クソボケ激メロ術師の現代伝奇バトルでハーレム構築スローライフ希求譚   作:所羅門ヒトリモン

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 元ネタ参考 YouTube ゆっくり解説
 姦姦蛇螺


第4話「姦姦蛇螺・1」

 

 

 姦姦蛇螺。

 それは近年、ネットを中心に急速に広まった怪談型都市伝説。

 体験談という形で語られる恐怖譚の名前だ。

 

 秋水は未遭遇だが、前世の記憶からテケテケと同じタイプのA.N.O.M.A.L.Y.と認識している。

 

 しかし話を聞くと、千歳が語る姦姦蛇螺は、その認識とは少々趣きを異にするようだった。

 

「はい、お待ちぃ! こちら季節の山菜と稚鮎の天麩羅蕎麦大盛りでぇす!」

「ありがとうございます。すいません追加で、鴨寿司もいいですか?」

「はい大丈夫ですよぉ! お客さん食べ盛りだねぇ!」

 

 店員が「少々お待ちぃ!」と、よく通る声で厨房へ戻っていく。

 その様子は喫茶店の店員というよりも、雑多な駅前に居を構える大衆居酒屋のあんちゃんじみていた。

 秋水はミスマッチだな、とか思いながら、断りを入れて割り箸を割る。

 

「すいません、食べながらでも?」

「あ、うん。大丈夫だよ。えっと、どこまで話したっけ?」

「姦姦蛇螺のあらすじまでですね」

「そうだった。……いまさらだけど、秋水くん食べるの平気?」

 

 千歳は心配そうに訊ねる。

 姦姦蛇螺の怪談は、割りかし凄惨な部類に入る内容だからだろう。

 もし映像化されたら、R18-Gは避けられない。

 

「ごめんね? 秋水くんはご飯が食べたかっただけなのに……」

「ああ、そのへんは大丈夫です。慣れてます」

「え、慣れてる……?」

 

 秋水が蕎麦を啜り、平然と答えると。

 巫女装束の少女は言葉の意味を探るように、反応に困った様子を見せた。

 秋水の言葉が強がりなのか事実なのか、どうにも受け止めかねたリアクションである。

 

 そんな千歳の表情に、秋水も内心で「珍しいな」と思った。

 

 ソロ活が中心の秋水だが、日頃から協会の担当事務員とは仕事に関するやりとりを重ねている。

 

 時には緊急性の高い案件もあり、口頭での情報共有もあるため。

 オペレーターである彼女たちは、秋水がこういう類いの反応を返す事に今では驚きを見せない。

 

 最初の頃は違ったかもしれないが。

 

 汐坐の筆頭術師に通知(アラート)されるA.N.O.M.A.L.Y.事件は、日常のあらゆるシーンに突然やって来る。

 文字通り日常茶飯事なので、秋水は他人に気を遣われる事に逆に新鮮さを覚えた。

 

「お気遣いありがとうございます」

「あ、うん。秋水くんって、なんか本当に凄腕なんだね……?」

「あれ? まだ疑問形なんですね」

「疑ってるワケじゃないよ? でも、なんかあまりにも淡々としてるから……」

 

 私の周りに、こんな感じの伝奇術師はいなくて──と。

 千歳は戸惑いを隠し切れない。

 無意識にか、まじまじと秋水の顔を凝視してくる。

 

 よっぽど信じられないようだ。

 

 ツチノコでも見たような不思議な眼差しが刺さる。

 詳しい話は、まだ聞いていない。

 だが、頭出し程度のことは秋水もすでに聞かされている。

 

 姦姦蛇螺。

 

 ()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 最初の語り出しから、秋水はてっきり、鳶瀬山に姦姦蛇螺が出現でもしたのかと想定していたが。

 どうやらそういうワケではなく、事はもっと根深い話のようだ。

 

 山菜と稚鮎の天麩羅をツユに浸し、適度に柔らかくした衣をしゃくりと齧る。

 ひさご庵の天麩羅蕎麦にはデフォルトで、大根おろしと山わさび、七味唐辛子がついてくるようで、秋水はまず味のパンチの弱い大根おろしから楽しんだ。

 

 頬が思わずほころぶ。

 

 くすっ、と。

 千歳が微笑ましそうに口元を隠す。

 

