

 

静かな声が聞こえた。

 

視線を向ける。

 

壁際。

 

白髪の少女が立っていた。

 

白羽透。

 

淡い白銀の髪。

 

無表情。

 

感情が読めない。

 

「透ちゃんまたそんな言い方〜」

 

「……事実」

 

小さく返す。

 

それだけだった。

 

 

「気にしないで。透、元からああだから」

 

今度は青みがかった黒髪の少女が近づいてくる。

 

切れ長の目。

 

どこか冷静そうな雰囲気。

 

「雨宮澪。よろしく」

 

「あ、一色紡です」

 

「知ってる」

 

「え?」

 

「適性検査、噂になってるから」

 

またそれだった。

 

紡は思わず顔をしかめる。

 

「そんな広まるもんなの?」

 

「前例無いから」

 

澪は淡々と言う。

 

「全美徳高適性。しかも数値異常」

 

「やっぱ変なんだ……」

 

「変」

 

即答だった。

 

ちょっと傷つく。

 

 

「でもすごいよなー!」

 

晴人が割り込んでくる。

 

「俺なんか勤勉しか適性無かったし!」

 

「普通はそれが正常」

 

澪が呆れたように返した。

 

「ちなみに透は節制系」

 

「……」

 

透は小さく頷くだけ。

 

「澪は救恤系だっけ?」

 

「そう」

 

「結は慈悲系だし、

前崎部隊って支援寄り多いよな」

 

晴人の言葉へ、

結が肩を竦める。

 

「譲さんがそういう人だからね」

 

 

その時だった。

 

訓練室の扉が開く。

 

「おー、揃ってんな」

 

前崎譲だった。

 

片手には缶コーヒー。

 

相変わらず目付きが悪い。

 

怖い。

 

「譲さん遅いです」

 

「煙草吸ってた」

 

悪びれない。

 

澪が呆れた顔をする。

 

どうやら日常らしい。

 

 

譲は室内を見回し、

軽く手を叩いた。

 

「んじゃ実力確認するぞ」

 

「模擬戦?」

 

晴人が少し嬉しそうに聞く。

 

「二対二な」

 

譲が適当に指を差した。

 

「晴人、紡」

 

「お」

 

「透、澪」

 

澪が眉を寄せる。

 

「バランス悪くないですか?」

 

「実戦にバランスなんかねぇよ」

 

譲が即答した。

 

 

数分後。

 

訓練フィールド。

 

模擬障害物が並ぶ広い空間。

 

結は外周モニター席へ移動している。

 

『怪我しない程度にね』

 

通信越しに声が響く。

 

「それ譲さんにも言って」

 

『無理』

 

即答だった。

 

 

開始音。

 

瞬間。

 

透の姿が消えた。

 

「は!?」

 

紡が反応するより先に。

 

横。

 

気配も無く、

透が接近していた。

 

「っ!」

 

ギリギリ防ぐ。

 

静かだ。

 

怖いくらい。

 

足音も、

呼吸も聞こえない。

 

 

「晴人!」

 

「おう!」

 

晴人が前へ飛び出す。

 

だがその瞬間。

 

澪が手をかざした。

 

「――『境界』」

 

青い線が走る。

 

晴人の進行ルートへ、

半透明の壁が展開された。

 

「うおっ!?」

 

激突。

 

勢いが止まる。

 

「マジかよ!」

 

「前出過ぎ」

 

澪が冷静に返す。

 

 

その隙に透が晴人の死角へ回る。

 

短刀が振り抜かれる。

 

「っ、やば――」

 

瞬間。

 

紡の胸に鋭い痛みが走った。

 

「……ぐっ!?」

 

遅れて、

晴人の脇腹へ入るはずだった一撃が浅くなる。

 

晴人が目を見開いた。

 

「紡!?」

 

紡の制服の脇腹が裂け、

赤く滲む。

 

『耐界』。

 

仲間へ向かった負荷を、

無意識に肩代わりした。

 

 

「え、お前今……」

 

晴人が固まる。

 

紡自身も驚いていた。

 

痛い。

 

でも。

 

「……大丈夫」

 

そう言いながら前へ出る。

 

 

譲が少し目を細めた。

 

「なるほどな」

 

煙草を咥えたまま呟く。

 

「そっち系か」

 

 

その時。

 

透が初めて、

少しだけ目を見開いた。

 

紡を見る。

 

痛がってるのに、

前へ出ようとする少年。

 

その姿を見て。

 

どこか、

理解できないものを見ているようだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。