姉様には転生者説があるらしい。   作:あいあむぬーぶ

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※この物語の主人公の心の声は、やたらのテンションの高いラムの中の人の感じで再生してください


王都の長い一日編
1:ゼロから始める姉様生活


 ―――炎が、村を赤く染めていた。

 夜空は赤く焼け、死の叫びと剣戟の音が絶え間なく響く。魔女教の黒い影が、静かに、しかし容赦なく鬼族の里を蹂躙していた。

 ラムは風を纏い、舞うように敵を斬り裂いていた。風の刃が肉を裂き、血が夜風に舞う。生まれつきの才能が、忌まわしき鬼の血が、ラムを「鬼神の再来」たらしめていた。

 

「レム……!どこにいるの……!」

 

 襲い来る魔女教徒を切り裂きながら妹の名を呼ぶ。

 

「お姉ちゃん……!」

 

 その時、どこかでレムの叫び声が聞こえた。

 周囲を見渡してみると、崩れ落ちた建物の残骸に隠れるように小さな影を見つけた。その姿は煤に塗れていたが、大きな外傷は見当たらない。

 

「よかった。無事だったのね……ラムはここよ。すぐそっちにいくから――」

 

 ラムはほっと胸を撫でおろし、レムの下へ駆け寄ろうとしたその瞬間。その隙突くように黒い影がレムの方へと飛びかかる。

 

―――まずい…!

 

「レム!!」

 

 ラムはレムを庇う様に前に立つ。その直後―――

 

 ガキン、と激しい衝撃が、額を襲った。視界が真っ白に弾け、ゆっくりと、白い何かが夜空に弧を描いて飛んでいくのが見えた。

 炎に照らされ赤く輝きながら、くるくると。

 

 あれは……自分の角だ。

 

「――あぁぁっ!!」

 

 それが自分の角だと理解した瞬間、痛みと喪失感に絶叫する。だけど同時に気づいてしまった。ラムを蝕み続けたあの忌々しい声が―――生き物を殺し、その血肉から魂までをも奪いつくせ。己の絶対的な力を、更なる高みへと昇華させろと囁く鬼の本能が―――いつの間にか消え失せていた。

 

 

 更にその直後、突如としてラムの奥底に眠っていた記憶が浮かび上がってくる。

 

 

 それは高校生の弟と、毎日喧嘩しながらも一緒に買い物に行ったり、ゲームをしたり、弟がハマっているアニメを横目で見ながら資格の勉強をする平和な日々。そして弟が夢中になっていた異世界転移もの―――Re:ゼロから始める異世界生活という作品。

 

 ナツキ・スバルという少年が異世界へ転移し、何度も死んで、何度も絶望に抗う痛ましい話。

 弟はよくいろんな考察を披露したり、あのキャラが可愛いだの、あのキャラがヤバいだのと語っていた。(時にはペテルギウス、時にはレグルスの物まねをしてくるのは相当ウザかった)

 

そんな(ラム)が―――

 

(―――異世界転生してるうううぅぅーっ!?)

 

==========

 

「知らない天井ね……」

 

 目を覚ますとそこは柔らかいベッドの上だった。白い天蓋に淡いラベンダーのような香り、どこか高級そうな部屋。普段はボロアパート住まいだった(前世の自分)でも、鬼の里に住んでいたラム(今の自分)でも見たことのないような調度品ばかりが設置されている。

 

 前世の記憶を取り戻した後、ラムの額を眺めて呆然とした表情を浮かべるレムを担ぎ上げ、邪魔な魔女教徒を消し飛ばして、あの場所全力で脱出した。

 

 幸いだったのが、『ラムに憑依した』というよりも『()がラムとして転生し、角が折れた瞬間その記憶を思い出した』という事だった。もし魔法が使えなかったらあの後その場で殺されていたに違いない。

 

 あくまで()はラム。ラムは()

 

「おやぁ、お目覚めかな」

「!」

 

 びっくりした。

 いつの間にか部屋に入ってきていたのか、派手な化粧をしたピエロみたいな男が声をかけてきた。

 

「……ロズワール」

 

 たしか魔法使いの偉い人で領主だったか。この男は、2期でラムに風穴を開けてくるヤバい男だ。

 ……うろ覚えだけど、未来日記みたいなアイテムに書かれた内容を遵守するために、暗躍していたみたいな話だったはず。

 やばい、変な事を言ったら速攻で殺されたりしない?これ。

 

「……? おやぁ? 自己紹介はまだだったと思うんだけどねぇ」

「あっ、あう」

 

