クソボケに勝手に脳焼かれた人達と要介護者がなんやかんやあって生きる話〜俺はもう終わりたいんですけど!!〜   作:冷製春雨スープ

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六話

 

 ザンザは思っていた。

 俺ちゃん、戦う力とかないから護衛に向かないんでやんすけど

 

 時間は午前、開いている店はなく、通りには開店準備をしている人達しかいない。

 ポケ〜っとしながら歩いていると、見知らぬマダムに話しかけられた。どうやら甘味処の店主らしい。

 

 「ちょっとあんた!そこのお兄さん!」

 

 「んあ?俺ちゃんでやんすか?どうしたおばちゃん」

 

 「あらっ!失礼な子ね!あんたザイテンちゃんとこの団員さんだろう?ザイテンちゃんに新作の餡蜜できたよって伝えてくれないかねぇ」

 

 兄貴....やっぱおばちゃんに好かれる何かを持ってるでやんすねぇ。エルガルドのスイーツ通りのおばちゃんにも人気でやんすし

 

 「いいでやんすよ。兄貴には俺ちゃんが責任を持って伝えておくでやんす」

 

 「まあ!さっすがザイテンちゃんのとこの子ねぇ〜。いい子だわぁ」

 

 「いやぁ、はは」

 

 兄貴好かれすぎでやんすね。何回行ってるんでやんすか?

 

 マサオミの趣味はスイーツやお菓子を食べることだった。1人でフラッと行きスイーツを食べて去る。デカい体に小さいスイーツ、明らかに縮尺の合っていない姿で小さく食べるものだから、スイーツ店のマダムに人気が高い。どこへ行ってもそうだった。

 

 「なら、頼んだわよ〜」

 

 そう言うと恰幅のいいおばちゃんは後ろを向いて、ひらひらと手を振りながら去って行った。

 

 そしてザンザはおばちゃんを見送った後、また歩き出した。

 

 あの兄貴がザイテンちゃん.......

 

 「.....ぷはっ!違和感がすごいでやんすねー!」

 

 ザンザの頬が綻ぶ

 

 ザイテンと言う名は、前線に近ければ近いほど有名だ。この日輪の國は前線から1番遠い国、マサオミのことを知らない人が居てもおかしくはない。おかしくはないのだが

 

 どれだけ聞いても慣れなる気がしない。あの前線の英雄がちゃん付けで呼ばれる日常に

 

 兄貴にとって、ここは過ごしやすい場所なのかもしれないでやんすね

 

 ザンザは嬉しかった。マサオミをただ1人の人間として扱ってくれる場所があることが。

 マサオミを英雄とも、化け物とも扱わない人々がいるなんて、何よりも嬉しいことだった。

 

 前線に帰ったら、みんなに教えてあげるのもいいでやんすね。バロン涙を流して、ネメアは吹き出して笑うでやんすね。

 

 ザンザは考えていた。

 この街を管理する方陣の当主はまともな領地運営をしているのだろう。見た限り、住民の幸福度も高い。聞き込みもしてみたが、方陣ゆかりに関しての悪評の一つも聞かなかった。だから、ここの貴族様はまともな人なんだろう。

 

 しかしそれは

 

 「.....貴族を信用する理由にはならない」

 

 ザンザは先ほどの笑顔を引っ込めて真顔になる。

 

 

 

 

 ザンザは執務室の前に立ち、笑顔を作る。

 ノックを3回

 

 「どうぞ」

 

 「失礼するでやんす!」

 

 「ええ、おはようございます。確か...ザンザ様..でしたね?」

 

 「うっす!俺ちゃんはザンザ!今日はよろしくするでやんすよ!」

 

 「ええ、よろしくお願いしますね」

 

 ゆかりはザンザを見やる。柔和な笑顔、少し軽薄そうだがその瞳には知性が覗き見える。

 そして違和感があった。それがなんなのかはわからないが、先日見た時よりもなにか.....

 

 「えぇ〜と....なんでやんすか?」

 

 ハッとし、思考を止める。

 流石に不躾でしたね....

 

 「いえ!その、すみません.....無言でジッと見られるのは気分が悪いですよね....」

 

 「いえいえ!俺ちゃん兄貴で慣れてるでやんす!気にしないでくださいな!」

 

 気のせい.....でしたかね?

