クソボケに勝手に脳焼かれた人達と要介護者がなんやかんやあって生きる話〜俺はもう終わりたいんですけど!!〜   作:冷製春雨スープ

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エピローグ

 

 扉が突然開けられる。

 ゆかりの肩がびくりと震えて、顔を綻ばせ、嬉しそうに机から顔を上げた。

 

 「マサオミ様!!おかえりなさい!!」

 

 「ああ」

 

 マサオミがグレートソードを立てかけ、ソファに腰掛ける。

 

 立ち上がったゆかりが、お茶とお茶請けの用意をして、マサオミの隣に座った。

 

 「今日はお饅頭です!どうぞ、召し上がってください!」

 

 「ああ」

 

 結婚式から数日後の方陣の屋敷。

 そこには、騒動以前の日常が戻っていた。

 

 

 日輪の首都に歩いて向かったあの日、ついたのはもう日が暮れ始めた頃で、今からではまともな宿屋が取れそうになかった。

 

 今日は野宿かな?と途方に暮れていた傭兵団の面々は、ゆかりの提案で方陣家の別邸に泊まらせてもらおう。と言う話になりかけていた。

 

 そんな時に現れたのが、琵琶天家の次男であった。

 

 琵琶天家の次男は、自分がゲンゾウに騙され、無理矢理結婚が決まっていたと言うことを知らなかった。

 その謝罪をゆかりにした後、マサオミ達に席を外してもらい、ゆかりと2人で何かを話していた。

 

 話が終わった後のゆかりは、顔が真っ赤に染まっており、マサオミと暫くの間目が合わなかった。

 

 マサオミがゆかりを見るたびに顔を逸らし、無理矢理目を合わせようとしたマサオミに対して、目を潤ませながら何かを期待して、目を瞑った。

 

 そんなゆかりの姿に普通なら疑問に思うところだが、マサオミはそんなことを気にするわけもなく、渾身のキス顔を晒していたゆかりを放置して、

 

 変なやつだ。

 

 と背を向けてしまった。

 

 ゆかりはそれに大分不服そうにしながらも確かに笑っていた。それはとても嬉しそうに

 

 そして、そんな様子を微笑ましそうに、どこか羨ましそうに見ていた琵琶天家次男が

 『泊まるところがないなら、私が紹介しよう」

 

 と、傭兵団に提案した。マサオミ達は言葉に甘えて、宿屋を紹介してもらい、その日は事なきを得た。

 

 その時の琵琶天家次男を見るゆかりの顔は、マサオミと琵琶天家次男だけが見ていなかった。

 能面のような真顔に瞳だけが虚になったゆかりが、次男の背中を今にも刺してしまいそうな顔をしていたとか。

 

 そして、少しの間首都に滞在した後に新たに手に入れた馬車に乗って、方陣家直轄領に帰ってきた。

 

 

 「どうした。」

 

 マサオミはいつも通りの言葉が足りなさすぎる圧縮言語でゆかりに質問した。

 

 「.....え?ああ、お爺様のことですよね?」

 

 「ああ」

 

 簀巻きにされていた方陣ゲンゾウは、ゆかりが引き取りたいと言ったため、ゆかりの部下に渡していた。

 

 ゆかり誘拐も、結婚騒動も全てゲンゾウが企てたことだと知っているザンザとスミレは、ゲンゾウのその後を気にしていた。

 

 護衛はあと1ヶ月半ほど残っている。その間にまたちょっかいをかけてくる可能性がある。

 情報を得るためにマサオミにゲンゾウの所在をゆかりに聞いておくことを頼んでいた。

 

 なお、別途で2人のどちらかが、同じ質問をゆかりに行うだろう。マサオミは戦闘以外はダメな子なので、仕方がない。

 

 

 マサオミの圧縮言語に早くも適応しつつあるゆかりは、マサオミの質問の意味を理解した。

 

 人差し指を立てて、茶目っ気たっぷりにウインクしながら言った。

 

 「ひ・み・つ、です!」

 

 「そうか」

 

 ゆかりが秘密と言うなら仕方がない。

 

 マサオミはさっぱり諦めた。そもそもマサオミはゲンゾウをあの時の老人だと理解していない。故にそもそもあまり興味がなかった。

 

 だから、ゆかりは俺に教えなかったんだろう。

 なら、俺が気にすることではない。

 

 

 マサオミは饅頭を手に取り、口に入れた。

 

 

 

 

 ゆかりはマサオミの饅頭を食べている横顔をジッと見つめていた。

 

 先ほどの質問を思い出す。

 

 マサオミ様はあまり興味がなさそうでしたね。

 もしかしたら、お爺様のお名前も把握していないのかも知れません。

 多分、お爺様のことを気になっているのはスミレ様とザンザ様ですね?

