Angel Beats! PAST SIDE EPISODE 作:純鶏
光村が成仏した体育祭から、どれほど経ったのだろうか。死んだ世界戦線に入ってからだいぶ月日が流れていったことだけは分かる。
それなのに、私の身体は成長することもなく、また歳を取っていくこともなかった。いくら時間が経ったとしても、自分は変わらない。私はいつまでたっても高校生のままだ。
それでも、私はこの死後の世界に来てから一つだけ続けているものがある。それは、全身の筋肉トレーニングである。当初、私は光村のトレーニングに付き合う形で筋トレを一緒にやっていた。
幸いこの学校は設備に関しては申し分ないほど整っていたため、十分に筋トレを行うことが出来た。いくつか見たこともないトレーニングマシンも置かれたりしてあったため、この世界に来た当時は最先端の設備であったことに私は驚いたりしたこともある。まるで、未来に来たような感覚だったことは今でも覚えている。
私は毎日のように光村と共に筋トレをしていく。その中で、私自身の身長がさして伸びていったりすることはなかったが、筋肉や体重だけは日に日に変わっていっていることに気付いた。どうやら、この世界では成長という意味合いで身長が伸び縮みすることはないらしく、体重の変化や筋肉などの、体型の変化はあるらしい。そこらへんは、良くも悪くも日々の生活によって少しずつ変化していってしまうものらしいので、気を付けなければならない。
つまりは、怠惰な生活を送っていると、太った体型を変わってしまう。逆に私のように、筋トレをしていると、引き締まった体型を維持できるというわけだ。
例をあげると、松下さんこと護騨で例えると分かりやすい。彼はこの世界に来た頃はとても高身長で引き締まった体型をしていた。柔道家ということもあり、柔道着の似合うとても凛々しい顔立ちの青年であった。
ところが、彼はこの世界に来て、組手か技の鍛錬などの実践向けの鍛錬しかしていなかった。その上、食に関しては大食いであった。特にこの世界では金銭面を気にせず、大体いつでも食事が出来る環境であったので、毎日5・6回は好物の肉うどんを食べていたのだ。しだいに彼は身長が縮み、体型もふくよかな感じになってしまい、気付けば柔道家というよりお相撲さんに近くなってしまった。この世界でも、体型を維持させることは重要であるのだ。
そして、私はいつしか自分の体の筋肉が段々とついてきて、筋肉を鍛えると確実に成長していく喜びを知った私は、筋トレをすることに病みつきになってしまう。
もう、誰にも負けないためにも、強い自分であり続けるためにも、自分を鍛えていく。そうやって自分の心も体も鍛えていっては、自分の筋肉と向き合うと同時に、自分自身と向き合うことが出来たのだった。
終いには、鍛えすぎて気持ち悪いほど自分の体に筋肉がついてしまったので、ここ数年はなるべく自分の筋肉を見せないように気をつけている。ついつい、服を脱いでしまいたくなるクセがあるので、昼は制服を着て、夜は思う存分、裸で過ごしている。そうすることによって、日常の心身の安寧を保つことが出来たわけだ。
そんな風に変わりつつある私だが、メガネだけは生前から大事に扱っていて、今も変わらずつけている。なぜなら、メガネがあったおかげで、野球の試合で何度か失明を免れたことがあるからだ。メガネがあるとケガをしやすいと思われがちだが、実際はメガネがあるのとないのとでは変わってくるのだ。だから私は寝る時以外はなるべくメガネをつけるクセをつけ、予備のメガネをたくさん用意し、メガネと共に過ごしていた。
ただ、この世界では視力は治るし、ケガをしたり失明したとしても、すぐに完治してしまう。本当ならメガネをかける必要性はないのだが、やはりメガネがないとどうにも落ち着かない。その上、メガネが必要ないからこそ気付いたが、私にはメガネがあったからこそ、私が私であった気がしてきてしまうのだ。結局は、この世界でもメガネをつけ続けることにし、今でもメガネを大事に扱うようにしている。
