クソボケ激メロ術師の現代伝奇バトルでハーレム構築スローライフ希求譚 作:所羅門ヒトリモン
平日が挟まったおかげで、茹だるような夏にもクールタイムがあった。幸いである。
七月二週目。
段々と学園のほうでも、夏休みモードが
秋水は疎らに登校するだけだが、それでも長期休暇を目前にした独特なワクワク感のようなものを、肌で感じられた。
月から金までの五日間。
夏乃は鳶瀬山家によく懐き、頻繁に北嶺区へ遊びに行った。
「たとえ平日でも、わたくしのイビリから逃れられると思わないことですわーっ!」
「あ、夏乃ちゃんだー!」
「いらっしゃい夏乃ちゃん!」
「今日もかわいいわ!」
「おいでおいでっ、お姉さんに抱っこさせて?」
「ダメよ。今日はママと遊びましょうね〜?」
「美味しいお菓子もあるわよ?」
「むふ〜ッ!」
妹はすっかり、母性の虜になってしまったようだ。
最初は小姑だとか嫁いびりだとか、ずいぶんな態度と言葉を繰り返していたのに。
二週間目となると、逆にまんまと攻略されてしまったらしい。
無理もない。
秋水はともかく、夏乃はもともと母性に対する耐性がゼロに等しかった。
兄に対する愛情も、本来なら母親や父親に向けられるべき愛情が、行き先を失っているがゆえにブラコンみたいなところもある。
歳上の同性から可愛がられ、甘やかされ、キャッキャッ! とはしゃぐ様は。
秋水をして久しく見ていない幼児期の純真さだった。
一方で、孔雀堂家との距離感は、まだそこまでの域ではない。
相手が退魔四家というものあるのだろう。
あと、微妙なキャラ被り? とかも気にしているのか、対抗心や敵愾心の心理的障壁がある。
「悪い方たちではない。それは分かりましたが、それはそれとして手口に物申したいですわー!」
「て、手口っ? えっと、なんのことでしょう!?」
「どどどどういう意味ですの!?」
「夏乃ちゃん! 私と友だちに……!」
「シャラップ! まずは踏むべき手順を踏むこと! 話はそれからですわ──分かったら、一昨日来やがれでしてよーッ!」
「「「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」」」
シャァァァァッ! と。
猫のように威嚇する夏乃に、孔雀堂家の三人は何故か必要以上に震え上がっていた。
夏乃の後ろでヒナギクが、出刃包丁の素振りをしていたからかもしれない。怖い。
とはいえ、どうやら夏乃のノリにも親切に付き合ってくれている孔雀堂家。
悪い人間ではない、とのジャッジも下されているので。
彼女たちもあと何かしらの条件をクリアすれば、順当に気に入られるはずだ。もうほとんど、気に入られていそうな気もするが。
秋水はサラを、特に可哀想に思った。
クララの妹なら、恐らく術師としての実力もそれなりだろう。
筆頭の妹、という重荷は。
同じく、退魔四家という重荷とも通じる共通点のはずで。
夏乃にとっては、サラはとても良い友人になれるはずだった。
現状、完全に門前払いされているが。
しかし、母性という面ではエマやクララも、鳶瀬山家に負けず劣らずだ。
どういう経緯で、そうなったは知らないものの、
「おお〜、これが洋モノですのね……!」
「な、夏乃さんっ? 恥ずかしいわ……っ」
「失礼ですが、何カップですの?」
「Tです……っ」
「ほっほ〜! 肌質、弾力、触り心地もかなりの高水準ですわねっ! 次、クララ様」
「わたくしもですの!?」
「御託は結構。ほら、早くカップ数の申告をして枕になってくださいませ」
「ええええええ!?」
「A? ──わたくしに喧嘩を売ってますの!?」
「ちがっ!? ど、どうしてそうなりますの〜〜〜!?」
「夏乃ちゃん! お姉様はRカップで、私はPカップだよっ」
「は? ……
「何に怒ってるの!?」
