Angel Beats! PAST SIDE EPISODE   作:純鶏

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第5話 - challenge a school to a match

 私は光村と出会い、一緒に過ごして約半年が経った。最初は記憶がないものの、この世界で暮らしていく中で少しずつ取り戻していくことができた。今では不自由なくこの学校で過ごせるようにもなった。それも全部、光村のおかげである。

 まぁ、この学校自体、食事は学食にいけばあるし、寝床だって学生寮があるわけで、暮らしやすい環境ではあった。光村にここの暮らし方を教わらなくても、この世界の人間に聞けば済む話ではある。それよりも、この世界について彼が分かる範囲で教えてもらうことが出来たのは大きかった。何しろ、この世界の人間の誰に聞いても、世界のことに関しては何一つ答えてはくれないからだ。

 

 私が光村にどういったことを教えてもらったのかと言えば、この世界での仕組みに関してだ。聞いた話をまとめていくと、まず、この世界が死んだ世界ではないかという可能性が高いこと。もし私達がケガや致命傷を負ったとしてもすぐに治るということ。学生としてこの学校の中で生きていれば、不自由なく暮らしていけるということ。高校生のまま、いつまでも歳をとらないこと。この世界では、普通の人間と普通ではない人間がいるということ、などがある。

 

 ちなみに、普通と普通でない人間というのは、死ぬ前の記憶がある人間と死ぬ前の記憶がない人間の2つ。つまりは、この世界で生まれた人間と現世で死亡してからこの世界に来た人間という区別だ。光村は元いた世界で死んで、この世界にやってきた人間を“普通の人間”と呼んでいる。

 とは言っても、この世界では普通と普通でない人間の区別は分かりづらい。見ただけでは全く分からないし、ほとんどが普通でない人間であるらしい。光村自身が一度聞いて回ったことがあるらしいが、生前のことを答えてくれる人間はいなかったようだ。

 

 ただ、最近では普通の人間達がこの世界で何かをしでかしているみたいだ。一応、この世界で生まれた人間は、よっぽど不自然な行動はしないようになっている。

 簡単に言うと、屋上から飛び降りるなんていう自殺行為なんて誰もしない。さらには、銃を持って校長を人質に取って校長室に立てこもる。そんな、正気の人間ならしないようなことは絶対にしないのだ。しかし、実際にそんなことを行っている人間達がこの学校にいる。私はその普通の人間達に会ったみたい気もするが、さすがに不可解な行動をする人間に会いに行くのは抵抗を覚えてしまう。わざわざ会いに行く必要はないのだろう。

 

 そんな世界の中で、私達はこの世界でずっと平凡に学校生活を送っていた。平和な日常の中で、この世界でできた友人と楽しく過ごす毎日が、私にとっては本当に充実したものとなっていた。

 

 

 

 とうとう時期は夏になって、今は夏休みが終わろうとしている頃だった。光村は学校の掲示板の前で立ち、貼ってある来月の学校行事予定表を眺めていた。普段は学生寮の2人部屋にいるのだが、私が気づいた時には学生寮のどこを探しても光村はいなかった。もしかしたらと思い、私は夏休み中で人の少ない学校の中へと入っては、わざわざここまで探しに来たわけだった。

 ただ、光村を見つけるもいつもと雰囲気が違う。さっきから、学校行事予定表ばかりずっと見つめている。

 

 

「……光村?」

 

 

 光村が紙きれ1枚を呆然と見ている様子が、私には少し儚げに見えた。

 

 

「学生寮の方にいなかったので探しましたよ。どうしたんですか? こんなところで」

 

 

 光村は私の問いかけに気付いて、私の方へと振り向く。

 

 

「ああ、高松か。いや、もうすぐ夏休みが終わるだろ? そうしたら、すぐだと思ってさ。体育祭」

 

 

 私は貼り出された来月の学校行事予定表に目を向けると、そこには体育祭という文字があった。なるほど、たしかに体育祭といえば、光村が好きそうな行事のひとつである。

 

 

「そろそろ、走る練習をたくさんしとかないとだなって思ってさ」

 

「ふふっ、あなたに勝てる人なんていないじゃないですか」

 

 

 そうなのだ。光村が生きていた当時は、全国に出るほどの陸上の短距離ランナーだったらしい。その名残りもあってか光村は、この世界ではたまに陸上の部活に参加したり、体育祭のような体を動かす学校行事には積極的に参加している。そんな彼が、わざわざ本格的に練習なんてしなくても、体育祭で負けることなどないはずだ。

 

 

「……いつもならな。でも、今年は違うかもしれない」

 

 

 光村は何か思い詰めた表情をして、掲示板の方へとまた視線を向ける。今年は違うかもしれないとは、どういうことなのだろうか。

 

 

「……俺さ、今年の体育祭で、どうしてもやり遂げたいことがあるんだ。だから、今回は本気の真剣勝負をやりたいんだ」

 

 

 私の立っているところからは、光村がどのような表情をしていたのかが分からなかった。私に背を向け、ひたすら掲示板を見つめている。でも、彼はきっと真剣な決意を持った表情でそう言ったに違いない。なぜなら、彼もまた私と一緒で、本気の勝負が出来ぬまま死んでしまったのだから。

 

 