ところがある時、私は自分の予備としていたメガネを落としてしまい、汚してしまったのでその場で綺麗に拭いている時だった。後ろから何かしら黒いものに襲われ、抵抗している間に意識を奪われてしまったのだ。
気付けば私は教室の中で授業を受けていた。今更、勉強などしても意味がないのに、何故に私は机に座って真面目に授業を受けているのだろうか。そもそも私は、ここではない別の場所にいて、別のことをしていた気がする。だが。この学校で私は何をしていたのかを思い出せない。
休み時間になり、教室を出ては学校の中を適当に歩いてみることにした。そのおかげか、少しずつ記憶を取り戻すことが出来たが、何か肝心なことを忘れているような気がしてならなかった。さらには、自分が死んだ世界戦線にいたということも思い出すが、誰一人として仲間のことを思い出せない。どうしたというのだろうか。この世界で何かが起こったことはなんとなく分かるのだが、根本的なことは何も思い出すことができない。
私は完全に思い出せないまま自分の学生寮へと戻り、また次の日に学校へ登校する。とりあえず、思い出せるまでは学生として日常を送ろう。そう思った私は授業を真面目に受け、3限目の英語の授業も教科書とノートを用意しては、黒板に書いてあることを必死にノートに書き記していた。
その時だった。廊下の方から懐かしい声が聞こえる。それは、どこかできいたことがあるようなもので、誰かが言い争っているようだ。声の主の声量が段々と大きくなっていき、何を喋っているのかが聞こえてくる。
「あぁん!? 友だちが少ないというのは認めてやってもいいが、おまえよりは俺、友だちの数は多いからな!」
「いいや日向くん、友だちは数じゃなくて質だよ。なんたってぼくは、親友と呼べるまでの仲の良い友だちしかいないんだから!」
ここで私は、皮肉にも“日向”という名前で、今までのすべてのことを思いだした。死んだ世界戦線で、仲間達と過ごしていたことを、思い出せたのだ。
私は立ち上がり、教室の扉の方から出ようとすると、英語の先生に呼び止められてしまう。
「うん? どうした、高松。今は教室に出る時間じゃないはずだが? 理解しているかな? Do you understand?」
40代男性の丸刈り頭の英語の先生は、特徴的な語りかけをして、私の方を見て尋ねる。そういや、この英語の先生、変な教師として有名だった気がする。だいぶ昔にそんなことを、クラスメイトと笑いながら話し合っていた頃があった。本当に、遠い過去のことである。私は教室の扉の前まで来ると、英語の先生が立っている教壇の方へと振り向いた。
「ええ、先生。心配なさらずとも私は理解していますよ。こんなどうでもいい授業を受けなくてもいいことぐらいわかりますから。それよりも私は、授業中というのにも関わらず騒いでいるバカな人達に、ちょっと一言だけ言いに行かないといけないのです。だって……」
そこで、私は全てを思い出す。自分の人生を、この世界での生きてきた日々を、自分という人間を。
「だって私は、死んだ世界戦線のメンバーなのですから!」
私は小馬鹿にするように、英語の先生にそう言ってやった。ぽかーんとした表情でいる英語の先生を無視して、私は教室の扉を開け、堂々と今いる教室を出ていったのだった。
私は日向さんやら音無さん達と合流し、私が影というものに取り込まれてから今まで何があったのかを説明してもらった。もしかしたら、そのままNPC化していたという状況を思うと、ゾッとする話である。世界の操り人形のようにこの世界で生きて行くのは、永遠に意識を奪われたまま、成仏出来ずに留まらされるようなものだ。こうやって、私が人間に戻れたことは、神に感謝すべきなのだろう。
とりあえず、音無さん達は仲間が成仏出来るようにアシスト作業をして回っているようだ。新入りだったくせに、もうリーダー気取りでそこまで仲良くない仲間のために動いているのには、私は何か裏があるのではと思ってしまう。
だが、色々考えても音無さんが何か企んでいるようには思えない。きっと、みんなを救ってあげたいという善意あることは間違いないのだろう。