秋水は夏乃が、孔雀堂家の三人と非常に羨ましいコミュニケーションを取っているのも目撃した。
図らずも、彼女たちの個人情報を知ることになった瞬間だった。
「あ、お兄様」
「「「!? きゃぁぁぁぁぁぁぁ〜〜ッ!」」」
と、そんな一幕もあったにもかかわらず。
彼女たちは夏乃に、海外から取り寄せた最新高級コスメなど、いわゆる袖の下も送って懐柔作戦を試みているし。
夏乃もなんだかんだで、素直に贈り物は受け取っていた。
口で言っているほど、拒絶はしていないのだろう。
秋水もそこは、ほぼほぼ妹と同スタンスだ。
なので、この五日間は特に何もせず、引き続き協会とやり取りを重ねながら土日が来るのを待っていた。
筆頭としてA.N.O.M.A.L.Y.を狩りながら、後回しにしていた皐月姫と鈴鹿への返信などをしたためたり。
ヒナギクとは、犬の話をしたりもした。
「ねぇ、秋水?」
「ん?」
「うちにも、ペットが欲しくない?」
「ペット?」
「そう、ペット。ちょうど、良さそうなワンちゃんが二匹いたのよねぇ」
「二匹か。それは知らなかった」
「そう? ちゃんと躾けたら番犬にもなるだろうし、猟犬にもなると思うわ」
「なるほど。考えておく」
とまぁ、そんな会話もありつつ。
それ以外は特に、派手なことも起こらない実に平均的な五日間だった。
きっと蔭木鏑も、いろいろ忙しいのだろう。
あの二段階目A.N.O.M.A.L.Y.が、霊視局の眼を誤魔化す術を持っているにしても。
協会は取締局の動員もしているし、その捜査網は現在進行形でかなり苛烈なはずだ。
秋水からの情報提供も受けて、オペ子も万全の体制を整えると言っていたし。
蔭木鏑が何を考えて行動を起こしているかも、だいたいは透けて見えていた。
「下手の考え、休むに似たりか」
昔の人は、本当によく言ったものである。
それはさておき。
「あっ、お待たせしちゃったっ? ごめんなさい、秋水くん」
「豊葉さん。全然ですよ、自分もいま来たばかりです」
「ふふふ。こういうセリフ、いざ自分が聞くと何回やっても照れ臭いわね?」
「何回でも、やりましょう」
「……うん」
今日は、豊葉&依穂とのデート日だった。
流れは先週と同じ。
場所はホテル。
〈グランド・ハーバー汐坐〉
豊葉も依穂も、どこかに遊びに行くのではなく。
週末はゆったり過ごすのが、希望だった。
なので、せっかくの南湾岸区で少々もったいないかもしれなかったが、今日は贅沢に一日中高級ホテル内デートである。
待ち合わせにしたのは、ホテルロビーだ。
今日の豊葉は、いつもよりも〝ふんわりゆるるん♪〟とした印象が強い。
髪型も変えていて、榛摺色のロングヘアーがおしゃれにセットされている。
服装はスタイルのせいだろう。
ハイウェストの白のロングスカートに、大人の落ち着きを魅せる薄紫のリボンタイブラウス。
肩口がフリル状になっていて、白く眩しい二の腕を晒している。
しかし、目立った露出はそのくらいで、ブラウスの襟元はしっかり閉じられ貞淑だった。
あいにく、娘たちよりも遥かにたわわに実った特大胸部のせいで、成熟した女性に特有の淫靡な雰囲気は隠し切れていないものの。
全体的には、非常に柔らかな印象を深める装いだった。
琥珀色の瞳。狐の眼。
目元は娘たちより、ややキリッとした印象を受けるものの、それも今日はメイクによるものなのか優しげに感じられる。
ミルクのような甘い香りもした。
香水か、恐らくはヘアミルクなどの匂いだろう。
夏乃はこれに陥落したに違いない。
「とても、お綺麗ですね」
「あっ、ありがとう。最近買ったものなのだけど、似合ってるかしら……?」
「たいへんお似合いですよ。なんだか緊張して来ました」
「え。それは困るわっ!」
「? どうしてですか?」
「だってっ、私のほうが絶対緊張してるもの……おかしいでしょう? もう大人なのに」
