自称器用貧乏の変人冒険者、休業した途端元教え子がアップを始めた 作:きびん
俺は器用貧乏だ。
まずもって、才能がない。
全くないわけではなく、いろんな才能が中途半端にしかない。
とてもじゃないけど、これでは大きな冒険を成し遂げて、英雄になることなんでできないだろう。
それでも俺は、冒険者に対して憧れがあった。
才能がないならないなりに、工夫をこらして頑張って、冒険者として周囲に認められたい。
そんな思いがあったから、俺は冒険者になったのである。
まぁ、それ以外にも理由はあるけれど。
とはいえ、どれだけ頑張っても才能のない器用貧乏には、せいぜいBランクがお似合いだ。
特別とされるSランクはおろか、Aランクにも届かない。
どころか周囲の優秀な冒険者はすぐに俺を追い抜いて上のランクに到達してしまう。
それでも俺はどうにかこの状況を打破したいと行動し続けた。
気づけば三十近くにもなって、未だに冒険者を続ける俺は、はっきり言って変人だろう。
大抵の場合、ある一定の実力と実績を手に入れた冒険者は、兵士などに転職してしまうからだ。
そうでなくても、怪我や衰えで冒険者を続けられなくなるものは多い。
冒険者としての人生には、タイムリミットがある。
そしてそのタイムリミット――年齢という枷は、ついに俺にも襲いかかろうとしていた。
□
「はぁ…………疲れた」
「お疲れ様です、ザレクさん。……珍しいですね、そんなに肩を落として」
「ああお疲れリーシャ。いやちょっと、魔物に追われてる新人を助けたら、やたらと疲れてなぁ」
その日俺は、仕事を終えて冒険者ギルドに入るとそのまま近くの椅子に突っ伏して、大きく息を吐いていた。
すると受付嬢のリーシャが声をかけてきて、手を上げてそれに返しつつ事の経緯を話す。
「ってことは、また上層にイレギュラーですか。最近多いですね」
「他のダンジョンでも、本来なら出てこない層に魔物が出てくるって事例が頻発してるらしい。おっかない話しだな。迂闊に新人がダンジョンに潜れなくなるぞ」
この世界において、冒険者の冒険の舞台となるダンジョン。
そこで起きる最近の異変について話し合いつつ、俺はリーシャに酒をいっぱい頼んだ。
ギルドの食堂としての機能は実に便利である。
「はい、おまたせしました」
「おおありがとう、やっぱこの一杯がないと冒険者してるって気がしないな」
「それで偶然そこにいたザレクさんが、新人を救出した……と。まぁいつものことといえばいつものことですよね」
「そんないつものこと、俺は求めてないけどなぁ」
俺としてはもっとこう、冒険者らしいことをしたいんだよ。
ダンジョンの深層に潜って、ボスを倒したり。
見たこともないような魔道具を持ち帰ったり。
ただここ最近は、ダンジョン内で今回みたいな異変が頻発しているせいで、そっちの対処に追われていたんだ。
なぜなら、そっちの方が実入りがいいから。
世知辛い話である。
「でも今回は本当にヤバかった。まさかアンガースカンクの群れが上層に出てくるとは」
「アンガースカンクって、下層に出てくる魔物じゃないですか! そんなのを新人抱えながら一人で対処したんですか!? しかも群れ!?」
「十体くらいいたかねぇ」
「……っ、相変わらず、どうやってザレクさんがその状況から脱出できたのか、想像もつきません」
思わず息を呑む様子で、話を聞いてくるリーシャ。
仕事はいいのかと思ったけど、俺から報告を聞くのも仕事の一つだそうな。
まぁそういうことなら、別にいいけど。
「ザレクさんって本当に、魔術は中級までしか使えないんですよね?」
「ああ、身体強化も中級までしか使えないぞ?」
「どっちも中級まで使えるのは優秀ではあるんですが……」
「器用貧乏だよな」
はは、と自嘲する。
いやまったく、俺の実力はどれをとっても器用貧乏だ。
「実際、アンガースカンクは群れると連携してくるから、逃げるだけでも本当に一苦労だったよ」
「で、でも勝ったんですよね?」
「あー、まぁなぁ。……勝ったんだからいいだろ?」
「い、いや、そこはほら、報告する必要がありますし」
なんだか、リーシャはソワソワした様子で、俺から話をねだってくる。
そもそもリーシャがこうして俺の出くわした自体を報告するようになったのも、リーシャがそうしたいと自分から志願したらしい。
俺の話がそんなに面白いだろうか。
と思ったら、周囲の冒険者も俺の話に耳を傾けていた。
現在、俺にギルドの冒険者たちの視線が集中している。
リーシャが俺から話を聞き出そうとすると、なぜか知らないが毎回こうなるんだよなぁ。
正直、あんまり話したくない。
けど、この空気で話さないほうが……いろいろ言われるだろ。
「えーと、まずアンガースカンクって、毒ガスを吐き出して攻撃してくるだろ?」
「……? はい、そうですね。厄介ですよねあの毒ガス」
「でもってあのガス、よく燃えるだろ」
「あ、そうですね。……もしかして、口元に火を放ってガスを引火させてアンガースカンクを燃やしたんですか?」
「いや、あいつらがその毒ガスをどこに貯めてるか、知ってるか?」
「えっと……」
リーシャが考え込み、やがてわからなかったのか首を横に振る。
「体の後ろの方だ」
「…………あの、後ろの方になると……どうなるんですか?」
「つまり」
俺は、指先に火をともして、言った。
「ケツの穴から指を突っ込んで指先から火を灯すと、爆発四散する」
その言葉に、ギルドが沈黙した。
「えぇ……」
「あいえぇ……」
そして冒険者達はドン引きした。
だから言いたくなかったんだよ!
