クソボケ激メロ術師の現代伝奇バトルでハーレム構築スローライフ希求譚   作:所羅門ヒトリモン

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第9話「恋の始まりは抹茶味とともに」

 

 

 ──で、結局。

 

「この関係性には、どんな名前がつけられますのー?」

 

 午前十時。

 兄の動向を霊視していた夏乃は、白目を剥きかけながら呟かざるを得なかった。

 授業中であるため、教科書を顔の前で開いて周囲から顔面を隠し、極めて小さな声で掠れた息を溢す。

 

 だがその額の斜め横上には、ピキピキとした青筋が浮かびかけていた。

 

 夏乃が恐れ、怒りに震える事態が現実と化してしまったからだ。

 

『ハァ。関係性の名前? そんなの、分かりきってるでしょう?』

『ファック』

 

 式神であるヒナギクが、念話によって嘆息を伝えてくる。

 なので同様に念話でリアクションをし、ファックって……と呆れさせたところで夏乃は教科書をグシャリと握りつぶしかけた。

 

 付近の席から、「え」という声が漏れた気がしたが、気のせいだろう。

 

 夏乃は思う。

 この結果は必然であったと。

 秋水が今朝、鳶瀬山家に向かった時点で読めていた流れだったと。

 

 今朝の兄は何かしら、決意に満ちた顔つきだった。

 いつもなら納豆を一パック食べるところを、今日は二パックも開けて贅沢に亜鉛を摂取していた。

 

 亜鉛は男性ホルモンであるテストステロンの分泌を助ける。

 

 つまり、やる気だ。

 兄は今日、ゴリゴリにオスのオーラを漂わせて北汐坐町に発った。

 なので夏乃は、今日中に姉ができるものと覚悟を済ませていたつもりだった。

 

 秋水が交際を打診して断る女など、この世にいるはずがない。

 

『ブラコン』

 

 そうとも。夏乃はブラコンだ。自他ともに認めるブラザーコンプレックスだ。

 だから秋水が恋人を作ろうと思い立ったなら、それは猿が木に登り魚が水中を泳ぐのと同じくらい容易なコト。

 

 でも、これはいったい何なんだろうか?

 

(餅突きなさい、夏乃……分かっていますわ……)

 

『全然落ち着けてないわ!?』

 

 夏乃の兄は、汐坐で一番カッコいい。

 だが同時に、汐坐で最もアンポンタンなところがある男性かもしれない。

 

 秋水は己が欲望に忠実だ。

 快楽の追求に忠実だ。

 

 これまでその"欲望への忠誠心"は、ハイエンド志向の高級家電調達や食の面で満たされてきた。

 あるいはこれからも、そうやって満たされていくだろう。

 

 現代社会において最も効率的にリターンを得られる仕組み。

 それは金銭を媒介とした取引制度である。

 

 早い話、夏乃の兄は『散財』によってストレスを発散している。

 手っ取り早く欲望を満たすため、お金を使って脳に幸福物質を満たしている。

 

 では、そんな兄が恋愛面でも同様の行動を取るとすれば。

 

 出会って間もないとか、そういう事情はいったん放り投げて。

 まるで結婚相談所の事務手続きのような、条件面からのネゴシエーションに話を持って行っても不思議は無かった。

 

 事実、それは予想した通り行われた。

 

 恋愛ってそういうものじゃないですわよね!?

 

 ツッコミどころは当然あったが、あの場にいたのは秋水にメロついている女だけだ。

 

 鳶瀬山家は案の定、恋にのぼせ上がっているし。

 術師家系としても、千載一遇のチャンス。

 

 筆頭である秋水を逃そうとするはずもないのだから、多少の無風情にも好意的解釈によるフィルターがかかっていたのだろう。

 

 夏乃は歯軋りしながら、事の推移を見守っていた。

 

 途中、兄が自分も高校生であるのに「子どもだから結婚は〜」みたいな事を言い出したときは、「これもし自分が同じ立場だったら泣きますわね」と思わず千歳たちに同情した。

 

 それはそれとして。

 

 秋水から名指しされた豊葉と依穂。

 ふたりが形だけでも引き下がろうとしなかったのには、「ムムッ」と眉間の皺が寄った。

 

 どちらもたしかに美女。

 腹の立つほど女性美に富んだメス。

 

 だが、秋水の提案を受け入れたら、ふたりは社会的に"男子高校生に手を出した人妻(未亡人)"である。

 

 娘たちの手前、多少は躊躇するかとも思っていたが、予想に反してふたりは照れ笑いをするだけだった。

 

 ──さ、さては男日照りの頭ピンク巫女ですわ……!?

