森下藍に振り回される話   作:アルラトゥ

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第2話

 

 「──なぁ森下、なぜ俺達は2人だけで森を彷徨っているか、答えを出せるか?」

 「私達だけに森に潜む精霊達の声が聞こえ、その声が助けを求めていたので私達は救済のためクラスから離れたのです。しかしその声は罠でした。精霊達の真の狙いは声が聞こえた者を誘い、迷わせ、そして餌とするために食い殺すつもりでしょう。まさか精霊の主食が人間だったとは……これは世紀の大発見です。すぐに学会に報告しましょう」

 「まるで俺にもお前の言う精霊の声が聞こえていたような言い方は止めてくれ。ただ単にお前が『森の声が聞こえる……!』なんてほざいてクラスから離れて、俺はお前の後を追っただけだから」

 「つまり渡会桐人はストーカー……? 近寄られたくないので今すぐ100km離れていただけますか?」

 「俺がストーカーならお前は森の声を聞くことができる未確認生物か? これは世紀の大発見だな、すぐに捕らえて学会に提出しよう。死なないように丁重に保護されることを祈ってるよ」

 「何を意味不明なことを言っているのですか渡会桐人。森の精霊? 森の声? そんなもの存在するわけないでしょう。そもそも森は喋りません」

 「……………………」

 

 森下との会話は本当に疲れる。森下が急にクラスから離れ出したので後を追いかけたはいいが、森下は止まることなくズカズカと進み続け、俺達とクラスメイトたちとの距離は信じられないほど離れたはずだ。

 俺は森下藍世話係じゃないんだけど……なぜかクラスメイトからはそういう風に見られていることが多い。真に不服だ。

 

 「……とりあえず、さっさとクラスと合流するぞ。このままだとクラスと合流する時には日が沈んでいる頃合いになる。慣れない環境で周囲が見づらい夜に動くのは避けたいけど……点呼の時間になってクラスメイトに迷惑かけたくもない」

 「渡会桐人、足が疲れたので休憩しませんか?」

 「…………我慢しろ」

 「麗しき乙女に我慢を強要するなど人として信じられません。SNSに拡散し渡会桐人を炎上させなければ……!」

 「はぁ…………もう…………。わかった、森下を背負って俺が歩くのはどうだ? それなら森下はこれ以上疲れなくて済むし、合流も多少想定より遅れる程度で済む」

 「乙女に触れるなど本来は万死に値する行為ですが……今回だけは不問としましょう。早く私を背負いなさい」

 「……はいはい」

 

 森下をおぶり、クラスと合流を図る。葛城の言うベースキャンプに最適な場所というのには心当たりがあるので、そこを目指して歩き続けた。

 

 日が沈んでいく最中、なんとか合流はできた。

 

 「渡会、それに森下」

 「葛城……離れてしまって悪かったな……本当に疲れた……」

 

 想像通り、葛城は洞窟をベースキャンプ地にしたようだ。雨風は凌げるので悪くはない場所だ。

 

 「ご苦労様でした渡会桐人」

 「……もうちょっと温かみのある感謝が欲しい」

 「疲れているところすまないが……2人に事後報告することがある」

 「事後?」

 

 俺と森下がいない間に何があったんだ?

 

 「実は──俺達Aクラスは、Cクラスと手を組んだ」

 「Cクラスと?」

 「そうだ。2人がいなかったのでお前たちを除いて判断してしまったが……悪い条件ではないので受け入れた」

 

 受け入れた、という言葉からして、Cクラス側からの提案のようだ。

 

 「その契約内容は?」

 

 CクラスはAクラスに200ポイント相当の物資を提供する。

 CクラスはAクラスに格クラスのリーダーの情報を共有する。

 AクラスはCクラスに毎月1人2万プライベートポイントを支払う。

 葛城曰く、これが契約の内容らしい。

 

 「……え?」

 

 細かい条件もあってそれも聞いていたが、自分が知らない間に、とんでもない契約を結んでしまったらしい。

 

 「──そ、そうか。ちょっと驚いたけど……了解」

 「勝手に決めてすまない……。しかし、これでAクラスの勝利は確実だ。後は食料などを調達すれば、Aクラスは270ポイントを使わず、更にスポット占有と、2クラスのリーダーによるポイントがあれば最終的に400を超えるクラスポイントを得られるだろう」

