クソボケに勝手に脳焼かれた人達と要介護者がなんやかんやあって生きる話〜俺はもう終わりたいんですけど!!〜   作:冷製春雨スープ

22 / 32
八話

 

 後日、宿屋のベッドに胡座をかきながらマサオミは花冠と桔梗の花を見ていた。この二つを扱う手つきは繊細で、握り潰さないように細心の注意を払っていた。

 

 マサオミの頭の中を疑問と思い出が駆け巡る。

 俺は何を間違えた。俺は何がわからなかった。ゆかりのあの表情はなんだ。

 

 あの大福は美味かった。ゆかりはいつも俺を見ていたな。許可を求めてきたときは訳がわからなかった。

 

 桔梗の茎の部分をくるくる回す。そしてシロツメクサの花冠に重ねるように置いた。

 

 ゆかりは、これを大切にしてくれと言っていたな。

 

 大図書館に接続する。脳裏に数多の文字列が並ぶ。その内の一つを選択して、左手を前に出す。

 

 「召喚。魔導書『宝物の化葛篭』、起動」

 

 魔導書が宙を浮き、少しずつその形を変えていく。表紙が藁のように裂かれて伸びていき、編まれ始める。ページ1枚1枚が和紙のように貼り付いた。

 そして完成した。大きさは小物入れ程度

 

 花冠と桔梗の隣に葛篭がゆっくりと落ちていく。

 マサオミはその葛篭の蓋を取って、中に花冠と桔梗をしまった。

 

 ベッドから立ち上がり、葛篭箱を持って部屋を出た。廊下を歩き、階段を降りる。そしたら1階部分のフリースペースの椅子に座っているスミレに差し出した。

 

 「これを頼む」

 

 スミレは読んでいた本を膝の上に置き、両手で葛篭箱を受け取った。

 

 「其方、これはなんだ?」

 

 「大切な物だ」

 

 それだけ言ってスミレに背を向け、ザンザの泊まっている部屋に向かって歩きだした。

 

 その時、女性らしき人が宿屋の扉から入ってきた。フードを被っている所為で顔が見えない。

 女性はこちらを一瞥して言った。

 

 「おはようございます。ザイテン様、スミレ様」

 

 フードを両手で後ろへ持っていく。

 ゆかり専属の側仕えである"ちせ"だった。

 

 

 

 

 側仕えを部屋まで招いて、10分と少し、マサオミの部屋には団員が勢揃いしていた。

 マサオミは椅子に座り、その後ろに団員達が控えている。側仕えはマサオミの正面に相対していた。

 

 団員達の表情は穏やかな物とは言い難く、威圧感を放っている。

 

 それはそのはず、彼女達は先日の出来事を知っていた。方陣ゆかりが突然依頼の破棄を言い渡し、マサオミを追い出した。そして帰ってきたマサオミの様子がおかしかったのだ。

 いつもならわからないことは直ぐに聞いてくるマサオミが、昨日は一切質問してこなかった。そして団員達に部屋への入室を禁止したのだ。

 傭兵団結成当初から今の今までなかったことである。

 

 側仕えは緊張の滲んでいる表情で口を開かないでいた。手に力が入っており、背筋も伸びている。

 マサオミはそんな様子を見て、後ろの団員達の状態に気がついた。

 

 「やめろ」

 

 突如として消える威圧感。

 カレラが抗議するようにマサオミの座っている椅子の背もたれに手をついて、言った。

 

 「なんでよ!!昨日からマサオミ、様子がおかしいじゃない!!昨日屋敷から追い出されたからなんじゃないの!!!」

 

 カレラの口が鋭さを増す

 

 「やっぱり!!貴族なんかのいら....」

 

 カレラは途中で言葉を止めた。止めるしかなかった。

 マサオミが後ろを少しだけ振り返りながらカレラを睨んでいた。威圧感が部屋全体を包む。団員達の額に冷や汗が流れた。体が凍り付く。

 

 顔を青ざめさせたカレラが背もたれを握る手を震わせながら離して、左手で右肩を掴みながら後ろへ一歩下がった。

 

 「ごめん....なさい」

 

 「ああ」

 

 慰めるようにザンザが背中を摩った。

 威圧を解いて、マサオミは側仕えに向き直る。

 

 「なんだ」

 

 「.....まず、先日は大変申し訳ございませんでした。」

 

 側仕えが深々と頭を下げる。

 

 「突然の依頼破棄の連絡、ゆかり様に変わり私が伏してお詫びいたします」

 

 「なぜだ」

 

 側仕えは頭を下げたまま、言葉の意味を探る。

 なぜ私が来たのか、と聞いているのでしょうか?

 なぜ、ゆかり様本人が来ないのか、と言うことでしょうか......

