今回ちょっと長くなっちゃいました。
原作設定回りは凄い頑張って調べたけどなんか間違ってたらごめんちゃい(T_T)
「バルス。昨日の夜、ラムが寝ている間に変な事してないでしょうね?」
「してねぇよ! 俺は朝までずっと倉庫の硬い床で寝てたっつーの!」
爽やかな朝日が照らす庭園で、エミリアと共に朝のラジオ体操を終えたスバルに話しかけていた。
朝、目が覚めてみると部屋はもぬけの殻。ラムはベッドのど真ん中でぐっすり眠りこけていた。
スバルが何処で寝ていたのか気になっていたけど、まさか倉庫なんかで寝ているとは。
「……まぁいいわ。別の部屋で寝るぐらい紳士的……と見せかけてへたれなバルスのことは信じてあげる」
「ぬおおおお!! ここまで言われるならいっその事添い寝でもしてやればよかった……!!」
スバルの抗議を、ラムは涼しい顔で無視する。
実際の所、疲れていたのもあって普通にそのまま寝かせてくれたのはありがたかったし、素直に感謝を伝えてもよかったが、こうしてくだらない言い合いをするのは、前世の弟と会話をしているみたいでちょっと楽しい。
「ハッ、そんな事をしてみなさい。ラムの魔法で天国まで吹っ飛ばしてやるわ」
「マジでやりそうで怖いんだよな……って、そういえばラムちーの得意魔法って言うと風なんだっけ?他にはどんな魔法があるんだ?」
スバルは興味を切り替えたのか、魔法について尋ねてくる。せっかくなので講義してあげる事にした。
「基本的には風以外だと火・水・土・陰・陽の6種類があるわ。レムは水属性で、エミリア様は火属性ね」
「火属性?でも確か盗品蔵では氷を使ってたよな。レムりんと同じ水属性じゃないのか?」
スバルは首をひねる。確かにフェルトとスバルが盗品蔵から脱出する瞬間など、エミリアは空中に氷柱を浮かべていた。これだけ見ると、確かに水属性の魔法に見えるが、実のところは違う。
「それぞれの属性は、別に名前通りのものを発生させるものじゃないのよ。例えば陽属性は身体強化ができるし、水属性は治癒ができる」
「もっと原子レベル的なアレか……じゃあ火属性は熱が操作できるって事か?」
「そうね。だから空気中の熱を奪う事で、氷柱を作ることができるって事。もちろん水属性は水そのものに干渉できるわけだから、同じく氷柱を作る事も出来るけどね。要するに火が使えるから火属性なんじゃなくて、熱を操る事が火属性、という事ね」
この辺りは前世の
「……と言っても、私は精霊使いだから殆どパックの魔法なんだけどね」
「えへん」
隣で静かに話を聞いていたエミリアが苦笑いしながら補足すると、今まで寝ていたであろうパックがエミリアの頭上に現れる。
「おはようございます、パック様」
「おはようラム。君もラジオ体操してたの?珍しいね」
「いえ、ラムはちょっとスバルに話があって寄らせてもらっただけです」
ふーん?とパックは面白そうな臭いを嗅ぎつけたような悪い表情を浮かべている。すっと目を逸らしていると、スバルが感嘆の声を漏らした。
「はー……なかなか複雑なんだな。魔法使い今度は精霊使いか。それって何か違いあんの?」
「大ありだよー。魔法使いはゲートっていうマナの通り道を介して自分の中にマナを取り入れたり放出したりして魔法を使うんだけど、逆に精霊使いは大気中のマナを使って術を使うんだよ。あと、微精霊との契約を結ぶことによって、本人の適正じゃない属性の魔法も使えるってワケ。どう?すごいでしょ」
「あー、なんとなく理解できるわ。ってことはエミリアたんが治癒魔法が使えるのもそういう事か」
この辺りの設定はよくあるファンタジー系の作品通りなので、スバルも理解が早い。納得したように頷いている。
「バルスにもゲートはある筈だから、パック様に診てもらうと良いわ」
「え、マジ!?俺も魔法が使えるのか!?」