 

 失礼だが、夏乃はそう思った。

 あながち間違ってもいないだろう。

 とはいえ、問題はそこではない。

 夏乃の兄を前にすれば、すべての女はそうなる。

 

 例外は妹である夏乃だけ。

 つまり秋水にとって、唯一無二の異性こそ夏乃。

 アイ・アム・パーフェクトシスター。

 

 だがそんな夏乃の目を以ってしても、そこから先の展開は解せなかった。

 

(お兄様が受け入れたのは……)

 

 恐らく、自分が提示した条件よりも相手方の条件のほうが、魅力的だと判断したからだろう。

 

 あと、秋水の悪いクセだが、どうも自分の価値を分かっていない所があるので、そのせいで相手方の好意に不意を突かれた部分もあるに違いない。

 

 戦闘時は淡々として、めったに眉ひとつ動かさないのに。

 ときどき子どもみたいに、素直に感情豊かになる。

 

 浮かれて、照れて、嬉しくなってしまったから、それを与えてくれた相手の要求に従った。

 

(可愛すぎますわ……)

 

 兄の顔を見れば分かった。

 あれはもう、口ではマトモそうな事を言っておきながら、ほとんど陥落していた。

 

 いや、むっつりスケベなおっぱい星人である兄のことだ。

 きっと最初から、グラついていたのだろう。

 

 電気圧力鍋のカタログを見ている時とも、横顔がそっくりだった。

 

 なのに、にもかかわらず鳶瀬山家と明確な関係性に至らなかったのは、鳶瀬山家側が自らその機会を手放したからだ。

 

 一年間の猶予?

 誘惑して価値観を変える?

 ハーレムは公認?

 

 古い術師家系なら、せめて誰かひとりは選んで婚約でも結ばせておくのが最善だろうに。

 

 これじゃあまるで、少年マンガの甘っちょろいハーレム系ラブコメディである。

 最初から互いに好きだと分かっているのに、ただ一言それを伝えるためだけに何冊も巻数を要するのと同じ。

 

 自分からその"過程"に収まりに行くなんて!

 

 だいたい、一年間?

 終わった頃には、何も障害が無くなっている。

 色ボケの茶番だ。

 

「……警戒していたわたくしが、バカみたいじゃありませんの?」

 

 もう少し、兄を利用しようとしている。

 ちょっとでもその片鱗があれば、ヒナギクともども礼をしに行くつもりだった。

 夏乃は不貞腐れて、「これじゃあしばらく、誰をお姉様と呼んでいいのか分からないじゃありませんの」とも嘆く。

 

 なお、夏乃は現時点で最終的に全員お姉様呼びになる気がするし、嫌なのは今後もそれが増える予感しかしない事だった。

 

 お兄様め。

 

 せいぜいしばらく、甘っちょろい日常を謳歌すればいいですわ!

 

 もっとも、恋愛なんて何がどう転ぶかは分からない。

 付き合ってみれば、なんか違ったー、なんて話はいくらでもある。

 夏乃は少女漫画で知っている。

 

 ゆえに、嘆息する。

 だって、そうするしかない。

 最終的には、兄が決める事でもある。

 兄が決める人生であり、兄の幸せ。

 

 そして夏乃は、兄が決めた事なら、それがたとえどんな結果であれ受け入れるだけなのだ。

 

 結局は。

 

 ブラコンの業である。

 あの年の八月から、夏乃の兄への愛情は揺るがない。

 兄がたとえ世間から後ろ指を指される選択をしたとしても、変わらない。

 

