クソボケに勝手に脳焼かれた人達と要介護者がなんやかんやあって生きる話〜俺はもう終わりたいんですけど!!〜   作:冷製春雨スープ

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四話

 

 ねいは朝の日差しを浴びながら、少し眠そうに欠伸をする。

 

 「ふあぁ......まだ眠いなぁ。護衛めんどくさいなぁ」

 

 文句を口にしながらも街道を歩いていた。その足取りは先日ほど軽くはない。本当に行きたくないのだろう。

 

 街並みを見渡す。先日の『わたあめ売ってます』と書かれたのぼり旗が目に入る。

 

 「ああー!そう言えばまだ食べてない!.....まだやってないのかぁ。確かにまだ早いもんね....」

 

 街には甘味処や定食屋、雑貨屋に洋服屋などが立ち並ぶ。街並みは聞いていた日輪の國らしくないが、どのお店も日輪を感じさせられる。

 まだどこのお店も開店していないが、この街の活気のある姿が目に浮かぶようだ。

 

 そしてねいは気になるお店を見つけた。

 

 「あ、あれは.....」

 

 目線の先には呉服店がある。

 カラフルな絹織物、着物、赤を基調とした特徴的な傘が置いてある。そのどれもがねいの見たことのない物だった。

 特に目についた物は、薄いオレンジ色の着物だった。桜をモチーフにしているのか、桜の枝と桜の花の可愛らしいピンクが特徴の振袖だった。

 

 「.....きれい。.....あの服、着物って言うんだよね?初めてみたなぁ」

 

 あの着物?を着たらだんちょ、見てくれるかな?綺麗って言ってくれるかなぁ?

 

 ねいは先ほどの着物が頭から離れなかった。

 先ほどの振袖を着た自分とそれを見て褒めてくれるマサオミの姿を想像し続ける。

 

 ねいは頬に手を当てて、頭をいやんいやんと動かしながら蕩けたような笑みを浮かべる。

 

 「えへへぇ〜。だんちょ〜褒めすぎだよぉ〜」

 

 側から見たら不審者であるが、ねいの年齢と可愛らしい容姿がその印象を払拭させていた。

 ニマニマと笑うねいには、先ほど憂鬱など吹き飛んでいた。単純な子である。

 

 そんな妄想をしている間にも足を進め続けて、方陣の屋敷に到着した。

 上機嫌なねいは門番に明るく挨拶をして、通してもらう。

 

 ゆかりの執務室に向かう最中にも複数人の使用人にすれ違ったが、その全てに明るい笑顔を向けて「おはよう!」と言った。

 ねいもニマニマしていたが、使用人もニマニマしていた。優しい世界である。

 

 執務室の前に到着して、扉を開けようとする。扉のドアノブに触れる直前で、手が止まった。

 

 緊張している。ねいは貴族が苦手だ。

 この扉の中にいる人は大貴族の当主、先日の印象は悪くはなかった。貴族らしくない人だと思った。マサオミが警戒していないのだから、相手に敵意がないことも理解している。そしてマサオミの昔馴染みが悪い人だなんてありえない。そんなことをねいは考えていた。

 

 それでも怖かった。

 

 数秒の静止の後、目をぎゅっと閉じてドアノブを握る。そして意を決したように扉を開けた。

 

 突然開かれた扉に仕事をしていたゆかりはビクッと体を震わせて、嬉しそうに顔をあげた。

 

 「マサオミ........あら?確か.....ねい様でしたね。」

 

 ねいはビクッとして、自分がノックをするのを忘れていたことを思い出す。

 

 やっちゃった。やっちゃった!どうしようどうしよう......怒られちゃうかな......

 

 ねいはいい子だった。どこかのクソボケとは違う。

 

 そんなねいの俯く姿でゆかりは気がついた。

 

 わざとではないのですね。反省もしています。いい子なのですね

 

 ゆかりは柔らかく微笑んでから、優しく入室を促した。

 

 「ねい様、どうぞお入りください。私は何も気にしていませんよ?」

 

 ぴくりと震えたねいは恐る恐る上げて、怒られている時の子犬のような顔でゆかりを見た。

 

 「....ほんと?.....ですか?」

 

 「ええ、何も怒るようなことはありません。あと、ご自身の話しやすい話し方で大丈夫ですよ?あまり気負わないで大丈夫ですよ」

 

 「う、うん....」

 

 ゆかりを見ながら入室する。ねいは不思議だった。もともと変な貴族だとは思っていたけど、ゆかりは考えていたよりも変だった。

 いい意味で貴族らしくない。

 

 優しくゆかりがねいを見つめる中、ねいは自己紹介をした。まだ完全には緊張が取れていないのか、表情は硬いがそれでも先ほどよりはマシだった。

 

 「そ、その。ウチ、ねいっていうの。あの.....今日はよろしくお願いします!」

 

 「ええ、ふふっ。よろしくお願いしますね?」

 

 ゆかりはそんなねいを見て考えていた。

 先日お会いした時はもっと元気な印象だったのですが。そうですか。マサオミ様がいらっしゃったからなのでしょうか?可愛らしい方ですね。

 

 ゆかりはゆっくりと立ち上がり、ねいをソファに座るよう促したあと、執務室の端の机に向かい、お茶とお茶菓子の準備をする。

 

 ねいは少し躊躇ってからソファに座る。

 落ち着かないのかソワソワしていた。

 

 ゆかりは完成したお茶ととっておきののお茶菓子を小皿に出して、お盆に乗せてねいの元に持って行く。

 

 「あの、なんですか....?」

 

 「お茶とお茶菓子です。ねい様?羊羹は好きですか?ちょっといい栗羊羹があるのです。一緒に食べませんか?」

 

