クソボケ激メロ術師の現代伝奇バトルでハーレム構築スローライフ希求譚   作:所羅門ヒトリモン

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第18話「鳶瀬山家の緊張」

 

 

 - 汐坐伝奇術師協会・北嶺区支部 -

 - 最上十五階・観測局第二観測室 -

 

 鳶瀬山千歳は緊張していた。

 千歳以外の家族全員も、等しく緊張していた。

 

⚫︎春 巳:『まったく。なぁ〜にを呑まれておるのかや。これだから乳ばかりデカいだけの小娘どもは』

 

 式神である姦姦蛇螺(かんかんだら)──もといハルミが、霊体化状態のまま呆れた様子で念話を行う。

 その念話形式は、千歳が生まれてからこれまで、十八年間ものあいだ慣れ親しんだものとは少々別種のものだった。

 

 なんか、チャットみたいになっている。

 

 だが、不都合があるワケではない。

 

 これまでの霊感の共有が、シャーマニックな感覚型で原始的な体質頼りのものだったのに比べて。

 ハルミという神格を備え持った式神を介する現在の念話形式は、より現代の術師にとって効率的かつ洗練された代物だからだ。

 

 一言で表せば、3G回線から5G回線にグレードアップしたような感じである。

 

 通信手段の変化。

 

 そのため、それぞれの思考や内心についても、今では誰がそう考えそう思ったのかが非常に特定しやすくなっていた。

 それでいて通信速度も、対面会話とさほど変わらない。

 

 共有や共感、同期、追想。

 

 どれも引き続き変わりなく行われる。

 ただ、感情の起点や記憶の由来、そういったものが以前よりも混乱なく整理できる状態になった。

 

 主な調整は、もちろんハルミが行った。

 

 曰く、「血の繋がりのない妾にはいい迷惑よ」との事で。

 

 千歳たちならば、生まれつきの異能でもあるし家族という事もあって、大した負荷もなく処理できている擬似並列思考。

 しかし、ハルミにはそれが、いささか鬱陶しいものに感じられたようだ。

 

 ──けったいな。妾は〝サトリ〟や〝サトラレ〟とは違うというに。

 

 有名な妖怪の名前を挙げて、ハルミは如何にも物憂げにヒョヒョイと術を行使したのだ。

 

 式神化による影響と、先日の事件による二段階目到達。

 術式のステージアップに伴って、ハルミ自身、出来ることが増えたらしい。

 

 千歳たちにはよく分からないものの、結果、ハルミは現代の術師向けに優れた念話フォーマットを見繕い、どこで知ったのかチャット形式が採用された。

 

 具体的にどんな術の応用なのかは、さっぱり分からない。

 なのでそのあたりは、さすがは女神様で古代の巫女といった風格だった。

 

 もっとも。

 

⚫︎巫女娘:『乳ばかりデカいだけっていうのは、ひどいなぁ……』

⚫︎少女脳:『そうよそうよ。緊張くらい、普通でしょう?』

⚫︎エロ姉:『自分だっておっぱい大きいくせに』

⚫︎エロ妹:『狐耳で蛇娘で萌え要素たくさんあるくせに』

⚫︎春 巳:『たわけ! 妾の肝はおぬしらのような豆粒がごとき小ささではないわ!』

 

 念話でチャットのハンドルネーム文化まで踏襲しているのは、いささか俗っぽ過ぎるきらいもあった。

 

 まぁ、どう考えても千歳や八千代、八千花の記憶に影響されたせいだと思うので、藪蛇にならないよう(つつ)く事は控えているのだが……

 

 にしても、乳ばかりデカいだとか小娘だとか。

 

 事あるごとに反抗的な言動が目立ち、千歳はまだマシなものの、ひどいハンドルネームを決められた家族は今でもムッとしている。

 

 特にひどいのは、依穂だった。

 

⚫︎淫酒女:『……静かにしなさい。家じゃないのよ?』

⚫︎巫女母:『そうね。みんな、気を引き締めなさい』

 