 

 「では、ザンザ様。そちらのソファにお掛けになってください。」

 

 「おお!感謝するでやんす!実はもう座りたいっ!って思ってたでやんす!」

 

 ゆかりはふふっと微笑んで、ザンザがソファに座ったのを確認して仕事を再開した。

 

 

 ザンザは横目でバレないようにゆかりを観察し、分析していた。

 

 方陣ゆかり22歳

 所作は貴族らしく完璧に近い

 兄貴と同い年の昔馴染み

 弱みになる情報は無し

 市街調査の結果も概ね好印象

 両親は死去

 こちらを囲おうとする意識は今のところ見られない

 スミレやねい、カレラの話を総合するに兄貴に対する執着の可能性大

 

 そして、先先代方陣家当主、方陣ゲンゾウとの仲は悪化を辿っていると聞く。

 

 それはなぜ?

 

 ザンザは左手を顎に当て、少し俯く

 

 何か要因が?そもそもなぜ貴族がまだ独身なんだ?貴族にはしがらみがつきまとう、政略結婚をしていてもおかしくはない年齢だ。

 

 「....ザ...ま」

 

 まさかそれか?

 

 ならばなぜ結婚をしない。貴族としての義務の一つだろう。

 

 「...ンザ...ま」

 

 何か欠けているピースがある。

 なんだ?考えろ。

 

 「ザンザ様!」

 

 「んあ!?」

 

 ザンザはバッとゆかりの方を向いた。

 やっべ。やらかしたでやんす。

 

 「ザンザ様?考え事でしょうか?」

 

 「......そうでなんでやんすよ!実は兄貴がゆかり様の話ばかりするんでやんすよ〜。なんでかな〜って考えてたでやんす!」

 

 ザンザは咄嗟のことで苦しい言い訳をしてしまった。だが大丈夫だろうと考えてもいた。

 兄貴の昔馴染みと言っても、今の兄貴との付き合いはまだ短い。これがスミレやねい、カレラなら嘘だと気づけるでやんすが、流石にほうじ...

 

 「嘘ですよね」

 

 「え?」

 

 「嘘ですよね」

 

 「はい」

 

 ゆかりは一瞬喜びかけていた。

 マサオミ様が!?私のことを!?やったやった!嬉しいです!これはもう....えへへ....

 

 と、一通り考えた後、疑問が浮かんだ。

 マサオミ様が本当に私の話をしてくれるのでしょうか?

 

 ゆかりは癪だった。とっても癪で認めたくはないが、マサオミがゆかりの話を人にわざわざすることはないことに気がついていた。

 ザンザの誤算はただ一つ、10年想いの褪せなかったゆかりは、マサオミに関してだけは理解速度がバグっていた。

 

 ザンザは目を見開く

 まだ3週間くらいの付き合いでやんすよね?10年前の兄貴と今の兄貴はだいぶ違う。過去の記憶が役に立っているとは思えないでやんす。

 

 でも事実、方陣ゆかりは気づいて見せた。

 

 こわ

 

 ザンザはゆかりへの警戒度を上げた。

 

 「......いやぁ〜。申し訳ないでやんすよ。実は少しからかってみようかなぁ〜。なんちゃって?」

 

 「ふふっ...いいのですよ。でも揶揄いはほどほどでよろしくお願いします」

 

 ゆかりは微笑んでそう言った。

 

 ザンザがゆかりを観察していたのと同時にゆかりはザンザを観察していた。マサオミの仲間の1人であり、マサオミはザンザのことを傭兵団の頭脳と言っていた。そしてスミレの助言を思い出す。

 

___ 彼奴等は貴族を苦手としている。

 

 それを踏まえて観察し、考えてみた。

 そしたら先ほどの違和感の正体を理解した。

 

 ザンザは表情を作っている。そして私を信用していない。多分、する気もない

 

 考えてみれば簡単だった。彼女達は傭兵、傭兵は貴族に反感を持つ者が多いと聞く。

 スミレとねい、一応カレラと少しは打ち解けられていた。少なくともゆかりはそう思っていた。だからどこか楽観的に考えていた。

 

 マサオミ様のお仲間ならば、早く関係構築ができるだろう。と

 

 ゆかりはザンザと目を合わせながら考えていた。

 この方と打ち解けるのは難しいかもしれませんね。

 

 でも見ていてください!マサオミ様!私はザンザ様とも仲良しになってみせます!!

