先生、fox2! 作:はすぼー
キヴォトス史上最大の危機収束から少し。先生は射撃訓練場を1人で訪れていた。建物がオレンジに染まる夕方ということもあり、そこそこ大きいはずの射撃訓練場には誰もおらず、大きな自動扉は静かに誰かを待っているようにも見えた。
キヴォトスの外からきた先生はキヴォトス人と比べて体が弱く、また射撃能力にも優れていない。銃弾一発でも致命傷となるため、基本的には前線に立たず、戦う生徒たちの指揮を後方から取ることが多かった。生徒を戦わせ、自分は安全な場所に。先生として活動する自身のそんな有り様に、先生は少しの罪悪感と無力感を感じていた。
しかし、そんな日々も今日で終わりを告げる。先生にはアロナとプラナと協力して考案した、秘策があった。先生は少しの高揚と失敗への不安を感じながら訓練を開始する。
「...アロナ、プラナ、始めよう」
「はい、先生!」
「状況開始です」
「オペレーションシステム、戦闘モードを開始します」
プラナの少し抑揚に欠ける、しかしながらどこか安心感のある声が訓練の開始を告げる。少しして、先生の視界にはインジケーターのようなものが見えるようになった。
「モニター接続、正常」
「成功ですね!」
視界の右下には残弾数0、武器なしの表示が。左下にはバッテリーの残量が表示された。視界の中央には薄い丸のようなものが表示されている。
「先生、射撃訓練の的を見てみてください!」
先生は言われた通りに少し遠くの人型の的を見てみる。視界の真ん中にある丸が赤色に変わり、ピピっと短い音がした。的をさらに注視すると、その少し右上に、詳細な情報が表示された。距離15m、武器、残弾なし。
「うん、視界はいい感じだね」
「やりましたね、先生!大成功です!」
「次は射撃訓練です、先生」
プラナに言われる通りに拳銃を手に取る。ベレッタAPX。射撃訓練場に備え付けの安っぽいが、確かにメンテナンスされている銃。弾薬置き場からマガジンを一つ取り、リロードを行う。残弾の表示が15になった。
(不思議とリロードがスムーズにいくな。今までやったこともないからもう少し苦戦すると思ったけど...)
「続いてロックの確認です。あの的を狙ってください、先生」
銃口を人型の的に向ける。初心者用のレーザーサイトもあったが、必要は無さそうだった。初めて銃を持ち、狙いを定めているが、動きは淀みない。照準がブレることもない。ベテランのガンマンのように、静かに獲物を狙い、必ず目的を遂行できるという確かな自信、全能感が先生を支配していた。
「ロック完了」
プラナがロック完了を告げる。視界の中心にある丸が点滅した。その右隣に射撃成功率。表示は100%だった。先生は少し息を止め、トリガーを引く。パン、という乾いた大きな音が鳴り、だだっ広い射撃訓練場に音が響く。弾痕は正確に的の中心、人間の心臓付近に残っていた。
「命中です!」
「リコイル制御、正常」
反動は全くと言っていいほど感じなかった。照準は僅かにしかぶれず、それもコンマ数秒の内に狙っていた場所へ戻っていた。
「射撃制御システム、すべて正常です」
「かんぺきー、だね」
「かんぺき、です!」
テスト結果は大成功だった。撃ったこともない銃を、初弾で命中させ、普段なら肘がおかしくなっていそうなリコイルも完全に制御できていた。数発続けざまにうちすべてほぼ同じところに着弾し、リコイルの制御もできていることを確認した。続けて、アサルトライフルも使ってみる。ガンラックに置いてあるアサルトライフルを取り、リロードをする。AK-47。残弾が30発になった。
「ウェポンチェンジ。残弾、30発です」
「7.62mm、威力十分です!やっちゃってください、先生!」
一瞬だけトリガーを引く。先ほどの拳銃より派手な音がした。流石に先程よりは強い反動があったが、それでも照準を合わせ続けるには問題ない程度だった。弾は相変わらず、的の中心に当たっている。9mm弾と比べ、明らかに大きい弾痕が残った。
息を少し吸い、集中を高めてトリガーを再び引く。今度はマガジンを空にするまで打ち切るつもりだった。工事現場のような、大きく連続したダダダダ、という音が響く。
「残り弾数、20、10、...0!リロードです!」
素早く予備のマガジンを取り出す。元のマガジンを弾き飛ばし、すぐさまリロードを行い、コッキングする。その間5秒もなかった。リロードが終わり、すぐに照準を戻す。1発だけ射撃を行う。弾は変わらずに的の中心に当たった。
「すごいです、先生!」
「他の生徒にも勝るとも劣らない戦闘力ですね、先生」
「これは..すごいね」
「これなら私も前線で銃を使って、戦える」