 この世に幾千幾万の妹がいて、その愛情すべてを束ねたとしても。

 青墨夏乃が青墨秋水へ抱く兄妹愛には、比べようもない。

 

 と、その時、式神が再び念話を繋げてきた。

 

『ねえ、じゃあ私もかしら?』

『……は? 何がですの?』

『私もお姉様って、呼んでくれるの?』

 

 …………。

 

「………………キィィィィ〜〜〜!」

「あ、青墨さん!?」

 

 突如として頭を掻きむしり出した夏乃に、教室から次々、動揺の声が広がった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ひさご庵に来ている。

 妹の夏乃が、自身の教室でブラコンを拗らせ発狂しているとも露知らず。

 午前十時十二分。

 秋水は千歳とふたりで、ひさご庵に来ていた。

 

 最初のデート。

 

 先ほどの申し出と権利行使を、七人が同時に認めたからである。

 神社の参道。

 先日と違い、ふたりは店内ではなく店先のベンチに腰を下ろしていた。

 

 鎮守の森の樹冠からは、梅雨の曇り空がふたりを見下ろしている。

 

 その側では、ひさご庵の店構えを一際風流な佇まいに変えている立派な水車が、耳心地いい水音を立てながら回転していた。

 鳶瀬山の山頂付近から始まる渓流。

 その水の流れを引いて作られた用水路。

 

 ひんやりとした空気が漂うかと思えば、あいにくの蒸し暑さ。

 

「やっぱり、店内に入りますか? エアコンがあったほうが、快適でしょう」

「あ、ううんっ。だ、大丈夫だよ? もう着替えてるし」

 

 秋水が気をつかうと、千歳はぎこちないながらも大丈夫アピールをした。

 式神召喚時に着用していたスリット付きの巫女装束から、いまは普通の私服に変わっている。

 

 薄手の白シャツに、初夏らしい爽やかな翠を感じさせるロングスカート。

 

 秋水はあまり女性のファッションに詳しくないが、千歳の私服はシンプルながらもよく似合っていると思った。

 シャツの袖部分は側面がパックリとスペード型に開くようなデザインで、パックリ部分には花模様をあしらわれたレース生地が縫われている。

 薄く透けた白い二の腕。

 けれど袖口は、清楚なリボンでキュッと結ばれているので、大胆すぎず愛らしかった。

 

 もっとも、千歳のバストは平均を大きく超えているので、正面に回って白シャツの盛り上がりを意識してしまえば、結局は大胆な印象を覚えてしまうかもしれない。

 

「ぁ」

「ん」

 

 秋水の視線に気がついたのか、千歳がつい胸元を庇うように腕を寄せる。

 悟られた気まずさもあって、秋水はつい謝ってしまう。

 

「すいません、ご不快でしたか?」

「ご、ご不快なんてコトはないけど……恥ずかしくはあるかな」

「やっぱり、女性は男のそういうモノに敏感なものですか」

 

 言外に、慣れてるから不快ではない? と訊ねると。

 千歳は「秋水くんだから、不快じゃないんだよ?」と返してくる。

 

「あはは。会ったばっかりなのに、こんなに好きだなんておかしいよねっ?」

「……光栄です」

 

 なんと返したものか分からず、秋水の返答は退屈な二文字だった。

 光栄。

 光栄って。

 もっと他に、気の利いた言い回しがあるだろうに。

 

 ふたりは緊張している。

 

 そうしていると、ひさご庵の店内から茶菓子が運ばれてきた。

 

「はい、お待ちぃ。お客さんたち、常連さんになってくれるのかな?」

「あはは……」

「って、それを言うならこっちのお嬢さんはご近所さんか」

 

 例の店員は勝手に笑うと、秋水たちの反応を待たずにそそくさ奥へ引っ込んだ。

 空気を読んだのかもしれない。

 姦姦蛇螺による霊的汚染の影響も受けなかったようで、何よりだった。

 秋水は注文していた胡麻団子を手に取る。

 千歳も今日は、注文していた。

 

 抹茶のどら焼きと抹茶大福のセットだ。

 黒いお皿に綺麗にカットされている。

 