「──そんなことは」
秋水は「とても光栄です」と胸に手を置いた。
今日の秋水はデート相手が豊葉と依穂なのを考慮し、サマーフォーマルに袖を通している。
ホテル内は冷房が行き届いているので、暑いかとも思ったがジャケットの内側にはベストも着用していた。
左手首には先週買った、クソ生意気な腕時計までつけている。
気合いの入れ用では、秋水のほうが明らかにガチガチだった。
ただ、それが余計に豊葉のカラダを、強張らせているのかもしれない。
豊葉は急に、しきりに辺りを見回した。
「どうしました?」
「えっとね、秋水くん」
「はい」
「私、周囲から変な目で見られてない?」
「変な目で?」
「だってほらっ、こんなオバさんが秋水くんみたいなカッコいい子といたら、世間からどう思われるかしらっ?」
「似合のカップルとか……?」
「その返しは嬉しいけれどっ」
豊葉は小声で、キョロキョロしながら言った。
「ママ活って思われちゃわない?」
「ママ活」
「最近は、そういう言い方をするんでしょう? 若いツバメを囲ってる、は古い言い方かしらっ?」
どうやら、大人としてしっかり世間体を気にしていたようだ。
秋水も軽く辺りを見回し、周囲を観察する。
「大丈夫ですよ」
「そうっ?」
「たしかに注目はありますが、それは豊葉さんが美女だからです」
「っ、えっ?」
「それに、豊葉さんが相手だったら、俺は喜んで若いツバメになりますよ」
「秋水くん……もうっ、からかっちゃって」
分かってはいたけど、悪い男の子ね? と豊葉は秋水の鼻頭をピンっと指で弾く。
「っと」
「秋水くんのために言っておくけど、あまり不用意にそういうことを言っちゃダメよ?」
「不用意でしたか?」
「うっ。そうやって咄嗟に、今みたいな返しをするのもそうだけど、知らない女の子が聞いたら勘違いしちゃうかもしれないんだから」
「? 今この場では、俺は正しく豊葉さんに好意を伝えているつもりですよ?」
「だーかーらっ! そういうところよっ?」
パタパタと顔を手で煽いで、豊葉は汗でメイク崩れちゃったらどうするつもり? と非難がましい視線を寄越した。
秋水は反省した。
「すいません。自重します」
「ええ。そうしてね?」
「ただ、豊葉さんがドストライクすぎるんですよ。最初に交際を申し込んだときから、分かっていただいてると思いますが」
「うっ。そういえば、そうだったわね……」
豊葉は少女のように顔を赤くする。
無理もない話だ。
青墨秋水。鳶瀬山豊葉。
この二人、何もなければすんなり、真っ当な恋人同士になっていた二人である。
千歳のインターセプトによって、現状はハーレムルートになっているが。
些細なキッカケひとつ。
あのまま個別エンディングに向かっても、なんらおかしくない二人だった。
「さて。それじゃあ、行きましょうか」
「あ、ええっ。場所は分かる?」
「湯の森、って和風のフロアですよね?」
「そうよ? 今日は一週間の疲れを癒す、温泉デートにします♪」
「孔雀堂家のおかげで、フロア丸々貸し切りですもんね」
「すごいわよね〜」
二人はエレベーターに向かった。
高級ホテル〈グランド・ハーバー汐坐〉には、最上階近くに『離宮 湯の森』という旅館風スパフロアがあるのだ。
ホテル全体は非常に現代的なのだが、そこはまるで老舗の高級旅館や温泉宿じみた様相を呈していて、雰囲気がガラリと一変する。
数寄屋造りの回廊。
白木と檜。
枯山水の小庭園。
足湯のテラス。
庵風の茶室。
温泉ラウンジに湯上がり
「南湾岸区って、すごくきらびやかな場所よね。私は慣れなくて、やっぱりこういうのが落ち着いてしまうの」
「えっと、ツッコミ待ちですか?」
「え?」
「ここの温泉フロアも、充分にきらびやかだと思いますよ?」
「そ、そうねっ? ただ、他に比べたらねっ?」