 不思議な感覚だった。

 女子高生に笑われている。

 なのに肉体は、歳上のお姉さんに子どもっぽいところを見られたような感覚を得ていて。

 

 なんだかそれが、妙な気恥ずかしさだった。

 居心地が悪いのに、不愉快ではない。

 

 そして、秋水にはさらに意外な感覚がある。

 目の前の美少女が、よりにもよって【呪い】に冒されているなど。

 見た目だけでは到底、信じられなかった。

 

 ──姦姦蛇螺。

 

 世界が改変されたコトで、実際に〝在る〟事になった怪談。

 

◯〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 昔々、あるところに人食いの大蛇がいて。

 人食いの大蛇に襲われ困った村があった。

 

 村は大蛇を退治しようとしたが、大蛇はどうにも古の神に連なる畏れ多き存在のようで。

 尋常の理に囚われた只人では、まったく刃が立たなかった。

 

 そこで村は、霊験あらたかな力を持つとされる巫女に助けを求めた。

 

 ただの巫女ではない。

 巫女のなかでも特に霊力に優れた優秀な巫女だ。

 

 村人らの嘆願を聞き届け、その巫女は大蛇退治を請け負った。

 けれど巫女と大蛇の戦いは激しく、優秀な巫女といえども無事では済まされなかった。

 

 下半身を、食われてしまったのだ。

 

 巫女は霊力によってまだ生き永らえていたが。

 村人らはそれを見て、巫女の勝利は無いと判断した。

 

 人食いの大蛇に向かって、これなる巫女を生贄に捧げるから。

 どうか代わりに、自分たちは助けて欲しいと交渉したのである。

 

 大蛇はそれを承諾した。

 

 戦いのなかで、巫女にさんざん苦しめられていた大蛇は、巫女の命を以って荒御魂を鎮めると約束した。

 

 ただし、それには条件があった。

 

 巫女の両腕を斬り落とし、食べやすい形に整えるコト。

 

 村人たちはこれを、言われるままに実行した。

 巫女は生贄に捧げられ、大蛇の脅威は村を襲わなくなった。

 

 ……しかし後日、村の人間が次々に怪死を遂げる事件が起こった。

 

 腕を切断された遺体が発見されて、村は巫女の祟りだと震え上がる事になったのだ。

 しかも、巫女を襲った惨劇は、巫女の家の者が妬みから村人をそそのかした結果だとも判明した。

 

 以来、巫女の怨念は大蛇の霊威と混ざり合い。

 

 巫女の上半身と蛇の下半身を持つ異形六臂。

 禁忌の大怪異『姦姦蛇螺(かんかんだら)』を、この世に産み落としたと云う。

 

 そして、特有の儀式を以ってのみ封印が叶ったらしい。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜◯

 

 より詳しいあらすじは、ネットで検索をかければすぐに見つかる。

 動画配信サイトでも紹介されているくらいなので、ホラー趣味の人種なら姦姦蛇螺は常識かもしれない。

 

 だがこの、新世界において。

 

(──姦姦蛇螺は史実になるんだよな)

 

 巫女の正体は伝奇術師だし、畏れ多き荒御魂なる人食いの大蛇はA.N.O.M.A.L.Y.を指している。

 

 つまりこれは、A.N.O.M.A.L.Y.化した退魔巫女の物語だ。

 

 そして伝奇術師の術式(異能)は、『現実には起こり得ない不可思議な出来事や怪奇的幻想的な物語』を形にするコト。

 

 術式が【姦姦蛇螺】の(タイトル)を冠するならば。

 

「俺の妹と同じですね」

「妹さん?」

「ええ。夏乃……うちの妹も、【呪い】の術式持ちなので」

「……そっか。それは、大変だ」

 

 千歳を含んだ鳶瀬山家の退魔巫女は、全員がA.N.O.M.A.L.Y.を宿している。

 そういう話になる。

 

 伝奇術師の術式には、怪異や魔物を式神や使い魔として扱うモノがある。

 

 だが困った事に、そうした術式は必ず調伏の儀式が不可欠だったりする。

 

 調伏できなければ、ひどい場合だと憑り殺され。

 マシなほうでも、肉体を成り代わられたりする。

 

 なので【呪い】とカテゴリーされている。

 

「察するに、千歳先輩の家は末裔ですか?」

「末裔?」

「巫女の家族の生き残り。その子孫。だから呪われて、術式が怨念汚染された」

 

