Angel Beats! PAST SIDE EPISODE 作:純鶏
内容としては、
・戦線入隊時の会話編:1話
・生前の高松の追想編:2話
・高松の死後の世界編:3話
・音無との野球勝負編:5話
という感じになっています。
第1話 - in the dark
まだ、死んだ世界戦線のメンバーの少ない時の話。体育祭が終わり、季節が本格的に秋になろうとしていた頃。死んだ世界戦線のメンバー達は校長室に集まって、次の作戦に関して会議を行っていた。
「俺、生きてた頃は野球やってたんだぜ! 多少なりとも野球経験はあるし、今回の作戦に入れてくれよゆりっぺ」
校長室のソファーで、今回の部活を乗っ取ろうという内容の作戦に、日向さんは進言していた。
「あら、日向くんって野球少年だったの? どちらかというと、野球よりサッカーやってそうなイメージだったから、意外ね」
リーダーであるゆりっぺさんが意外そうにそう言って、日向さんを見ている。
「それも中学校、高校と野球部に入って、高校2年の時なんか県大会の決勝戦まで勝ち進んだぜ。甲子園には行けなかったが、それなりになら野球は上手いぜ」
「ふーん、それなりに、ねぇ……」
自信満々に日向さんは、自分をこの作戦に起用してくれと言わんばかりの表情をしている。普段は少し面倒臭がりな彼も、今日は珍しく積極的だ。
しかし、ゆりっぺさんはそこまで気乗りでない様子でいる。少し考え込むように、数少ないメンバー達を見ていた。
そういや、野田さんと藤巻さんや他のメンバーの方の姿は見られなかったが、どうしたのだろうか? もしかしたら、別の用で出ているのだろうか?
「それなら、スポーツ全般に携わってきた俺の方がいいのではないか? 言うのは悪いが、日向は少し貧弱そうだからな。運動部に入部する人間に成り済ますのなら、体型的に俺が一番だと思うのだが」
そう言うのは、最近この死んだ世界戦線に入隊した、松下さんだ。身長が高く、並外れた身体能力と柔道に関しては、とてつもない技量を備えている。たしかに彼の言う通り、このメンバーの中でスポーツをやっていそうな風貌といえば、松下さんが一番最適なのでしょう。
「うん、そうだね。僕も松下くんが一番良いんじゃないかなと思うよ。僕なんかじゃ、運動部は不向きだろうし、きっと文科系の部活の方がお似合いだろうね」
自分を謙遜するように言うのは、一番運動をやってなさそうな体つきをしている大山さんだ。確かに大山さんなら誰が見ても、運動系というより文科系の方がきっと似合っている。
「そうね。今回はそんなに人数もいらないし、入って来たばかりの松下くんと文化部にいそうな顔立ちの大山くんに頼もうかしら」
「ええー!! じゃあ、俺は?」
「日向くんは……そうねぇ、高松くんと一緒に雑用ね。主に、天使の動向と私の手伝いに回ってちょうだい」
「まじかよー、せっかく俺にも野球っていう特技があるってとこを見せたかったんだけどな」
日向さんはいつもやる気があっただけに、今回は作戦の主役として動けなかったのが残念だったようだ。肩の力を抜いては落胆したように、頭を垂れている。
「仕方ないですよ日向さん。今回ばかりは、私と一緒に雑用の方に尽力しましょう」
「はぁ……まぁ仕方ねーか。今回も雑用に回って頑張るとするかな」
「じゃあ、そういうことで頼んだわよみんな! 私は私で、椎名さんと別行動をとるから、今からちょっと出てくるわね。本作戦開始時間は明日の夕方。授業が終わって、部活が始まる時間ね。それまでに、より詳しい作戦の内容を説明したいと思うから、明日の明朝8時にはみんなここに集合ね。それじゃあね!」
私達にそう告げると、ゆりっぺさんは校長室の扉を開け、そそくさと椎名さんを連れてどこかへ行ってしまった。それにつられるように、松下さんと大山さんの2人も仲良く喋りながら、部屋の外へと去って行く。
「……ほんと、ゆりっぺさんは台風のような人ですね。さっきこの部屋に来たかと思えば、あっという間に去って行ってしまうとは」
「まぁ、ゆりっぺだからな。何かする度にじっとしていられないはいつものことさ」
私はリーダーであるゆりっぺさんに対して思ったことをつい吐露してしまうと、それを聞いていた日向さんが答えた。私はこの死んだ世界戦線という集まりに入って日が浅いので、まだリーダーのことや他のメンバー達のことも知らないことが多い。ましてや、日向さんが野球をやっていたとは初耳だった。
「そういえば日向さん。さっき野球の経験があると言っていましたが、生前はどのポジションをやっていたんです?」
「ん? ……そうだなぁ、一応内野なら一通りやってきた感じかな。中学校はサードをよく守っていたんだが、高校はセカンドだったかな」
日向さんは私から野球の話を振られるとは思わなかったのか、少し不思議そうにしながらも、自分のポジションのことを答えていた。
「しかし、なんで急に俺のポジションを?」
「いや、実は私も生前は野球をやっていたんですよ。途中で肩を壊して部活は辞めてしまいましたがね」
「え!? 高松、おまえ野球やってたのか? てっきり、陸上部か何かだと思っていたんだけどな」
日向さんは驚いた様子で、近くにいる私の顔を見つめる。
きっと、以前の体育祭でのことや光村と一緒に陸上の練習をしていたこともあって、日向さんは私が陸上部だと思っていたのだろう。