 

 スミレがため息を吐きながら、マサオミの隣に並んだ。

 

 「其方、顔を上げろ。」

 

 側仕えはぴくりと体を震わせて、恐る恐る顔を上げる。そこには仁王立ちで見下ろしているスミレと首を傾げているマサオミの姿があった。

 

 「団長は、なぜ謝るのか。と聞いたのだ。団長はもう少し喋ってくれ、毎度通訳していたらいつまで経ってもそのままだ」

 

「わかった」

 

 マサオミは別に怒ってはいなかった。そもそも団員達に部屋に立ち入ることを禁止したことだってそこまでの意味があったわけではなかった。

 

 ただ、なんとなく、少し考えてみよう。そう思っただけだったのだ。

 

 だから突然謝られて普通に困っていた。

 なぜ怒っていないのに謝るのだろうか?

 

 「.....ゆかり様を、私達方陣家を怒ってはいないのですか.....?私達は大恩ある貴方様を、碌に説明することなく追い出したのですよ....?」

 

 マサオミはさらに顔を傾げて、額に皺を寄せる。

 それのどこを怒ればいいんだ?

 

 「気にするな。それよりなぜだ」

 

 スミレは相変わらずの圧縮言語に呆れながら通訳を開始した。

 

 「......理由はなんだ?何があったんだ。」

 

 側仕えは姿勢を正して、手をぎゅっと握った。一度目を閉じてから深呼吸をし、話始めた。どこか懇願するように

 

 「ゆかり様が結婚なされるのです。ゆかり様は、日輪の國の首都へともう出発いたしました。」

 

 側仕えは再度、深々と頭を下げて言った。

 

 「突然決まりましたので、このような形になってしまいました。大変申し訳ございません。」

 

 スミレは何かを確認するように後ろへ振り向いて、ザンザに視線で確認する。

 ザンザはただ、一回だけ頷いた。

 

 ザンザの予想通りだった。

 

 「....こちら、依頼金になります。3ヶ月分全て入っているはずです。ご確認ください。」

 

 側仕えは懐から布袋を取り出して、差し出してくる。

 

 「ザンザ」

 

 「はいはい。わかったでやんすよ。」

 

 ザンザがマサオミの後ろから前に出て、丁寧な手つきで側仕えから受け取る。受け取った布袋を開いて、中を確認し始める。

 たまに指で宙に何かを描くかのように動かす。

 

 「ピッタリでやんすよ。兄貴」

 

 「そうか。」

 

 マサオミは目を瞑り、腕を組みながら考えていた。

 

 結婚か。そうか。

 何がなんだかわからんが、ゆかりは貴族。

 そう言うこともあるんだろう。

 

 マサオミは椅子から立ち上がった。

 

 「帰るぞ」

 

 すると団員達は一斉に動き出した。

 

 

 

 

 側仕えは多分。期待していたのだ。期待してしまっていたのだ。

 

 側仕えは、ちせは知っていた。

 

 マサオミが来てから、ゆかりが夜、眠れるようになっていたことを

 

 日中にマサオミを見過ぎていた所為で、夜に仕事を片付けていたことを

 

 毎日のようにマサオミが帰ってから、厨房に籠って大福を作っていたことを

 

 ゆかりが本当は、結婚なんてしたくないことを

 

 ちせは見ていた。

 

 マサオミが来る前、憂いを帯びた眼差しで窓の外を眺めていたことを

 

 大福を作っている時の真剣な眼差しを

 

 宿屋へ帰るマサオミの背中を、マサオミが見えなくなるまで見守っていたことを

 

 毎日おいしいって言ってくれた。と嬉しそうに微笑んでいたことを

 

 手紙を見た時のどこか泣き出してしまいそうな表情を

 

 そしてちせは聞いていた。

 

 マサオミを追い出したあと、1人で応接室に戻ったゆかりが泣いていたことを

 

 

 ちせは期待してしまっていた。願ってしまった。心のどこかで考えていた。

 

 彼なら、ザイテン様ならばあの日の様にゆかり様を助けるために飛び出してくれるんじゃないか。って

 

 団員達が忙しなく動き、荷物をまとめている姿をただ見ていた。

 

 ちせは知った。

 自分の望みが叶うことはない。

 

 ちせの望みはささやかな物だった。

 

___ゆかり様に幸せになってほしい

 

 ただこれだけだった。

 

 ちせは、9年前からゆかりに仕えている。9年前のゆかり様は、突然震え出して、泣き出してしまう。そんな不安定な子供だった。

 それでもゆかりは優しかった。いつも何かを怯えていて、何かを考えていた。

 

 お稽古も勉強も忙しく、私達のことを気にかける余裕なんてないはずなのに、いつも私達を気にかけてくれていた。

 

 使用人が体調を崩したら誰よりも早く気がついた。

 

 使用人が失敗しても、微笑みながら許してくれていた。

 

 使用人の結婚を、笑顔で祝ってくれていた。

 

 頭が良くて、優しくて、いつも私達のことを考えてくださるゆかり様、だから私達はゆかり様が大好きなのだ。

 

 だからこそ、私達がゆかり様を元気付けられないことに気がついていた。ゆかり様の心の中にはいつも誰かが居座っている。

 その方が傭兵だとは思わなかったけど、それでも彼が来てからゆかり様は楽しそうで、今まで見たこともない笑顔で笑ってくれて

 

 庭師も、料理人も、門番も、私だって嬉しかった。

 

 私の、私達の望みはただ一つ、ゆかり様に幸せになってほしい。

 

 

 

 

 それが叶わないと気がついてしまった。実感してしまった。

 

 助けてください。この一言を言うことはできません。

 

 椅子に座ったまま、頭を下げる。スカートを握る。肩が震える。

 

 泣いてはだめです。

 

 泣いてはだめです。

 

 耐えなさいちせ!