「豊葉さんも、やっぱり名家のお嬢さんですね」
「お嬢さん……もうっ、またからかって!」
そ・れ・に。
と、豊葉は苦笑して続けた。
「うちはもう、かなり没落気味よ?」
「豊葉さんの代で、再興すると思います」
「あら、どうして?」
「どうしてって」
秋水は肩を竦めてみせた。
豊葉は長年の習慣のせいで、やはりまだまだ実感に乏しいところがあるのかもしれないが。
鳶瀬山家の【呪い】は解かれ、今や豊葉たちの術師としての実力は、汐坐で秋水に次ぐ。
つまり、協会から正式に等級認定さえ下りれば、あとは言うまでも無いのだ。
口を閉じる。
すると、秋水が口を閉ざしたのを、豊葉は違う意味で受け取ったみたいだった。
エレベーターに乗り込み、ものすごい勢いで目的の階層に運ばれていくなか。
「あっ、そうよねっ? 秋水くんが、私たちとけっ──」
「けっ?」
「──重婚制度って、実際どうしたら承認降りるのかしら?」
「思考がすごい方向に向かいましたね」
まぁ、それも不正解ではない。
仮に秋水がいなくても、今の豊葉たちなら自分たちの地力だけで、うまいことやっていける。
それを自覚してもらいたかっただけだが、もちろん、秋水ありきの未来を当然のものとして考えてもらえるのも嬉しかった。
豊葉は年齢の面で、なにかと遠慮しがちになる。
なのに、最終的な結論だけはまったくブレていないのが、かなり面白くて愛らしい女性である。
秋水への欲が凄い。
とか何とかやっていたら、エレベーターが目的階に到着した。高級ホテルのエレベーターは、速度が違う。
「ところで、これって混浴ってことですよね?」
「んっ?」
「いや、フロア丸ごと貸し切りですし……デートなんですから」
秋水は、「そういうことで、いいんですよね?」と確認した。
途端、豊葉はなぜか腰に手を置き、えっへん、のポーズになった。んー? 可愛いすぎか?
「もちろん、混浴よ?」
「おぉ」
「ふっふっふ。もしかして秋水くん、私がここで千歳や千景みたいに恥ずかしがると思ったの?」
「はい、多少は」
「ざんねん♪ 娘と変わらない年頃の男の子に、いつまでもコロコロ転がされる私じゃないわ」
じゃじゃーん! と。
豊葉は肩からかけていたカバンから、チラッと水着らしき布を覗かせる。
「ここの温泉施設、水着で入ってもOKみたいなの」
「なぁんだ」
「わっ! すっごいあからさま!? やだっ、テンション落とさないで? 水着よ? 水着っ」
「…………」
秋水は落胆しかけたが、しかし、水着であっても眼福である事に違いはなかった。
沈みかけていたテンションが、むくむくと再び鎌首をもたげる。
「あ、でも俺、普通の温泉だと思ってたので用意してないですよ? 自分の」
「そこは大丈夫。お高いホテルなだけあって、すぐ買えるみたい」
「なるほど」
一瞬、秋水は貧乏性ゆえにレンタルじゃないのか? と思ったが、水着なんだから当たり前だ。
水着のレンタルとか、よくよく考えなくてもキモすぎる。
「じゃあ、脱衣所から出たら、また合流ですね」
「うん。私の魅力で、ノックアウトしてあげるわ♡」
「ハハハ」
セリフの内容とウィンクに、秋水はそこはかとない同世代感を感じた。
が、それを言うのはやめておいた。
平成の余熱が、ここにはある。
脱衣所に入り、無人販売機で水着を購入し。
男の着替えなど大して時間は要さないので、秋水はスタスタ温浴場へ出た。
「温泉かや」
「ハルミ?」
「のぅ、ご主人様? 妾も入っていいかや?」
「構わないが」
「そうかや!」
言うや否や、実体化していたハルミが霊衣を解除し、瞬く間に全裸となって温泉へ向かっていく。
デッカイ胸。
ほっそい腰。
デッカイ臀部。
そこにさらに、デッカイ狐耳が嬉しそうにピンと動いた。
デッカイ尻尾も、上機嫌に五本同時に揺らめく。
デカ乳デカ尻デカ耳デカ尻尾デカ娘。