「私こそ、日向さんが野球をやっていたなんて意外でしたね。ゆりっぺさんも言っていましたが、私も日向さんはサッカーをやってそうなイメージがありました」
「えー、そうか? そんなに俺って野球やってそうなイメージがないか?」
別にないというわけでもない。だけど、どちらかというと野球以外のことをやっていそうな感じがしていた。それ以上に、普段の様子と他のメンバーと比べてしまうとどうしても、生前は部活はせずにチャラけてそうな感じに見えた。それが相まって、サッカーをやってそうなイメージにつながったのだ。
しかし、さすがにそんなことは口に出すことが出来なかったので、とりあえず何か言わないと。
「いえ、全くないわけではないのですが……なんと言いますか、ボールを投げている雰囲気がないと言いますか、ボールは持たずに蹴って楽しんでそうと言いますか、ハットトリックを決めてそうと言いますか」
「いやいや、それどんな雰囲気だよ! むしろ、普段からそんな雰囲気を出してるのか俺? それにハットトリックを決めてそうって、ハットトリックの意味知ってるのか?」
「あ、いえ、知らないですね」
「って知らないのかよ。技名じゃないからな、あれ。1試合に同じ人間が3点とることを言うんだからな」
とっさに当たり障りのないように言ったつもりだったが、さすがに、上手い言葉が見つからず、適当なことを口走ってしまったようだ。野球のことならまだしも、サッカーのことなんて全く知らない。多少のルールは知っているが、ハットトリックなんていう片仮名言葉は耳にしたぐらいで、意味なんてしらなかった。
「でも、まぁ……サッカーやってた方が良かったかもな。野球なんかより、その方がきっといいところまで行けただろうしな」
「そういえば、さっき言ってましたね。たしか、県大会の決勝まで進んだんでしたっけ?」
日向さんがさっき言っていたことを思い出し、私はふと聞いてみた。
「ああ。それも、県大会の優勝目前ってとこまでな……そうだな、あの日はたしか、体が焼けるように熱い真夏日だったっけか」
物憂げに顔を上げ、何か思い詰めるように目を閉じては、日向さんは語り始める。きっと、生前の頃を思い出しているのだろうか。
「決勝戦の日、俺はセカンドのレギュラーとして出場したんだ。試合は接戦ながらも、俺の高校が1点差で勝っててさ。そして、9回の2アウト2・3塁にランナーがいるというという場面で、俺のところにフライが上がったんだ。まさに、その球を捕れば試合は終了して、俺の高校の優勝になるはずだった」
日向さんの言っている場面はつまり、相手がフライの球を上げてしまったので、日向さんの野球部が勝利すること確信した場面だったということだ。誰しもが、打ち上げてしまった球を捕ると予想していたに違いない。
「打ち上げてしまったそのフライ球は、きっとそれなりに野球をやっている人間になら誰にでも捕れるような球だったんだと思う。でも、俺がそれを捕ったかどうか覚えてねぇんだ。……いいや、きっと捕れなかったんだろうな。じゃなかったら、甲子園に行けたはずだ。そこらへん記憶は曖昧なんだが、甲子園に行けなかったことだけは覚えてるからな」
「そう……だったんですか。じゃあ、その後は……」
「そりゃあ、学校の仲間や応援してくれた人からは大ブーイングさ。声には出さなかったけど、心の中では何かしら思ってただろうな。それに、同じ野球部の仲間からはだいぶバッシングを受けたりしてな、それが堪えて野球を辞めちまったんだ」
どうやら日向さんは生前、野球関連で色々とあったようだ。まさかそんなことがあったとは知らずに、県大会の話を日向さんに振ってしまったので、少し申し訳無くなってきてしまう。
「……すみません、嫌な事を聞いてしまって」
「うん? あ、別にいいさ気にしなくても。今となっては笑い話だからな。そりゃあ、悔いがないわけじゃないけど、そのおかげで今の俺がいるわけだしさ」
日向さんは苦笑いを浮かべて、そう言うと、ソファーから立ち上がる。
「こっちこそすまなかったな。つい湿っぽい話をしてしまって。ただ、今回の作戦はそういうこともあって、ちょっと部活みたいなことをやってみたかったんだよ」
「ああ、なるほど。だから、いつもより積極的だったんですね」
「まぁ、そういうわけさ。とりあえず、もう夕方だし、そろそろ部屋も閉めないといけないだろうから、大食堂の方へ行こうぜ」
「ああ、もうこんな時間ですか。そうですね、行きましょう」
時刻はもう6時頃を越えていた。そろそろ、お腹も空いてきた頃だし、私達は校長室を出て、大食堂へと向かうことにした。
わたしは、その後も日向さんと今回の作戦のことや野球や死んだ世界戦のことなどを話したりしながら、食堂で夕食をとった。
そんな中で、私の中にある想いが目を覚ましたかのように胸や頭をじわじわと攻めて始めて来る。
私は彼とは違い、彼もまた私とは違い、誰とでも同じなわけではない。でも、もしかしたら私と彼は似たもの同士であり、もしかしたら相容れない存在なのかもしれない。
だって、私もまた日向さんと同様、生前に野球をやっていた。日向さんと同じように野球に明け暮れた人生を送っていた。そして、野球によって人生を終えたのだから。
第1話:“闇の中”