 豊葉と並ぶと、ひどすぎて居心地が悪くなる。

 千歳は母親と同じようなハンドルネームなので、なんとなく負い目を感じてもいた。

 

(そりゃ、たしかに秋水くんの前だと、否めないところはあるかもしれないけどぉ……)

 

 ハルミの認識では、自分たち一家はそういう感じなんだと突きつけられたようで、なんとも言えない。

 

 これは余談だけれど、自身のハンドルネームを初めて知ったときの反応は、それぞれ以下の通りだ。

 

⚫︎巫女娘:『な、なんか安直……?』

⚫︎少女脳:『少女趣味で何が悪いのよー!?』

⚫︎エロ姉:『エロ姉て』

⚫︎エロ妹:『エロ妹て』

⚫︎淫酒女:『わ、私はどうせダメな女よ……』

⚫︎巫女母:『そ、そんなことないわっ、依穂ちゃんっ!』

⚫︎春 巳:『気に食わぬなら、それぞれ一度だけチェンジさせてやろう』

 

 ハルミが提示した代替案はこれ。

 

 千歳:自認姉

 千景:恋愛脳

 八千代:淫ら姉

 八千花:淫ら妹

 依穂:官能女

 豊葉:学生狂

 

 どれもひどすぎだった。

 というか、八千代と八千花に関しては、何も意味合いが変わっていない。

 うら若き女子高生に向かって、成人向け漫画のタイトルみたいな言い様は、いくらなんでもひどすぎる!

 

 だが、第三者の視点から冷静に自分たちを客観視すると……千歳たちは生来の気質から否定ができず、しぶしぶ今のハンドルネームを受け入れる他無いのだった。

 

⚫︎巫女母:『千歳?』

⚫︎巫女娘:『あ、ごめんなさいっ』

 

 集中力を欠いていたからだろう。

 豊葉に名前を呼ばれ、千歳は気を取り直す。

 

 ──そのとき、外から一際強烈な豪風が雨と一緒に北嶺区支部の壁を打ち付けた。

 

 今日は関東圏で、今年最初の台風が襲来している。

 外は大荒れで、激しい雨風が鉄道や交通網に影響を与えてもいた。

 雷も鳴り響き、十五階という高さもあって、天候の荒れ具合が屋内にも凄まじく伝わってくる。

 

 そんななか、千歳たちが集まっているのは、外の様子にも負けないくらいある種〝異様〟な空気感を湛えた広大な室内だ。

 

 - 汐坐伝奇術師協会・北嶺区支部 -

 - 最上十五階・観測局第二観測室 -

 

 汐坐市にはいくつか、大まかに東西南北に分かれる形で支部が建てられているが。

 神代本町(かみしろほんちょう)にあるここ、北嶺区支部は黒灰石の外壁で覆われた塔のようなビルになっている。

 

 外観は区役所、消防署、地方合同庁舎といった様相で、屋上には特殊な霊波観測用アンテナが敷設(ふせつ)されている。

 

 一般の方からは、災害対策センターに近い認識を持たれている建物だ。

 

 その最上階、観測局フロアの第二観測室は汐坐市外──大結界の外側を警戒・観測するため運営されている。

 科学と超常現象の両側面から技術の粋を凝らして設計された最先端の機器・モニター類が設置され、それらが専門のエキスパートたちとともに二十四時間体制で稼働しているのだ。

 

 ──『第七次中央山域魔境化抑制作戦』

 

 今日もまた、協会の職員たちは独特な緊張感を張り詰めさせながら、まるで軍事作戦の総指揮に臨む司令本部のようにシリアスなムードが全開だった。

 

 壁一面を覆うモニター群。

 天井から吊り下げられた投影装置。

 床面に展開された青白い術式陣。

 

 幾重にも並ぶ観測卓では、職員たちが慌ただしく端末を操作している。

 基本は協会の制服姿が大半だが、なかには袈裟を着た僧侶風の術師や、占い師風の術師たちもいる。

 耳に飛び込んでくる言葉も、穏やかではない。

 