 「……そうか、期待してるよ」

 

 俺は葛城から離れ、洞窟の奥で体を休める。なぜか森下も着いてくる。

 

 「渡会桐人、なぜ何も言わなかったのですか」

 「何を?」

 

 他の生徒に聞こえないよう、俺も森下も小声で喋る。

 

 「決まってます。あの穴だらけの契約です」

 「……まあ、そう思うよな。俺も思ったし」

 

 ぱっと考えつくだけでも、AクラスとCクラスは互いのリーダーを当てないとか、もしAクラスが200ポイントを下回った場合、契約は無効となるとか、色々付け加えた方がいい言葉はかなりある。

 

 「葛城康平は問題ないと思っているようですが、もしAクラスのリーダーを当てられれば最低でも-50、最悪150ポイントに、占有スポットで貯めたポイントは全て無駄になります。葛城派の失態は坂柳派としては喜ばしいですが、我々にも被害があるので他人事ではいられません」

 「……そうだな。けど、俺達はついさっきまでクラスから離れて行動していてその契約の場にいなかった。契約が既に結ばれた以上はもう手遅れだよ」

 「くっ……、森の精霊め! Cクラスと手を組んで我々を嵌めようとしていたのですか!」

 「お前さっき森の精霊なんて存在するわけないって言ってたよな?」

 

 しかし、さっき森下も言ったが、坂柳派としては葛城派が失態を犯すのは喜ばしいことだろう。ポイントを気にしないなら、平気でAクラスのリーダーを他クラスに売る者もいるかもしれない。

 

 「神室……橋本……鬼頭……橋本かな」

 「坂柳派の側近を羅列してどうしたんですか」

 「いや、なんでもない。とりあえずは何も言わず無人島生活を送っていればいい。十中八九200ポイントは下回るだろうけど、クラスポイントが増えるのは下手なことしない限り確実だ」

 

 森下は未だに不満そうだが、渋々ながら頷いてくれた。彼女はなぜか自由気ままに変なことばかりしているけど、大切な時に言うことは割と聞いてくれるので案外良い奴だ。……だからといって俺にちょっかいかけるのは切実に止めてほしいと思うが。

 

 

 

 

 

 次の日からAクラスは食料調達や焚き火に使える木の収集さえしていれば結構自由な時間が多くあった。

 Cクラスからのポイントを遠慮なく使っているので、洞窟内の環境も暮らしやすくなっている。集団生活はあまり経験はないが楽しく過ごさせて貰っている。

 

 勿論、集団生活──それも無人島内の洞窟で過ごすのは全員初めてで少なくない人物が大なり小なりストレスを抱えやすい環境でもある。俺はその人たちのケアや、数人を誘って食料調達に出たり、自然豊かな森の中でのんびり日光浴をしたり、ちょっとした諍いを宥めたりしていた。

 

 

 

 そして無人島生活も終わりを迎え──

 

 「3位。Aクラス、120ポイント」

 

 その言葉が、大半のクラスメイトに突き刺さった。

 4位はCクラスの0ポイント、2位がBクラスの140ポイント、そして1位はDクラスの225ポイント。

 やはりというべきか、葛城は失態を犯した。葛城だけのせいではないが、仮にもクラスのリーダーとしてお世辞にも良いとは言えない結果を出してしまった。

 坂柳派は勿論、葛城派だった人たちも葛城を責め立て、一部の葛城派が擁護する。

 いつもなら彼らを落ち着かせるのだが、今回は止めない。

 

 騒ぐAクラスの皆を置いて、一足先に船に戻る。

 Aクラスの試験結果は予想の範疇だったが、1位がDクラスなのは流石に驚いている。

 4月で全クラスに与えられた1000クラスポイントを、たった1ヶ月で0にしたクラス。そう思っていた。

 しかし、どうやらDクラスには切れ者が紛れているようだ。それが誰なのか、俺には分からない。平田と櫛田、軽井沢等としか話したことがないので俺もDクラスはあまり知らない。

 

 ……最も警戒しておくべきクラスかもしれないな。

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