クソボケに勝手に脳焼かれた人達と要介護者がなんやかんやあって生きる話〜俺はもう終わりたいんですけど!!〜 作:冷製春雨スープ
1人の老人が腰を少しかがめながら、だだっ広い屋敷を移動している。
ここは日輪の國の首都、そこにある方陣家の別邸。
老人の名は方陣ゲンゾウ。方陣家先先代当主である。
ゲンゾウは上機嫌だった。
あのゆかりがついに、ついに結婚を!
それに、結婚相手は我が家と同格の大貴族、琵琶天家の次男。僥倖僥倖
あやつは女にしては優秀だったが、女としての勤めを果たそうとせんかった。
あれだけ良くしてやってると言うのに、家の為に結婚一つしようとせん。女の分際で当主に就くことを認めてやったにも関わらず、だ。
だから琵琶天家からの申し込みがあり、家の為にも結婚してもらわねば、と思っていた矢先アレだ。
まさか傭兵なんぞに現を抜かしているとはな。ゆかりも所詮、女だったと言うことか。
ゆかりの誘拐が失敗した時は、どうなるやらと思うたが、下賤な傭兵もたまには役に立つではないか。
アレのおかげで、ゆかりは結婚してくれるのだからな!!
正面からダラダラと歩いてくる1人の男
老人の前で止まり、見下ろしていた。
「なぁおい!爺ィ!暇なんだけどヨォ!!誰でもいいから女寄越せヤァ!!」
「.......ボクデン殿、そうは言われても困りますな。もう少しの辛抱でございます。」
「んぁ?ウルセェなぁ、おい爺ィ、俺ぁお前に金貰ったから雇われてやってっけどヨォ。何日女抱いてねぇと思うんだぁ?あ"あ"ぁ?」
ゲンゾウは溜め息を吐き、周りを見る。
ボクデン殿には困るの。こんなのでも剣豪、腕は確かだ。この国の剣豪選定の基準、もう少し考えた方が良いだろうに。必要なのは実力だけ、性格も判断基準にせんのは馬鹿げておるな。
ゲンゾウに1人の女性の使用人が目に入る。
コレでよかろう
「おい、そこの女、ちょいとこっちに来なさい」
「はい」
女性の使用人がゲンゾウに近寄り、側に控えた。
「ボクデン殿、コレはいかがかな?」
ボクデンは目の前の女を下から上にと舐め回すように見て、舌舐めずりをする。
「へぇ.....いい女じゃねぇの!おい爺ィ!この女貸せや!」
「えぇ、もちろ.....」
「お待ちください!」
1人の男の使用人がボクデンと女の間に割って入り、跪く。そして額を床に擦りつけた。
「伏してお願い申し上げます!この人は私の婚約者なのです!どうか!どうか!」
女が膝をつき、男に縋り付く。
「やめて、やめてください!そんなことをしては.....!」
「どうか!どうか!!」
ボクデンは舌打ちをした後、左手で頭をボリボリとかいてこう言った。
「顔を上げなぁ」
男は頬を綻ばせて、嬉しそうに顔を上げ
「え?」
首が飛んだ。
首のあったはずの場所から、噴水のように鮮血が噴き出る。
「男の土下座なんざ見ても面白くねぇよ。」
ボクデンは刀の血を払うように振った。膝をついて唖然としていた女の顔に血が付着する。
女は恐る恐る頬に触れ、手についた赤を見た。そして、元婚約者の首と目が合った。
「あ....あぁ...ああぁあぁあぁあ!!!ヒロミさん!ヒロミさん!!あぁ、ああああ!!!」
女は男の首を胸に抱き、蹲りながら泣き喚く。
ゲンゾウはその女の声に鬱陶しそうに見下した。
「おい、そこの。その汚れとゴミを捨てておけ」
「かしこまりました。」
ボクデンはしゃがんでから、泣き喚く女の頬を掴み、顔を無理矢理自分へ向ける。
「へぇ....いいねぇいいねぇ!!」
口角が上がり、楽しそうに体を横に揺らす。
ゲンゾウに目を向けず言った。
「おい爺ィ!この女借りるぜぇ!俺ぁ女の泣いてる顔見んのが好きなんだァ!!」
「ええ、こんな物でよければ」
ボクデンは女の抱え込む"モノ"をひったくり、明後日の方へ放り投げた。そして女の長い髪を持ち、引き摺りながらゲンゾウへ背を向ける。
「んじゃあなぁ」
「あぁああ!ヒロミさん!!ひろみさん!!」
女の慟哭だけが響いていた。
◇
1週間前の夜中のこと、マサオミを見送った後の執務室での出来事が浮かんでいた。
「ゆかり様、お手数が届いております。」
「こんな時間に珍しいですね」
ゆかりはちせから手紙を受け取り、手紙の印を見る。
コレは.....お爺様の......
「ちせ、貴方は退室してください」
「かしこまりました。では、失礼いたします。」
ちせが執務室から出ていったのを確認した後に開封を始めた。
同時に渡されたペーパーナイフで封筒を切り、中身の手紙を読み始める。
そこには縁談について書かれていた。縁談相手は
「琵琶天家の次男.....ですか」
ゆかりの返答は決まっていた。その答えだけなら10年も前から決まっている。
「あの人も懲りませんね。なんどいったら....?」
2枚目の手紙が入っていることに気がついた。ゆかりは1枚目と重なっている2枚目を取り、読み始める。
ゆかりの口から思わず声が漏れた
「......え....」
この縁談を受けなければ傭兵を殺す。
段取りは整っている。4日後に使いが参る。準備しておけ。
儂は、あの"剣豪"ボクデンを雇っている。
わかるな?
ゆかりは手紙を思わず離し、口を両手で覆う。
なんでマサオミ様のことを知って.......