「和菓子、お好きなんですか?」

「あ、うん。和菓子っていうか、抹茶系が好きなの」

「苦くないです?」

「え? 秋水くんは抹茶苦手?」

「苦手じゃないです。俺も抹茶は好きですよ」

「あ、そっか」

 

 秋水が昨日、抹茶のバスクチーズケーキをパクパク食べていたのは千歳も知っている。

 少女は少し間を作って、

 

「じゃ、じゃあ、共通点だねっ」

「ええ」

「……一口、食べる?」

 

 早速、勇気を出して距離を詰め始めた。

 黒いお皿の上で、まずは大福のほうをさらにカットして。

 姫フォークで刺して、「あ、あ〜んっ」と攻める。

 

 だが秋水は食い気の男だった。

 

「いただきます」

「あ」

「うん、ぁむ、これは……粒あんだ。美味しいですね」

「ムム……」

 

 千歳は思ったような反応を得られなかったので不満に思いつつ、同時に「あ〜ん」を経験できた事に小さな喜びを得る。

 

「秋水くんって……意外と可愛いところもあるんだね」

「え? ……あ」

「ふふっ、かーわぃっ」

「…………」

「なんだか弟みたい」

 

 噛み締めるようなそれは、秋水に遅ればせながら自身を客観視させた。

 これで先ほどまで、高校生のうちは子どもだとか言っていたのだから、ますます居心地が悪い。

 だが、弟というのはさすがにどうなんだろう?

 

 精神的には歳下の娘さんに、さらに歳下扱いされるのは……なんだかだいぶ倒錯した感覚だった。

 

 いいかげん、肉体の年齢に意識をアジャストしたほうがいいのかもしれない。

 でもそれは、歳を取ると難しい話だった。

 課題だな、と秋水は心にメモする。

 

 少しずつ、少しずつ、慣らしていこう。

 

「千歳先輩は、弟が欲しかったんですか?」

「え? あ〜、まぁ、そうかもしれないかな?」

 

 秋水の問いに、「うちは男の人がいないから」と。

 少女は憧れがあるのかも、と答える。

 

「普通は母子家庭だと、お父さんに憧れがちみたいだけど……うちはほら、ちょっと特殊だからさ」

 

 伝奇術師の人口維持。

 それは一時期、汐坐市内でも問題になった社会問題。

 正確には現在も社会問題ではあるのだが、千歳が言っているのは過去に顕著だった強引な風潮。

 豊葉と依穂が実際に体験した愛なき結婚を指していると思われた。

 

「だから私はあんまり、お父さんとかにはイマイチ思い入れがなくて……あ、でもだからって恨みがあるとかではないんだよ!?」

「大丈夫です、分かります」

 

 秋水もそれは理解できた。

 

「俺の場合は祖父ですが、結構アレな人でして」

「……そう、なんだ?」

「たとえ家族であっても、愛せる相手とは限りませんよね」

 

 妹は愛してますが。

 そう苦笑する秋水に、千歳は少し言葉を噤む。

 ふたりはどちらとも、似ているところがあるのかもしれない。

 なんだか話せば話していくだけ、ますます共感できるところが増えて運命めいたものを感じていく。

 

 その感慨を、千歳は咄嗟に言葉にすることができず、胸の奥で大事に抱えた。

 

 一方で、秋水は恋愛ってこういうコトかもしれないと思い始めていた。

 

 SNSでは近頃、「自分はセックスがしたいんじゃなくて、セックスができるほどの関係性を誰かと構築したかったんだ」などという投稿がミーム化されている。

 

 それを見たとき、秋水は「これはなんて現代人の心に訴えかける名文なんだ」と思っていたが、いま、それを実感した。

 

 千歳のことをもっと知りたい。

 この娘は何が好きで、何を大切にして生きているのか。

 

「そう思うと、じゃあ家族でもない他人なのに誰かを好きになるって、すごく重たいコトですね」

「っ、そ、そうだね……?」

「千歳先輩の好意を、俺もそのつもりで受け止めていきます」

「〜〜! っ、秋水くんから私への好意は?」

「千歳先輩のことを、もっと知りたいと思いました。いまはこれで、許してくれますか?」

「…………いいよ? 私のほうが、お姉ちゃんだしねっ」

 