 

 ゆかりは少ない情報から、正解を導き出していた。

 

 マサオミのことを完璧にわかるようになるには、団員達のことも視野に入れて考えた方が理解までの道が速い気がする。

 

 そんな理由だけで始めた団員達の観察

 元々大貴族の当主をやっていた経験

 元々の優れた頭脳を一切のストレスのない状態でフル活用した結果、マサオミだけでなく、団員達のことも少しだけ理解することができた。

 

 できてしまった。

 

 その中で気がついたことは、ねいちゃんも女としての敵だと言うこと

 

 流石のゆかりも気がついた時は驚いた。

 

 元々違和感は感じていたが、まさかあんなにライバルが多いとは.....

 

 マサオミ様は、大変おモテになるのですね。

 

 ゆかりは頬を膨らませ、マサオミの腕の古傷を優しくなぞる。

 

 少し悲しそうに微笑んだ。

 

 「なんだ」

 

 「なんでもありませんよー」

 

 ゆかりはすぐにそっぽを向き、チラチラとマサオミを見る。

 

 明らかになんでもなくなさそうな反応だが、マサオミは

 

 「そうか」

 

 それだけ言って、またお饅頭を食べ始めてしまう。

 

 そんなマサオミを見て、もう少し気にしてくれても.....と少し凹んだが、次には微笑んで愛おしそうにマサオミの顔を見始めた。

 

 そして一言、ソファに手を置いて、身を乗り出しながらマサオミの耳元に顔を近づけて、囁いた。

 

 「助けてくれて、ありがとうございます」

 

 「ああ」

 

 穏やかに一日が過ぎていった。

 

 ゆかりの猛烈なアピールに気がつけないマサオミ。これから激化の一途を辿っていくのだろう。

 

 ライバルがまだいることをゆかりは知らない。

 

 

 

 

 方陣家の地下牢、そこへ向かう階段を降る人影が3人

 

 薄暗くジメジメといていて、淡い灯火だけが光源のその空間にこつこつと言う音がこだまする。

 

 そして、その足音はある牢屋の前で止まった。

 

 「なんじゃ。ゆかり、何しに来た。」

 

 牢の中に居るのは、先先代当主の方陣ゲンゾウその人だった。椅子一つない老人に優しくないその牢で、ただ1人地べたに座り込んでいた。

 

 そんなゲンゾウの元にゆかりは、背後に2人の兵士を連れて、ゲンゾウの元までやってきた。

  

 ゆかりは微笑みを浮かべながら、ゲンゾウを見下ろす。

 

 「ええ、お爺様。2日ぶりくらいですね。居心地はどうですか?」

 

 ゲンゾウは苦虫を噛み潰したような顔をして答えた。

 

 「.....皮肉か?女であるお前を当主の座を認めてやった恩を忘れたか」

 

 「いえいえ、覚えていますよ?お爺様」

 

 異質な場所で、普段通りの対応をするゆかりに苛立ったゲンゾウは、突然豹変したように立ち上がり、鉄格子を掴んでゆかりを睨みつける。

 

 「ならいつまで儂をここに閉じ込めておくつもりなのだ!!はよ出さんか!!この痴れ者が!!」

 

 「あら、怖いですね」

 

 ゆかりはそんなゲンゾウの様子にクスクスと笑い、口元を手で押さえる。

 そして、ゆかりは言葉を続けた。

 

 「今回は私、お爺様にある提案を持ってきたんです。」

 

 「提案....だと!?それよりも早く出さんか!」

 

 ゲンゾウをゆかりは静かに見つめて、数秒間黙り込んだ。

 次第に落ち着いていくゲンゾウを確認してから、再度話し始める。

 

 「落ち着きましたね。お爺様、提案と言うのはこれです。」

 

 ゆかりは後ろの兵士に預けていた一枚の紙とペン、そして一つの瓶を取り出した。

 それをゲンゾウの牢の前に置く。

 

 紙はゲンゾウの保有する資産、家、その他全てを方陣ゆかりに移譲する。そう言う契約書

 

 瓶の中身の液体は、少しドロドロとしており、いかにも毒だと言わんばかりの物だった。

 

 ゲンゾウはその二つを認識して、声を震わせる。信じられないものを見るような目でその2つの物を見ている。

 

 ゲンゾウはわかっていた。わかってはいたが、信じたくない思いが思わず口から漏れ出た。

 

 「な、なんじゃ.....それ....」

 

 ゆかりは微笑みを貼り付けながら答えた。

 

 「選んでください。」

 

 「.......なにを言っておる?」

 

 「だから、選んでください。私は、どちらでもいいのですよ?」

 

 ゲンゾウは何かの冗談かと、ゆかりの顔を見る。微笑んでいる。微笑んではいるが、その目は笑っていない。

 

 本気....か?こやつ、儂を殺す覚悟がある....と言うことか?