 

 内心、ふんすと腕を組んで頷いた。

 

 

 4日目が終了した。

 

 

 

 

 5日目

 

 突然執務室の扉が開かれる。マサオミだ。

 

 いつもと同じくゆかりの肩がビクッとなり、顔を上げて、いつもよりも明るい声音を出す。

 

 「マサオミ様!おかえりなさい!今日はやっ....と.....」

 

 「ああ」

 

 ゆかりはマサオミを見て、思考が一瞬停止する。

 額に張り付き、水滴が額から頬をつたい顎へと流れる。服は体に張り付き、筋骨隆々の筋肉がこれでもかと浮き出ていた。ものすごいものだった。

 

 ゆかりは顔を赤くし、手のひらで顔を覆う。しかしその指の隙間からガン見しているのはバレバレだった。

 

 えっちです!えっちすぎますマサオミ様!!も、もしかして.......俺と一緒に溶け合おうぜ。ってことですか!?いいんですか!?本当に!?喜んで!!

 

 

 

........ではなく!

 

 胸を抑え、鼓動を鎮めるように深呼吸する。

 正気を取り戻す。頭をブンブンと振って、ニヤける顔を落とす。

 

 「マ、マサオミ様!ビチャビチャじゃないですか!」

 

 「ああ」

 

 「"ああ"ではありません!!このままでは風邪を引いてしまいます!!」

 

 「そうか」

 

 「........もういいです!!ちせ!ちせ来てください!!」

 

 ゆかりは専属の側仕えを呼ぶ。

 そして、数十秒後に側仕えが執務室に到着した。

 

 「.....失礼いたします。ゆかり様、どのようなごよ...」

 

 「ちせ!早くマサオミ様を浴室へ連れて行ってください!」

 

 「え......」

 

 

 

 

 マサオミは強制的に風呂に入れられた後、用意されていた新品の服を着てから執務室に行った。なぜか自分に合うサイズの服だったが、マサオミは気にしなかった。特に疑問にも思わなかった。

 

 執務室に入り、真っ直ぐソファに腰掛けた。

 ゆかりが話しかけてくる。

 

 「マサオミ様、湯加減はどうでしたか?」

 

 「よかった」

 

 ゆかりはふふっと微笑む、そして疑問を口にした。

 

 「なぜ傘をささなかったのですか?」

 

 「なかった」

 

 それだけ言って、マサオミは5日ぶりに執務室のソファで本を読み始めた。新しくカレラに読めと渡された恋愛小説だ。

 

 相変わらず訳がわからん。

 

 窓から外を見てみる。ザーザーと雨が降っている。

 

 「今日は雨が強いですね」

 

 「ああ」

 

 それだけ話し、ゆかりは仕事をマサオミは本を再度読み始めた。

 

 ゆかりはこの静かな時間が好きだった。時計の音と、マサオミ様のページをめくる音、筆のカリカリと言う執筆音

 

 そしてたまにマサオミの方を向いて、ただ見つめる。マサオミは本に集中しているのか、ゆかりの視線に気づかない。それか気づいてはいるのだろう。だが気にしない。

 

 それがゆかりは嬉しいのだ。なんとなく、マサオミが自分に気を許してくれているような気がするから

 とても安心するのだ。マサオミを近くに感じられるから

 

 30分ほど見つめた後、ゆかりは立ち上がり、執務室の端に行って茶を淹れ始める。

 

 いつも通りの工程でお茶を淹れ、いつも通りお茶請けを皿に盛り付け、専用になった湯呑みを二つお盆に乗せる。

 

 「マサオミ様」

 

 「ああ」

 

 マサオミが本を懐にしまい、ゆかりが食器を並べ、湯呑みにお茶を注ぐ。

 

 そしてマサオミの隣に座った。

 これにはまだ慣れない。今日も顔を赤く染めながら、マサオミの横顔を見た。

 いつも通りの仏頂面、それでもゆかりにはわかった。 

 

 早くお茶請けを食べたいのですね?

 

 「マサオミ様、本日はわらび餅になります。どうぞ召し上がってください」

 

 「ああ」

 

 マサオミが菓子切りを手にとり、黒蜜ときな粉がかかったわらび餅を一粒口に運ぶ

 

 「うまい」

 

 ゆかりはその顔を嬉しそうに、愛おしそうにただ見つめていた。マサオミももう慣れたのか、気にする様子もない。

 

 この光景だけは、10年前と何一つ変わっていなかった。マサオミがお菓子を食べ、ゆかりがただ見つめ続ける。そんな静かで温かな時間

 

 ゆかりはこのために生きていると言ってもいい。この何気ない時間が恋しくて、どうしてもまたこの時間をマサオミと一緒に過ごしたくて

 

 だからゆかりはマサオミと再会してからずっと幸せなのだ。その気持ちは日が増すごとに増え続けた。

 

 そしてあの膝枕の日、あの日からずっと幸せだった。マサオミが帰ったあとも、1人で布団に入ったあともずっと、ずっとマサオミが頭にいてくれる。

 

