クソボケに勝手に脳焼かれた人達と要介護者がなんやかんやあって生きる話〜俺はもう終わりたいんですけど!!〜   作:冷製春雨スープ

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8話

 ゆかりを担いで走る。

 

 その時、通信が入った。

 

 『首尾はどうだ』

 

 無機質な声。感情は感じられない。

 声も少し変えているのか、性別も年齢も判別できない。

 

 「.....ああ、確保した。今向かっている。」

 

 報告は簡潔に、今は悠長に報告している暇は誘拐犯にはなかった。

 理由は一つ。

 

 なぜあの化け物がここにいる!

 

 3日前、方陣家に侵入した時にその男を見て驚いた。

 隙が一切なく、自分では勝てる可能性は万に一つもない。

 

 誘拐犯は自分の能力に自信を持っていた。前線には行ったことはないが、十分に通用するだろう。と

 実際に誘拐犯は手練であった。闇ギルドの中でも上澄の実力。電気系の法術に限定するのであれば1、2を争う実力。

 そして法術による移動速度の強化によって、大体のものを振り切れるスピードがあると自負していた。

 

 しかし、 3日前に見たあの男はそんな自分でもってしても勝てない。自然と考えてしまった。

 故に誘拐犯はその男を調べてみることにした。

 

 恐怖に震えた。

 

 なぜ....なぜ前線の化け物がここにいる!!

 この女!どこにそんなコネがあったんだ!

 

 曰く、不屈の撃滅

 曰く、人類の最終防衛ライン

 

 そんな二つ名をあの前線で付けられていると言う異常。

 

 どれだけ戦果を上げたらそうなるんだ!

 

 誘拐犯にとって、今回の方陣家当主の誘拐は容易いものだった。現在の当主は戦う力はなく、事前に調べておいた方陣家に仕える戦力であっても俺には追いつけない。

 

 そのはずだった。

 

 そのはずだったんだ。

 

 あの男が来てから全てが狂った。

 本来は、今日誘拐する予定ではなかった。

 もっと入念に策を練り、逃走経路を確保しておく予定だった。

 

 そして朝。すれ違ってしまった。顔を見られてしまった。あの化け物に認識されてしまった!

 

 あの化け物は俺を怪しんでいた。なぜ見逃したのかはわからない。でも、確かに怪しまれたのだ。

 

 故に誘拐犯は考えた。チャンスは1度だ。決行は今夜、あの男が宿屋に向かったタイミング。

 それしかない。

 

 「暴れるな。法術『苦痛の電撃』」

 

 抵抗する方陣の当主を拷問用の術で体を弛緩させ動きを封じる。

 

 この術は、傷をつけることはできない。それでも痛い。ただ痛いのだ。

 だから今回の様な誘拐には最適な法術だった。

 

 法術にて強化した自慢のスピードで逃げ続ける。

 

 方陣の屋敷からはもうだいぶ離れている。

 でも安心できない。前線で二つ名を与えられるということは甘いことではない。故に安心しきれない。

 

 焦りが募る。

 

 それでも足を止めない。止められない。

 今止まったら、確実に見つかる。そんな確証のない確信があった。

 

 その時、遠くからドガンという轟音が響いた。

 

 あの化け物!誘拐に気付きやがった!

 あんな轟音、今あの街に出せるやつなんてあの化け物しか知らない!

 いくらなんでも早すぎるだろ!!

 

 やばい、やばいやばいやばい!

 

 落ち着け!

 ここから方陣の屋敷までは距離がある!いくらあの化け物であっても、今から追いつくことも見つけることもできない!できる筈がない!

 

 しかし、誘拐犯の焦りは募り続ける。

 騒ぐゆかりが耳障りになってきた。八つ当たりかの様に法術を行使する。

 

 「うるせぇよ!法術『苦痛の電撃』!!」

 

 再度、ゆかりに電撃を流し込んだ。

 それでもゆかりは叫ぶことをやめない。

 

 なんでコイツは諦めない!ふざけんな!

 

 走る。走る。走る。

 焦りを隠すように走り続ける。逃げ続ける。

 

 「助けて!!!!」

 

 はぁ!?なんで声が...クソッ!急いでたせいで布を緩く締めすぎた!これじゃあ化け物に....

 

 いや。この距離からあの化け物に声が届くわけが....

 

 瞬間。誘拐犯は今まで感じたことのないプレッシャーに押しつぶされた。

 背筋に冷たいものが走る。足がもつれかける。

 呼吸を少し忘れてしまった。

 

 死を幻視した。

 

 うそ...だろ。ありえないだろ!聞こえたのか!?今の声が!

 

 やばい!来る!確実にくる!あの化け物がくる!!

 

 

 

 

 怒りのままに飛び出したマサオミは、外の冷たい風を感じて、少し冷静になっていた。

 

 方陣家から飛び出したはいいが、本当に西へ行っている保証はない。途中で方向を変えているのならば、無闇矢鱈に西へ向かっても意味がない。

 

 朝のアイツは、脅威ではなかったが手練ではあった。ここで取り逃してしまえば、ゆかりを助けられる確率が著しく下がってしまう。

 

 また間に合わない。それだけは許容できない。

 

 どうする?

 勘に任せる?ダメだ。それは確実ではない。

 

 円状に走り、索敵範囲を増やす?ダメだ。相手は手練、それでは追いつけない。

 

 ならば、手段は一つ。

 

 マサオミは急停止し、自分の加護から大図書館に接続する。数多ある魔導書から、索敵に最適な魔導書を選択した。

 手を前に出し、呼び出すための言葉を紡ごうとした。

 

 「................」

 「しょうか.....っ!」

 

 魔導書の召喚を中断する。

 

 聞こえた。

 確かに聞こえた。

 声とも言えない音。常人には判別できない様な音未満。風が吹けば掻き消えるような儚い虚無

 

 それでも彼は、マサオミは認識した。

 

___助けて

 

 マサオミは、誰かの助けてを聞き逃さない。

 その声がどれだけ小さく、どれだけ儚いものだとしても

 彼だけは聞き逃さない。

 

 彼だけは、その声を聞き逃してはいけない。

 

 「わかった」

 

 止まった足に力を入れ、法力での強化もして駆け出した。

 

 景色が線状に変わった。急加速による負荷で体が軋む音がする。

 

 それはすぐに見つかった。そして見える。

 

 担がれているゆかり。その目元に浮かぶ涙を

 

 「.....見つけた。」

 

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