クソボケに勝手に脳焼かれた人達と要介護者がなんやかんやあって生きる話〜俺はもう終わりたいんですけど!!〜 作:冷製春雨スープ
「兄貴、再確認でやんす」
ガラガラと進む馬車の中、マサオミは目を瞑り、腕を組みながら揺らめていた。
「今回は、ゆかり様を連れ出したら馬車ですぐに逃げるでやんす。無駄な戦いは避けるでやんすよ」
「ああ」
ザンザは右手で指を1本立て、念を押すようにマサオミの肩を左手で掴む。
「くれぐれも、くっれぐれも!騒ぎは起こさないようにするんでやんすよ!?日輪の國全体を敵に回すのは嫌でやんすよ!」
「わかった」
マサオミは目を瞑って腕を組み、グラグラ揺さぶられながら答えた。
スミレが読んでいた本を閉じ、マサオミの方向に視線を向ける。
「本当にわかっておるのか?」
「ああ」
ザンザとスミレが訝しげに、心配そうにマサオミを見る中、ねいはとうっ!と言うようにマサオミの背中に飛び乗って、マサオミの代わりに満面の笑みを向ける
「スミレもザンザも!だいじょーぶだよ!だってだんちょだもん!.......たぶん」
カレラも揺れる馬車の中立ち上がり、胸を張ってスミレとザンザを見下ろした。
「そうよ!!マサオミだってわかってるわ!!.......たぶん」
ザンザは肩をすくめ、スミレはこめかみを押さえる。2人は同じことを考えていた。
2人も自信なさげじゃないか
いつも通りの日常だった。ザンザとスミレが心配し、ねいとカレラが甘やかす。
そんな2人をスミレが少し羨ましそうに見て、ザンザがそんなスミレをニヤニヤ見やる。
団員は態といつも通りのテンションでマサオミに接していた。彼女達は、敵に"剣豪"と呼ばれる強者がいることを把握している。
もちろんマサオミが負けるとはカケラほども思わない。
が、それはそれとして心配ではあるのだ。
もう慣れてしまったとはいえ、団員達もマサオミの傷ついている姿は見たくない。でも、団員達はそんな事を承知の上でマサオミに着いてきている。
戦力として考えるのなら、自分達はマサオミの足手まといにしかならないと知っていても
「兄貴、もうすぐ着きますよ。」
「そうか」
マサオミは目を開いた。
◇
巫女に先導されて、ゆっくりとゆかりと琵琶天家の次男、そして双方の家族と共に神殿へ向かっていた。
天から降ってくるような笙の音が鳴り、甲高い篳篥、控えめな鞨鼓と太鼓がリズムを取っている。
優雅で奥ゆかしい雅楽の音色が、ゆかりを祝福するように奏でられていた。
ゆかりは自分の白無垢姿を思い出し、吐きそうになっていた。
元々白かった肌は透明感があり、目元や唇の鮮やかな赤が艶やかに輝いている。
そんな女の晴れ舞台。
本来なら、幸せの絶頂にいるべき瞬間。
愛する人との誓いの場。
神へ捧げる夫婦の契り
そのどれもが、気持ち悪くて、鳥肌が立つ。
そのどれもが嘘っぱち
隣を歩く男のどこか嬉しそうな、幸せそうな表情
どこか神々しく、荘厳さを感じさせる祝福の音色
憧れたように目を輝かせて、ゆかりを見る少女の視線
幸せそうなフリをする、自分の貼り付けた微笑み
この場においてただ1人だけ、ゆかりだけの幸せがない世界。どこか色褪せていて、モノクロの視界。内側から湧き上がる"ナニカ"
音も、視線も、何もかもが不愉快で
少女の視線が幼い自分とダブって見えて
憧れを向ける少女を縊り殺してしまいたくて
気持ち悪い。全てを投げ出して逃げてしまいたい。愛など誓いたくはない。彼以外に誓いたくはない。
なんで、なぜこうなるのです......