いつ?どこから......?
いえ、それよりも!
剣豪.....ボクデンですか?あの、闇ギルドのギルドマスター剣豪ボクデンを雇っている?
「なんの.....冗談、ですか?」
戦うことのできないゆかりですら知ってる。
この"剣豪"ボクデンの名を
性格は残忍で残酷、剣の実力は日輪随一
闇ギルドの長であり、剣豪の称号の影響で、国でさえも手を出すことができない、日輪においての理不尽の象徴
そんな剣豪をお爺様が雇った?なぜ?どうやって!?
今はそんなことよりマサオミ様です!
結婚しなければマサオミ様が死ぬ?
ダメです!それだけは絶対に!!
どうしましょう、どうすればよいのですか?
ゆかりの呼吸が早くなる。ゆかりは胸を抑え、呼吸を整えるために深呼吸をする。
ドクドクと心臓の鼓動が早くなり続ける。呼吸が整わない。
いや、いやです!マサオミ様が......
ゆかりは思考を巡らせる。
マサオミ様に相談する?
ダメです!マサオミ様は助けてと言ったら助けてくれようとしてくれます!!あの日の傷を見たでしょう!!
なら、他の剣豪ボクデンに匹敵する者を雇うのは?
そんなコネはありません!マサオミ様達だって、たまたまかぐや様の知り合いだったから、紹介いただけただけです!!
なら...いっそ戦争を仕掛けますか...?
だめ.....です....。私の保有する戦力では、剣豪ボクデンを突破できません.......本当に雇っていた場合、取り返しがつきません.....
ですが、このまま突っぱねたら、マサオミ様は傷ついて.....もしかしたら、死.....
いや!いやです!それだけは.....
頭をを抱えて自問自答を繰り返す。
答えは出なかった。
場面は変わり、4日後の夜、ゆかりは応接室の窓からマサオミが屋敷を去る姿を見ていた。
窓に手を添えて、囁くように呟いた。
「.....申し訳ございません。マサオミ様....」
ゆかりは考え続けていた。自分とマサオミがずっと一緒にいる方法を
剣豪ボクデンの対処法を
マサオミに相談することは何度も考えた。
その度に誘拐事件のマサオミを思い出して、怖くなってしまう。
もし、マサオミ様が殺されてしまったら......
そんな疑念が消えなかった。
そう考えるだけで、震えが止まらなくなってしまう。もしかしたらが怖くて、その可能性があること自体が嫌で仕方ない。
なら、もう方法は一つしかなかった。
マサオミが傷付かず、戦争も起こらない。そんな夢のような手段は一つしかない。
だからゆかりは、縁談を受けることにした。
マサオミ以外の花嫁になることにした。
それが最善であると信じて
「マサオミ様、桔梗と花冠、大切にしてくれるでしょうか......」
柔らかく、それでいて悲しみの滲んだ笑顔を屋敷から離れていくマサオミに向ける。
「ふふっ.......マサオミ様は、花の意味なんて考えないのでしょうね.....?」
ゆかりの窓に触れている手に力が入る。顔に力を入れて、無理矢理笑顔を貼り付ける。
「今日は.....楽しかったですね.......」
マサオミとした散歩はとても楽しかった。
マサオミ様は、昔のことを良く覚えていてくれました。それなら、もっと早く昔話に花を咲かせるベキでしたね。
楽しかったです。本当に、マサオミ様のことを新しく知れた気がして
あの瞬間だけは、剣豪のことを忘れられたのです。
「マサオミ様.....今日も大福、美味しそうに食べてくださいました......」
ずっと見つめていた。勇気を出して、手を握ってよかったです。
でも少し、マサオミ様を困らせてしまいましたね。申し訳ございません、マサオミ様
それでも、目に焼き付けることができました!
大福を食べるマサオミ様は可愛らしくて、見ていて飽きませんでした。あの時間は.....これからの生きる糧になりますね。
本当に、いい思い出になったのですから
___もう来ないでください
先程言った己の言葉を反芻する。
ゆかりの笑顔が溶けていく。
ゆかりはズルズルと崩れ落ちる。窓には指紋で線ができている。
「.....嫌われて.....しまっ...たのでしょうか....」
膝を抱え、小さく丸まった。肩が震え始める。
ゆかりは、当主としての仮面を外した。
この部屋には誰もいない。誰も見る人なんていない。今日が終わったら、もう泣きません。だから、神様.....今だけは......
「...う...うぇぇえぇん....く、くぅ....ぅぅううぅ」
涙が溢れて止まらない。
「ご...ごめ..ごめんっ...なさい、、まさ...おみ、さまぁ」
グスグスと、幼児のように泣き喚く。
「ほんと、うは.....もっと.....マサオミ様とぉ....」
マサオミ様、マサオミ様、ごめんなさい。
マサオミ様に嫌われたくありませんでした。
だから、忘れないでくださいね?
マサオミ様と離れたくありません。
たまには、思い出してくださいね?
マサオミ様ともう会うこともできません。
遠くの空から、一生涯、来世までも
私はまた、マサオミ様と約束も.......
愛しています。
◇
ゆかりは目を開けた。
「ゆかり様、お綺麗ですよ」
「.......ありがとうございます」
神前式会場、ゆかりはそこにいた。
ゲンゾウが話しかけてくる。
「時間じゃ、ゆかり。はよせい」
「.......はい。お爺様」
ゆかりは鏡の前から立ち上がり、歩み始めた。
どうか、幸せになってください。マサオミ様
それで、それだけでゆかりは........
嬉しいのですから
白無垢を纏いながら、笑顔を貼り付けた。
三章完成まで週一で短編の投稿を考えてます。参考にしたいので、よろしければ解答をお願いしたいです。
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