もうだめだ、お終いだぁ……

 

 もう既に怪しまれていて草も生えない状況。原作スタート前に処分されるようなことは無いと思うけど、いつコイツに腹を貫かれるかと思うと背筋が凍る。

 

「……化粧……」

「え?」

「そ……そんな変な……いえ、変わったお化粧をしている男性は領主様……かと思ったので」

 

 なんでこんな化粧をしているのかは知らないけど、こんなピエロみたいな化粧をしたキャラは他に居なかったし、名前を知っている言い訳としては十分じゃなかろうか。

 

「―――ふむ」

 

 小さく声を漏らした後に顎に手を当てて暫く考え込むロズワール。若干疑いのまなざしは残っているようにも見えるけど、ラムの言い分にも一理あるだろう。

 

「っ、そ、そうだレムは……ラムの大切な妹は、どこへ⁉」

 

ラムはここで畳みかけるように次の話題を振る。ロズワールはぱちくりと目を瞬かせた後に答える。

 

「ああ……彼女なら心配いらないよぉ。大きな外傷も無かったしねぇ」

「そう……ですか」

「お姉ちゃん、お姉ちゃんって元気に泣いていたから、さっきまで疲れてぐっすり眠っていたけど―――」

 

ロズワールが説明していると、突然ノックも無しに扉がバン!と開き、叫び声と共に青色の髪をした幼女が現れた。

 

「―――お姉ちゃんっ!」

「―――」

 

 その瞬間、ラムはその顔を見て唖然とする。

 ()はラムとしての記憶を失ったわけではないから、妹の顔は頭に焼き付いている。

 だけど()を思い出した今、改めて言おう。

 

レム可愛い~~~ッ!!持って帰りたい!!!

 

 持って帰るも何もラムの妹なんだから持って帰るも何もないんだけど!!

 

 内心衝撃を受けていると、レムはベッドに駆け寄るなり、ぎゅーっと抱きついてきた。このちっちゃい身体で必死にしがみついてくるの破壊力がエグすぎか。おてて小さ!!

 

「お姉ちゃん……! お姉ちゃん、よかった……本当に、よかった……!」

「……う、うん……大丈夫よ、レム」

 

 まろび出そうになったキモい内心をぐっとこらえて、いつも通りの優しい声を出した。

 前世のクソ生意気な弟とは違って、これは完全に別次元の可愛さを誇っている。

 

 ラムが守護(まも)らなきゃ。

 

「こほん……こら、レム。恩人の前で失礼でしょう」

「あっ……ご、ごめんね、お姉ちゃん。ロズワール……様も」

「……いいや、構わないよぉ。姉妹仲が良い事は喜ばしい事だからねーぇ」

 

 ロズワールはそんなラムたちを、興味深そうに眺めてから笑っていた。

 

 ―――ラムはそんなレムの頭を撫でながらふと物思いに耽る。

 私が中学生の頃、両親を事故で失い、これまでずっと弟と二人きりで生きてきた。他に頼れる人も居なかった私は両親の死亡保険で降りてきたお金を細々と使いながら高校を卒業して、生きる為のお金を稼ぐために就職して働いていた。

 

 全ては弟の為。

 生意気な弟だった。……それでも残された唯一の家族だったから、その為に青春も、大学も捨てて働くことは何の苦でもなかった。

 

 それなのに、今私が居なくなったら、弟はどうなってしまうんだろう? 

 

 人は苦難を乗り越えて強く生きていけるという。だけど、それは周りの支えがあってこそだ。

 私にとって……私達にとって、それは姉と弟がお互いに心の支えになる事で両親の死と言う苦難を乗り越える事が出来た。

 

 なら、その支えを失った弟は、これからどうやって生きていくだろうか。

 独りぼっちになってしまった弟は、どんな気持ちでこの先を生きていくのだろうか。

 

「……お姉、ちゃん?やっぱり身体の調子が……?」

 

 レムが不安そうな顔な表情で顔を覗き込んでくる。レムの事だって大切な妹なんだから、不安にさせてしまうのはお姉ちゃんとして失格だ。

 

「……大丈夫よ、レム。寝起きで少しぼんやりしていただけだから」

 

 安心させるようにレムの頬を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細める。だけどやっぱりどこか浮かない……というか、気まずそうな顔を浮かべる。

 

「でも、お姉ちゃん……角が……」

 

