Angel Beats! PAST SIDE EPISODE 作:純鶏
私は昭和の時代に生まれ、野球少年として過ごしてきました。特別、野球が好きでやっていたわけではなかったのですが、私の父は野球が大好きでプロ野球のファンでした。少なからず父の影響もあって、幼少の時から私は野球に触れる機会が多くありました。父からしてみれば、もしかしたら息子を野球の選手にしたかったのかもしれません。そのまま私は、物心がついた頃には手に野球のボールを握っていたのです。
そもそも、私の家は裕福というよりも貧相な家庭だったので、私に玩具を買ってもらえることは滅多になく、あっても野球のグラブとボールだけ。祖父と祖母と父と母と弟が2人で妹が2人という5人兄弟の9人家族だったのもあり、遊ぶ相手は弟や妹達か同じ地区の子ども達だけでした。父とはほとんど野球しかしませんでしたし、父も楽しそうに私とやっていたので、私も野球をすることに何の不満を抱くこともありませんでした。
そして、私は大きくなるにつれて兄弟の面倒を見ることも増え、近所の子どもとも遊ぶ機会も増えていきました。当時は野球がブームだったのもあってか、近くの空き地に行っては野球をしたりして遊ぶ毎日。自分は年長者というのもあって、球を投げては相手を打たせてあげる機会が多く、いつしか自分はボールを投げるコントロールだけは上達していったのです。そうやって私は、飽きるほど野球に明け暮れて過ごしてきました。
中学生になって私は野球部に入部し、野球を続けることにしました。別のスポーツをすることも考えましたが、父や弟から野球部に入部することを勧められたので、考えた末、結局は野球部に入部することにしたのです。
小学生までは野球選手になろうなんていう想いはなく、ただお遊びでやっていただけでした。しかし、中学になって部活同士で友人ができ、一緒に練習し、一緒に成長する。仲間のためを想い、チームワークを活かして相手のチームと真剣に勝負し戦う。その度に友人である仲間達との絆は深まり、その友人達と共に野球をしていくことが自分にとってとてもやりがいのあるものとなっていきました。
いつしか私は野球選手に憧れ、私が投手でバッテリーである捕手の永井と共に、プロ野球選手になろうという夢を一緒に思い描くようになりました。私達は高校生になっても大人になってプロ野球選手になってもずっとバッテリーのままでいる。そう思っていました。
ところが、私にとって一番の友人である永井は、中学3年になろうというところで転校することが決まった。父親が死に、母親の実家で暮らすことが決まってしまったようでした。どうしようもない現実を友人の口から突きつけられ、私は唖然となり、友人に対して怒鳴りました。
本当なら一番辛いのは永井の方なのに、転校することを一番受け止めたくないのは永井なのに、私は自分の気持ちを抑えきれずに吐露してしまったのです。何故、転校をするのか。今までやってきた野球はどうするのか。自分達の夢はどうするのか。裏切られた自分はどうすればいいのか。自分自身が何を言いたいのかがわからなくなってしまうくらい、私は永井にあれこれとたくさん問いかけたのでした。
すると、彼はうつむいてしまいました。そして、私にこう告げたのです。
「ふざけんなっ! 野球をやめるわけないだろっ!!」
友人である永井は私の問いかけに対して叫ぶようにそう返答しました。必死に泣くのを我慢して、拳を震わせながら強く握っているのは覚えています。
「転校してもよ、野球はやめねぇさ! おめぇとの夢も諦めねぇ。何一つおれは諦めねぇ! だから、強くなる。あっちで強くなって、誰にも負けないキャチャーになって、高校に入って甲子園にいって優勝してやるんだ! そんで、野球選手になって有名になってみせるんだい!」
涙しながら、親友である永井はそう語っていました。決して諦めないという意志を掲げて、必死な表情で私を見つめていたのです。
「だから、おれは絶対に諦めない。野球選手になって、おまえがピッチャーでおれがキャッチャーでバッテリーを組んでみせるんだから。だから……だからおまえも絶対に諦めんなよ! 絶対にすごいピッチャーになれよなっ!!」
永井の言葉に私は胸がとても熱くなっていきました。2人で約束した夢を諦めず、どんなに離れていても自分と一緒に掲げた夢を追いかけるという意志を永井は告げたのです。
私の一番の友人である永井。そんな彼を、私が嬉しく思わないわけがない。私は自分の瞳から流れる涙を片手で拭いながら、友人である『永井剛』の方に指を指してこう言いました。
「っ……ああ、なってやるとも!! 絶対にものすごく強いピッチャーになってプロ野球選手になってやる! だから、剛も絶対にプロ野球選手になってみせろよ!」
私達は強く握手をして誓いました。離れ離れになっても、全体に夢を諦めないと。何一つ諦めずに、頑張って、強い野球選手になってやると。固い友情でしっかりと誓い合ったのです。
いつか、2人は運命に導かれたように将来再会するはずだと。これが最後の別れになるわけがないはずだと。その時の私はそう信じて、友人の永井との別れを惜しむように涙を流したのでした。
私の生前の話は、まだ続く……
第2話:“私の夢は断念しない”