 ゆかりは甘い女じゃったはず.....なにがこやつを......

 

 ゲンゾウの脳裏に1人の男の顔が浮かんだ。

 

 ......あやつか。

 そうだ........

 そうだ!あの傭兵だ!あの傭兵が来てから全てが狂った!!

 

 ゲンゾウは、全ての原因はマサオミだと結論付ける。そして、それをゆかりにわかってもらうための言葉を繰り出した。

 

 それが、地雷だとも気付かず

 

 「ゆかり!お主はあやつに!あの傭兵に騙されている!」

 

 「.....何を、言っているのですか?」

 

 「だから、お主はあのザイテンとか言う傭兵に利用されておるのだ!!あの傭兵は、お前に、方陣家に取り入るつもりなのだ!!目を覚ませ!お前が変わったのも、あの傭兵の仕業なのだろう!!お前は法術でせん....」

 

 「もう黙ってください」

 

 ゆかりがゲンゾウの言葉を遮った。その顔に色は無く、ゲンゾウを見るその目はまるで汚い汚物を見るような目だった。

 

 「もういいです。大人しく書類にサインしていれば、まだ天寿を真っ当できたのですが.....もう死にたいみたいですね。わかりました。」

 

 ゆかりはゲンゾウに背を向けて、階段に向かって歩きだした。

 

 「あとはよろしくお願いします。」

 

 「はっ、かしこまりました。ゆかり様」

 

 スタスタとゆかりが去っていくのと同時に、2人の兵士が槍を持って近づいてくる。

 

 「な、なんだ.....何をする気だ!無礼だぞ!!ゆかり!早くこやつらを下がらせろ!」

 

 ゆかりは無視して歩き続ける、こちらに一切目もくれない。

 

 「おい!ゆかり!ゆかり!!ゆか.......」

 

 

 

 

 マサオミは応接室から出て、宿屋へ向かう廊下の只中、そこでゆかり専属の側仕え、ちせと向かいあっていた。

 

 ちせはスカートの端を摘みながら少し上げ、背筋を伸ばして左足を右足の斜め後ろに持っていき交差させる。そして柔らかく頭を下げた。

 

 「ザイテン様、本日もお疲れ様でした」

 

 「ああ」

 

 側仕えは頭を上げて姿勢を正した。そして少し躊躇ったような仕草をしたあと、マサオミにぶつかるギリギリまで近づいてマサオミの片手を両手で握る。そして俯きながら握っている手を見た。

 

 「遅くはなりましたが、ゆかり様を助けていただきありがとうございました」

 

 肩を震わせる。マサオミの腕に雫が落ちた。

 小さな。それは本当に小さな声で言う。

 

 「ほんと...うに......ありがとう...ございました....」

 

 マサオミはどうしたらいいのかわからなかった。たまにこう言うことがある。その度にマサオミはどうするべきなのかわからなくて、その感謝にただ戸惑うだけだった。

 そしていつも決まってこう言うのだ。

 

 「なぜだ」

 

 ちせは顔を上げて、マサオミを見る。

 戸惑っているような、どうすればいいのか分かっていない。そんな顔をしていた。

 

 側仕えは、マサオミがなんの事なのか本当にわかっていない事に気がついた。

 

 ゆかり様の言っていたことは、こう言うことだったのですね。

 なんてチグハグで、なんと痛ましい

 

 そして、涙が出てしまいそうになるほど優しい方

 

 

 ちせはゆかりがマサオミを想う気持ちが今まで理解できなかった。仏頂面で淡白で言葉も足りない。そしてゆかりの想いにも気がつく素振りすらない。

 

 ちせは最初、マサオミが嫌いだった。ゆかりを疎かにしている様に見えたから

 ちせは知っていた。ゆかりの想いをほんの少しなのかもしれないけれど知っていた。だから、疎かにしているように見えたマサオミが嫌いだった。"人間のフリをしているお人形"、それがちせの第一印象だった。

 

 それが変わったのは誘拐事件の時だ、戸惑って走り回るだけだったちせの前に、硝子の割れる音のした執務室から突然現れた男。それがマサオミだった。

 

 マサオミは声が大きく、怖かったけれどすぐにゆかりを助けに行ってくれた。その時に初めて感情が見えた。本気でゆかりを助けようとしていた。そこで、ちせはマサオミが淡白なだけではないと、ゆかりを決して疎かにしているわけではないのではないか。と、そう思った。

 目の前で連れ去られるゆかりを見ていることしかできなかったちせに代わって、助けに行ってくれた。

 