スバルは目を輝かせて大喜びする。しかし、早速パックに調べてもらった結果―――
「スバルの得意属性は『陰』だねー」
「……それってどうなの?俺が根は暗いっていう悪口?」
「そ、それはわからないけど……珍しい属性なのは確かよね。陰魔法は音を遮断したり、動きを遅くしたり……まあ、直接攻撃と言うよりは相手の行動を阻害したりするのが基本だったかしら」
「デ、デバフ特化かよ……なんか微妙じゃねぇ?」
エミリアの言葉にがっくりと肩を落とすスバル。
とはいえ、練度にもよるけど弱いという認識は大間違いだろう。
一番有名なシャマクという魔法は、BLEACHのとあるキャラクターが扱う
「まあ、その有用性は実際に食らってみるのが早いわね。パック様」
「はいよ~、シャマク!!」
「え、ちょ―――」
有無を言わさず、ぼん!と黒い霧がスバルを包む。この魔法は中にいる相手の五感や精神に干渉する魔法だ。
初級のシャマクでは『五感の感覚を奪う』程度ではあるが、中に居たスバルの恐怖と焦りに染まった表情を見ればその効果は一目瞭然だろう。
「――――!!――――!!?」
「はーいお終い」
パックの宣言と共にシャマクの効果が切れる。スバルはびっしょりと脂汗を浮かべて深く深呼吸をすると、よろよろと座り込んだ。
「はぁ、はぁ……こ……こりゃ確かに強力だな。自分の音も聞こえないから、自分が息してんのかも分かんねぇ……」
「他にも重力を操作する魔法や、一応攻撃魔法もあるわ。この辺りは覚えておいて損はないけど……殆どが失われている術だから、普通だったら先生を探すのは大変でしょうね」
特に、
「へぇぇ……ラムって物知りなのね。陰魔法って、あんまり使い手も居なくて失伝しているものが多いって聞くから、実は私もあんまり詳しくは知らないのよね」
「ロズワール様は博識でいらっしゃいますから、私も少しだけ教えてもらったことがあるんです。ベアトリス様も陰魔法の使い手ですから、案外この屋敷にはいい先生が揃ってるかもしれないですね」
エミリアが感心した声を出すので軽く説明をする。ベアトリスは余り禁書庫の情報を外部に漏らしたがらないけど、いつか原作のようにスバルと親交を深めていけば色々教えてくれるいい先生になってくれるかもしれない。
そのためには……
「ふーん……よし、それなら早速俺も使ってみていいか?どうすればいいんだ?」
「お、使ってみる?それなら僕が補助してスバルの中のマナを使ってみるよ。魔法自体はスバルのゲートから出るからそれで感覚を掴めば良いんじゃないかなー?」
「ちょっと待ってくださいパック様」
早速準備を始める二人に対して、ラムは待ったをかけた。
「バルス、あなたはこれまで魔法なんて一度も使ったことがない、で良いのよね?」
「そりゃもちろん。魔法が使えるなんて生まれてこの方知らなかったからな」
「だとするとマナの制御もままならないでしょうし、下手するとマナの暴走を招く危険性があるわ。それに錆び付いたゲートに突然多量のマナを通したら、ゲート自体が破損して使い物にならなくなってしまうかもしれない」
……前世でぼんやりアニメを見ていた時はそこまで深刻に思っていなかったけど、この世界の知識を持った、ツノナシのラムだからこそよくわかる。
この後に起こるマナの暴走によるゲートの損傷、これは身体的な障害を抱えることになるので結構笑い事じゃない。
それに、ベアトリス程の強力な陰魔法が使えなかったとしても、初級魔法さえ満足に使えなくなってしまうのは痛手だし、これこそがリゼロの難易度の上昇の大きな要因になっていたと思う。
「うーん、確かにその危険性はあるね」
「えーっと……つまり俺は魔法が使えないって事?」
スバルががっかりと肩を落とすが、ラムはそれを否定するように首を振る。