 話の筋を推理して、秋水は続いて七味唐辛子を投入した。

 ピリリとした辛味が加わり、味蕾を通じて腹の底にカッカッとした熱がとぐろを巻く。

 

 そうしていると、鴨寿司が運ばれて来た。

 

「はいお待ちぃ」

「どうも」

 

 鴨寿司は脂がノッていて、テカテカと照っている。

 パクリと口に運んで、ジューシーな肉汁を味わった。

 千歳は依然として、食事を注文しようとしない。

 白い白いと思っていたが、その顔色は少し血の気が失せ始めているようだ。

 

 脂っこいモノが苦手なのかもしれない。

 

 鴨寿司には濃い味付けがされていて、匂いが強かった。

 しかし、千歳は秋水に負い目を与えないためか、平気な様子を取り繕う。

 

「残念、ハズレです」

「違いましたか」

「うちはたしかに末裔なんだけど、封印を後から受け持った家系かな」

「そうなんですか?」

「うん、お母さんからはそう聞いてるの」

 

 姦姦蛇螺の怪談では、後世、姦姦蛇螺の怨念が強すぎるために。

 封印場所を定期的に、移す必要があるとも語られている。

 

 物語では封印の移設を、各地の伝奇術師協会との折衝を挟んで、土地土地の名家に頼って行うようになったとも。

 

 そのため、姦姦蛇螺の封印具には各地の退魔名家の家紋が幾つも並んでいるらしい。

 

 伝奇術師的には、これは霊脈の汚染を防いでA.N.O.M.A.L.Y.の発生頻度を下げる目的からだと理解できる。

 

 だがそうなると……

 

「じゃあ、千歳先輩の家はトバッチリになりませんか?」

「あはは。まぁ、そう言われるとそうなのかなぁ……」

「お話だと、馬鹿な不良に封印が緩められたせいで、体験談の当事者が呪われていましたよね」

 

 姦姦蛇螺のお話は、半グレの語り手とその仲間が度胸試しのようなもので、封印を破ってしまう事から始まる。

 

 では、そのとき。

 

「当時の封印を受け持っていた退魔家は、姦姦蛇螺の怨念の漏出を浴びた?」

「……」

「語り手はたしか、事件が起こる以前に何人か巫女の姿を目撃していたとも語っていたはずですね」

「うん、そうだね」

「なら」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 ただそれだけの理由で、鳶瀬山家は呪的な感染を避けられなかった──

 

 山わさびを蕎麦ではなく、鴨寿司のほうにつけて食べながら、秋水は「ひどい話だ」と思った。

 

 今まで汐坐に住んでいて、こんな話は一度も聞いていない。

 まさか夏乃の他にも、こんな【呪い】を宿している術師がいたなんて。

 

「調伏は?」

「してない。というか、できるワケないかなぁ」

 

 うちは代々、封印とか監視とか補助系の術師だからさ、と。

 神楽とか、知ってる?

 結構踊るの、得意なんだよ? と。

 

 千歳は何故か胸を張ってうそぶいた。

 

「……でも、姦姦蛇螺に呪われてからは、その呪いを抑えるコトでかなり力を使っててね」

 

 昔はそれなりに、一目置かれる汐坐の術師だったが。

 いまでは禁足地に、一般人の侵入を許してしまうほど本来の能力を損なってしまっている。

 

「そのせいで、筆頭の術師さんなんかには最近、いつも迷惑かけちゃってて!」

「……」

「他にも、協会や町の人たちに、たくさん迷惑をかけちゃってるんだぁ」

 

 秋水はそこで、一瞬だけ箸の動きを止めた。

 予想もしていなかったところで、北嶺区が近頃荒れている理由が分かってしまったからだ。

 

 千歳が秋水に、初対面にも関わらず長々と身の上話を告白した理由も分かった。

 

 禹歩は平安の時代、天皇や貴人が外出の際に、道中の安全を祈って陰陽家が行った舞踏術でもある。

 由緒正しい神社の娘なら、それがどれだけ高度な術かも見抜けて当然か。

 

「こんなコト、いきなり頼むのは礼儀知らずだし、迷惑だって分かってるけど──」

「いいですよ。やりましょう」

「──秋水くんに、もしよかったら調伏の儀式を協りょ……え?」

「やります」

 