5Dだ。
白銀の毛並みが〝もばっ!〟と視界を圧迫したかと思うと、蛇の鱗模様を宿した艶かしい脚が、すぐにチャプンとお湯に浸かってしまった。
「は〜^〜^〜!」
「……」
「ごくらくごくらくっ!」
なんて、気の抜けた声だろう。
思ってもいなかった式神の登場に、秋水はやや呆気に取られた。
そうしていると、すぐ隣の女性用の脱衣所から、豊葉が慌てた様子で出てきた。
「ちょっと、ハルミ!? どうして急にっ」
「おお、すまんかや豊葉。悪いが一番風呂はこのとおりかや?」
「どうして!?」
「ご主人様が、いいと言った」
「秋水くん!?」
「ええ。言いましたが」
どうやら豊葉にとっても、ハルミの登場は想定外だったらしい。
「すいません。入っていいかと聞かれて、つい構わないと」
「ううん。秋水くんは悪くないわ……そうよね、これは私のミス……」
「ミス?」
「あの娘、お風呂が大好きなの」
「そうなんですか?」
「そうなのよ! うちでも毎日、ひどい時は一晩中お風呂なのよ! 光熱費が!」
「……」
最後の叫びは非常に共感できた。
だが、なるほど。状況は完璧に理解できた。
「ハルミは水の気を持つ女神ですからね」
「ええ。それに日本の神様なら、温泉だって好きに決まってるわよね……」
「他の連中は知らんが、妾は大好きかや♡」
ハルミの声音が、これまでで一番とろっとろっに
女神は温泉に浸かり、きちんと肩まで水面に沈み込ませ、えらく気持ち良さげに弛緩した表情を浮かべている。
「心配せずとも、おぬしらの邪魔はせんかや。妾は放っておいて、好きに乳繰り合うがいいかや?」
「言われなくても……!」
「豊葉さん豊葉さん。水を差されてムッとしたのは分かりますが、乳繰り合うのはさすがに」
裸に近い格好では、秋水も豊葉も大変になってしまう。
どうどう、と落ち着けると、水着姿の爆乳美女は「ごめんなさい」と静かに深呼吸した。
秋水はそこで、改めて気がついた。
「スゥ──、ハァ──」
「……あの、すいません」
「んっ、なぁに?」
「その水着って、どういう……」
「あ、これ!? どうっ? 似合ってるかしら?」
「似合ってはいますが」
豊葉が着ていたのは、普通の水着ではなかった。
セーラー服を模したビキニだったのだ。
「なぜ、セーラー?」
「理由は簡単よ? 私が制服好きだから」
「制服好き……」
「人間って、欲しい時に手に入れられなかった物に一生固執するでしょう? 私にとっては、これがそうなの」
「セーラービキニが!?」
「制服が!」
コホン、と咳払いを挟んで、豊葉が補足する。
「正確には、学園っぽいもの? 青春コンプレックスって言うのかしら? ほら、私って学園時代に何の華も無かったから、卒業した後でもいろんな制服を買い集めるのが、趣味になっちゃったのよね」
「何気に、結構すごい趣味のカミングアウトですね」
「学園ものの恋愛ドラマとかアニメとか、大好きなの」
「なるほど。今のを聞いた後だと、かなりの筋金入りだと分かります」
「分かってくれるっ?」
「ええ」
だって、目の前にセーラービキニがあるんだもの。
秋水は理解を示さないワケにはいかなかった。
「いや、にしてもすごいな……」
「ぁ、そんなマジマジ見られるのは、恥ずかしいわ」
「いや見ますよ。見ないわけ無いですよね?」
「うっ」
豊葉はどこに羞恥心を持っているのか。
セーラービキニとかいうドエッチな格好になっておきながら、今さらながらに恥じらった。
モジモジと内股を擦り合わせ、両腕で乳房や下腹部を庇うような動きをする。
白地にネイビー。
オーソドックスなセーラーカラーが、その内側に捉えた爆美女成人女性の魅力を、インモラルに爆発させていた。
プリーツスカート風の超ミニフリルが、かつてこれほどまでに淫靡に妖しく、ヒラヒラ揺れたことはあっただろうか?