「中央山域外縁部、霊力濃度〇・七上昇」

「第二結界網、防護率九十八パーセント維持」

「先行中の無人観測塔積載車より異常反応なし」

「第七次魔境化抑制作戦参加術師、現着を確認」

京洛(きょうらく)市、珠凪(たまなぎ)市、汐坐市、三名の筆頭の出動完了しました」

 

 専門用語ばかりだ。

 意味も少し、難しい。

 だけどひとつだけ、千歳たちでも確実に理解できる事実があった。

 

 ここはまったく、遊びで出入りするような場所じゃない。

 

 A.N.O.M.A.L.Y.の脅威に立ち向かう、すべての人間が第一線で命を懸ける現場だった。

 

⚫︎巫女娘:『な、なんか……』

⚫︎少女脳:『すごいわね……』

⚫︎エロ姉:『語彙力が無くなっちゃう……』

⚫︎エロ妹:『協会って、こんな感じなのね……』

⚫︎淫酒女:『……十年前とは、結構違うわ』

⚫︎巫女母:『十年も経てば、当然なのでしょうね』

⚫︎春 巳:『ピコピコチカチカするのぉ』

 

 ハルミだけが、呑気にあくび混じりで目をこする。

 千歳たちは揃って、第二観測室に入ったときから、あまりの緊張感によって所在なげに立ち尽くすことしか出来ていないというのに。

 

⚫︎春 巳:『……フン。おぬしらはもう、二段階目じゃろうに』

 

 式神は霊体化したまま、チラリと千歳たちを一瞥すると鼻を鳴らした。

 二段階目。

 たしかに、そうだ。

 千歳たちは望むと望まずにかかわらず、この汐坐で秋水に次ぐ初めての二段階目術師となった。

 最近は秋水と一緒に、何件かA.N.O.M.A.L.Y.も退治している。

 

 だから式神は、暗に言いたいのかもしれない。

 

 もっとシャキッとしろ。

 胸を張って、おどおどするな。

 

 ただ、ハルミはそれをわざわざ口にして告げることはせずに、念話での思考共有さえも遮断して、すぐにそっぽを向いてしまった。

 

 ……半ば、なしくずし的に主従関係になったが、元はと言えば呪い呪われの関係性。

 

 鳶瀬山家とハルミの間には、やはり胸のうちにつっかえたものが残されている。

 そういう意味では、千歳たちは何処に行っても緊張感とは離れられない。

 

 ただ、今この時ばかりは……

 

『来訪者確認 青墨夏乃様』

『観測局第二観測室 入室許可証確認』

『カード認証 エラー無し』

『式神反応随伴』

『紅の伝奇姫様がお見えです』

 

 システマチックな機械音声が、集中力を引きつける。

 協会の職員たちの、「妹様が来たな」「夏乃ちゃん様〜!」などの反応が、否応(いやおう)なしに心臓の鼓動を加速させる。

 

⚫︎エロ姉:『! 来たわ!』

⚫︎少女脳:『あの子!? たぶん、あの子だよね!?』

⚫︎エロ妹:『待って。待って待って待って!』

⚫︎巫女母:『──うそぉ』

⚫︎淫酒女:『あれが、秋水くんの妹さん……!?』

 

 さすがに、千歳たちは目下最大の重要事項に、意識を引っ張られざるを得なかった。

 たったひとり、線の細い女の子から、多大なプレッシャーを感じてしまった。

 

 ──カツン、カツン、カツン。

 

 軽やか且つ華奢な足音。

 一定のリズムを刻む規則正しい歩幅。

 

 清楚な純白のブラウスは、上品なレース仕立てで。

 青いリボンタイが、濃紺のロングスカートと組み合わさることで、奇跡の気品を生み出し。

 

 丁寧に梳かされた長い黒髪は、最高級の墨のよう。

 綺麗なまつ毛と、流麗な視線。

 シュッとした顔立ちは、兄にも負けない耽美を誇り。

 

 しゃららん……

 しゃららん……

 

 と。

 歩くだけで、夏空に鳴る鈴の音のごとき涼やかさと優美さが、少女から発せられている。

 それでいて、見るものをゾッとさせる滝壺や井戸底のような〝凄味〟が、同時に凛烈していた。

 

 見るだけで、怖くなるほどの美人だ。

 

 千歳は思い出す。

 秋水と初めて会ったとき、彼は言っていた。

 

 ──千歳先輩、あまり触らないでください。

 ──えっ、自分はさっき勝手に触ってきたのに?