だからと言って、私自身、音無さんと特別仲が良かったわけではない。その上、ただでさえ、私自身のことなどメンバーに話したことは滅多にない。知っていてもリーダーにゆりっぺさんか大山さんくらいだ。自分自身、未だにあまり話したくない話であるので、出来るなら話したくはない。
しかし、この状況で話さないというわけにもいかないのだろう。話すことをしぶっていたら、大山さんが痺れを切らして余計なことを言ってきそうな気もする。それなら、減るものでもないし、話せばいいだけなのだろう。それでも、音無さんも含め、日向さんにはあまり話したくなかった。彼に打ち明けてしまえば、きっと軽く同情したりして、慰めようとするだろう。それだけはされたくない。私の人生を憐れんだり、同情してもらう必要などないのだ。
だって私自身が若さゆえに間違え、過ちを犯し、不運に死んでいった人生だ。酷いものだったとしても、それは私が歩んだ人生だ。必死に生きた記録であり、私のかけがえのない記憶なのだ。自分の人生を受け入れて、死後の世界を生きてきた私だからこそ、変に誰にも干渉されたくない。
「つまり、あなた達は今この世界にいるみなさんが成仏できるように活動し回っているということですか」
私は再度、音無さんや日向さんに確認する。
「そうだな」
「そして、私を成仏させたい。そういうことですね?」
「ああ、そういうことになるな」
ということは、私が成仏出来れば問題ないというわけだ。実はいうと自分はもう、いつだって成仏できる状態ではあった。光村との体育祭のことで、自分の葛藤や願いはとっくに達成していた。
ただ、光村を失ったことが要因で、成仏するキッカケを失い、ただそのままズルズルとこの世界に滞在していたわけだ。まぁ、心残りが全くないわけではないが、仲間のみなさんが成仏するのであれば、私も成仏すればいい。
「わかりました。いいでしょう。ただ、ひとつ条件があります」
「おっ? なんだ?」
でも、せっかくなら、やりたいことをやってこの世界から旅立ちたい。そう思った私は、自分が成仏するために、音無さん達に一つ条件を出した。
「私を成仏させたいのであれば、私を倒してからですね!」
「……はぁっ!?」
私の言っている意味が理解出来ていないようだ。でも、そんな表情で見つめられると、少し興奮してしまう。ほんと、無意識にやってしまうのは、きっとクセなのでしょうね。つい私は、上の制服を脱いでしまい、上半身をさらけ出してしまった。
とりあえず、私は音無さん達に野球勝負を挑むことにした。とは言っても、私自身はボールを投げることは避けたい。なるべくなら、自分はバッティングだけしかしないようにしたかった。
理由はたくさんあるが、大きな理由の1つとしては、今は生前のようなボールを投げられないからだ。そりゃあ、この世界でだいぶ鍛えていたのだから、投げた球の球威自体はむしろ生前よりも出るのは間違いのだろう。だが、どうしても投げた球が棒球になってしまう上にコントロールが定まらない。思ったところに投げられないのでは、勝負以前の問題だ。
なので、勝負の内容としては、私が常に打席に立ち、私が三振を取られるまでは勝負は終わらないという感じにしておいた。音無さん達もそれでいいと了承してくれたので、みんなで勝負をする準備に取り掛かる。
私は音無さん達に野球の道具を用意してもらい、自分は野球場の鍵をくすねてきては、勝負場所に相応しい野球場へと来ていた。道具は野球場に置いてあるものよりも、野球部の部室とかに置いてあるものの方が断然に質が良い。なので、無断ではあるが彼らに取ってきてもらうことにしたのだ。
本来なら、グラウンドでするべきなのだろう。でも、NPC達の授業の邪魔はしたくないし、こちらも勝負の邪魔をされたくはなかった。ならば少し離れた誰もいない野球場でする方が良いという判断で、この野球場まで来ていたのだ。
