クソボケに勝手に脳焼かれた人達と要介護者がなんやかんやあって生きる話〜俺はもう終わりたいんですけど!!〜 作:冷製春雨スープ
3日目の早朝、カレラは方陣家に向かっていた。
そして昨日の晩のことを思い出していた。
___ゆかりちゃんすっごい優しいんだよ!!カレラも話したらすぐにわかるんじゃないかな!!あとゆかりちゃんのご飯すっごく美味しいの!!
馬鹿みたいにうるさい声で話してきたねいの姿が脳裏に浮かんでいる。
カレラは考えていた。
アイツ、チョロすぎるんじゃないかしら。そんな1日で変わるもんなの?あと料理が美味しいって情報はいらなかったわね。どうせ食べられないし
そんなことを考えながら歩いていると、ある公園で1人泣いている子供を見つけた。こんな朝早くに公園にいるなんて珍しい
木の上を指差しながらえんえん泣いている。
指さす方向には、一つの小さなボールが木に引っかかって取れなくなってしまっていた。子供は7歳ほどの年齢なのか、どれだけ頑張っても取れそうにない。
どうしようかしら。
カレラは悩む。頭の中で会議を始めた。
冷静のカレラは
___今は急いで方陣の屋敷に向かわなければならないわ。ただでさえ予定より遅れているのよ?
思いやりのカレラは
___そうは言ってもあのボール取るのなんてすぐじゃない!取ってあげましょうよ!
愛のカレラは
___そんなことよりマサオミに会いたいわ!!帰るわよ!!!
「そうね.....帰ろうかしら.....」
愛のカレラは何よりも強かった。
本当に帰ろうと踵を返したところで正気に戻る。
だめよ!!依頼なんだからちゃんとしないとマサオミに嫌われるかもしれないわ!!
そういえば、マサオミなら泣いている子供をほっとかないわよね....?なら.....たすけなかったら......
カレラの顔が青ざめていく。体が少し震え始めた。
いや、いやいやいやいや!いやよそんなの!!
カレラの次に取る行動は決まった。早歩きで公園に入り、子供の前に行く。最初どうすればいいのかがわからなかったカレラは少し考え込んでしまう。
まぁなんとかなるでしょ。と楽観的な解答を出したカレラのブレインは間違った解答を導き出していた。
腕を組み、偉そうに見下ろしながら強い口調で話しかけた。
「あんた!そのボール取ってあげるから泣き止みなさい!!」
子供の泣き声が大きくなる。えんえんからびぇーんへの進化だ。泣いている子供に対する態度ではない。
朝の人通りの少ない道でも人はいる。なんだなんだとカレラと子供を見てくる。
カレラはなんで泣き止まないのかがわからなかった。
なんでよ!取ってあげるっていったのに!!
泣いている子供の前であわあわとしている間にも時間は止まらない。このままでは本当に遅刻してしまう。
仕方ないわね!とカレラは懐から折りたたみ式の携帯用の杖を取り出す。その杖は20cmほどの長さで、先端には透明な球体が付いている。
カレラは、その杖を構えて法術を唱えた。
「あんた!ちょっと見なさい!法術『水棲の群行』!」
カレラは法術に込める法力を限界まで少なくし、法術を発動させた。
何もない空間から水が現れ、形を成していく。さまざまな魚に鯨、鮫、そして蛸などの軟体生物に形が変わっていく。そのサイズは大きいもので拳ほどのサイズしかない。その透明な魚達が泣いている子供の周りを回るように気ままに泳ぐ。日の光に照らされた透明な魚達はキラキラと輝いて、とても幻想的な姿だった。
子供は、目を赤くして鼻水を垂らしながらもその光景に釘付けになっていた。もう泣いてはいない。その姿を確認したカレラは少し安心したように息を吐き、次の法術を唱えた。
「法術『柔らかな花香風』」
カレラの周りから優しい花の香りのそよ風が吹き始める。カレラはそのそよ風を操り、木に引っかかっているボールを手元に引き寄せた。すると花の香りのするそよ風が霧散する。
ふんっとした顔をしながら子供に近づく
未だに空飛ぶ魚に夢中になっている子供にボールを突き出しながら言った。
「ほら!これ!!感謝するといいわ!!」
子供は夢中になっていた魚達から目を逸らし、カレラの持つボールに目を向けた。すると嬉しそうに笑いながらカレラにこう言った。
「....ありがとう!!怖いおねぇちゃん!!」
「ええ、って!誰が怖いよ!!これだから子供は苦手なの!!」
口調こそ厳しく、優しさは感じられない。
しかし、そのボールを渡す手つきには思いやりがあり、そんなことを言われた子供は泣くことはせず、ボールを受け取った後に駆け出した。
そして少し離れた後にカレラに向かって手を大きく振る。
「ばいばーい!!おねぇちゃあん!!!ありがとー!!」
「転ぶんじゃないわよ!!.........ばいばい。」
カレラは少し微笑んでから小さく手を振りかえす。
少し気分の良くなったカレラは歩きだした。
今日は遅刻ね
カレラはもう逆に、ゆっくりと方陣の屋敷に向かった。
◇
ゆかりの執務室の前についたカレラは、3回ノックしたあとに、返答を聞かずに部屋に入って行った。
「悪いわね。遅れたわ」
その声は一切の申し訳なさを感じない。逆に清々しいほどの立ち居振る舞いだった。
ゆかりは少し困惑する。この方、確かカレラ様?でしたよね?なんでこんなに偉そうなんでしょう。それよりも、何か問題があったのでしょうか?
