クソボケに勝手に脳焼かれた人達と要介護者がなんやかんやあって生きる話〜俺はもう終わりたいんですけど!!〜   作:冷製春雨スープ

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再会の温度、初恋の再定義
プロローグ


 

 岩山に立っていた。

 

 下を見ても何もない。隣を見ても誰もいない。

 細い岩先にただ立っていた。

 

 ふと思い出す。

 

 「神様はね?いつもいつも見守ってくださっていて、困難なときに助けてくださるの。だから私達は、神様に感謝の気持ちを込めて祈りを捧げているのです。後で一緒に祈りましょうね?」

 

 母は俺を膝枕し、頭を撫でながらそう言った。

 あの時の俺は幼く、言葉の意味などわからなかったが、その時の母の顔は覚えていた。

 

 声が聞こえる。

 

 たすけて

 たすけて

 パパ、ママ

 

 たすけて、かみさま

 

____なんでたすけてくれないの?

 

 心が軋む音がする。

 

 上を見上げる。

 広い広い青空が広がっていた。それがどうしても憎たらしく思えて、何もかもが気に入らない。

 

 「.....ちょ......て.....」

 

 青空を睨む。仇敵がそこにいるかのように。

 思い出す。

 

 「....んちょ......きて....」

 

 許さぬと。全てが叫ぶ。

 

 「見るな」

 

 ただ一言呟いた。

 

 

 

 

 「だんちょ!起きて!」

 

 目をゆっくり開けて、周りを見渡す。

 調度品の一つもない面白みに欠けた空間。その地面は茶色の土塊。そして立てかけてあるグレートソード。

 自分の眠る簡易ベッドの横にねいがいた。

 

 「だんちょ!魔獣がきたよ!早く行かないと!」

 

 「ああ」

 

 ゆっくりとした動作で立ち上がり、グレートソードを担いでからテントの外にでる。

 

 崩壊した人類の痕跡。地面はひび割れていて、瘴気が漂っているせいで視界が悪い。

 

 「だんちょ!早く行くよ!みんな待ってる!」

 

 駆け出す背中を見て一言

 

 「わかった。」

 

 ここは前線中域。仮設テントの並ぶベースキャンプ。

 異常に魔物が発生する特異地帯。そこの魔物による人類への進行を防ぐための防衛線である。

 

 

 

 

___今日も目覚めてしまった。

 

 

 

 

 宙に浮いているような。

 地に足つけているような。

 

 そんな不思議な感覚だった。

 

あたりを見渡す。それは青々としている快晴で、街は活気を帯びた熱が電波していた。

 

 ___また、この夢ですか

 

 1人の少女が広い屋敷の廊下を走っている。

 その顔は、焦がれた誰かが来たような。仲の良い友人が訪問した時のような。

 そんなはち切れんばかりの笑顔だった

 

 「いらっしゃいませ!まさおみさま!!」

 

 「ああ、久しぶり」

 

 少年は声の抑揚なく返した。それでも少女には彼が、少し不器用なだけなことを知っている。

 

 少女が少年の手を取り、屋敷の中へ連れて行こうとする。

 

 ___そうでしたね。この日は、彼と一緒に食べたかったお菓子があったんです。

 

 少年は、手を引く少女にはついていかず、その場で少女の握る手を両の手の平で優しく包んだ。

 

 「すまない。おれは今日、遊びにきたわけではないんだ」

 

 少しきょとんとした少女は幼く、なんで?なんで?と尋ねる。

 その答えを返さぬままに少年の口が開いた。

 

___もういいです。やめてください。

 

 「.....すまないゆかり」

 

___もういいと言っています。

 

 「なにがですか?まさおみさま?」

 

 「おわかれだ。」

 

 「.....え?」

 

___やめて....やめて!!

 

 少年は少女の手から優しく離れた。

 

 「じゃあな」

 

 少年が少女に背を向けて歩き出した。

 少女は少しの間茫然として動けない。気づいた時にはもう、彼の背中は遠くに行ってしまっていた。

 

___いかないで......いかないで!!

 

 「まって....まってください!!どう言うことですか!!」

 

 少女が走り出す。精一杯走っているのに追いつけない。声に応えてもくれない。

 

 聞きたい。彼の声が聞きたい。

 

___やだ...いやです.....

 

 「まさおみさま!!まさおみさま!!」

 

___おいていかないで....

 「置いていかないで!!!」

 

 

 

 

 バッと飛び起きる。心臓の鼓動が早くて、呼吸が乱れる。

 

 はぁ、はぁ、はぁと短いスパンでの呼吸を胸をぎゅっとして落ち着かせる。

 もう慣れた作業だった。毎朝繰り返される行為、それが10年も続いているのだ。慣れるのも当たり前である。

 

 「なれたく.....なかったんですけどね....」

 

 ゆっくりとベッドから立ち上がり、枕元の写真立てに挨拶をした。

 

 「おはようございます。マサオミ様」

 

 

 

 

 本棚が並べられ、書架の香りがし、日の光がよく差し込む一室。アンティーク調の家具が、その部屋を彩る執務室

 

 執務室には柔らかい椅子に座り、机に向かって書類仕事を行う1人の女性の姿があった。

 

 彼女の名前は方陣ゆかり 22歳 独身

 日輪の國の大貴族。方陣家の女当主である。

 肩口に切り揃えたサラサラの黒髪。切れ長のその目は理知性が感じられ、桜色の薄い唇は冷静さを感じさせる。

 俗に言う、仕事のできそうな女であった。

 

 頬に手を当て、一枚の依頼の受領書を見ながら考えていた。

 

 「大丈夫なのでしょうか?」

 

 これは、ある傭兵団の護衛依頼の受領書。

 傭兵団の名は、北点傭兵団

 かの魔獣集中領域。通称前線にて活躍している傭兵団。悪い噂もなく、世間では信用のできる傭兵団として有名である。

 

 しかしゆかりは考えてしまう。大丈夫だろうか?と。

 ゆかりは知り合いの紹介もあって、自分の護衛のために依頼していた。でも考えてしまうのだ。

 

 実力は疑っていない。あの前線において目まぐるしい活躍を見せている傭兵団だ。腕は立つのだろう。

 しかし評判はいいとは言え、傭兵団は傭兵団。どこの国にも属さず放浪する戦闘集団だ。

 故に思ってしまう。

 

 心配です....

 

 「.......そういえば」

 

 ふと思い出す。10年前別れた彼のことを

 "また会える保証はないから"と、帰る約束も何もせずにただ一言、"じゃあな"と言って姿を消した彼を

 

 ゆかりは当時を思い出す。

 あの別れのあとは、ひとしきり泣いたものだ。

 

 そして当時のゆかり(12歳)は決意した。あのクソボケを見つけ出してやると

 だって初恋だったのだから

 

 その決意から早10年。ゆかりは少女から女性になっていた。

 

 「会いたいです。マサオミ様......」

 

 恋心は衰えることを知らない。それどころか増している。

 

 この女は一途であった。10年放置された女の結論ではない。そこまでいったら一途と言うのは一途に失礼である。お前は一途のフリをした何かだ。

 とても怖い。

 

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