 ──それは……すいません。ただ、千歳先輩から向かってこられるのは、ちょっと緊張します。

 ──緊張? どうして?

 ──あまり美人に慣れていないんです。

 

「嘘じゃん」

 

 小声で。

 自分にしか聞こえない声量で。

 千歳は必死に、絶叫を抑え込む。

 

「秋水くん、それはさすがに嘘すぎるんだけどぉ──!?」

 

 一目見て、分かった。

 

 青墨夏乃。

 

 汐坐の筆頭術師、青墨秋水の実の妹にして。

 

 今日、千歳たちを北嶺区支部の観測局に呼び出した張本人。

 

 年齢は千歳からすると、ふたつ下のはずだが。

 美少女は物怖じした様子もなく、慣れた足取りで千歳たちが佇む関係者用の立ち合いスペースにやって来て。

 

「おはようございます。わたくし、青墨夏乃と申します。鳶瀬山家の方がたでお間違いありませんか?」

「ぁ、ええっ! そうですっ」

 

 豊葉が慌てて、挨拶のために前に出た。

 その様子に、夏乃は完璧な笑顔と礼儀を見せる。

 良家の子女らしい洗練された所作で、ニコリ。

 

「はじめまして。本日はお呼び立てしておいて、どうやら少し遅くなってしまったようで、大変申し訳ございませんわ」

「いっ、いえいえっ……!」

「今日はあいにくの台風だもの……!」

 

 依穂がすかさず援護に回るが、千歳たちは一斉に汗をかいた。

 遅くなったというのなら、それは千歳たちのほうだからだ。

 

⚫︎巫女母:『──ど、どどどどうしましょう!?』

⚫︎淫酒女:『ママママズいわね……』

⚫︎エロ姉:『初手からイヤミが来たわ!』

⚫︎エロ妹:『そりゃそうよっ! 噂じゃ相当なブラコンだって話だもの!』

⚫︎少女脳:『大丈夫よ千景っ、少女漫画ならこういう時、意外と優しいパターンが多いんだから……!』

⚫︎巫女娘:『少女漫画だと、普通に反対のパターンも多いけどね……!』

 

 秋水とそういう関係になって、すでに二週間弱。

 千歳たちはまだ、秋水の恋愛だとか縁談方面での窓口になっている夏乃に、挨拶をしていなかった。

 

 前日、秋水から「妹が会いたいそうです」と聞かされた時から、正直全員とも胃痛がしていた。

 

 なにせ相手は、協会の職員が『紅の伝奇姫』と恐れ、SNSやネットでは秋水に近づこうとした不埒者を洗浄室送りにしたとか書かれているお兄ちゃん大好きっ子である。

 

 夏乃のすぐ後ろには、ハルミ同様に霊体化して主人の傍に控えている式神──たしか、ヒナギクと呼ばれていた──もいる。

 

 千歳たちには視える。

 

 こちらもすごい圧力美だ!

 女には時に、自らの美を武器として同性を威圧する習性がある。

 そのために着飾り、身嗜みに気合を入れ、お肌の調子や浮腫み等、その日の自分のコンディションと照らし合わせてベストなメイクを選択するのだ。

 

 ヒナギクもまた、フル装備だった。

 

 ……これが緊張せずに、いられるだろうか?

 

⚫︎全 員:『いや、無理!』

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 一方で、鳶瀬山家一同と対峙していた夏乃も緊張していた。

 緊張もしていたし、いろいろ焦り気味でもあった。

 

(スゥゥ……やっちまいましたわー! 完全に遅刻で大失態ですわー! この方たち怒ってませんこと!?)