「ううん、そうじゃないわ。ゲートが未熟なのが問題なだけだから、ちゃんと訓練して慣らしていけば問題なく使えるようになると思う」
「訓練か……例えばどうすればいいんだ?ゲームとかだと同じ魔法を連発してれば強くなっていくけど、初級のシャマクを使うのも危ないんだろ?」
げえむ?とエミリアは首を傾げるが、このスバルの着眼点はかなり良い線を行っている。
実際魔法の訓練は反復が基本。本人の術に対するイメージやセンスもあるが、繰り返しマナを使う事でその感覚を養う事がとにかく大切だった。
「ほら、思い出してみなさい。ラムとレムは厨房やお風呂で何をしてたっけ?」
「何って、料理したり風呂を沸かしたり……ああ!!火の魔鉱石!!」
スバルは大きい声を出してポンと手のひらに拳を打ち付ける。
「その通り。ゲートを介したマナのやりとりは何も術を使う時だけじゃないもの。お風呂を沸かしたり、厨房の火を点けたり……その他にも色んなところでマナを使っているでしょ? だからまずは術を使うんじゃなくて、ゲートそのものをマナの出し入れに慣らしてあげればそのうちマナの調節の仕方も体で覚えられると思うわ」
「おぉー……凄いなラム、まるで先生みたいだ」
ぱちぱちとスバルが拍手をする。それにつられてエミリアとパックもかなり感心したような表情で拍手をしていた。
「私もびっくりしちゃった……」
「確かに生まれてこの方マナの概念も知らないような人がいるとは思ってなかったから、ボクも盲点だったよー。いやあ、危うくスバルのゲートをぶっ壊しちゃうところだったね」
……想定外だとは思うけど、そこは笑い事じゃないからね?パック様も反省してね?
「でも、術の発動と魔鉱石へのマナではマナを通す量が全然違うし、錆び付いたゲート自体のトレーニングについては……何か考えておくわ」
本来、ゲートというものは筋トレをするように負荷をかけて、ゆっくり時間をかけて訓練していく必要がある。
だけど、ゲートを錆び付かせてしまっているスバルがこの先魔法を使えるようにするなら、多少強引な訓練を積ませる必要があるかもしれない。
例えば……ゲートを酷使させながら、フェリスに治癒魔法を掛けて貰ってトレーニングするというのはどうだろう。今度王都へ行ったときに相談してみようかな。
「……もしかして俺、めちゃくちゃ危なかった?ぶっ壊れたらどうなっちまうんだ?」
「もう魔法が使えない身体になっていたわね。ゲートは言わば魔法を使うための内臓みたいなものだから。内臓が壊れたら当然命に関わる事態になってたかもしれないわね」
「ま、マジか……」
「だからバルスも勝手に魔法を使わないこと。良いわね?」
念のため釘を刺しておく。
原作からしてスバルが約束を守ってくれるかは怪しい所であるけど、まだパックから術の感覚をレクチャーしてもらっていないので一旦は問題ないだろう。
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朝の一幕が終わり、朝食を作るために厨房へと移動する。
それから少し遅れて厨房の扉が開き、レムが静かな足取りで合流してきた。
「おはようございます、姉様。スバル君も」
「おう、おはよう」
「おはようレム」
「はい……あ、姉様。少し後ろの髪がハネていますよ」
レムがラムの背後に回り込んで覗き込む。言われて触ってみると、確かにぴょこんと不自然な角度で跳ね上がっている。
「あら本当? 今朝、ちゃんとお湯で直したつもりだったのだけど……」
「ふふっ、後でレムが綺麗に直してあげますね」
レムは愛おしそうに目を細め、跳ねた髪を指先で優しく梳いてくれる。
そんな二人の様子を少し離れた場所で見ていたスバルが、ニヤニヤとだらしない笑みを浮かべながら口を開いた。
「レムりんってば姉様にはデレデレだなぁ。俺への塩対応との温度差で風邪引きそうだぜ……あっ」