 蕎麦と鴨寿司を食べ終えた。

 秋水は店員に視線で合図を送り、抹茶のバスクチーズケーキを運んで来てもらう。

 

「はいお待ちぃ! お済みの器、お下げしまぁす!」

「ハハ。景気のいい店員さんだ」

「えっ、えっ、秋水くん? その、いま何て……?」

「ん?」

 

 千歳が混乱しているようなので、秋水は「深呼吸して、落ち着いて」と穏やかに返す。

 フォークを手に取り、トロッとしたケーキを掬い取って。

 慌てる子どもを、安心させるため平然を装いながら甘味を食した。

 

「うん、美味いな。調伏の儀式の協力、やります」

「────せっ、接続詞がないよ!?」

「俺は妹を救うとき、そんなものを必要としません」

「っ!?」

 

 おかしな話である。

 千歳は自分から申し出ておきながら、断られるつもりで話をしていたようだ。

 

 だが秋水は、こんな話をされてスゴスゴと家に帰れるほど、腐っていない。

 

 十八歳は国の法で、成人として認められている。

 慣例的にも、限りなく大人に近い年齢だ。

 しかしながら、遥かに先を行く先達の目からすれば、まだまだ未熟な少女である事実は変わらない。

 

 女の子が見ず知らずの他人に、思わず助けを求めてしまうなんて。

 

 いくら術師としての腕を見込んだからと言っても、そんなのは明確な()()だろう。

 

 普通は家族、身内、近しい友人や隣人を頼りにするはず。

 鳶瀬山家の場合は一家揃って呪われているから、多少それが難しい条件なのは理解しても。

 

 千歳を見れば分かる。

 

 少女の人柄を見れば分かる。

 

 この娘が他人に好かれない理由は無い。

 美少女すぎて、嘘くさいまでに善性すぎて、やっかみから嫌われる可能性はあるかもしれないが。

 そんなのは少数派で、捻くれている側が悪い。

 

 大多数は好感を持つ。好意を持つ。

 

 にもかかわらず、これまで誰一人として救いの手を差し伸べなかったのだとしたら。

 

 ──穢れの忌避。

 

 それしか理由が、見当たらなかった。

 なるほど。

 鳶瀬山千歳が青墨秋水の名を聞いて、汐坐の筆頭当人である事実に思い至らなかったワケも真相はこれだろう。

 

 秋水が剣を抜くのを躊躇う理由は無い。

 

 そしてまた、大人が子どもを守る事に。

 人間として、大仰な理由も必要無い。

 

 抹茶のバスクチーズケーキ。

 そのほろ苦さをスイートに変えるため。

 追加注文は後にして、秋水は席を立った。

 

 イヤなんだよね、可愛い子が曇ってるのとかさ。

 

 それに大人になると、子どもが傷付きまくって血反吐吐いてるようなバトルものは、ちょっと可哀想で苦手になる。

 

 立ち上がった秋水が会計を済まし、「で、どこでやりますか?」と千歳に訊くと。

 

「……ふぇ?」

 

 少女はまだ、状況を信じられていない様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

【にィぃぃィぃぃぃ】

 

 その口が突然、千歳のものではない声を発する。

 

「っ!?」

「……なるほど」

 

 口角を吊り上げ不気味な笑みを貼り付ける少女の中の咒。

 千歳は顔面蒼白になり、慌てて口元を抑えようとするが、腕の動きが空中で不自然に止まる。

 また、音はただの笑みを表していたのに、その場に居合わせた秋水には不思議とこう聞こえていた。

 

〝よくぞ吐かした、殺してやろう〟

 

 姦姦蛇螺が、出現する。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 tips

 

 ◆鳶瀬山家

 姦姦蛇螺の怪談に登場する退魔名家。

 本作では姦姦蛇螺になった巫女の一族ではなく、後世になって封印を受け持っていた巫女一家の末裔とする。

 封印が緩められた際に怨念の漏出を浴びて、呪的感染を止められず本来の相伝術式を汚染されてしまっている。

 ただし、それによって現在は術式が二重相伝されるようになっている。

 家族は現在、女だけの六人。

 全員が【呪い】を引き受け、分散しながら辛うじて抑えているが、必ずどの時代も六人になるらしい。

 汐坐市では差別と言わないまでも敬遠され、事情を知らない術師からは力を失った零落家系と馬鹿にされている。

 

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