豊満なおっぱいとおっぱいの真ん中では、半ば埋もれるようにしてネクタイが挟まって揺れている。
「み、見られてる……私、娘ほど歳の離れた男の子に……こんなにじっくり……♡」
「温泉入りましょう」
秋水はふざけるなと思って、提案するしかなかった。
豊葉の手を引いて、ハルミとは少し離れた位置からお湯に浸かっていく。
すると、おかしな気分になりそうだった気持ちも、物理的な環境の変化で幾らかマシになった。
「ふぅ──」
「あ、気持ちいいっ」
「いいお湯ですね。結構ぬめりけがある感じで、本格的な泉質を感じます」
「やっぱ週末は、ゆったり過ごしたいわよねぇ」
豊葉もだんだんと、心地良さげに雰囲気を変えていった。
しめたものである。
お湯に沈んでしまえば、どんな視覚的暴力であっても関係ない。
なにか特別な成分でも混ざっているのか、温泉も乳白色に濁っていて水面下が見えると言うこともなかった。
秋水は心から安心して、豊葉と肩を並べながら「ほぅ」と吐息を漏らす。
その横顔を、豊葉はギンギンの目つきで凝視していた。
「……あの、豊葉さん?」
「なにかしら?」
「俺の顔に、なにか?」
「水の滴るいい男が」
「血縁ですね……」
「八千代と八千花を想像したのね? でも、仕方がないでしょう?」
豊葉はお湯のなかで体勢を変え、まるで潜水艦のように近づいて来た。
湯煙漂う温浴場で、顔だけ出した爆乳美女がお湯のなかで四つん這いになっている。
わざわざ秋水の正面に回り込んで、膝を探り当てて手を置いて。
「千歳と千景の前じゃ、なるべく抑えるようにしているわ」
「……」
「でも、当主なんてやってると、いろいろ疲れも溜まるしストレスだって溜まるんだもん」
「うわぁ……いまの、最高に可愛いですね」
「ほんとう? だったら、うれしい……」
豊葉はお湯のなかで、秋水の膝を妖しく撫でる。
両の手のひらを使って、ぬるぬるとトロミのある泉質を利用し、イタズラげに若いツバメの肌を堪能する。
しかし、その顔が不意に曇った。
「ざんねん。このなかだったら、今なら誰にも見えないのに」
「豊葉さん?」
「子どものキスしかできないなんて、ツラいわ」
「……」
距離が縮まる。
女の手が男の胸板に伸び、寄りかかる。
秋水は正面から、豊葉の唇を受け入れた。
一秒、二秒、三秒。
ゆっくり離れる、甘美な柔らかさ。
唇の肉がぷくっと押されて、表面張力でくっついた後に剥がれる感触さえ、それは入念に教え込む。
目蓋を開けた豊葉が、長いまつげを濡らして「怒る?」と訊ねた。
「そうですね。本当なら、キスは依穂さんとも合流してからの予定ですよね」
「ごめんなさい。我慢できなかったの」
「……じゃあ」
秋水は思った。
これが、あの娘たちの母親だ。
確実な遺伝子と血縁だ。
千歳は一度そうと決めれば、躊躇いなどまったく無く果断に攻め立ててくるし。
千景はアマアマなムード作りと、積極的なキスが凄い。
ならば豊葉は? 答えがこれだ。
「じゃあ、秘密にしてあげますから、罰としてもう一回」
「ん、ちゅ──」
許しを口にした途端、少し大きな波を立てて前のめりに吸い付いていくる。
秋水の膝の上にまたがって、顔を両手でしっかり掴みながら、女としての欲求に忠実になる。
無論、これは秘密でも何でもない。
ただこの場の雰囲気を、盛り上げるための言葉でしかない。
その甲斐はあった。
今度のキスは、十秒以上だった。
「っ……」
「はぁっ……ありがとう。ごちそうさま♥」
妖艶な舌舐めずり。
とんでもない色気。
秋水は耐えられなくなり、目を逸らした。
いや、立ち上がって水風呂を探した。
「あんっ、どこ行くの?」
「ちょっと水風呂に」
「エッチな気分になっちゃった?」
「誰のせいだと思ってますか?」
「うふふ♥ ごめんなさい、私も少し頭を冷やさなきゃだわ」
豊葉が秋水の手を離す。
なので、ちょっとの間だけだが、二人は高級ホテルの温浴場で一人になった。
水風呂に向かう前、秋水はチラリと豊葉をもう一度確認する。
手を振られた。
