※そしてランキング乗ってました;;;みんな見てくれてありがとう;;;
「ここのお部屋は今日だけ使ってていいからゆっくり休んでね。あっ、勝手に出歩いちゃだめよ?傷は魔法でふさがったけど、ちょっと動いたらすぐにまた開いちゃうんだから」
あの後、ラムの膝枕を存分に堪能させてもらった俺は、着替えを持ってきたエミリアとも合流して宿へ向かうことになった。どうやらこの世界の回復魔法は万能ではなく、深い傷は優れた治癒術師でもなければ完全には治らないらしい。
また、血液もや体力が回復するわけでもないので、被弾と回復で無限サイクル、と言うような事は出来ないらしい。相変わらず腹部は痛むし、貧血でクラクラと眩暈がする。
あのチンピラ、そんな重体になる深さまでぶっ刺しやがったのか……と今更ながらに腹が立ってきた。エミリアの治癒術がなければ、この週は普通にあのまま天国へ行っていたに違いない。
「分かってるよ。正直痛くて歩けるかも怪しいし……」
「絶対に絶対なんだからね。べ、別に私はいいけど……ラムが泣いちゃうんだからね!」
「……リア、余計なことは言わなくていいから。変なツンデレしながら背後から攻撃しないでもらって良い?」
「あっ……う、うん。ごめんね?」
ラムがニッコリと圧を放ちながらエミリアの肩を掴む。エミリアもあわあわと慌てた表情で謝っている。
「へぇ……―――いででで!!!」
「余計な事を言うならもう一度開くわよ」
「まだなんも言ってねぇよ!」
にんまりとしながらラムに顔を向けると、途端に傷口を軽くえぐられた。
ちょっとからかってやろうと思ったのは事実だけど!!
あまりの激痛に絶叫してしまったが、耳まで赤くなってそっぽを向くラムがあまりにも新鮮で可愛かったので役得、と言うことにした。
改めて簡素な木造の部屋のベッドに横たわり、視線を横に流すと窓際に立つラムの背中が見える。外はすでに薄暗く、沈みかけた陽が街並みを赤く染めていた。
ラムは何も言わずに外を見ている。その姿はどこか沈んでいて、わずかに焦りのようなものも感じさせた。
「ラム、どうしたの?」
エミリアが心配そうに声をかける。ラムはほんの一瞬だけ間を置き、それから何でもないように肩を竦めた。
「……少し考え事をしていただけよ。だって徽章探しがまだでしょう」
「……? あっ……それもそうよね」
「リア……まさかとは思うけれど、忘れてたなんて言わないわよね」
「あ、当たり前じゃない。いくらドタバタしてたからって忘れるわけないじゃない。私はそんなうっかり屋さんでもおっちょこちょいでもないんだから!」
「うっかり屋さんもおっちょこちょいも、今日日きかねぇな……」
二人のコントのようなやり取りを、俺は苦笑いを浮かべながら眺める。
―――ああ、やっぱり、この二人には泣いて欲しくねぇな。
この瞬間、自分がどうしたいのかがハッキリと分かった気がする。ただの恩返しじゃない。俺自身がこの二人の笑顔をあんな結末にしたくないと心の底からそう思った。
すると、ラムが改めて仕切り直すように咳払いをして言った。
「……リア、最後に一か所だけ調べておきたい場所があるわ」
「調べておきたい場所?」
エミリアは首をかしげる。その言葉を聞いた瞬間俺のの背筋が冷えた。ラムが示す場所、それはもちろん―――
「貧民街よ。以前盗品蔵がある、という話を街の人に聞いたことがあるわ」
「ま……待て!そこは―――ぐっ!」
慌ててベッドから立ち上がって叫ぶと、腹部に鋭い痛みが走る。巻かれた包帯部分に、ジワリと赤色の血が滲んでいた。
「もう……!だから言ったのに!ラムもあんまり過激なコミュニケーションしちゃだめなんだからね!」
「うっ……ごめんなさい」
エミリアがすぐに駆け寄り、傷口に手を当てる。そのまま手のひらに光が集まり、温かな感触がじんわりと広がる。傷の奥へと染み込むようにして、痛みが少しずつ和らいだ
実際の所決定打になったのは勢いよく立ち上がったせいではあったが、エミリアに叱られるラムと言う構図が若干珍しくて和んでしまった。