からかうように言った直後、スバルは自分で「やべ」という顔をして口元を手で覆った。
おそらく、普段の毒舌で自分が一刀両断にされる未来を想像して身構えたのかもしれない。
「どうしたの? そんな顔をして」
「いや、その……また余計なこと言って、怒られるかと思ってさ」
「……? まぁ、ラムはバルスの姉様ではないのは確かだけど。ラムの心は海よりも広くて深いもの、その程度の冗談で怒ったりしないわよ」
ラムが肩をすくめて言うと、スバルは「あれ?地雷ではない?」と拍子抜けしたような、不思議そうな顔をした。
どういうこと?と首を傾げていると、レムが顔を顰めて苦言を呈した。
「……姉様はレムの姉様です。スバル君のものではありません、ダメです」
「まさかのヤキモチ? でもさ、エミリアたんもラムちーのこと、ちょっと頼れる姉として見てる節があるよね。そこんとこはどうなの?」
スバルがおどけて言うと、レムはさらに不服そうな顔になり、ぷくっと頬を膨らませて言葉を繰り返した。
「……姉様はレムだけの姉様です」
「なるほどなるほど、こりゃ完全に百合トライアングルだな……モテモテじゃねえか姉様!よかったな!」
「……バカなこと言ってないで、早くその野菜の下準備を終わらせなさい」
ラムは小さくため息を吐きながら、スバルの頭を軽く小突いて、強制的に会話を終わらせるのだった。
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洗濯物や屋敷の掃除といった大まかな業務が一段落した頃。ラムは手元のモップを壁に立てかけ、額の汗を拭うスバルとレムに向かって告げた。
「じゃあ、ラムはこれから別の仕事があるから、二人は残りの掃除をお願いするわね」
「えっ、また抜け駆け!? ラムちー、さてはお茶でも飲んでサボる気だな?」
スバルが分かりやすく不満顔になり、手にした雑巾を振り回して軽口を叩いてくる。別に隠しているわけではないので、ラムはスバルがこれ以上騒ぐ前に自身の仕事について説明することにした。
「サボりじゃないわ。屋敷の周辺を『千里眼』で監視する、立派な警備業務よ」
「せんりがん? なんだその、中二病心をくすぐる響きの能力は」
「周囲の生き物と視界を共有して、遠くの様子を探る能力よ。だから、バルスが夜中に部屋でいやらしい事をしても、ラムには全て丸見えってこと」
先日の意趣返し。
意地悪く微笑みながら告げると、スバルの顔が一瞬にして真っ青に染まった。
「し、してねーけど? ……っていうか、マジで絶対やめてくれよ!? 俺にも年頃の男子としてのプライベートってもんがあるんだから!」
「ハッ、どうだか。今晩ラムの匂いが染み付いたベッドに顔を擦りつけるつもりでしょう」
「毎日シーツ取り換えてるんだからもう残ってねぇよ!」
スバルの渾身の怒涛のツッコミに内心でクスクスと笑いつつも、改めてレムの方へと向き直る。
「……それじゃレム、この男の事はよろしくね」
「はい、任せてください、姉様」
ラムの言葉に深く頷いたレムに対し、スバルは背筋を伸ばしてピシッと敬礼のポーズをとった。
「今日もご指導よろしくお願いいたします、先輩!!」
「……厳しくいきますよ、後輩君」
レムの返答は相変わらずそっけないものだったが、その声色には初日のような棘はなく、どこか柔らかさが混じっていた。
……ちょっとずつではあるけど、二人が確実に打ち解けてきている姿を見て、少し安心できる。
レムに微笑みかけながら視線を向けると、レムはラムの笑顔の中に含まれた姉心に気づいたのか、少しだけ恥ずかしそうに目を伏せて去っていく。
もうこの二人は大丈夫だろう。
二人の背中を見送りながら、今度こそこのルートで誰も死なせないという決意を胸に、監視業務もといメィリィと魔獣の様子の確認へと向かったのだった。