(このおバカ! どうしてよりにもよって、今日に限って寝坊なんかするのよ……!)

(だ、だぁって〜!)

 

 いざ兄のお嫁さん候補と顔を合わすとなると、昨夜の夏乃は普通に緊張してしまった。

 だいたい、よくよく考えれば相手は六人……いや、六人と一体!

 

 対してこちらは? そう。一人と一体である!

 

 数で劣っている。

 

(多勢に無勢ですわよ!? あと、いま気がつきましたが……)

(なに? どうしたの?)

(わたくし、歳上の同性の方に囲まれるのが、普通に苦手かもしれませんわー!)

(──はぁ!? なんでよ!?)

(なんでもなにも、親なしだからですわよ……ッ)

 

 他人として接するだけでいい、学校の教師や先輩らとは違う。

 鳶瀬山家の面々は、もしかしたらもしかすると、今後家族になるかもしれないのだ。

 

 夏乃には身近な同性に対する、適切な距離感の測り方が分からなかった。

 

 しかし、そんな動揺と焦りを表に出すワケにもいかない。

 一応、今日の夏乃たちは鳶瀬山家に対して、精神的優位性を明示するつもりで臨んで来ている。

 

 端的に言えば、マウントを取りたい。

 

 なのに台風のあんちくしょうめ!

 

(くっ……髪とか乱れてませんこと!?)

(大丈夫よ! 今日も秋水のおかげでバッチリ……!)

(フォォォッ! さすがはマイ・プレシャス・お兄様! ああ、夏乃は今日もお兄様の手の香りを感じてハイグレードですわーッ!)

(キッモいわねッ! でも、いいわ! その調子よ!)

 

 スン、と顔を澄ませたまま。

 夏乃は極めて柔らかな微笑を形作った。

 

 それだけで相手がたが、何故か一斉に息を呑んだ気がしたが、どういう意味のリアクションかまでは掴みきれない。

 

 ただ、夏乃は自分がイケている証だと思うことで、堂々たる姿勢を貫くことにした。

 

「それでは、作戦もそろそろのようですし、さっそく本題に移りましょうか」

「本題……ですか?」

 

 圧倒的お母さんオーラを湛えた女性が、おずおずと訊ねる。

 なんておっぱい。

 とんでもない爆乳ママの輪郭に、夏乃も思わず圧倒され引っくり返りそうになるが、決して悟られぬよう注意しながら頬の内側を噛むことで懸命に堪える。

 

(口内炎確定ね……!)

 

 ヒナギクがやかましい。

 しかし、協会の施設内で許可なく式神は実体化させられない。

 念話も今は、優先度を落とす。

 

 何故なら、そう。

 

「ええ。今日お呼び立てしたのは、他でもありません──」

 

 観測局第二観測室。

 その最も真ん中に投影された、最も大きい霊子モニターに向かって。

 夏乃は視線を誘導するように顔の向きを変えた。

 

 モニターには、秋水が映っている。

 

 秋水の周りには、おびただしい数のA.N.O.M.A.L.Y.が映っている。

 

 炎が躍る。

 黒剣が閃く。

 

 魑魅魍魎の牙と異形が、瞬く間に消し炭になっては新たに出現する。

 画面の向こう側で、秋水はそれら脅威から時に間一髪まで迫られる。

 

 夏乃はグッと拳を握り込んだ。

 

 心配は無い。不安は無い。兄は最強だ。無敵の伝奇術師だ。間一髪、薄皮一枚の距離まで迫られたように見えても、それは秋水にとって無駄な回避行動を取っていないからに過ぎない。効率的な身体駆動の結果。現に兄の表情はいつもと同じく小揺るぎもしていないのだから。

 

 しかし、だとしても──

 

「……単刀直入に申しますわ。鳶瀬山家の皆様には、覚悟がおありですか?」

 

 兄のそばに侍る。

 それすなわちは、夏乃が常日頃から味わい続けている心配の感情。

 無限の不安を、背負うのと同義だった。

 

 ゆえに、夏乃は問う。

 

 モニターに映った秋水の戦いぶりに、目を奪われて、中にはハッと口元まで抑えかけている鳶瀬山家に。

 

「ここ数日、皆様はお兄様と一緒に、()()()()()A.N.O.M.A.L.Y.を退治されて来たと思われますが」

 

 果たして、本当に理解しているのだろうか?