そして、今は学校の野球場にて自分達のウォーミングアップを各自で行っているところである。予想はしていたが、この野球勝負で挑んでくれるのは、音無さんと日向さんの2人のようだ。2人は喋り合いながらキャッチボールをして、肩を温めている。私もバットを持って、自分のバッティングの感覚を取り戻すように素振りをしていた。
他にも、大山さんや副生徒会長の直井もがいますが、外見から見てスポーツが出来そうな人達には見えない。きっと、野球勝負を応援しながら傍観しているだけなのだろう。あと、天使こと生徒会長の立華さんもいますが、彼女も一緒に大山さんや直井さんと一緒にベンチに座っている。さすがに、天使でもある立華さんでは勝負という次元ではなくなってしまうと思い、勝負には参加しないのだろう。
「……ふぅ、爽やかな昼時の暑さですね。ほんと、下の方も脱ぎたくなってしまいます」
私は額の汗をぬぐって、青空を見上げる。時間帯で言うならもうお昼だ。季節は夏ではないとはいえ、晴天の空の中、太陽は強く照らしながら、日差しをこちらに送っている。段々と暑くなっていく気候の中、私は上着を脱いでは上半身裸のままでいた。直接当たる日光は暑いが、上着を着てむさくるしい状態でいるよりかはマシだ。
ちなみに、この世界ではある程度までは日焼けするのだが、とある一定基準を超えると治ってしまう。どうやら、焼けすぎるとこの世界では火傷と認識されてしまうのだろう。そんなこともあって、私は日焼けの心配はあまりしていない。
そもそも私は、どうしても野球がやりたかったわけではなかった。だが、出来るならみんなとスポーツをし、汗をかいて、楽しみながらこの世を去っていきたいと思っていた。それに、日向さんも野球経験者だし、音無さんも以前の球技大会で見る限りでは全くの素人というわけではなさそうだ。ある程度は野球を楽しめるはずだ。
だいたい、素人があんな上手にサイドスローで投げられるわけがない。音無さんが球技大会でなかなか打たれなかったのは、きっとそのサイドスローの投球がNPCにとっては打ちにくいものだったからに違いないのだろう。ならば、一度その投球を打ってみたい。音無さんと勝負してみたい。そう思ってしまうのは、仕方のないことだと思う。
……いいや、結局そんなのは建前だ。私がそんな理由で、今回の野球勝負を音無さんや日向さんに挑むことはない。だって、今の私が野球をして野球を楽しむなんてことが出来るわけがない。嫌な思い出を受け入れ、トラウマを克服はしたものの、心の底から楽しめるかどうかは難しい。さらに、今勝負しようとしている相手は大して仲の良くない音無さんと性格的に苦手な日向さんの2人。ある程度は経験者であるというだけで、私が彼らと勝負をして楽しんでできるとは思えない。それこそ、椎名さんや野田さん、松下さんなどの強者と野球勝負をするのだったら、この野球勝負を楽しむことも出来るはずなのだろうけれど。
私は、手に持っているバットの先を地面につけるように下ろし、ただ地面を見つめる。こうやってしていると、少し考え事に集中できるような気がしたからだ。私は自分が何故、この勝負をすることにしたのかの理由を考える。自分にあまりメリットのあるように思えない勝負を、彼らに挑んだ理由。それは、自分のためではなく、彼らのため。まぁ、厳密に言うなら、彼らのためになることをしてやりたいという自分の想いが存在したからだ。
確かに、自分のことだけを考えるなら、こんな野球勝負は不毛なだけなのだろう。よっぽど他の身体能力の高い人と勝負したいと彼らに伝えた方が、自分の願いが叶うというものだ。だが、なぜそうしなかったのかと言えば、音無さんや日向さんの想いを確かめたかったから。また、それ以上に本気の勝負を彼らにしてほしかったからだ。
「私もつくづく、お人好しですね。……ほんと、自分が消える時でさえ、仲間のことを想うなんて」
私は自分に言い聞かせるようにそう言った。自分自身、面倒事は避けたい性分のはずだが、未だにこういった勝負事になると、熱くなってしまう。本当に悪い癖だ。