私はただ、一緒に、ただ側にいられたのなら、それでよかったのです
自分で選択した結果。
悩んで、悩んで、悩んだ結果のゆかりにとっての最善手
納得したはずです。マサオミ様を傷つけないために、剣豪と戦わせないために
私はマサオミ様を拒絶しました。もう、会うこともない。自分で決めたはずです。
ゆかりは言い聞かせるように、もう戻れないと知らしめるように思考する。
それでも、それなのに
消えてくれない
___マサオミに会いたい
___一目でいいから顔を見せてほしい
___また、一緒に大福を食べたい
___今度は、私がマサオミ様に膝枕をしてあげたい
当主としてのゆかりがどれだけ叱責しても、本来のゆかりが、10年前の少女が叫ぶのだ。
叱責以上の大きさで、量で、ゆかりの頭に望みを満たす。
現実を虚像で覆うのだ。
諦めるなと心が叫ぶのだ。
それでも、もうゆかりにはどうすることもできない。
そこまで来てしまっていた。
神殿に入り、神主がおおぬさを振り、心身を清める。
木の匂いがして、衣擦れの音がゆかりの意識を現実に引き上げようとする。
でも
___消えない。消えてくれない
神主が、祝詞の奏上を始める。
独特な抑揚で、神へ夫婦への祈り、家の繁栄を願う。
次は三献の儀、夫婦の契りを結ぶ儀式。
___いやだ......やだ.......いやです........
無意識に、ゆかりの手に力が入る。
それを、遠くの屋根から見ている男がいた。
虚像が壊れる音がする。
◇
マサオミは、神前式を行う神社、そこから少し離れた建物の瓦屋根の上で式を見ていた。
神殿に向かって歩くゆかり
幸せそうなゆかりの隣の男
祝うようにその姿を見ている人々
ゆかりへ憧れの視線を向ける子供
今ならゆかりだけを連れ去って、馬車に行くことができる。
マサオミは騒ぎを大きくするな。と言われていた。ザンザの指示なのだ。なぜかはわからないが、そうすることが最善なのだろう。と考えていた。
マサオミは足に力を入れ、ゆかりの元へ跳ぼうとする。
その時、脳裏に、ある女性との会話が再生された。
『結婚式.....憧れますわ!!』
女は両手を合わせ、うっとりとするようにマサオミに言った。
『なぜだ』
女は、よく聞いてくれた。と言わんばかりに机に乗り出して、元気よく教えてくれた。
『マサオミ様!!愛する男女が、周りに祝福されながら、愛を誓い合う.....これが結婚式なんですわ!!!ロマンチックですわ!!』
女はだから、と優しく柔らかい微笑みを向けながら続けた。
『マサオミ様も、もし参列する機会があるのなら、とびっきりの祝福を贈るのですわ!!!』
そう言う彼女の声は、とても明るくて、うるさくて
そして誰よりも弾んだ笑い声を交えて教えてくれた。
マサオミは考える。
俺が今やろうとしていることは、その祝いを壊すことにはならないか?
ゆかりも笑っている。周りもなんだか嬉しそうだ。俺がここを壊してしまうと、ステイシアの言葉に反してしまうのではないか?
マサオミは顎に手で触れながら、神前式の観察を続ける。
ステイシアの言葉を嘘にしたくはない。
だが、俺は"助けて"と言われてしまった。
どうすれば、どうすればいい。
俺は、何をすればいい。
どちらかを取ったらどちらかが守れなくなる。マサオミは、ステイシアの言葉もちせの助けても、両方取りたかった。だから思考を巡らせる。
しかし、答えは出ない。
どうするべきかがわからない。
マサオミが悩んでいる間にも神前式は続く、マサオミの視界には、ひらひらの紙がついた棒を振る男の姿が見えていた。
そして、男が何かを唱えた時、マサオミの視界にゆかりの手が映った。
手を力強く、ギュッと握り締めている。
力が入りすぎているのか少し震えていて、表情は見えない。見えないが、マサオミは気がついた。
マサオミはゆかりの気持ちは理解できないが、過去の記憶から参照はできる。
ゆかりは昔、嫌なことに直面している時、無意識に手を握る癖がある。
マサオミはそのことを覚えていた。だから気がつけた。
ゆかりはこの式を、嫌がっている。
何が嫌なのかはわからない。
でも、この結婚式は、ゆかりが望んだものではないのかも知れない。
なら大丈夫だ。ステイシアは、"愛する男女"がするものだと言っていた。
なら、ステイシアの言葉に反しない。
かくして、マサオミの行動が決まった。
あの側仕えの"助けて"に従えばいい。
あそこをぶち壊してもいい。
そう結論付けた。
マサオミは足に力を入れて、跳躍の準備をする。
ゆかりは神殿の中、正面から突入するのは、逃走方向を見られる恐れがある。
なら、上から行こう。
マサオミは飛び上がり、神殿の瓦屋根の上に行く。宙で体を翻し、頭上を屋根に向けた。
そして空中で背中のグレートソードを抜き、少し右肩が出るように構え、切先を屋根へ向ける。
重力に従い、落下し始めた。マサオミの巨体とグレートソードの重量によって、高速で落下していく。
屋根にぶつかる直前で、突きを放った。
鳴り響く破壊音、揺れる建物
マサオミは神殿の天井をぶち抜いて、ゆかりと神主の前に着地する。
粉塵が舞い、煙幕のようにマサオミとゆかり、琵琶天家の次男、そして神主を包み込む。
「きゃっ!!」
「な、なんだなんだ!」
ゆかりと琵琶天家の次男が悲鳴をあげる。
雅楽が止まり、悲鳴が連鎖する。
その間にマサオミは、瓦礫の落ちる神殿から、神主と琵琶天家の次男の襟首を掴み、神殿の外へ放り投げる。
「な、なんです!誰ですか!!」
ゆかりの困惑の声を無視して、抱きかかえた。
「きゃっ.......え、なんで....」
視界がまだ開かない中、ゆかりは気がついた。自分を抱き抱える者の正体を
目を見開き、手で口を覆う。
マサオミはぶち抜いた天井の穴から脱出し、馬車に向かって駆け出した。
「なんで....マサオミ様が........!」
◇
少し離れた場所から、ドォン!と言う音が聞こえてきた。方向は式場の場所と一致している。
ザンザは頭を抱え、スミレはこめかみを揉む。
カレラは口をあんぐりと開け、ねいはオロオロとする。
全員の思考が一致した。
___やっぱりダメだった。
それと同時に行動を開始した。スミレが命令を下す。
「全員!準備しろ!!団長が到着しだい逃げるぞ!!」
ザンザは急いで馬車に乗り込み、馬の手綱を握った。
「俺ちゃんが御者をやるでやんす!!」
カレラは懐から杖をだして、馬車に向かって構えた。
「法術『纏いの水滴』、『韋駄天の加護』!!」
馬車の車輪に水を纏わせ、馬の身体能力を上昇させる。馬は少し苦しそうに鳴き声をあげた。
「ごめん!!後でなんかあげるから許しなさい!!」
近くの高い木に登って辺りを見渡していたねいの視界に、高速でこちらに向かってくる人影が映った。
「だんちょ、きたよ!!!」
馬車が常軌を逸したスピードで駆け出した。
明日は二話同時投稿します。
三章完成まで週一で短編の投稿を考えてます。参考にしたいので、よろしければ解答をお願いしたいです。
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