 兄の偉大さと光輝に眼を焼かれ、女として単純に、浮き足立つだけにはなっていないだろうか?

 

 夏乃はそれを、秋水の唯一の肉親として問い糺さないわけにはいかない。

 

「あの光景こそ、この国の伝奇術師のなかでも、ごく限られた者だけが認められる『特等』の座から、さらに選ばれし者だけが(かんむり)(いただ)く一都市一人の『筆頭』……その真骨頂とも云うべき最大職務」

 

 市外任務。

 俗称、魔境作戦。

 

「ご存知の通り、各都市に張られた大結界の外側には、大結界内で抑制・排斥されたA.N.O.M.A.L.Y.がうじゃうじゃ集積していますわ」

 

 したがって、大結界発動以降、日本の人口はそれぞれの大都市圏(大結界内)に集中している。

 

 言い換えれば、人口過疎地帯である山間部等は、文字通りの人外魔境化が進んでいるのだ。

 

 田畑や自然に囲まれた高速道や鉄道網も、大結界のカバー範囲外にある場所では同様。

 

「よって筆頭術師は、A.N.O.M.A.L.Y.に対抗可能な異能者のなかでも、特に強いと認められた術式を以って、国内のインフラストラクチャーを維持するためにも定期的に──」

「物流の要所を、〝浄化〟する作戦に要請される……?」

「はい。まさしく、その通りですわ」

 

 豊葉に頷きを返し、夏乃はさすがに年長者ですわね、と思いながら「どうでしょう?」と振り返る。

 

「皆様は()()()()()()二段階目に到達されたそうですが」

 

 ほんとうに、青墨秋水の隣に立つ覚悟が?

 意味をきちんと、理解しているのか?

 

(この方たちがお兄様の側に侍り続けるなら、ちょっとやそっとで逃げ出すようでは困りますの)

 

 夏乃は無言のままに、誤魔化しを許さない問いかけを放った。

 

「あります」

「あら」

 

 返答は意外にも、ひとりの少女からすぐ与えられた。

 豊葉と依穂の後ろから、白と翠の私服に身を包んだ少女が一歩、前へ出てくる。

 

「貴方は……たしか」

「はじめまして。鳶瀬山千歳です」

「そう……ええ、存じてますわ」

 

 夏乃は目蓋を閉じ、一度だけ深く呼吸をする。

 かと思うと、一秒も経たない内に、カッ! と両目を見開いた。

 

「お兄様の唇を真っ先に奪った方!」

「……どぅええ!?」

 

 夏乃も千歳も、つい動揺が隠し切れない瞬間だった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 tips

 

 ◆観測局

 霊視局との違いは、主に市内外のどちらを監視対象(監視範囲)にしているか。

 

 監視対象:市外(大結界の外側)

 主な基盤:電子機器と霊子機器

 人的資源:非術師でも可

 

 

 ◆鳶瀬山家の新念話形式について

 

 八千代「チャットとかハンドルネームとか、私たちの記憶を読んだにしても意外と理解が深くないかしら?」

 

 ハルミ「それだけおぬしらが、現実からの逃避に耽溺しておった証拠よ」

 

 八千花「でも、わざわざ私らに合わせるなんて……」

 

 千景「実は結構、興味があったりして?」

 

 千歳「もともとの出典を考えると、相性が悪いワケも無さそうだよね」

 

 ハルミ「黙秘じゃ」

 

 豊葉&依穂「……」←チャットに不慣れだと言えない

 

 

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