 ねいの前に栗羊羹が乗った小皿と菓子切り、そして湯呑みが置かれた。湯呑みにお茶を注ぐ。

 

 それを見たねいは目を輝かせ、嬉しそうに言った。

 

 「いいの!!ウチ昨日だんちょと一緒に羊羹初めて食べたんだけどね?とってもおいし......あ...」

 

 ねいの顔が青ざめていく。急いで頭を下げた。

 

 「そ、その!ごめんなさい!!」

 

 ゆかりは困ったように微笑みながら、両手を前に出して振る。

 

 「いえいえ、大丈夫ですよ。あまり気負わないでくださいと言ったのは私です。ここには私とねい様しかいません。ねい様を咎める人などいないのです。」

 

 ねいが頭を上げて、ゆかりの顔を見る。

 その顔はとても優しい笑みを浮かべていた。

 

 その時にねいは確信した。

 

 この人、悪い人じゃない。

 

 「だから、ね?落ち着いてください」

 

 「うん。ありがとう」

 

 ゆかりはその反応に満足そうにしながら、ねいの対面のソファに腰掛けた。

 

 「どうぞ、召し上がってください。ここの羊羹はとっても美味しいんですよ?マサオミ様にも先日お出ししたのですが、大変お気に召していましたよ?」

 

 「ほんと!?だんちょが!?いただきます!」

 

 ねいはパッと花が咲くような笑顔を見せた。

 菓子切りを手に取り、小さく羊羹を切り分けてから、突き刺し口に運ぶ

 

 栗の素朴で濃厚な味と羊羹の優しい餡子の風味が口いっぱいに広がった。

 

 「ん〜!美味しいね!!」

 

片手で頬に触れてながら口を動かしている。

 

 ゆかりはねいを微笑ましそうに見つめていた。

 お菓子のレパートリーとその微笑む姿は完全におばあちゃんだった。

 

 そしてゆかりは思う。

 それが、ねい様の素なんですね?

 

 ゆかりも菓子切りを手に取り、羊羹を食べ始めた。

 やはりここの栗羊羹はとても美味しいですね!また買いましょう!マサオミ様も喜んでくれるはずです!!

 

 「そ、その.....ゆかり様?」

 

 突然話しかけられたゆかりは少しびっくりして、喉に羊羹を詰まらせかけた。丁寧な所作で、しかし素早く湯呑みを手に取りお茶を流し込む。少し熱かった。

 

 「んぐっ....ん。なんですか?」

 

 ねいは少しもじもじとしている。

 

 「えっと...その.....」

 

 「はい。ゆっくりで大丈夫ですよ」

 

 「....うん。あのね。....ゆかりちゃんって呼んでも....いいかな?いやあの!ダメならその。....大丈夫、なんだけど...」

 

 口に運ぼうとしていた湯呑みが止まった。

 ゆかりはスミレから、団員の方々は貴族が苦手だと聞いていた。だからその要求は予想外で、あと2ヶ月もあるのだから、これから少しずつ関係を築いていこうと思っていたのだ。

 

 そんな折での相手からのそんな可愛らしい要求だった。ゆかりはとても嬉しく思う。

 

 「ええ、ええ!もちろんです!!....その、私もねいちゃんと呼んでもよろしいでしょうか?」

 

 ねいは嬉しそうに笑う。そしていつもの調子を取り戻したねいは、急速に距離を詰め始めた。

 

 「いいよ!!あのねあのね!!ゆかりちゃんに聞きたいことがあるの!!」

 

 突然先日の様になって、少し驚いたがゆかりは良いことですね。と考える。

 

 「なんですか?なんでもおっしゃってください」

 

 「うん!ゆかりちゃんって、恋愛小説読む?私大好きでね!読んでるならそのお話がしたいなって!!」

 

 ゆかりにとってこの話題は好都合だった。

 マサオミの読んでいた恋愛小説は、ねいとカレラが勧めた物だと知っていた。そして昨日、スミレが気になるのならねいに聞くといいと言っていたことを思い出す。

 内心ほくそ笑んでいた。こんなに早くその話ができるなんて嬉しいです!と

 

 「そうですね。あまり嗜んでこなかったのですが、気になっている物はありますよ」

 

 ねいが机に両手をつき、身を乗り出して聞く

 

 「え!なになに!教えて!!」

 

 「先日マサオミ様が読んでらした、確か....『貴方と私の逃避行(ランデブー)』ですね。マサオミ様、3回も読んでらしたので私も気になりまして」

 

 「あぁ〜!"あなわた"ね!」

 

 「あ、"あなわた"....ですか?」

 

 「うん!貴方と私の逃避行の略称だよ!!」

 

 「そ、そうですか....」

 

 ゆかりはついていけそうになかった。ねいのエネルギッシュなその姿と本の題名を略して呼ぶ文化に。本当におばあちゃんだった。

 

ねいはそんなゆかりに気づかず、喋り続ける。

両手を合わし、左手の甲を右頬に当てて目を瞑る。

 

「そっか〜。だんちょ、ちゃんと読んでくれたんだ!!」

 

 そんなこんなで2日目は明るい雰囲気で終えた。

 夕食はマサオミとねい、ゆかりの3人で食べて、とても楽しい時間だった。そうゆかりは感じていた。

 

 勘違いしていた。ゆかりはねいを可愛らしい女の子としか思っていなかった。

 スミレと同様に女としては敵であると言うことに気がつけなかった。

 

 気づく日は近い。

 





 長年の相棒たるぬいぐるみが最近黄ばんできたんです。クリーニングもってきたいです。
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