クソボケ激メロ術師の現代伝奇バトルでハーレム構築スローライフ希求譚   作:所羅門ヒトリモン

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第6話「こんなの好きになっちゃう」

 

 

 こんなの好きになっちゃう。

 夏乃は秋水を拷問していた。

 

 その日の夜である。

 

 学校から帰ってきた夏乃は、呑気に大食い系配信者の動画を眺めていた兄の首根っこを掴まえると、リビングで正座させた。

 正座させ、身動きを禁じ、膝の上にブロック状の石を積み上げていた。

 

 秋水は無表情でそれを受け入れている。

 痛みは多少あるが、特に気にするほどでは無いらしい。

 修羅に鍛えられた青墨家長男は、鋼鉄の肉体を有していた。

 なのでこれは、拷問風のじゃれあいかもしれない。

 

 しかし、雰囲気だけは引き締まったものだ。

 

 どこからかハリセンを取り出し、夏乃は実の兄を威嚇するように虚空で素振りをする。

 

「ふんっ! ふんっ! お兄様」

「なんだ?」

「これが何か分かりまして?」

「ハリセンだな」

「違います。お兄様懲らしめ器ですわ」

「なるほど」

 

 よく分からないが、要は遊びたいのだろうと理解し秋水は頷く。

 

「マ●カでもするか?」

「シャラップですわ! いまはレースゲームをしたいのではありません!」

「なら、ぷよ●トでもいいぞ?」

「こ、根本的にゲームをして遊びたい時間ではないのです!」

 

 夏乃は少しグラついていた。

 だが、ハリセンを思い切り振り下ろしてバチン! と音を鳴らす。

 すると秋水の横顔、肩からすぐ近くのあたりで小さな衝撃波(ショックウェーブ)が巻き起こった。

 ふたりの髪がわずかに浮き上がり、数秒だけふわりと膨らむ。

 青墨家兄妹が共用で使っているシトラス系シャンプーの香りがした。

 

 ふたりは風呂上がりで、パジャマだった。

 

「いいですか? お兄様」

「ああ」

「夏乃の怒髪は天を衝きましたわ」

「なにが気に入らなくて、駄々をこねているんだ?」

「ちょっといったん、お兄様フィルターを外してくださいまし」

 

 夏乃が頑張って真面目な雰囲気を作ろうとしているのに、秋水はあくまで兄の目線で妹に接していた。

 十六歳の女子高生に向かって、駄々て。

 

「まぁ? お兄様のなかでは? わたくしいつまでも小さく可愛らしい世界でたったひとりの大事な妹でしかないのでしょうが? いまはひとりの一般女性として意見申し上げているとご理解くださいませ!」

「ああ、分かった」

 

 秋水は頷いた。

 今夜の夏乃は大人びたい気分なんだな、と付き合ってあげる事にしたのだ。

 兄のそんな空気に思わずジト目になりかけながら、妹は話が進まないので仕方なくスルーする。

 

「いいですか? お兄様」

「ああ」

「お兄様はご自分が、世間一般的に結構な『顔整い』に入るコトを、どれだけ理解していらっしゃいますか?」

「美人な妹の兄だ。多少は容姿に恵まれてるか」

「多少ではありません。もうずっと、物凄くビジュがいいですわ」

「夏乃の横に立っても、恥ずかしくないくらいか?」

「むしろわたくしのほうが恥ずかしくなりますわよ!」

「オマエも少し、妹フィルターを外したほうがいいな」

 

 秋水は苦笑した。

 たしかに、どっちもどっちだった。

 身内の贔屓目。

 夏乃は兄が大好きすぎるし、秋水は妹を褒めるのに抵抗が無い。

 とはいえ、夏乃はそれでも客観的に、秋水の外見を上位だと判断する。

 