 以前、光村の生前の話を聞いた時に知ったことだ。光村は高校生2年の頃、大事な全国大会でのリレー競技にて、持っていたバトンを落としてしまったことがあり、それが原因で最下位となってしまったらしい。光村はその失敗を次の大会で挽回しようと必死に奮闘して練習するようになった。しかし、不幸にも練習中に足の靭帯を切ってしまう大ケガをしてしまったのだ。そのまま光村は、仲間に迷惑かけた失敗を挽回する日は訪れることなく、人生を終えてしまったらしい。

 

 この話を聞いて、私は光村が自分と同じ境遇で死んだのだととても共感してしまった。彼もまた仲間のために頑張っては報われずに死んだのだ。

 

 私の場合は、きっと自分の願いや想いを相手に押し付けてしまったこと。私がもっと仲間達とうまくやっていけば、あんなことにはならなかったかもしれない。仲間のためでもあり、自分自身のためでもあったことだ。

 だが、光村の場合は違う。彼は失敗したことを悔やみ、反省し、ひたすら努力して仲間のために頑張ったのだろう。大会でバトンを落としたのだって、決して他のせいにはせず、落とした自分自身が悪いと考えたに違いない。彼は失敗を受け止め、真摯に向き合って努力していったのだろう。そうやって頑張っていた過程で、彼は不慮の事故という最悪の現実に阻まれ、今まで培ってきたものや想いなど全てを失う形となってしまったのだ。こればかりは、光村も自分自身の運の悪さを呪うしか他はなかったに違いない。

 

 だから、光村は決意したのだろう。今度こそ、自分が生前に成し得なかったことを全力でするために。仲間と共に力を合わせ、仲間の想いを繋ぐために。本気で勝つか負けるか分からない真剣勝負に挑み、勝つために。

 

 

 光村の決心を受けた私は、自分自身もひとつ決心することにした。それは、この世界で一番の友人であり、仲間である光村のために、光村が思う存分走れる状況を作ること。光村が、本気で勝利するために挑む真剣勝負が出来るように。彼が成し得られなかった、仲間と一緒にリレーをして、一緒に力を合わせるような本当の勝負をするためにだ。

 そのためにも私は、以前からこの世界から騒ぎを起こしている普通の人間達に会いに行くことにした。

 

 

 

 

 私が何故、普通の人間達が集まっている『死んだ世界戦線』とかいう集団に会うことにしたのか。その理由は、簡単だった。ひとつは、光村が以前あった水泳大会ですごい身体能力を持った女子を見たことがあり、その女子が死んだ世界戦線という集団の中にいるということを光村が知っていたからだ。前々から光村はその女子のことを話しては、いつか勝負してみたいということを言っていた。きっと光村は、体育祭にもすごい身体能力を持った女子が競技に出場すると思い、その時に真剣勝負をしようと思ったのだろう。

 

 しかし、死んだ世界戦線の人間達は普段から授業などに出ることはなく、行事全てに参加しているわけではない。学生からしてみれば、不真面目な人間の集まりである。水泳大会はたまたま参加していただけで、もしかしたら体育祭には出場しないかもしれない。それでは、光村の決意は無駄なものとなってしまい、真剣勝負をしたいということが叶わなくなってしまう。それだけは避けたいので、私自身が折り入って世界戦線の人間達に頼みに行こうというわけだ。

 

 もうひとつは、光村の願いを叶えてくれそうな人間は他にはいないということ。それと、私自身が普通の人間と関わったことがあるのが光村くらいなので、普通の人間と話をしてみたいという好奇心があったからだ。

 というのも、普通の人間を見つけ出すというのは、中々に困難なものなのだ。私の場合は、光村のいた教室に偶然新しい人間が平然と机に座って寝ていて、挙動不審な行動を起こしたから光村は私に気づくことが出来た。しかし、この世界に順応してしまった人間を探すというのは、とても難しい話だ。ましてや、私のように記憶喪失のパターンもある。見つけようと思って見つけれるものではないのだ。

 

 

 

 というわけで、私は死んだ世界戦線の拠点である校長室へと訪問し、リーダーである“ゆり”という女子に出会った。

 

 

「よっしゃああ! 人間来たぁぁー!!」

 

 

 普通の人間が訪問してきたことが嬉しいのか、ゆりはとても嬉しそうに両手を上げて歓喜している。

 私はそのリーダーのゆりに、すごい身体能力を持った女子と私の友人の光村とで体育祭のリレー競技で勝負させてほしいことを頼んだ。

 

 

「なるほど、あなたの話はわかったわ。こっちでなんとかしてみるわね」

 

「ご検討よろしくお願いします!」

 

 

 光村の境遇も含め、私達の事情を聞いたリーダーのゆりは、私の頼みに親身に賛同してくれた。私は自分の頼みを受け入れてくれたリーダーのゆりに頭を下げる。校長室を出た私は、何事もなく死んだ世界戦線の人間達との交渉が上手くいったことを喜ぶ。

 

 その後、リーダーのゆりは光村に直接会いに行っては体育祭で勝負をする約束をしてくれたようだ。これで、真剣勝負ができる環境は整った。あとは体育祭に向けて、練習するのみである。

 

 こうして1週間、私達は体育祭に向けて練習し、万全の準備を整え、体育祭の日を迎えたのであった。




第5話:“競技を申し込む”
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