そりゃ俺だって、スカンクのケツアナに指突っ込みたくなかったよ!
でもそれ以外に方法がなかったんだからしょうがないだろ!
「え、えっと……でもそんなことしたら、指や体が無事じゃすみませんよね?」
「俺が身体強化すれば、ギリギリ耐えられる」
「で、でも怪我はしますよね?」
「だから時間かけて治癒魔術で治してきたんだよ。やり終えた時は指が炭になりかけてたが、なんとかこの通りもとに戻せたな」
リーシャだけが、報告のためか恐る恐るといった様子で問いかけてくる。
俺がそれに答えると、リーシャは肩をぷるぷると震えさせ――それから、
「す、すごいです……!」
目を輝かせ始めた。
なんで……?
今度は俺がびっくりする方だ。
いや、リーシャは俺がこうやって報告をすると、なぜか毎回目を輝かせるんだが。
「そんな方法、考えても見ませんでした! 仮に思いついても、普通は実行できません! 火魔術も、身体強化も、治癒魔術も中級で使えるザレクさんにしかできない方法です!」
「俺を器用貧乏って罵りたいの?」
「そんなことないですよ!」
うお、顔が近い。
「ザレクさんはこれまでも、そうやっていろんな危機を脱してきました! ドラゴンと相対したときには敢えて体内に呑み込まれることで入り込み、中からドラゴンを打倒したりしましたよね!」
「まぁ、皮膚と比べて中は柔らかいからな……」
「そういうの、あたしすっごく憧れるんです!」
「憧れる……ねぇ」
まぁ、実際俺がこれまでそういう冒険をしてきたことは事実だ。
それをすごいと言ってくれる人も、リーシャのように少数ながら存在する。
いやまあ、リーシャは昔、ピンチだったところを助けたことがあるからまだわかる。
しかし大抵の場合、さっきまで話しを聞いていた冒険者のように、ドン引きしてしまうのが世の常だ。
何より、今回俺は強く感じたんだが――
「……悪いけど、それもそろそろ店じまいかもしれないな」
「――え?」
「今回の件で、感じたんだよ。俺の体もそろそろ衰えが来るんじゃないかって、な」
未だに体を襲う倦怠感。
それはどうも、俺が年を取ったせいで体力が落ちてきたからなのではないかと思うのだ。
だから――
「だからさ、しばらく今後のことを考えるために冒険者家業を休業しようと思うんだが――」
俺がそう言葉にした時、更にギルドは更に沈黙した。
そして、今度はリーシャもあんぐりと口を開け――
「え、えええ、えええええええええ!?」
それから、驚愕の声を上げた。
いや、そんなに驚くことか?
何やらざわざわと騒ぐ冒険者ギルド。
「ああいや、休業するって言っても、ちょっとあちこちを旅して気分転換をしようかって程度でな? そのくらいの蓄えならあるし、ちょっとしたバカンスくらいのつもりで……」
俺は慌てて説明をするが、ギルドの連中が聞いている様子はない。
どころか――
「話は聞かせてもらいましたっ!」
なんか、突然ギルドに魔法陣が出現したと思ったら、そこから人が出てきた。
現れたのは白髪にでかい魔女帽子の幼なげな雰囲気の少女。
ノースリーブのシャツとスカートと、それから魔術師然としたコート。
いかにも魔女といった雰囲気の……
「レイス!?」
「いやあ、お久しぶりですね!
レイス。
俺のことを先生と呼ぶ、かつて俺の後輩だった冒険者。
「いや、むしろ今はレイスの方が先生って呼ばれる立場だろ!?」
「ややぁ、私はどっちかというと
現在は、世界最高峰と呼ばれる魔術大学の学園長。
そんな存在が、なぜか俺の休業を聞きつけて、即座にこの場へ馳せ参じてきたのである――