……とか言っている場合じゃない。
俺は歯を食いしばりながら顔を上げ、ラムを見据えた。
「……そこは、やめとけ。危ないとか、そういうレベルじゃねえ。なぁラム、お前も分かってるんじゃないのか?」
どこまで知っているのかは分からない。だけど、何かを知っているラムにならこれだけで伝わるかもしれない。あの場所は危険だ。あの場所に行ったら、きっとみんな殺される。
しかし、ラムは俺の望んだ答えを返してはくれなかった。少しだけ目を閉じた後、覚悟を決めたように小さく呟いた。
「……ラムは諦めるつもりはないわ」
「ラム……?」
静かな声だったが、その芯は揺るがなかった。話の流れが分かっていない様子のエミリアだけが小さく首をかしげる。
―――だけど俺には分かる。ラムが言っているのは徽章の話だけではない。多分、あの場所にいる連中のことも含めている。
俺にとってあの盗品蔵にいた二人は殆ど赤の他人だし、それはラムにとっても同じ筈なのに。
それでも、あの二人を救う事をラムは諦めないと言っている。
「で、でも……」
言葉が続かない。代わりにラムが一歩だけ近づき、真っすぐな瞳で俺に告げた。
「
『だから、どうかあなたも諦めないで』―――口にはしていなかったが、そういわれた気がした。胸のざわつきは消えないままだが、それでも目を逸らさずに息を吐き、静かに頷いた。
「……ああ」
絞り出すように小さく頷くと、ラムはまるで弟をあやすようにポンポンと頭を撫でてくる。
ラムはそれ以上何も言わず視線を外し、扉の外へと歩いて行った。最後まで二人の会話の意図を理解できなかったエミリアもそれに倣って小さく手を振り部屋を後にする。
外からは「二人って知り合い?すごーく仲いいのね、どういう関係なの?」とエミリアが食い気味に質問をする声が聞こえていたが、それもやがて遠くなり部屋が静かになる。
俺は天井を見上げたまま、さっきの会話を反芻した。
―――諦めない、か。
「はは……引きこもりにはなかなか難しい言葉だぜ、ラム」
ゆっくりと体を起こす。腹に痛みはあるが、動けないほどではない。それでも嫌な予感は消えない。むしろ時間が経つほど強くなる。
彼女たちが向かった先が盗品蔵ならば、再びあの黒いドレスの女と戦いになる筈だ。ただ、今回はナツキ・スバルという足手纏いが居ない状態で戦える。あの女の口ぶりが本当であれば、ラムなら勝つことも不可能ではないかもしれない。きっとこのまま自分が宿で横になっていても何とかなるかもしれない。
「……いいや、そうじゃないな」
小さく呟く。足を床に下ろし、ふらつきながらも立ち上がる。
―――『自分の中に望む未来があるのなら……やるしかないのよ。迷っても、苦しくても……絶対に悔いを残したくないから』
ラムの言葉が脳裏に蘇る。
このまま何もしないでいたら、残るのは”悔い”まみれだ。ウザったくても、余計なお世話だったとしても、それこそ裏目に出る可能性があっても―――俺があの子達に救われたナツキ・スバルである以上足を止めるわけにはいかない。
「何とかなるかもなんて甘えてんじゃねえ。考えろ、あの子達を救うための最善……!!」
心に活力が燃え滾る。俺だって、あの二人の笑顔を守りたい。
だったら、今のナツキ・スバルにできる事、それは―――
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「衛兵さああああああああんっ!!」
――――――そう、警察もとい、衛兵さんを呼ぶことだった。
腹を押さえながら部屋を這い出た後、外へ出る頃にはすっかり日が落ちていた。夕方の空気は涼しく、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。人影はまばらで、足音だけがやけに響いた。そして日が暮れてきて人気の少なくなった大通りに出た辺りで、大きく息を吸って叫んだ。