「コホンっ、そんなお兄様がですわよ?」

「今日の昼頃、協会に送ったメッセージの件か?」

「それももちろんそうなのですが! さらには無償で! 姦姦蛇螺の【呪い】からうら若き乙女を助けたとなってしまうと!」

「しまうと?」

「好きになっちゃいますわー!」

「誰が誰を?」

「お兄様が助けた鳶瀬山家の千歳様が! お兄様をですわよ!」

「まさか〜」

「というか、【呪い】は一家全員に分散されていたんですわよね? そうなると今頃は! きっと鳶瀬山家全員お兄様にメロメロのメロ……!」

「べつに、会ったときは特にそんな様子は無かったけどな」

「この大ボケお兄様……! それはまだ鳶瀬山家の方々が混乱している時の話ですわよね!? そんな調子でいたら! やがて世界中の女の子がメロつきますわよ!?」

「話が飛躍しすぎてないか?」

 

 冷静な秋水のツッコミは、しかしヒートアップしている夏乃の耳には届かなかった。

 

「だいたい! どうして名乗りもしないで帰ろうと思ったんですの!?」

「彼女たちは混乱していたし、それ以上に消耗している様子だったからな」

 

 姦姦蛇螺の顕現は千歳に限らず、鳶瀬山家の女たち全員にキツい負荷を与えてもいた。

 調伏が終わった後、秋水も説明義務を果たさず帰るつもりは無かった。

 

「だが、全身汗だくで息も絶え絶えの女性たちだぞ? まずは息を整えて、身体を休めてもらったほうがいいだろう?」

「それは……そうですけれども! でも一回、お兄様戻られてますわよね!?」

「少し時間が経った後でな。考えてみれば、何の手土産も無しにうかがったのは失礼だと思ったんだ」

 

 甘味は術師の体力回復に効果的でもある。

 

「ひさご庵のケーキなんて、彼女たちは食べ慣れているかもしれないが、そこはせめてもの気持ちだな」

「変なところで常識人!」

 

 夏乃は「ヒィィィ!」と叫んだ。

 タチが悪いのは、秋水のその後の行動である。

 秋水は直帰した。

 

「もう少し時間を待ってから、いったい何がどうなっていたのか……どうして説明してあげなかったのですわ!?」

「え、だって、もうその頃には協会から人が来てたしな」

 

 土地の汚染除去や一般人の検査など含めて、細かいことは協会に所属するプロに任せたほうがいい。

 秋水は生粋の現場要員のため、いつまでも居残っていても邪魔なだけだった。

 

 霊的に強い濃度を持つ存在は、時に存在しているだけで周囲のバランスを崩す。

 

「ほら、ヒナギクも呼び出しちゃったから」

「シット! すべてにそれなりの正論がありますわね!」

「こら。汚い言葉を使うんじゃない」

「誰のせいだと! 誰のせいだと!」

 

 夏乃は地団駄を踏んだ。

 すると秋水がまた、「こら。はしたない」と眉をひそめる。

 妹はキュンキュンときめきながら、「こんなの絶対好きになっちゃいますわー!」ともう一度天を仰いだ。

 

 なにせ、いまの汐坐市には大義名分もあるのだ。

 

 〝青墨秋水が結婚を前提にした男女交際を始めたがっている〟

 

 鳶瀬山家は今でこそパッとしない山田舎の退魔家だが。

 長年の【呪い】にケリがついたいま、本来の力を取り戻すだろう。

 そして今回の一件から、必ずや()()()()()()()()()()()捲土重来(けんどちょうらい)を果たそうともするだろう。

 

 これは夏乃しか知らない青墨家の秘密だが。

 

 ──よいか、夏乃。

 ──はい、お祖父様。

 ──秋水は強い。ゆえ、その力を求めて必ずや擦り寄らんとするものが出てくるだろう。

 

 そうした者のなかには、邪な思いを持って秋水を利用しようとする輩も出てくるだろう。

 よって夏乃は、祖父に代わって窓口の役割を受け継いでいる。

 

 すなわち、青墨家に届けられる縁談やらに関して。

 

 これまで夏乃は、それを大好きな兄を独り占め──もとい、守るために完璧にこなしてきた。

 外からの干渉はすべて、遮断して来た。

 

 けれども。

 

(うぅ、うぅぅ〜〜〜!)