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自室に戻り、ベッドに静かに腰を下ろす。
深呼吸をして精神を研ぎ澄まし、自らの意識を窓の外にいる生物へと移していった。
スバルにも説明したが、千里眼はラムの意識を屋敷から遠く離れた場所へと飛ばし、小鳥や獣たちの視覚を次々と同化して周囲を俯瞰することができる。
鳥の視界を借り、眼下に広がる広大な森の様子が鮮明に映し出された。
太陽の光すら遮るほど鬱蒼と生い茂る木々の奥深くでは、血のように赤い瞳を持った魔獣ウルガルムの群れがあった。
彼らは普段の縄張りを越え、屋敷と麓の村を守護する魔鉱石の結界のほころびを、今か今かと待ち侘びるようにうろついている。
「二人はもう大丈夫そうだし、そろそろこっちにも手を打たないとね……」
小鳥の視界をさらに先へと進め、麓にあるアーラム村の広場の人へと視点を移動させる。
そこでは村の子供たちが無邪気に追いかけっこをしており、のどかで平穏な日常の風景が広がっているように見える。
だが、その子供たちの輪の中に自然に溶け込んでいる一人の少女に、視線を向けた。
青い髪をおさげに結った、小さな子犬を抱える見慣れぬ少女―――魔獣使い、メィリィ・ポートルート。
彼女が村に凄惨な悲劇をもたらし、原作の通りに進めばスバルを幾度も死の淵へと追いやる元凶である。
彼女は子供たちと楽しげに笑い合いながらも、時折森の方角へと向けるその瞳の奥には、残酷で冷酷な暗殺者としての光が宿っていた。
彼女の暗躍をこのまま静観していれば、村の結界は意図的に破壊され、何も知らない子供たちが魔獣の巣食う森へと誘い込まれてウルガルムの餌食となってしまう。
もしそうなれば、お人好しのスバルは原作通りに村人を救うために身を呈し、全身に幾重もの呪いを受けることになるだろう。
王都ですでに何度も痛ましい死を経験させてしまったスバルに、これ以上の苦難を与えたくはない。
大きく息を吐き出して千里眼を解除すると、マナを消耗した脳の奥底に鈍い疲労感がじわりと広がっていった。
ズキズキと痛むこめかみを指先で揉み解しながら、明日村へ訪問してメィリィとどう接触するかを頭の中で考えながら、頭痛が治まるまでの間ベッドの上で少しだけ休む事にした。
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再び夜。
昨晩と同じように、ラムとスバルは机に向かい合って文字の勉強会を開いていた。
魔石ランプの淡い光の下、スバルは羊皮紙にずらりと並んだイ文字を誇らしげに指差す。
「どうよラム先生! 今日は一回も間違えずに最後まで書けたぜ! よっしゃー!」
「正直驚いたわ……認めたくはないけれど、本当に上達が早いわね」
まさか昨日まで自分の名前すら書けなかったスバルが、たった一日で基本的な単語を正確に綴れるようになっているとは。
アニメで見たスバルは自分のことをよく卑下していたけど、本当はできる子なのだと少しだけ誇らしく思えてくる。
「やっぱ、会話の方が通じるのは大きいんだろうな。こう言うのって、既存の知識との結びつきで記憶に定着したりするもんだからさ」
「なるほど……だとしても言語の法則性を掴むセンスは、悪くないみたいだから、少しは誇って良いと思うわ」
「……素直に褒められるとなんか照れるな。あ、そういえばちょっと待っててくれ。良いもんがあんだよ」
「良いもの?」
首を傾げると、スバルは部屋の隅に置いてあった自分の荷物袋を漁り始めた。
やがて彼が取り出してきたのは、見慣れた容器に入ったカップラーメンと、黄色いパッケージのコンポタスナックだった。
そういえば異世界転移した時のアレ、まだ残ってたんだ。こっちの世界じゃ見られない懐かしのものたちに思わず感動してしまう。