「あの....カレラ様?遅れたのはいいのですが、何かあったのでしょうか」
「いいえ、寝坊よ。悪かったわね」
カレラはそっぽを向き、腕を組む
本当に悪いと思っている時の態度ではないが、ゆかりは良しとした。ゆかりは、団員のことをマサオミから少し聞いていた。マサオミ曰く、カレラはいい奴とのこと。ならば何か理由があるのだろうと考えた。
「どうぞ、ソファにお掛けになってください。」
「断るわ。私はこのまま立っているから大丈夫。気にしないでちょうだい」
気になるんですけど?
でも本人がそう言うのならば仕方がない。考えないようにしようとゆかりは書類に集中し始めた。カリカリと言う筆の音だけがその部屋に響いている。1枚2枚と次々に書類を片付けていくゆかり、その間もずっとカレラに見られている気配がしていた。
どうしたのでしょう?
そう思い、書類から顔を上げてカレラの方を見る。カレラはゆかりから目を逸らして明後日の方向を向いていた。
気のせいだったのでしょうか?
気を取り直して書類仕事を再開する。再度、カリカリと言う音だけが響く気まずい空間が広がっていた。四半刻ほど過ぎた頃、書類仕事がひと段落した。その間にも視線は感じていた。ふぅと息を吐いて、椅子に深く腰掛ける。
カレラの方を見た。
目を逸らして明後日の方向を向いている。わかりやすい。
そんなカレラに向かってゆかりは声をかけた。
「あの....何か御用でしょうか?」
カレラは顔をゆかりの方へ向け、脈絡もなく突然マサオミのことを聞いた。
「あんた。マサオミのことをどう思ってるわけ?」
カレラはずっと気になっていた。ゆかりがマサオミの昔馴染みだと聞いた時からずっと
毎日マサオミはゆかりの元に向かい、夕食を共に食べているらしい。しかもその料理はねい曰く手作りとのこと。端的に言って、カレラは嫉妬していた。だから恋敵候補がマサオミに対してどんな感情を持っているのかが気になった。
ゆかりは突然のことに顔を赤らめさせて、手に持っていた万年筆を机に落とす。
「え!?....その、なんといいますか....」
「その反応でなんとなくわかったわ。」
カレラはその反応にどう思ったのかはわからないが、ソファの方へ歩いていき、どかっと腰掛けた。
ゆかりは思う。なんなんです!!本当になんなんですか!!この女!!
ゆかりは微笑みを作ってから椅子から立ち上がり、カレラの対面のソファに座った。カレラは視線だけをゆかりに向けて言った。
「....なにかしら?何かようでもあるの?」
冷たさすら感じる口調
ゆかりは気にせず、両手を膝の上に置き、微笑んだまま単刀直入に質問をし返した。
「カレラ様は、マサオミ様のことをどう思っているのですか?」
静寂が部屋を支配する。
ゆかりとカレラの視線がぶつかって数分経過した。未だに両者無言。しかし、その視線だけは戦いを繰り広げていた。
カレラが口を開く
「そうね。好きよ。マサオミのこと」
自信満々にそう言った。ゆかりはその意味を理解していたが、一応聞くことにした。
ゆかりの口が開く
「そうですか。それはどちらの意味でしょう」
「あら?わからなかった?お貴族様も案外にぶいのね」
ゆかりの額にぴきりと青筋が浮かぶ。膝の上の手に力が入る。
なんですか!この女!!なんなんですか!!なんで煽ってくるんです!!