振り返して、ついでにハルミのほうも見る。
「かや〜^〜^〜」
「なんだそれ」
乳白色のお湯に包まれた女神は、独特な声を漏らしながら満悦げだった。
それから五分ほど。
秋水が戻ってくると、温泉では大事件が起きていた。
「豊葉さん……?」
「あ、おかえりなさい秋水くん。水風呂は気持ちよかった?」
「はい。だいぶシャッキリできました、が……」
「? どうかした?」
呆然と立ち尽くす秋水に、何が起こっているのか分かっていない豊葉。
そこに、お湯から上がって器用に尻尾でカラダを隠したハルミが、「あ、そうじゃったそうじゃった」と近づいてくる。
「豊葉」
「あら、邪魔はしないんじゃなかったの?」
「すまんな。じゃが、ひとつ言い忘れておったわ」
「?」
「妾の神気は《春》と《秋》の霊力を垂れ流す」
「知ってるわ。それが?」
「うむ。じゃから妾と同じ湯に浸かった者は、霊泉となった温泉の効能によって、ふたつの姿を得る」
「ふたつの姿を……なんですって?」
「いま、豊葉は《春》の姿かや。まぁ、普段から無駄に気にしておったし、都合がいいかや?」
「えっ?」
端的に言おう。
「豊葉さん。たぶんですけど、若くなってます」
「?」
「歳は……十七、八といった頃合いかのぅ?」
「え、ちょっと待って──うそ、水着が少し緩くなってるわ……?」
「なんだって?」
秋水は思わず、多大なる損失に顔を手で覆い呻いた。
しかし、バシャン! とお湯から立ち上がった豊葉を見ると、あまり違いはよく分からなかった。
いや、注視すれば差はある。それでも、充分にデカい──
おっぱいの話である。
(え──じゃあ豊葉さんは、学生時代からこれだけ……?)
ピシャッ!
落雷が奔った。
戦慄が、脊髄を駆け抜ける。
豊葉の顔つきなどは、だいぶ幼くなっているのに。
まさか、そんな奇跡が──
「スケベが何か、一喜一憂しておるかや」
「えっ? ちょっ、え、これって……え?」
「効果はそのうち、自分でも制御できるようになるかや」
「──ハルミ。つまりこれは、若返りと成長の権能なのか?」
「
青春と白秋。
萌芽と円熟。
「じゃあ、これって──」
「今後は妾の入浴を、もっとありがたがるといいかや。妾の神巫には、いつでも若々しい肉体と人生の成熟期を賜すかや!」
「ちなみに、好奇心から訊くが」
「なにかや?」
「毎日この霊泉とやらに入ったら、どうなる?」
ハルミは、蛇のように裂けた瞳孔で。
狐のように首を傾げた。
「べつに、どうにもならんかや」
「そうなのか……?」
「うむ。ただ若返り、ただ熟れる。それを永遠に繰り返せるようになるだけかや」
「「………………」」
現代において、人はそれは『不老不死』と言う。
「む? 何を呆けておるのかや?
「それはそうだけどっ!?」
「……秘密がひとつ、増えましたね」
鳶瀬山家の術師としての価値が、莫大に跳ね上がった。
びっくり仰天なデートになってしまった。
「とっ、とりあえず依穂ちゃんに交代──!」
「ですね……」
「?」
事実が漏れれば、再び蟻道鈴昌のような手合いが現れかねない。
秋水はさらなる殺意と責任感を、両肩に負った。
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tips
◆霊泉
霊的効能を持つ温泉。
または聖なる泉のこと。
日本ではお湯や水をかぶると主人公がTSする漫画が有名だが、要はあんな感じ。
あなたは金の斧を落としましたか?
銀の斧を落としましたか?
正直者には両方授けましょう──
ハルミの場合、それは《春》と《秋》だった。
人の一生において、青春期と白秋期の姿を与える温泉。
最も若く瑞々しい十代の『花』の時期。
最も成熟し、蜜がしとどに濡れる馨しき『果』の時期。
春と秋を自由に行き来する。
蛇狐巫神は自らの神巫に、あまりに軽々と不老不死を与える。
すべては神の視座──人外ゆえに。
※なお、これまで発覚しなかった理由は、鳶瀬山家の巫女としての習慣で毎回お湯を張り直していたため。