「じゃーん! 頭を使った後には夜食が必須! ラムも食うだろ?」
「こんな時間にそんなもの食べたら、間違いなく太るわよ」
「まあ良いじゃねえか。たまにはこういう背徳感も、深夜の勉強会の醍醐味ってやつだろ?」
「……否定はしないわ。ちょっと待ってて、お湯を持ってくるから」
スバルを少し待たせた後、厨房からお湯を入れた容器を持って再び部屋に戻ってくる。
「お湯を入れて3分……この時間が最高なんだよな……」
「……」
お湯を入れることで漂ってくるジャンクで暴力的な匂い。ごくり、と思わず唾を飲み込んでしまう。
そして待つこと3分後。蓋を開けると美味しそうな香りと共に一気に蒸気がカップから放たれた。
「ウマそう〜!先ラムが食っていいぜ」
「え?いいの?」
「もちろん。あ、でも全部食うのは無しだからな?」
「ラムはそんな卑しいことしないわ……それじゃ遠慮なく」
髪に汁が飛ばないように少しだけ耳に髪を除けながら、ずるる、と一口啜る。その瞬間、身体に悪いと分かっているのにやめられない、懐かしいあの味が口いっぱいに広がる。
「……美味しい」
「だろ?普段のレベルの高い料理も最高だけど、こういうメシもたまにはいいんだよなぁ。なんつーか慣れ親しんでるだけあって、懐かしくなる味って言う感じでさ」
―――本当に、懐かしい。
スバルの言葉を聞きながら、本当に心の底でそう思った。
ある日、学校の宿題が難しくて泣きついてくる弟に、夜遅くまで勉強を教えてたこともあった。その夜、夜食として二人でカップ麺を分け合って食べた記憶が不意に鮮明に蘇ってくる。
「ていうかラムちー。文字以外にもさ、屋敷の掃除とか仕事の方も俺結構上手くなったと思わねぇ?そろそろ一人前として認めてくれたっていいぜ?」
ヘヘっ、とスバルの茶化すような声が、遠い記憶の中の弟の無邪気な声と重なった。気がつけば、ラムは無意識のうちに手を伸ばして、目の前に座るスバルの頭を弟にしていたのと同じように優しく撫でていた。
「えっ……ちょ、ラム? どうしたんだよ急に」
「……」
「絶対いつものみたいに辛辣なツッコミ入れられるかと思ったのに……なんか照れるな、これ」
スバルが少しだけ耳を赤くして笑っているのを見て、ラムはハッと我に返る。
自分が今、彼に対してどれほど感情的で、自分勝手な行動をとってしまったのかに気づき、急激に胸の奥が苦しくなる。
もう、弟に会えなくなったら数年の時が経ってしまった。
帰る方法がないなら仕方ない……そう思って封じ込めていたと思っていたこの感情を、ずっとスバルに重ね続けていたことに、今更気づいた。
「……ラム、お前……」
「え?」
スバルの焦ったような表情を受けて、ラムは自分の頬を冷たい何かが伝い落ちていることに初めて気がついた。
視界がぐにゃりと歪み、涙がポロポロと止め処なく羊皮紙の上に零れ落ちていく。
「っ……な、何でもないわ。 少し、目にゴミが入っただけよ」
「いや、でも……」
「じゃあ今日の続きは一人で頑張りなさい。遅くまでやるのは良いけど、明日の朝寝坊するのは許さないわよ」
自分でも驚くほど上擦った、震えるような早口で言い捨てると、逃げるように立ち上がる。
慰められたら、たぶん余計に苦しくなる。スバルが何か言いかける前に背を向け、顔を覆ったまま転がるようにして部屋を飛び出した。
―――その背中をレムが見ていた事にも気づかずに。
台詞の改行について、どっちが良いですか?
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台詞と台詞の間の改行無し(1章)
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台詞と台詞の間に改行有り(2章)