 

 ゆかり様は人前で泣かなかった!

 

 それなのに、使用人である私が人前で泣くなど許されません!

 

 ちせは必死に涙を堪えようとする。目を瞑り、スカートを握る手を強くする。

 

 それでも、それでも溢れてしまう。大粒の雫が目元に浮かび出す。肩の震えが強くなる。

 

 そんなちせの様子にマサオミが気がついた。

 

 「どうした」

 

 そして、声すらも漏れ出てしまった。反射だった。反射的に口から出てしまった。

 

 「.......ゆかり様を..........たすけてぇ.....」

 

 「わかった」

 

 言葉を吐いたあと、ちせは無意識に言ってしまった言葉に驚いた。手で口元を覆った。

 

 「ち....ちが......」

 

 マサオミの口から轟音が響く。

 

 「お前ら!!!」

 

 マサオミの声を聞いた団員達が慌ただしく部屋に入ってくる。全員の入室を確認したマサオミは口を開いた。

 

 「ゆかりを助けに行く。準備をしろ」

 

 団員達は眉を上げ、目を見開いた。

 そして何も聞かずに、仕方ないと言うように肩をすくめ、行動を開始した。

 

 ちせは置いてけぼりになっていた。

 期待はしていたが、言うつもりのなかった言葉。言ってはいけなかった懇願。

 

 そんなちせの気持ちはつゆ知らず、団員達は各々がやるべきことを行っていた。

 

 ザンザは、首都までの必要経費の計算

 ねいは、装備類の点検

 カレラは、食糧と回復薬の買い出し

 スミレは、厩舎に預けている馬と馬車の回収

 

 そしてマサオミは、ちせの目の前で防具を着込んでいた。

 

 呆けていた側仕えが焦ったように立ち上がり、マサオミに言う。

 

 「ま、待ってください!!今のは!!」

 

 マサオミは装備を着る手を止めず、振り返ることもない。

 

 「嘘なのか」

 

 「そ、それは.......」

 

 嘘ではない。嘘ではないのだ。

 だから問題なのだ。

 

 それでも、ちせは"やめてほしい"の一言が出ない。

 だって、ゆかりを助けてくれると言ってくれて、嬉しかったのだから

 

 

 

 

 宿屋の前に止まっている馬車にマサオミが乗り込んだ。

 

 ちせはずっと"やめてほしい"と言おうとしていた。でも、言葉にしようとすると喉が渇いて上手く言葉にできない。

 それどころか、安堵まで感じてしまっていた。

 

 私は、ゆかり様の側仕え失格です......

 ゆかり様がどんな気持ちでザイテン様を遠ざけたのか、知っているはずなのに......

 ゆかり様の願いより、私の望みを優先させてしまった......

 

 そんなちせの姿を見ていた団員達は、彼女の考えが少し伝わっていた。

 1人1人が馬車に乗り込む前に、側仕えに声をかける。

 

 ザンザはどう言ったものか、と考えながら頭を掻きながら、依頼料の入った布袋を押し付けて、言った

 

 「兄貴なら、なんだかんだ全部解決してくれるでやんすよ」

 

 スミレは、安心させるように表情を緩め、冗談めかして言った

 

 「団長は"助けて"を聞き逃せん。其方は屋敷で待っておれ」

 

 カレラは、冷たい口調で、それでもどこか温かく言った。

 

 「あんたは黙って待ってればいいのよ!!ふんっ!!」

 

ねいは、満面の笑みを浮かべて、手を大きく振りながら言った。

 

 「じゃあ、行ってくるね!ちせちゃん!少し待っててね!」

 

 

 北点傭兵団全員を乗せた馬車が走り出した。

 目的地は日輪の國、その中心

 

 目的は、1人の少女の助けてのため、その涙に応えるため

 





 

三章完成まで週一で短編の投稿を考えてます。参考にしたいので、よろしければ解答をお願いしたいです。

  • まさおみのおつかい!上手にできるかな?
  • ぷろふぇっしょなる ちせの流儀
  • ねいの「かわいい」大作戦。
  • 料理人「残業は勘弁してください」
  • ザンザの一杯。
  • ありし日のゆかりちゃん(9さい)
  • スミレの早朝、団長を起こすまで
  • カレラの膝枕 ぶっとぉ〜い!説明不要!
  • 初恋の鼓動
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。