 その日からちせはマサオミの観察を始めた。ゆかりに話を聞いた。朝の挨拶でマサオミの顔をキチンと見てみた。

 

 そして気がついた。

 

 マサオミが"ああ"を挨拶だと思っている事に

 マサオミは案外人を見ていることに

 マサオミは何も考えていないわけではないことに

 この人は、お人形なんかではないことを

 

 そして拾ってくれた。私の"助けて"を

 消えて無くなる運命だった懇願を、思わず出てしまった本音を

 

 その時のマサオミをちせは一生忘れないだろう。ゆかり様の想いには気づかないのに、ちせの涙は見逃さなかった。こんな一介の使用人の"助けて"を無視しなかった。

 

___本当に助け出してくれた。

 

 ゆかりが屋敷に帰ってきた時、ちせは救われた。救われたのだ。だからすぐにマサオミに、団員全員にお礼を言おうとした。

 

 でも、声が出なかった。マサオミの前に立つと、どうしても声が出なかったのだ。団員達には言えた。"ありがとう"と、マサオミにだけは言えなかった。

 その後に一度、躓いて転けそうになったちせをマサオミは何も言わず支えてくれた。雑だったけれど、それでも優しい手つきだった。その時ですらお礼を言えなくて

 

 顔が熱くなって、鼓動が速くなって、頭が真っ白になって

 

 日が経つごとにお礼をキチンと言えていないことへの罪悪感が募っていって、それでもなぜか、お礼を言うためであってもマサオミと話せることが嬉しくて

 

 そして今日、やっと言えた。

 そして少しだけ理解した。マサオミのことを

 

 

 ちせは握ったマサオミの手を自分の頬に当てた。

 なんとなく触れて欲しかった。

 自分の"嬉しさ"をわかってもらいたかった。

 彼と、少しでも長く一緒にいたかった。

 

 マサオミの手に涙が流れる。

 

 マサオミはそんなちせに不思議そうにした。

 

 涙を流したまま、ちせは微笑んで、チグハグな彼に

 

 「私は今、嬉しいのですよ。ザイテン様。ほら、私は今、笑っているでしょう?」

 

 「なぜだ」

 

 「貴方がゆかり様をまた救ってくれたことが、そのためにあの剣豪と戦ってくれたことが、ゆかり様の笑顔を取り戻してくれたことが、そして_____私の"助けて"に、気づいてくれたことが、とても嬉しいのですよ」

 

 「感謝の言葉にはただ一言、"どういたしまして"、これだけでいいのですよ」

 

 「そうか。どういたしまして」

 

 ちせの優しく柔らかなその目とマサオミの無感動の瞳が交差する。

 

 申し訳ございません。ゆかり様

 

 「........いやなら、避けてください」

 

 ちせはマサオミの手を頬から離して、自分の方へ引き寄せた。マサオミは少し体勢を崩して、マサオミの顔とちせの顔が触れそうな距離まで近づいた。

 

 その時、マサオミの頬に少し柔らかくて湿ったなにかが触れた。

 

 ちせはそのままマサオミの手を離し、ステップを踏むように軽やかに数歩下がった。

 

 開いた窓から風が流れ込み、ちせの髪を揺らす。少し乱れた髪を手櫛で簡単に整えたあと、そのセミロングの髪を耳にかける。

 

 唇を片手で添える様に触れて、涙で潤み頬を赤く染めたその顔でとびっきりの笑顔で笑った。

 

 私の、この想いは叶うことはないのでしょうね。

 

 「本当に....ありがとうございました!」

 

 それでも、影ながら貴方をお慕いしております。

 

 そう言うとちせはマサオミに背を向けて駆け足で走り去っていった。

 マサオミは何が起こったのか分かっていないのか、少し首を傾げてそのまま宿屋に向けて歩きだした。

 





 こんにちは、冷静春雨スープです。

 ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。二章では、もっと苦しそうなゆかりちゃんや傭兵団の空気感、マサオミくんのダメさを表現できればよかったのですが、あまり上手くいきませんでした。小説を書くということの難しさを実感する日々です。
 私の文章はまだまだ拙い部分が目立ち、わかりにくかったり、読みにくいと感じた方もいらっしゃると思っております。気長に見てやってください。
 あと、見てニヤけたいので感想や評価をいただけるとありがたいです。

 三章は現在、6月中の投稿の再開を目標に執筆しております。三章完成まで思ったよりも時間がかかるかもしれないので、本編再開まで週一にはなってしまいますが、短編を投稿しようと思っています。
 是非、気が向いた時にでも読んでやってくださいね。
 

三章完成まで週一で短編の投稿を考えてます。参考にしたいので、よろしければ解答をお願いしたいです。

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