「一応、一応の確認です。わかっていますよ?」
「そ」
カレラは興味が無さそうに自分の爪を見た。そして懐から保湿オイルを取り出し、塗り始める。
ここから、同じ男を好いている女の舌戦の火蓋が切られる。
先行はゆかり
「そういえば、知っていますか?」
カレラはゆかりを無視して爪の手入れをし続ける。
「マサオミ様、"私"が作った大福を大層美味しそうに食べてくださるのです」
カレラの眉毛がぴくりと動いた。そしてへぇと言うように内心でニヤリと笑った。表面は興味の無さそうな顔をしている。なんでもないことのように言った。
カレラが手札を一枚切る。
「そ。それで?マサオミは私の"膝枕"でお昼寝するのが好きなのよ?」
ゆかりの眉毛もぴくりと動いた。
なんですか!それ!羨ましいです!
ゆかりは思考を高速で巡らせる。ゆかりはなんか負けたくなかった。この話に勝敗などないとは理解している。それでもなんか負けたくなかった。
今のマサオミ様のことで私が勝てる道筋はないでしょう。いや?アレがありましたね。でもそれは人に絶対に言いたくない私とマサオミ様だけの思い出.....残るは一つです。
過去の話しかないですね。でも、ただ話すのはもったいないですね?できる限り、カレラ様から今のマサオミ様の情報を引き出さなければ割に合いません。
「そうなんですか。マサオミ様との仲がよろしいようで羨ましいです」
「そう?普通のことだと思うわよ?」
カレラは内心普通のことだとか思っていなかった。膝枕は自分だけの特権。マサオミに膝枕をしていいのは私だけ。そう思っていた。
勝ったわね。
するとゆかりはソファに深く腰掛けて、足を組む。
「それでも羨ましいですね。今のマサオミ様をよくご存知の"団員"の方々は羨ましいです。」
わざと団員を強調するゆかり、案に"貴方はただの団員でしょう?なに彼女面してるんです?"そんな思考が透けて見える。
はぁ?なに言ってんの?この女
「私が知ってるのは"昔"のマサオミ様のことだけで.....」
カレラの耳がピクピクと動いた。それをゆかりは見逃さない。内心ほくそ笑んだ。
「そういえば、昔!.....いえ、やめておきましょう。カレラ様は興味が薄いようですし」
カレラは思わず立ち上がり、身を乗り出してしまう。床に保湿オイルが転がる。
「はぁ!?なんでよ!続け.....あ」
かかりましたね
ゆかりの猛攻が始まる。
右頬に右手を添えて、左斜め上を向いた。
「あら?カレラ様。興味無さそうに聞いてらしたのに、実は興味あったんですか?」
「はぁ!?そんなことないわよ!」
「あらぁ?そうは見えませんね。私の気のせいでしょうか?どうしましょう.....お話しても良いのですが.....本当に興味ないのですか?」
カレラはもう一度ソファに座り直し、偉そうに踏ん反り返りながら、腕を組んだ。
「ふんっ。やるわねあんた」
「なんのことでしょう。」
ゆかりは依然とニコニコ微笑んでいる。
「流石は"過去"の女。それしか話せる内容がないのかしら?」
ぴきり
微笑みに亀裂が走る。
こんな醜い争いを日が暮れるまで続けていた。
ゆかりとカレラは同じことを思う。
この女、なんか気に入らない。
仲良くなることはできずとも、打ち解けてはいた。悪い方向に
その時、扉が突然開く。マサオミだ。
「マサオミ様!おかえりなさい!!夕飯はもう少しお待ちください!!」
「ああ」
「マサオミ!!来たわね!!こっちに来なさい!!」
カレラがバンバンと自分の隣を叩く
「わかった」
ゆかりがすかさず待ったをかける。
「いえいえ、マサオミ様?こちらにいらしてください」
ゆかりはぽんぽんとソファを叩き、自分の隣に促す。
カレラがゆかりに視線を向けずに言った。
「なによゆかり。私の真似かしら?あとおかえりってなに。ここ、マサオミの家じゃないじゃない!」
「ふふっ。真似ではありません。カレラ様が先に言っただけでしょう?たまたまです。あと、いつも通りの言葉を使っただけですよ?い・つ・も・通り、です!」
マサオミはそんな2人に置いてけぼりになっていた。そして思う。
仲良さそうだな。
実際、カレラとゆかりは似たもの同士だった。
2人にそのことを言ったら、ノータイムで否定するだろう。
3日目が終了した。
エビチリの豚バージョン、豚チリとジャスミン茶のマリアージュ率は異常です。