 

 ボケボケした兄。

 まさか内側から、隙を突かれるなんて。

 まだまだ恋愛なんて、興味は無いだろうと勝手に思い過ごしていた。

 だが兄も、一匹のオスだったのだ。

 

 夏乃はハリセンを落とし、ブロック石をどかして秋水の膝の上に座る。

 

「……夏乃?」

「お兄様のばーか」

 

 妹は仕方がないので、精一杯甘えるコトで溜飲を下げようとする。

 

「マ●カもぷ●テトも、両方やりますわよ」

「俺が勝つ」

「いいえ、勝つのはわたくしですわー!」

 

 兄妹はなんだかんだ、仲が良かった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 こんなの好きになっちゃう。

 同じ頃、鳶瀬山千歳は頬を染めていた。

 

 場所は鳶瀬山神社の境内裏。

 和風邸に拵えられた鳶瀬山社務所の別館。

 千歳たち汐坐の退魔巫女の生活拠点。

 畳と襖で間仕切りされた大部屋だ。

 

 昼間の混乱や喧騒は、すでに静まっている。

 日も沈み、いまはもう協会の後片付け屋も去ったあと。

 

 大事を取って今日一日は、千歳を含んだ六人全員とも安静にしなければならないが、すでに体力・霊力ともに回復している。

 

 そのため、鳶瀬山一家は緊急の家族会議を開催していた。

 

 議題は当然、【呪い】について。

 長年にわたり先祖代々鳶瀬山家を蝕み続けた姦姦蛇螺。

 怨念を抑え込むだけで手一杯で、調伏など出来るわけなかった大怪異の咒。

 

 鳶瀬山家は幸か不幸か、封印や監視などの補助系の術式に秀でた家系であったため、これまでは辛うじて日常生活を可能にしていた。

 

 しかしそれは、伝奇術師としてはほとんど翼を捥がれたに等しく。

 少し霊感の高い一般人と同じ域にまで、力を制限される不遇の日々だった。

 

 それが今日、解放された。

 

 姦姦蛇螺が調伏されたのだ。

 

 ──そう。

 

 汐坐の筆頭術師、青墨秋水そのひとの手によって。

 

「ど、どうしようお母さん! 私、秋水くんが筆頭さんだったなんて──」

「落ち着きなさい、千歳」

 

 動揺した千歳が、頬に手を当てながら顔を覆いそうになると。

 大部屋の上座で、千歳によく似た美女が娘の機先を制した。

 

 緩くウェーブがかった榛摺色のロングヘア。

 深い琥珀の狐の瞳。

 全体的に丸みの目立つ輪郭。

 千歳から柔らかさを少々差し引き、代わりに妖艶さと母性を足したような容貌。

 

 美女の名は鳶瀬山豊葉(トヨハ)

 

 汐坐の退魔巫女頭にして、山守を務める当主だった。

 豊葉は顎を引いて、キリッとした顔つきで見事な正座をしている。

 姿勢がとてもいい。

 

「私も彼とは初めて会いましたが、とてもカッコよかったわね。結婚しなさい」

「お母さん!?」

 

 だが出てくる言葉は様子がおかしかった。

 

「千歳にその気が無いなら、千景(チカゲ)にアタックさせるわ♪」

 

 とうとう声の調子まで明確に浮かれ始める。

 千歳は頬の熱も冷めやらないのに、どうしようと狼狽えた。

 母親がすっかり、妙な方向性に突っ走りつつあるためだ。

 

 しかも、双子の妹、千歳とはまさに瓜二つの美少女である千景が、さらに場を混乱させるような言葉を放つ。

 

「お母さん。その役目、謹んでお受けします」

「千景!?」

「あらあら、まぁまぁ!」

「だってこんな気持ち、初めてなんだから!」

 

 胸の前で両手を握りしめ、陶然と目を潤ませる千景。

 彼女は完全に一目惚れしていた。

 千歳は今まで、双子の妹のこんな姿を見たことが無い。

 

 今までも笑顔はあった。

 だけどそれは、暗い陰に足首を掴まれたような、常に陰影の付きまとうそれで。

 

 千歳も含めて、姉妹が心から華やいだ記憶は幼少の頃だけ。

 

 それが今や、ひょっとすると今の千歳より頬を赤らめている。

 

「ああ、秋水くん……私たちの白馬の王子様……!」

「しょ、少女脳すぎるよ千景っ!」

 

 漏れ出た発言に、思わずツッコミ。

 千歳は半身に愕然とした。

 

 そ、それはたしかにそうだけども!