先生は正直いってここまでの効果があると思っていなかった。キヴォトス人には届かなくとも、有事の際に少しでも助かる確率が上がれば良いだろうと考えていた。しかし、結果は凄まじいものだった。銃を握ったこともない一般人が、歴戦の戦士、もしかしたらそれ以上に化けたのだ。
「付き合ってくれてありがとう、2人とも。とりあえず試したかった射撃訓練も終わったし、今日はここで終わろうか」
「はい!お疲れ様でした、先生!」
「オペレーションシステム、戦闘モードを終了します」
プラナがそう告げると同時に、視界にあったインジケーターが消えた。普段と変わらない景色。反動を受けたはずの体も痛みや疲労を特に何も感じなかった。
「バッテリー残量、残り70%」
シッテムの箱の充電は100%にしていてから射撃訓練場に着いた。今の射撃訓練でおよそ15分。単純計算で、1時間弱はこの射撃補助を受けることができる計算だ。
「分かってはいたことですが、充電の消費は早いですね...」
「射撃補助だけでも、おそらく1時間ほど。他にバリアや高速機動を行うと、およそ30分持つか持たないかだと思います、先生」
「うーん、この燃費がいいのか悪いのかは、まだわからないね」
シッテムの箱を利用し、先生の能力を底上げする。この考えに至ったのは、プラナが来てからだった。2人になった処理能力を利用し、複雑な並行処理を経て、ようやく実現したシステムだった。他にも機動力の底上げ、バリアの展開、動体視力の強化など、試したいことは山ほどあるが、それと同じぐらい仕事も山積みのため、あえなくシャーレに戻ることにした。シッテムの箱を持ってしてもリンちゃんの説教は避けられないのである。
再び銃を戻そうとすると、先ほどまで軽々扱っていたとは思えない重たさを感じた。身体能力も同じく、十分な底上げがなされていたのだろう
(これで、もっと多くの生徒を救えるようになるとといいな)
今まで考えもしなかった己の戦闘能力。これによって、できることの幅は大きく広がる。しかし、バッテリーという制約もある。危険な状況に飛び込めるようになったからこそ、バッテリー切れになった時のリスクも計り知れない。その現実をしっかりと認識しようと先生は心に刻んだ。
「でも、とりあえず...」
「お腹すいたー...」
久方ぶりの運動ということ。忙しくて昼食を食べれなかったこともある。腹の虫が鳴り、先生の空腹は限界だった。近くに何か飲食店はあっただろうか。
「あ"ー...」
「だいぶお疲れですね...」
「初めての試みですし、無理もありません」
アロナとプラナが苦笑いしているのが伝わってくる。大人として情けない姿であることは自覚しているが、それでも空腹には勝てない。子供でも、大人でもお腹は空くのだ。しかし、先生はもう限界だった。自分で作る気力もない、かといって近くの飲食店もない。レトルトはもう何回連続で食べたかもわからない。美味しいには美味しいが、たまには誰かが作った料理が食べたかった。
「しょうがないか...」
しかし先生には最後の手段があった。なんとなく申し訳なくてあまり気は進まないが、背に腹は変えられない。空腹もあいまって、あまり頭も働いていなかった。
「ワカモー...なんか作って...」
「はい!あなた様のご要望とあれば、何なりと♡」
どこからともなくワカモが出てくる。最初から見ていたのだろうか。いつも、ふとした時に読んでもワカモは必ずすぐに駆けつけてくれる。利用してるみたいで申し訳なく感じるため、頻繁には呼ばないが、ワカモとはたびたび行動を共にしていた。
「あなた様、何か食べたいものはありますか?」
「うーん...カレーかなぁ」
「はい!すぐに材料を買い揃え、作っておきますね!あなた様がシャーレに戻る頃にはもうできているかと♡」
そういってワカモはどこかに消えていった。彼女は自分の言葉を違わない。先生がシャーレに戻る頃には、部屋に美味しそうなカレーの匂いが漂っているだろう。
「さっすがぁ。たよりになるぅー...」
少しの休憩を挟み、先生は立ち上がった。ワカモが美味しい夜ご飯を作って待ってくれている。あまり待たせても申し訳ないし、早めに帰らなければならない。
「あっ」
「バス過ぎちゃった...」
ここの射撃訓練場は大きいこともあり、DUの少し外れにあった。バスを使ってここまで来たが、30分に一本ほどだろうか。その本数はあまり多くない。ワカモに謝罪の連絡だけ行い、先生はまたベンチに寝転がるのだった。
他の能力を欠くか、それともぶっつけ本番で戦闘しに行くか、次回は未定です。
ワカモがいるのは尽くしてくれるタイプの生徒で報われてほしいと個人的に思ったからです。
これからメイン生徒は増えるかもです。