クソボケに勝手に脳焼かれた人達と要介護者がなんやかんやあって生きる話〜俺はもう終わりたいんですけど!!〜 作:冷製春雨スープ
プロローグ
昼下がり、晴れ渡った青空の下で見渡しのいい農作地帯をガタガタと馬車が駆けていく。
馬車の中では、団員達がワイワイと話す声が響いていた。
ねいがボヤく
「馬車で1週間は流石にひまー。早くだんちょにあいたい〜」
「そう言うなねい。今日の4時頃には着くだろう」
スミレが外を見ていた顔をねいに向けてそう言った。
「あとよじかん〜!?いやぁ〜」
ねいがぐでぇと項垂れながらカレラに寄りかかる。本を読んでいたカレラは鬱陶しそうに怒った。
「ちょっと!邪魔するんじゃないわよ!!」
そんなカレラを気にすることもなく、ねいはぐでぇとし続ける。
「いいじゃぁん。どーせ恋愛小説読んでるだけなんでしょー?」
そしてピコンッ!と何かを思いついたかのように上体を起こして、ニヤニヤし始めた。
「そう言うカレラが一番、だんちょに会いたい癖に〜」
カレラは顔を赤面させて、あわあわと取り乱す。
「そ、そんなわけないじゃない!!何いってんのよ!!」
「聞いたんだよぉ〜。最近夜中、みんなが寝静まったあとに〜。マサオミ.....マサオミ.....って、メソメソしてるの!」
ねいは無駄に上手い演技をしながら大袈裟に動く。拳を握りしめて目元で動かすことで、涙を表現していた。そして最後にカレラを指先でツンツンとする。
その仕草はとてもウザかった。
「はぁ!?き、聞いて....じゃない!そんなことしてないわよ!!ちょっとスミレ!!なんとかしなさいよ!!」
口調は強かったが切実な思いがこもっていた。助けを求めるようにスミレを見る。
目のあったスミレは、ふむ。と少し考える仕草をした後、ニヤっと笑った。
「当方も聞いた。まさかねいも聞いていたとはな」
カレラはなんだか裏切られたような気がした。
追撃かのように、御者をしていたザンザが大きい声を出して言った。
「俺ちゃんも聞いたでやんすよぉ!!カレラちゃん隠してるつもりだったでやんすねぇ!!」
ザンザの表情は見えない。それでも肩を震わせていることから笑いを堪えていることがカレラにはわかった。
カレラの脳内でプツンとした音が鳴る。今月n回目の激怒だ。怒りすぎてキレやすくなっているのだろう。
バッと立ち上がり、盛り上がりに乏しい胸を張る。カレラに胸張る胸はなかった。
カレラがねいにビシッと指を指した。
「あんた達!!それは聞かなかったフリをするもんでしょ!!!そう言うねいだって“だんちょ...会いたいよ..."って小声でちょくちょく言ってるじゃない!!」
「んなぁ!!」
カレラは暴れ出した。
カレラは知っていた。ねいも似たようなことしていたことを。それを聞かなかったフリをしてあげていたのだ。
___許すまじ
次にスミレに指を指す。
スミレが、むっと身構える。
「スミレも!!前線にいた時からマサオミのいる方向を見て物憂げにしてたじゃない!!」
「ぐっ...」
スミレは図星だったのか、ピシリと固まる。
ザンザは、巻き込まれまいと知らんぷりをし始めていた。
「あんたもよ!!ザンザ!!最近ボーっとする時間が増えたじゃない!!どうせマサオミのことを考えていたんじゃないの!!そうに決まってるわ!!!」
「.....なんのことかわかんないでやんすねぇ」
ザンザは、知らんぷりを継続していた。それでも動揺が見て取れる。しかし返答が遅れてしまった。これでは意味がない。
「あんた達全員マサオミに会いたいんじゃない!!!同じよ同じ!!ふんっ!!」
カレラが再度胸を張り直し、両手を腰に当てて、踏ん反り帰る。
その姿からは、どうだ!言ってやったぞ!!と言う様なドヤ顔が浮かび上がっていた。
大変見事な踏ん反りだった。とても偉そうである。
ねいが立ち上がり、カレラのほっぺたをムニムニとし始める。この頬か!悪いことを言うのはこの頬か!