 まさか家の中とはいえ、堂々とそのフレーズを口にするなんて!

 

 おかげで千歳の脳内にも、どんどんイメージが膨らんで行ってしまう。

 たった数時間しか言葉を交わしてはいない。

 だけど、この場にいる誰よりも秋水と間近に接したのは千歳であり、まるで少女漫画のヒーローのように秋水の顔がフラッシュバックしていく。

 

 背景にはもちろん、花が咲き乱れている。

 

 春は過ぎ去り、すでに季節は梅雨。

 紫陽花の時候だというのに──

 

「ああ、ああっ! 千景のせいで私まで、春爛漫桜満開になっちゃう……!」

「うふふ? 我が娘ながら、何を言ってるのかしらね?」

「無理もないわ、豊葉。だって、他ならぬ私でさえ、こんなにもアツイ滾りを感じてしまっているんですもの」

「……まぁ♪ 依穂(ヨリホ)ちゃんも?」

 

 千歳が顔を抑え、恥ずかしさのあまり「きゃ〜!」とうずくまっていると。

 豊葉の隣から、これまた妙齢の巫女美女がビール瓶を片手に声を挟んだ。

 

 豊葉とそっくりで、髪の分け目だけ対照的なその美女は。

 

 鳶瀬山の結界統括を担う副退魔巫女頭。

 豊葉の双子の妹で、千歳と千景の叔母だ。

 

 年齢は三十四歳。

 しかしながら、その肉体年齢は二十六歳と言われても不思議はない。

 

 だからかは分からないが、ふたりは年甲斐もなく興奮していた。

 姦姦蛇螺の調伏は長年の夢。

 ふたりが少女の頃から待ち望んだ奇跡。

 

 人知れず怨念を抑え、人柱も同然の生贄となりながらも封印を続けてきた。

 

 だが心無い術師たちからは、落ちぶれた三流と罵られ。

 生まれてからこのかた、満足に力を使えたためしは一度も無かった。

 

 いま、その全身全霊が完全に自分だけのものとして充足している。

 

 古き退魔名家の血筋に相応しい霊格が、身体中に行き渡っているのだ。

 術師の人生など人身御供も同然。

 長年の忍耐から、諦観に沈み。

 

 愛する娘たちにさえ、同じ宿業を継がせなければならない罪悪感。

 

 しかしそれでも、姦姦蛇螺は徐々に徐々に封印を食い破り。

 贄と捧げた自分の人生さえもが、単なる徒労と分かっていた。

 

 徒労であっても、それ以外の対処法など存在せず。

 

 協会に調伏の儀式協力を打診しても、危険すぎると話は難航。

 調伏の儀式自体が、他の術師にとっては何のメリットも無いため、現実はいつも非情だった。

 

 およそ十年前を境にして。

 

 ならばもはや、山奥でひっそりと自然を愛でながら、一家でその時を待とうと。

 豊葉と依穂は、娘たちに隠れて涙を流す毎日だった。

 

 今日の昼ごろ、姦姦蛇螺がついに顕現してしまった際には。

 

 本当に、ついに終わりの時が訪れてしまったのだと絶望していた。

 

「青墨秋水くん……風の噂には聞いていたけれど」

「まさか、あんなに若い子だったなんてね」

「さすがは秋蔵さんのお孫さんだわ」

「是非とも、うちの娘を貰ってもらいましょう♪」

八千代(ヤチヨ)八千花(ヤチカ)でもいいわ」

 

 と、そこで。

 母親たちの会話を黙って聞いていたもう二人組が。

 茶化すように「「えー?」」と首を傾げた。

 双子らしいシンクロを見せながら。

 

「お母さんたち、そんなコト言ってますけれど」

「本当は自分たちが、名乗りを上げたいんじゃないのかしら?」

「「えっ」」

 