 そういえば、レムはラムの力にコンプレックスを持っていて、角が折れた事に対して複雑な思いを持っているんだったか。守ってもらった相手が傷ついて安堵する自分がいることに自己嫌悪をだいている……という何とも複雑な話。

 確か、ナツキ・スバルがアニメ1期でこのトラウマを解消してあげる事で中を深めていくきっかけになるはずだけど、正直ここから数年たってナツキ・スバルがやってくるまで待つのはレムにとって辛い話である。と言うわけで……

 

「……大丈夫、角が折れたのは痛かったけど、悪い事ばっかりじゃないわよ」

「え……?」

「ラムはずっと、頭の中で聞こえる声に悩まされていたの。鬼としての血が濃すぎたせいかしら……とにかく、角が折れてからその声が聞こえなくなったのよ。だから寧ろ、清々しい気分だわ」

 

 ……と、優しく微笑みながら言ったものの、本当の所はとんでもなく苦しい。生理痛の様な痛みと倦怠感が何倍にも引き延ばされている状態で、冷たい水底にずぶずぶと沈められている様な……鈍く、そして苦しい閉塞感のある痛みがずっと続いている。たしか角はマナを受信するためのアンテナみたいな役割を持っていて、それが折れたせいでマナが常に欠乏し続けている状態の筈だ。

 

「……でも、お姉ちゃん、レムのせいで……レムが弱いから……」

「……」

 

 いくらラムが「良い」と言っても、自責の念というものはなかなか無くなるものではない。ナツキ・スバルと同じようには行かないけど、せめてその棘が自然に抜けるように声をかけてあげたい。

 

「……レム。ラムがレムを守ることができた。ラムにとって、それはとてもうれしい事なの」

 

まだ少し納得していないような表情レムに顔を寄せて、トンと額同士を合わせる。

 

「だから……もしも次にお姉ちゃんが困っていたら、次はレムがお姉ちゃんを助けてくれる?」

「レムが……お姉ちゃんを……?」

「そう。ラムたちは、残された最後の家族。これからも……お互いにずっと支え合って生きていくんだから」

 

 ラムがそう伝えると、レムは少しの間目を丸くした後、ぼそぼそと何か小さく呟いた。

 

「……これからはレムが、お姉ちゃんを守る……」

「ん?」

 

 そうつぶやくレムになにか仄暗いオーラを感じたが、レムは「何でもないよ」と笑みを浮かべた。気のせいなら、ヨシ!

 

「……わかった。レムが、もっともっと強くなってお姉ちゃんを守るね。この先どんなことがあっても、レムがお姉ちゃんを守るから」

「ええ、頼りにしてるわ。でも無理しないでね」

 

 心が落ち込んだ時は何か目標を作ってあげる事で努力し、それが自信に繋がる事で心理的にポジティブな好循環をしていくって聞いたことがある。我ながら良いお姉ちゃんっぷりを発揮したんじゃなかろうか。

 

 その後、ラムはロズワールと今後の事について話し合うことにしたため、レムには一旦退出してもらう事にした。この環境でしっかりと身分のある人間の下に身元を寄せる事はかなり助かる上に、衣食住が充実していて、さらには十分な給金がでるため速合意した。そして何より、重要な条件として―――

 

「マナの注入、ね」

「そうだぁよ。あの子には大丈夫と言っていたけどぉ、今の君は耐え難い苦痛に苛まれている筈ーぅだからねぇ。寧ろ、よく平気な顔をして耐えられていると感心してしまうよぉ」

「ふっ……ラムは長女だから我慢できました。次女だったら我慢できなかったわ」

「……冗談を言えるほどには余裕があるって事でいいのかーぁな?」

 

 ロズワールはあは~ぁと道化の様に笑う。その目は「何言ってんだこいつ」と言っているように見えるけど、見て見ぬ振りした。

 実際の所、鬼の体のお陰か苦痛に対する耐性がかなりあるようだ。この苦痛を感じたまま日常生活を送ることは不可能ではない。

 とはいえ、苦しいものは苦しいし、しかもマナを定期的に注入しないと普通に死ぬので、ラムにはもはや選択権は無かった。

 

 結局、ロズワールにマナの注入をしてもらうことや、衣食住を条件に雇用契約を結ぶこととなったのだった。

 




転生姉様のガバガバ異世界生活、はっじまーるよー!

※ラムの持っている原作知識はかなりガバガバなので、ざっくりとしたイベントしか覚えていません。何がどういう理由でそうなったのかとかは全然分かりません。ほとんど無双も出来ないのでこのガバガバ姉様を温かい目で見守ってあげてください。
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