完全な日没には至っていないため、まばらに残っていた人々がギョッとした表情でこちらを見る。ちょっと恥ずかしいけど、これでいい。自分がなんでも出来るなんて自惚れは、
そう、今のナツキ・スバルにできる事、それは誰かに頼る事だった。
当たり前と言えば当たり前。男としては情けなく思えるかもしれないが、最善を尽くすということはそういう事だ。恥も外聞も、自分の理想の為には邪魔なものでしかない。
しかし……5秒か10秒……恐らく、それぐらいの時間が経ったものの、一向に駆けつけてくれる衛兵の姿は無かった。
「……やべぇ、もしかしてハズしたか?クソッ、異世界にもこういう警察的な機関があると踏んだんだが……」
土地勘のなかった俺は衛兵の詰所の場所が分からなかったため、これは苦肉の策だったのだが……と、落胆した直後。
「何かお困りごとかな?」
―――現れたのは、燃え上がる炎のように赤い頭髪をした爽やか系イケメンの姿だった。
すらりと細い長身。仕立てのいい服。そして、騎士の剣。
「衛兵さん! ……いや騎士様の方がよろしいでしょうか!」
「いや、そこまでかしこまらなくても良いよ……僕の名前はラインハルト。君の名前は?」
「俺の名前はナツキスバル……頼むラインハルトさん!ちょっと助けて欲しい事があるんだ!」
「はは、僕の事は呼び捨てで良いよ、スバル。……それで、助けて欲しい事って言うのは何かな?」
物凄い距離の詰め方するなこのイケメンは……と若干引きつつも、俺はラインハルトに説明する。とはいえ余りにも具体的な情報を出すのはおかしいため、知り合いが貧民街の盗品蔵に向かったきり帰って来ない。何か大変なことが起きているのかもしれない……と言うような方向で説明することにした。
ラインハルトはふむ、と小さく声を漏らした後。
「……なるほど。君の友達を探しに行ってくれば良いんだね」
「そ、そうなんだよ!急がねぇと、もしかしたら……」
殺されるかもしれない、と口にしそうになるがすんでの所で口を閉ざす。口にしたら、再びそれが現実になってしまいそうな恐怖があった。
……既に陽は殆ど傾いており、既に最初の時間軸でラム達が殺された時間を超えているかもしれない。急いでこの騎士を連れて行かないと。
そう考えていると、ラインハルトが口を開いた。
「……それならば急ごう。何かが起きてしまってからでは遅いからね」
「い、いいのか?」
「もちろんだよ。それが騎士としての務めだからね」
ドキッ……
その圧倒的爽やかイケメン騎士のしぐさに、普段なら嫉妬感マシマシで微妙な気持ちになる所だが、今の俺にとっては抱かれてもいいと思えるぐらい心強かった。
「あぶねぇ……危うく落とされるところだったぜ」
「? ……それじゃあ、僕は先に行っているよ」
「あ、ああ! ……え?」
瞬間。ドン!と大きな音が鳴ったと思えば、目の前にいたラインハルトは大きく跳躍し、屋根伝いに飛び去って行った。
「す、すげーな……もしかしなくても、スピードはラムより全然上か……って、こんなことしてる場合じゃねぇ。俺も向かわねぇと……!」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
腹の怪我を庇いながらラインハルトを追って貧民街へと走る。
腹部の痛みのせいでうまく走れないが、ラインハルトの10分の1も無いようなスピードで路地に入る。既に日が落ちて灯無しでは前が見えなくなってきた頃、ようやく盗品蔵が見えてきた。
しかし。
次の瞬間、自分の声が掻き消えるほどの轟音が鳴り響く。目の前の光景が全部持っていかれた。
それは白い光の本流。
視界が、一瞬で塗り潰される。何が起きたのか理解する前に、建物そのものがずれたみたいに歪んだ。次の瞬間、爆発みたいな衝撃が外にまで及んだ。
「うおおおおおおおっ!?」
思わず腕で顔を庇う。遅れて暴風が叩きつけてくる。空気そのものが暴れてるみたいな、まともに立ってるのも難しいレベルの圧。