 依穂の娘である双子姉妹。

 千歳と千景とは従姉妹になる八千代と八千花。

 こちらも負けず劣らず美少女である。

 ただ、ふたりはより双子としての特徴が強かった。

 

 ふたりでひとつの意思を口にしているような、そういう話し方をした。

 

「だってさっきから、お母さんたちの顔」

「私たちと同じくらい」

「恋する乙女みたいなんですものね」

「「ま、まさか……」」

「同時に反応しちゃってるところが」

「余計に怪しいと思うわ」

 

 でも、いいんじゃない? と。

 ふたりはパタパタ互いの顔を仰ぎながら、胸元の袷にもパカパカと風を送り込む。

 

 夏が近い梅雨とはいえ、今夜はそれほど湿気も高くなくて過ごしやすい部類なのだが。

 八千代と八千花は、火照って仕方がないのである。

 

「チト姉が姦姦蛇螺に取り憑かれたとき」

「この場にいた私たちも、あの光景を目の当たりにしてしまった」

 

 そもそも今日は、一家揃って奉納殿で、神楽を舞うことで封印を補強する予定の日だった。

 鳶瀬山家の女は全員、霊的な絆から昼間の事件を我が事のように感じている。

 

 つまり、青墨秋水がひたすらカッコよく姦姦蛇螺を圧倒し。

 最後にはお姫様抱っこで千歳を家まで運んできた際には、自分たちがそうされているように感じていた。

 え? こんなコトがあっていいの?

 

「お母さんたちの結婚って」

「術師の人口を保つためのもので」

「お父さんたちとの間に、愛情は無かったんですもんね」

「しかも、お父さんたちは嫌がってた」

 

 悲しい話だが、事実である。

 姦姦蛇螺に呪われた鳶瀬山家には、当時の術師は誰も近づきたがらなかった。

 

 ゆえに、女としての幸福を目覚めさせてしまっても、べつにいいんじゃないかしら? と双子は呼気を荒くしている。

 

「「それに、私たちがこんな状態だと、お母さんたちも霊的にアテられてるでしょう?」」

 

 深い意味は言葉にせず、しかし、有する意味は伝わるように流し目が刺さり。

 悶絶していた千歳と恍惚としていた千景が、ますます耳まで真っ赤に染めて縮こまる。

 

 長い間、狭い世界に閉ざされ耳年増に育ったきらいのある双子娘たちだが、そうした欲求は八千代と八千花のほうが顕著に強かった。

 

 呪いを分かち合うほど絆が強い家である。

 時には五感や記憶、感情なども共有されてしまう。

 秋水との接触記憶などは、むしろ千歳ひとりから吸い出せるだけ吸い出そうと、ふたりは寄ってたかって霊的集中を高めていた。

 

 千歳の羞恥心が爆発しているのは、そういう事情もあった。

 

 なので、娘たちの反応を目の当たりにして。

 ふたりの母親は「はぅ」とアツい息を漏らしつつも、だが懸命に堪えていた。

 

「「それとも、この昂りはお母さんたちから私たちに流れ込んでるのかしら?」」

「……八千代、八千花」

「ひ、否定はしないけれど。でも、だからと言って、お父さんたちを蔑ろにしてはいけないわ」

「あのふたりもまた、命を賭してA.N.O.M.A.L.Y.と戦ったの」

「「それは……そうだけど」」

 

 もう、十年以上前の話である。

 娘たちにはほとんど父親の記憶が無いし、母であるふたりにもほとんど、夫婦らしい思い出は無い。

 だったら、と。

 

「チト姉もチカ姉も」

「思うでしょう?」

「お母さんたちが幸せになったって」

「いったい誰が責める権利を持つというの?」

「…………異論はないわ」

 

 千景が大きく間を置いてから、ええ、と頷く。

 しかし。

 

「でもその前に、一応言っておくけれど」

 

 結婚は一対一よ……?