「それは言わない約束でしょー!!ない胸張っても見苦しいだけだよ!!」
カレラも負けじとねいの頬を引っ張った。
よく伸びる頬である。
「約束してないじゃない!!あと始めたのはあんたよ!!!!後あんた何言ってんのよ!!!あんたこそ無いようなもんじゃない!!!」
「ウチは成長期だからいいんですぅ〜!!もう成長しないカレラとは違いますぅ〜!!」
「なぁ!!!!」
スミレはその微笑まし喧嘩を見ながら微笑んだ。止める気はないようだ。
そして内心勝ち誇ってもいた。当方は考えたことのない悩みだな。と
ザンザは笑い声を上げた。こちらも止める気はないようだ。
そして無駄なことを言う。どこかのクソボケの影響なのかもしれない。
「ねいちゃんもカレラちゃんも、意味ない争いでやんすよ」
頬の引っ張り合いをしていた二人はぎゅるんとあり得ないものを見るかのようにザンザの方を見た。
「あんた何言ってんのよ!!」
「ザンザ、さいてー!!」
「ザンザ....それは当方もどうかと思うぞ....」
そんなこんなで馬車は進む。賑やかな声を響かせて
方陣家直轄領まであと4時間
◇
同時刻。
方陣家の執務室にて、ソファに座りながらマサオミはぬぼーっとしていた。心なしか溶けているような気もする。
ゆかりは書類を書く手を一旦止めて、マサオミの方を見る。
可愛い!可愛いです!!あんなに寛いでるマサオミ様初めて見ました!可愛いです!
テンションが上がっていた。最近テンションが上がり続ける毎日。それでも表に出していないのは、流石は大貴族の当主と言うべきか。
面の皮が厚すぎる。
ゆかりはそういえば、と思い至る。
団員様は、いつ頃到着なさるのでしょうか?お出迎えの準備をしておかなくては!マサオミ様のお仲間の皆様に粗相のない様にしなければなりませんね!!
「マサオミ様?団員様方はいつ到着なさるのか分かりますか?準備をしておきたいのです。」
マサオミはぬぼーっとしたまま自然に答えた。
「今日だ」
「そうですか」
ゆかりはマサオミに向けていた目線を手元の書類に移して、筆を動かす。
そうですか。今日。今日ですか。今日!?
「今日ですか!?」
「ああ」
マサオミはまだぬぼーっとしている。大きな声を出したゆかりの様子に一切の疑問を持っていないらしい。
「なんで言ってくれないのです!!」
「聞かれなかった」
ゆかりは頭を抱える。
そうでした。マサオミ様はそうでした。なぜ私は気づかなかったのでしょう!
この6日程の過去を振り返る。
___今日もいちご大福作ったのです!食べてください!
___マサオミ様、今度はどんな本をお読みになっているのでしょうか?
___マサオミ様!お散歩に行きましょう!
___明日もマサオミ様に会える...ふふっ!
マサオミ様、マサオミ様、マサオミ様マサオミ様マサオミ様マサオミ様
出てくるのはマサオミの顔だけだった。頭の中で小さなゆかりが小躍りを踊っている。よっぽど楽しかったのだろう。内面が如実に現れていた。
ゆかりはぶんぶんと顔を振り、正気を取り戻す。流石は当主であった。
違います!今はそんなことを考えている場合ではありません!
頭を抱えた腕を下ろし、マサオミの方を見る。
あぁ、マサオミ様可愛い。さっきよりも可愛いです。可愛すぎます!食べちゃいたいです!!!!
またもやトリップに陥る。無限ループの始まりである。
彼女は、方陣の当主としての威厳はギリギリ保てていた。表情に出していないからだ。側から見たら微笑んでいるだけである。
しかし内面はその限りではない。
ゆかりはマサオミに壊されてしまっていた。
当主としての威厳は本当にギリギリであった。
マサオミは、そんなゆかりをチラッと見た。
何やってるんだ?
元凶は何もわかっていなかった。報連相のできない団長はゆかりの苦労を何一つわかっていなかった。
マサオミがスミレに叱られるまで後5時間
二章は今月中を目処に再開予定です。