だが、私は自分自身が仲間のことを想うのを、決しておかしいこととは思わない。だって、音無さん達は死んだ世界戦線の仲間が満足してこの世界から旅立てるように援助していると言っていた。そのことは決して悪いことではないのだが、生半可な気持ちでそんなことをしているんでは、かえって迷惑なのだ。
私にとっては長く共にしてきた仲間達である。特に仲の良い仲間は、親友であり家族みたいなものなのだ。私は出来るなら、音無さん達が死んだ世界戦線の仲間のためを思ってそういった心残りを解消する活動を行っているのであれば、本気でやっていってほしい。彼らが仲間に対する想いが本物なら、全力で向き合っていってほしいと思ってしまうのだ。
音無さんと日向さんは、ウォーミングアップを終えたようだ。2人はキャッチボールをやめ、自分達の定位置へと向かって移動する。私もその様子を見て、バットを片手にバッターボックスへと向かう。
「さて、準備はいいぜ! 高松、今から勝負を始めるとしようか!」
「はい、いつでもどうぞ!」
私はそう言って、いつでも来た球を打てるようすぐにバットを構える。とうとう、音無さんと私の勝負が始まる。さて、どれくらいのものか、お手並み拝見といきましょうかね。
音無さんがマウンドから両手を大きく振りかぶり、体を捻っては右手を横に振るように思いっきり投げる。放たれた球はインコース。思いのほか初球から打者に近い球を投げてくる辺りは、攻めの意識が伝わってくる。少なくとも、勝負しようとする意気込みはあるようだ。
しかし、自分も最初から攻めていくつもりだ。初球から様子見をしていくつもりもなかったし、音無さん相手にそんな必要性がない。打ちにくい球であろうと、己の感覚を信じ、フルスイングをする。どんな球が来ようと、今は待ち構えて打ち返していくのみ。
「……ふんっ!」
私は、音無さんの投げた球をバットの芯で捉えるように、バットを鋭く振り抜いた。すると、球は向こうのフェンスを越えてしまう勢いで飛んでいった。その様子を見て、音無さんは目を丸くして驚いていた。音無さんは自分の投げた球が、こうも簡単に飛ばされることになるとは想像もしていなかったのだろうか。音無さんの仰天した表情に、私はつい笑いそうになって微笑んでしまう。
「う、うそ……だろっ!?」
日向さんはキャッチャーマスクを取り、ボールの飛んでいった方向をただ見つめてはそうつぶやいていた。
「……高松、おまえ、まさか?」
「……ふっ、実は私、昔は野球やってたんですよ」
そう、昔。私の生前である遠い過去の話だ。今までに野球をやっていたことなんてあまり言わなかったから、古参メンバーである日向さんも驚いているようだ。
しかし、こうも上手く球をバットで捉えられるとは思わなかった。だいぶ野球をやっていなかったので実際に上手く当てられるか怪しかったのだが、生前に培った野球の感覚が体を動かせてくれた。もしかしたら、神様とやらが生前の野球の経験を私の能力として認識して、備えてくれたのかもしれない。
「さぁ、投げてきてください。勝負ははじまったばかりですよ!」
私は音無さんにそう言って、またバットを両手に持って次の投球が来るのを待ち構えた。音無さんはまだ動揺を隠せない様子で、近くに置いてあるカゴの中から球を取り出していく。この勝負は私が打ったから終わりではなく、私が三振を取られたら終わりとなっている。
そうだ、勝負はまだ始まったばかりなのだ。まだ、終わったわけではない。勝負の雌雄を決する時は、どちらかが降参するか、私が負けを認めるか、音無さん達が勝利を勝ち取るかだ。
だからこそ、私はこの野球勝負を中途半端には終わらせない。いいや、生半可に終わらせてたまるものか。音無さん達の決死の想いや仲間のために動く信念というものを見るまでは、しっかりと見極めるまでは、私は絶対に負けない。
さぁ、本心をぶつけてこい。本気というものを見せてみろ。全力で私に挑んで来い!!
私はバットを強く握り、闘志を燃やしていく。私の心の中に灯が点いたからには、灰になるまで燃え尽くそうじゃないか。
7話:“彼は熱意に燃えている”