……どうしてこうなった?
殆ど現実逃避しながら、一睡もせずにスバルの見張りをして朝を迎える。
外では小鳥のさえずりが聞こえるが、もう全く気持ちのいい朝ではなかった。
昨晩、スバルの部屋を飛び出てから自分部屋に引きこもった後、『共感覚』を通じてレムの恐ろしいほどの怒りが流れ込んできた。
この『共感覚』は、傷や感情、マナの負担など、あらゆるものを共有してしまうため普段はお互いに切る事にしている。
それなのに、一方的に『共感覚』によって伝わってしまう程の強烈な感情を受け取り、嫌な予感がしてスバルの部屋まで走っていった。
するとそこには、案の定、スバルに襲い掛かるレムの姿があった。
そしてその姿を見つけた直後、崩れ落ちた瓦礫がスバルを押し潰すところだった。
なんとか風魔法で瓦礫を粉砕してスバルを守る事には成功したものの、レムがどうしてあそこまで激怒し、衝動的に殺意を爆発させたのかが全く分からない。
徐々に打ち解けて、上手くやれていたように見えただけに衝撃が大きすぎる。
しかも、頭を悩ませるのは二人の関係だけにとどまらない。
客観的に見て、客人に危害を加えたという事実ができてしまったのは最悪。途中で瓦礫などの破壊痕を隠蔽してやろうかと思ったけど、流石に不可能だった。
「……昨夜レムのことは本当に申し訳なかったわ、バルス」
「いや、ラムが謝ることじゃないだろ。俺を助けてくれたのはラムなんだし。それにラムだって何も知らなかったんだろ?」
「当たり前でしょ。だからこそ、これからの事を考えるだけで胃に穴が開きそうよ……」
口元に手を当ててグロッキーになるラムとは対照的に、その言葉を聞いて、スバルは少しだけ安堵の表情を浮かべた。
思っていたよりも、スバルの様子が落ち着いている。昨日は小さな子供の様に泣いていたけど、ラムの腕の中で眠りについたことで少しは安心できたのかもしれない。
……すくなくとも、疑心暗鬼に陥って全てが敵に見えるよりは良いか。
そんなラム達は昨夜のロズワールからの指示により、ラムはスバルを連れて屋敷の最奥にある書斎へと重い足取りで向かっていた。
目的は当然、事情聴取。余りにも気が重くて胃がキリキリと痛みだす。
書斎の扉がいつもよりも重厚で分厚く見える。なかなか開けられないでいると、中から普段の温厚な彼女からは想像もつかないような、エミリアの激しい怒号が聞こえてきた。
「どういうことなのロズワール!!きちんと説明して!!!」
ああ……あぁぁ~~エミリアもカンカンだ~~~……
更に胃がキリキリと痛み、今にも吐き出しそう。ラムの顔がぐんぐん青くなっているのか、スバルが横目で心配してきた。
「……大丈夫か?」
「え、ええ。だいじょ―――」
「私の大切な恩人に、どうしてあんなひどいことをしたの、レム! ロズワールは、このことを知っていたの!?もしかして―――スバルの事、悪い人なんじゃないかって疑っていたの!?」
「―――大丈夫じゃないわ」
ラムが恐る恐る扉を開けると、そこには蒼白な顔で俯くレムと、厳しい顔で彼女を問い詰めるエミリアの姿があった。
その光景に頭を抱えていると、スバルは能天気な声を漏らした。
「おおー……すげぇ……エミリアたんがあんなに怒ってる所初めて見た。エミリアたんが俺の為に怒ってくれてるなんてちょっと感動するな……」
「何を能天気な事を言っているの。昨日はめそめそラムの腕の中で泣いていた癖に……」
「う”っ……そういう姉様だって突然泣いてたじゃねえか。今更だけどあれって俺がなんかしちゃった?」
「……そう言うわけじゃないわ。あれは……」
何で説明すれば良いのか……と考えていると、中にまで声が聞こえていたのか、がちゃりと扉が開いてエミリアが顔を覗かせた。
「スバル!!大丈夫?やっぱり怪我してるじゃない……直ぐ治してあげるから待っててね」
「え?いいよいいよ、これぐらい。思ったより傷も浅かったし……」
「……エミリア様。とりあえず中へ入りましょう」
エミリアは頷き、再び部屋の中へと戻っていく。
「……まずはエミリア様、そしてスバル君。この度の我がメイドの不始末、心よりお詫び申し上げる」
ロズワールはいつもの道化じみた口調を完全に封印し、落ち着いた声で深く頭を下げた。その様子にエミリアが唇を噛むと、ロズワールは静かに顔を上げて事の経緯を語り始めた。
「先ほどのエミリア様の問い―――スバル君を他陣営の間者のような存在と疑っていたかという問いには、肯定せざるを得ない。ラムとレムに頼んで、スバル君の身辺を探らせていたのは私だ」
「え……? そんな、ラムまで……!」
エミリアはショックを受けた表情でこちらを振り向いてくる。
……罪悪感がすっごい!
ぶっちゃけ原作を知っているラムからしたらスバルを疑う所は一ミリもないのだけど、それでもロズワールからの命を受けていたのには間違いない。
エミリアのうるうるとした子犬のような瞳に耐えられず、すぃ~っと目を横に逸らすと、エミリアはますます悲しそうな表情を浮かべた。
……ごめんね?