 明日も来てくれる。ただそれだけでゆかりは幸せなのだ。この日々が永遠に続いてほしい。一生こんな、静かな時間の共有を

 

 わらび餅を食べて、お茶を飲むマサオミを見続ける。

 

 マサオミがゆかりに視線を向けた。

 

 「ええ、私もいただきますね」

 

 「ああ」

 

 マサオミは不思議だった。

 ゆかりとの時間はなぜか、母を思い出す。

 

 マサオミがゆかりの顔を見つめる。

 

 顔は違う、身長も、体型も何もかもが違う。

 それでもゆかりに見られていると、なぜか母が頭に浮かぶ。

 

 なぜかはわからない。わからない。が

 

 

___落ち着く

 

 

 そんな気がしていた。

 マサオミはずっと考えていた。なぜこんなにも安心するのか。なぜゆかりに見られていると安心するのか。なにもわからない。なぜだ?

 

 マサオミの疑問が止まらない。答えが出ない。同じ解答を脳が出力をし続ける。

 

 「マサオミ様?」

 

 「なんだ。」

 

 ゆかりが小さく首を傾げて、不思議そうにこちらを見ている。

 

 「何か考え事ですか?」

 

 マサオミは少し考える。数秒の沈黙の後、口を開いた。

 

 「なぜだ」

 

 「?何がでしょう」

 

 マサオミ様の言葉には慣れてきましたが、まだまだスミレ様やねいちゃん、カレラにザンザ様方団員のようには行きませんね。

 それでも少しはわかってきたのです!

 

 ゆかりはマサオミの目を見て口を開くのを待つ

 

 「わからんのだ」

 

 ゆかりも何もわからなかった。

 もう少し、もう少し言葉にしていただければわかるのですが......悔しいです.....

 

 「安心する」

 

 「......え?」

 

 ゆかりの鼓動が速くなる。どくん、どくんと温かいものが広がる。

 

 マサオミの目は嘘を言っているようには見えない。ゆかりも嘘をつくとは思えない。思いたくない。

 

 ゆかりは思い出す。あの静かな夜の時間、ゆかりの大切な、大切な宝物

 

___ その眼差しを向けられると、何故か安心できたんだ。

 

 ゆかりの目頭が熱くなる。瞳が潤んで視界がボヤける。なのに口元が緩んでいく。

 

 彼はわかっていない。何も理解していない。

 でも、感情がないわけでも何も思わないわけでもない。それをゆかりは知っている。

 

 それでもまさか、マサオミ様が自分と同じ気持ちでいてくれたなんて......

 

そんな夢物語、望んでいても期待はしていなかった。

 

 マサオミの方に体ごと向けて、手を胸の前で組んで、瞳を濡らしながら笑った。その笑顔に仮面はなく、自然な笑顔だった。

 

 「私も.....私も同じ気持ちです!」

 

 マサオミはそんなゆかりの笑顔を見て、悪くない気持ちになった。

 

 「そうか」

 

 

 

 

 ゆかりはマサオミを見送った後、1人執務室の椅子に座りながら上を見上げていた。

 

 今日はとってもいい日でした。マサオミ様に安心すると言っていただけて、初めて思いが通じ合ったような気がして......

 

 「ふふっ、うふふふふ」

 

笑みが溢れる。顔がニヤけて直らない。

 

 明日の夕食は何をつくりましょう!確かマサオミ様は、3日前に出したお魚の照り焼きに夢中になっていましたね!なら、明日はそれにしましょうか?いや......短期間でお出ししたら飽きてしまわれるかも?

 

 足を机の下で小さくパタパタと動かす。

 

 そうです!明日は揚げ物にしましょう!殿方はガッツリとした物が好きだとちせも言っていました!そうです!そうしましょう!

 

 頬に両手を当てて、蕩けたように笑う。

 

 マサオミ様、喜んでくれるといいなぁ

 美味しいって、言ってくれると嬉しいなぁ

 

 明日もマサオミ様に会える........これほど嬉しいことはないですね!ああ!こんなに明日が待ち遠しい!早く明日に.....早くマサオミ様に.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、コンコンコンとノックが聞こえた。

 

 ゆかりの動きがピタリと止まる

 ?なんでしょう。

 

 「失礼します。ゆかり様、お手紙が届いております。」

 

 「こんな時間にですか?珍しいですね」

 

 5日目が終了した。





 アブって賢いんですよ。昔家族と川へ遊びに行った時にアブに襲われまして、焦った私は川に飛び込んで潜ったんです。奴は水面でぶんぶん飛んで待機していたんですね。その時からアブが苦手です。
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