 と、千景が大前提を振り返る。

 八千代も八千花も、まるで自分たち全員が秋水と結婚できるとでも言わんばかりに話を進めているが、この国では重婚を許されていない。

 

「「表の法律の上では、ね」」

「…………それも、そうかも」

「千景ぇ!?」

 

 まともな思考の女は、もはやほとんどいなくなっていた。

 うずくまっていた千歳が、ガバリと上体を起こして妹に目を向ける。

 

「私たちぜったいにいま、冷静じゃなくなっちゃってるよ!」

「でも、術師の人口維持は国も奨励してるし……」

「あぁぁ、どうしましょう……!」

「これってもしかして、私たちも名乗りをあげていいのかしら……!」

「お母さん!? 叔母さん!?」

 

 じょ、冗談よ……と。

 母親らが目を背けながら、呟くものの。

 千歳は戦々恐々と震える。

 

 こんな、こんな……六人全員まとめてひとりの男の子に陥落だなんて……!

 

 しかも何の天恵なのか。

 折しも相手は、ちょうど今日になって恋人を募集し始めているし。

 協会の人たちから秋水の正体を聞かされて、千歳はもう何が何やら追いつかない状態だった。

 

 というか。

 

(なんで筆頭さんって名乗ってくれなかったの……!?)

 

 ずっとずっと、憧れの人だった。

 会うことも姿も見ることも禁じられていた。

 それでも、ひとつ歳下の男の子だとは聞いていて。

 まさかそれが、今日会った男の子と同一人物だったとは思わなくて。

 

(──私……!)

 

 ネットで「筆頭は絶対姉萌えで歳上好きだもん」とかイタい書き込みとかしちゃうくらい、憧れてたんですけどー!?

 

 千歳は目をグルグルさせて、心臓の爆音に息が苦しかった。

 千景も同じだ。千景はネットで、筆頭夢小説なるものを執筆しているし。

 

 八千代はエロ同人女だから、R18筆頭本を描いている。

 八千花はエロ同人音声シナリオライターのバイトで、R18筆頭ものを製作している。

 

 母たちに関しては分からないが、どうせ熟れたカラダを持て余しているに決まってる……!

 

「ダ、ダメだから! 秋水くんとは私が最初に会ったんだから、ダメぇ!」

「わ、分かってるわ千歳」

「大丈夫。豊葉も私も、わきまえているわ」

「普通に考えて、秋水くんがこんなオバさんたちに興味を持つワケないでしょう?」

「ええ、そうよっ」

「「……やだ。私たちのお母さん、自分で言って自分で凹んでる」」

 

 茹だるような夜だった。

 汐坐の次期退魔巫女頭は、高揚と不安、羞恥とかで家族を睨まずにはいられなかった。

 

 巫女なのに、全員とも頭のなかがピンクだった。

 

 

 

 

 

 

 

 なお、後日。

 

「豊葉さん、よければ自分とお付き合いしてくれませんか?」

「はい、喜んで……」

「ちょええええええええええええ!」

 

 秋水は歳上が普通に許容範囲内だった。

 許容範囲内すぎた。

 

 なぜなら中身が三十歳だからである。

 

 

 

 ────────────────────

 

 tips

 

 ◆鳶瀬山豊葉|母・双子姉|34|退魔巫女頭・山守

 T170 B120.0(Qcup)W58 H92

 趣味は学園モノの恋愛映像作品視聴。

 

 ◆鳶瀬山依穂|叔母・双子妹|34|副退魔巫女頭・結界統括

 T170 B119.8(Q寄りのPcup)W57 H91

 趣味はお酒と官能小説購読。

 

 ◆鳶瀬山千景|双子妹|18歳|山務補佐

 T171 B100.0(Icup)W56 H88

 趣味は激甘少女漫画と生もの夢小説執筆。

 

 ◆鳶瀬山八千代|従妹・双子姉|18|結界補佐

 T169 B102.2(Icup)W56 H89

 趣味は生ものエロ同人製作。

 

 ◆鳶瀬山八千花|従妹・双子妹|18|結界補佐

 T169 B101.6(Icup)W56 H89

 趣味は生ものエロ同人音声作品製作。

 

 現実逃避とストレス発散系の趣味に溺れている茶髪爆乳一家です。

 

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