地面を踏ん張るが体が持っていかれそうになる。飛んできた木片が肩に当たり、砂埃が更に視界を潰した。
「ってぇぇ!! なんだよこれ……!……もしかして、ラインハルトがやったのか?これ」
あの黒いドレスの女は、こんな芸当をするようなタイプじゃなかった。だとすればこれを行ったのは間違いなくラインハルトという事になるだろう。
やがて、嵐みたいな暴風が少しずつ弱まっていく。巻き上げられていた瓦礫や木材が、バラバラと地面に落ち始めた。
「……おいおい、マジかよ」
さっきまで建っていたはずの建物が、もう原型を留めていなかった。壁は吹き飛び、屋根なんてどこにも見当たらない。
中の様子が丸見えになるくらい、全部が壊れていた。
俺は唖然としながらラインハルトの元へと歩いていく。一仕事を終えたラインハルトは、こちらを一瞥し、そしてやや気まずそうな、悔しそうな表情を浮かべた。
「ラインハルト……やったのか?」
「……ああ、あの女性―――腸狩りは恐らく仕留めた筈だ」
「っ、じゃあ……!」
期待するような表情でラインハルトを見ると、ゆっくりと首を振った。
そして、その目線の先を見て―――その意味を理解してしまう。
「―――ラム。エミリア……」
「……残念だけど、僕が来た時にはもう、手遅れだったようだ」
「そん、な……」
愕然とする。折角、あの腸狩りを倒すことができたのに。俺はその場に崩れ落ちるようにして、二人の方へと視線を向けた。涙が滲み、視界が歪む中でも、そこにある現実だけは嫌でもはっきりと見えてしまう。
エミリアは、恐らく腸狩りの攻撃を魔法で防ぐことが出来ず、咄嗟に腕で防御したのだろう。腕が切り落とされ、そのまま胸を切り裂かれて死んでいる。
ラムは、右肩から脇腹にかけて大きく裂け、更にはその背中にククリナイフを突き立てられたであろう貫通穴があった。
「あ……」
近づいていくと、ラムの体の下にはフェルトの死体が転がっている。いくつもの切り傷があり、ラムごと貫かれたナイフの跡が痛々しい。
そして、フェルトの手には1週目の世界では見られなかった剣が握られていた。
恐らく、まるで1週目の世界の俺のようにこの戦いの中に混じり―――
「彼女はきっと、最後までこの子を庇っていたのだろうね」
「……ああ」
「腸狩りは強敵だった。……彼女には、騎士として敬意を表するよ」
ラインハルトがゆっくりと歩み寄り、ラムの薄く開かれたままの瞼を手のひらで閉じる。
「君の友達を守れなかった。すまない」
「……いや、お前の所為じゃ、ねえよ」
消沈した声で、何とか言葉を返す。
「せめて、弔ってあげよう。君の大切な人達を、そのままにしておくわけにはいかないからね」
そう言って、ラインハルトは少し離れたエミリアの遺体がある方へと踵を返す。ラインハルトがエミリアを抱きかかえて立ち上がったその瞬間―――瓦礫の陰が、小さく揺れた。
「――ッ!?」
「スバル―――!?」
ラインハルトが咄嗟に反応するが、僅かに間に合わない。黒い影が地を這うように飛び出し、そのまま一直線に俺へと迫る。
次の瞬間、閃きが走る。避ける暇も防ぐ術もない。ただ目の前が赤く染まり、腹の奥に鋭い衝撃が突き刺さった。
「て、めぇ、まだ生きて、やがったのかよ……!」
「……ふふ、辛うじて、といった、ところだけれど」
満身創痍の女――エルザが、血に濡れたまま笑っていた。
ぐらりと視界が揺れる。遅れて痛みが全身に広がり、呼吸が止まる。自分の体が言うことを聞かず、力が抜けて、そのまま膝から崩れ落ちた。
「……きっと……剣聖はその死体を残すために、少し力を抑えたんでしょうね……ツイていたわ」
耳元で、くぐもった笑い声が響く。言葉を返すこともできず、ただ歯を食いしばる。
「……クソが……」
ようやく吐き出したその一言は、ほとんど息だった。視界が暗くなっていく。地面の冷たさがじわりと広がり―――死んだ。
あ!!ラインハルトの両手が塞がっている今がチャンス!!!
決してチャンスを見逃さない女、それが腸狩りのエルザ。