 ぷいっ、と。

 そっぽを向いて答える千歳。

 榛摺色の長髪が、ふわりと風に柑橘系の匂いを混ぜた。

 思いがけない偶然に、秋水はさらに驚きを禁じ得ず。

 

「で、いつ誘惑してくれるんですか?」

「!?」

 

 つい、意地悪な言葉を千歳の白いうなじにかける。

 

「弟を誘惑する姉なんて、インモラルすぎません?」

「ッ〜〜! 生意気! 生意気だよ!?」

 

 ガバリと振り返った千歳は、ちょっとだけ怒り顔だった。

 

「そんなにお姉ちゃんに誘惑して欲しいなら、はいっ!」

「ん?」

「ぎゅー、してあげる! だからほら、遠慮しなくていいよっ」

「…………やりますね」

 

 全力の照れ怒り顔からの、両腕解放。

 千歳の抱擁待機姿勢に、秋水は「そう来たか」と感心しながら──けれどそこで。

 

「すいません、行かないと」

「えぇぇぇぇ!?」

 

 けたたましく携帯端末に届いた、A.N.O.M.A.L.Y.発生アラート。

 画面を見せて、ベンチから立ち上がる。

 胡麻団子は急いで頬張り、丸呑みした。

 

「デートはまた今度、続きをしましょう」

「秋水くん!?」

「十件同時発生みたいなので、埋め合わせはそこで。皆さんにも、よろしくお伝えください」

 

 汐坐の筆頭術師は、超常現象の脅威から人々を守るコトで多大な報酬と自由を得ている。

 ならばその責任は、放棄されてはいけない宿命だった。

 

「十件って……だ、大丈夫なの!?」

「心配はいりません」

 

 そのための、強さ。

 秋水はお代を千歳の分も含めてベンチに置いて、名残惜しくも禹歩で跳び立った。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 秋水が去った後。

 蒸し暑さのなかに微かに香る男の汗とシトラスの軌跡。

 鼻腔をくすぐり、すぐに掻き消えてしまったその熱を。

 

「……秋水くん、やっぱりカッコいい」

 

 千歳は反則だなぁ、と何度も思い返した。

 去り際の横顔とか、ちょっと流し目で。

 またすぐに会いたいと、どうしても思ってしまっていた。

 

「あ」

 

 だが連絡先の交換を、まだしていなかった。

 

「あ〜〜〜!?」

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 そして秋水は。

 

「……っすぅ〜」

 

 禹歩で瞬間移動した先で、数秒だけ膝を曲げてうずくまる。

 屈伸体勢で背中を丸め、頭の後ろをワシワシ掻いて。

 

 思い返すのは、はちゃめちゃに可愛かった少女の照れ顔。

 

 ぎゅー、って。

 ぎゅー、してあげる! ってあんなのアリなのか?

 深く息を吸って吐いて、胸を落ち着かせて。

 

「テケ」

「マジで可愛かった……」

「テ ケ──!?」

 

 まずは一件目のA.N.O.M.A.L.Y.を、燃やすのだった。

 

「無粋の代償はマジで支払ってもらうぞ」

 

 

 ────────────────────

 

 tips

 

 ◆伝奇術

 霊力回路に霊力を流すことで起動される超常現象。

 かつて空想とされていた伝説などに由来する。

 一段階目では、原典のデッドコピーに過ぎない。

 たとえば、青墨秋水の倶利伽羅剣であれば、破魔の性能を持った黒剣を物質化するだけ。

 しかもその性能は、不動明王のA.N.O.M.A.L.Y.が持つ本物と比較するとカスも同然。

 二段階目に到達すると、この限りではない。

 二段階目の術師は〝主人公化〟を可能にしているため、すべてのパラメータに補正がかかり、アビリティやスキルも解放されて、初期ステータスも上がるイメージ。

 伝奇正装は二段階目の証である。

 なお、二段階目への到達は〝既存の物語の枠組みを逸脱した上で破綻しない事〟だとされている。

 

 

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