「王選を間近に控え、情勢は非常に不安定だ。エミリア様の命を狙う他陣営の間者や、妨害せんとするものである可能性を疑わないわけにはいかなかった」
ロズワールの理路整然とした説明を聞いてもなお、エミリアは納得のいっていないように肩を震わせた。しかし、当の被害者であるスバルは、昨夜レムの口からそれに近い言葉を聞いているのか、驚く様子もなく静かに話を聞いていた。
「しかし、ラムの報告によって、スバル君がエミリア様に害をなす存在ではないと結論付け、私もそれを信じることにしていた。つまり、昨夜のレムの行動は完全に彼女の独断であり、私の指示ではない。―――だが、メイドの管理も主人の務めでもある。責任は私が取ろう」
レムをちらりと盗み見ると、処刑を待つ罪人のように震え、青ざめた顔で虚空を彷徨わせていた。
姉の意に反した上に、主の命令すら無視して暴走してしまった自分の罪の重さに、今更ながら押し潰されそうになっているのかもしれない。
すると、スバルがここでようやく口を開いた。
「……それで、レムはどうなるんだ?」
「エミリア様の客人を許可なく殺害しようとした罪は重い。彼女については、別途厳しい処罰を下すことになるだろうね」
「……はい。申し訳、ありませんでした」
レムが消え入りそうな声で素直に頷いたのを見て、ラムの心臓は早鐘のように激しく鳴り始めた。
―――まさか、レムを切り捨てるつもり?
ロズワールのもつ野望を達成するためには、ルグニカ王国を守護する『龍』を殺す必要がある。しかし、それを成すための鍵としてラム達姉妹の力が必要になる……と言う理由で引き取られた。
しかし、逆を言えばロズワールにとってはただそれだけ。レムという個人は、その時に使える道具であればいい。
そうなれば、エミリアとの関係の維持をするために、今はレムを切り捨てる可能性が十分にある。『龍』を殺すために必要なのだから、殺すまではいかない筈だけど―――この冷徹な男が厳しい処罰と言った場合、それがどれほど残酷なものになるのか全く見当がつかない。
「お待ちください、ロズワール様。処罰であれば、姉であるこのラムが代わりに受けます」
レムがこれほどまでにスバルを敵視したのは、彼が纏う『魔女の残り香』が原因だ。
魔女教徒によって故郷の村を焼かれて、両親を惨殺されたという根深いトラウマが彼女に衝動的な凶行を走らせてしまった。
……そのトラウマが、どれだけレムにとってつらい事なのか、ラムはよく分かってあげられていない。
なぜなら―――正直なところ、転生者として前世の記憶を持つラムにとって、鬼の村の惨劇は『遠い過去の話』でしかなかった。
鬼神の再来だと持て囃され、村の大人たちから向けられる狂信的な視線には元から辟易していたし、何より前世の記憶を思い出して、今世の記憶に統合されるまでの過程が特殊すぎた。
八歳までのラムとして生きた後、前世の二十歳までの記憶が蘇り、そこからさらに十七歳までのラムとして自我を構築するという妙な段階を踏んでしまった。
その結果、鬼の里での出来事は体感としては九年プラス二十年。つまり約三十年も前の出来事のように感じられる。
冷たいと思われるかもしれないが、三十年も立てば恨みや悲しみといった感情はとっくに風化してしまう。
だからこそ、今でも過去の惨劇に心を縛り付けられ、恐怖と憎悪の念に囚われ続けている妹が不憫でならない。そんな妹を、姉である自分が見捨てるなんて事は断じてあり得ない。
「や、やめてください姉様! 悪いのはレムです! 姉様が罰を受けるなんて、そんなの絶対……っ!」
「レムは黙っていなさい。姉より先にしゃしゃり出るなんて、二十年ぐらい早いわよ。たぶん」
半泣きで騒ぐレムを、絶妙に説得力があるか分からない言葉で制止する。しかし、一触即発の張りつめた空気をぶち壊すように、スバルが大きく手を叩いて二人の間に割って入った。
「待った待った! そういう意味で聞いたんじゃねぇっての!」
「え?」
突然どうしたんだろうと困惑していると、スバルはロズワールを真っすぐに見た。
「あのさロズっち。俺、レムと一対一で話をさせてほしいんだけど」
「ほう? それはまた、どういう風の吹き回しかーぁな?」
意外な発言をするスバルに対し、ロズワールはまた道化の様な喋り方をしながら眉を顰める。すると、スバルは堂々と胸を張って持論を展開した。
「実際に攻撃されて死にかけた被害者は俺なんだぜ? だったら俺がレムをどうするのか、決定権を持ってもいいだろ」
「ほほーう……なるほど、一理あるねぇ。 何か考えがあるのなーぁら、君に任せよーぉうじゃあないか」
胡散臭い笑みを浮かべて承諾したロズワールに、ラムは信じられないものを見るような目を向けた。スバルがレムに対して何を言い出すのか、どんな条件を望んでいるのかが全く読めない。
若干不安になりながらスバルを見つめると、こちらの目を真っ直ぐに見つめ返して力強い笑顔を返してきた。
「大丈夫だよ、ラム」
「え…?」
「俺に任せてくれ」
……何が大丈夫なのか。全く予測がつかないけど、その表情を見た瞬間に胸を締め付けていた重苦しい不安が、少しだけ和らいだような気がした。
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POV:スバル
ロズワールからレムと一対一で話す許可をもらい、俺達は別室へと移動する。
レムと向かい合うと、昨日のアレからすっかり頭が冷えたのか、深く頭を下げてと震える声で謝罪を口にしてきた。
「……スバルくん。この度は本当に、申し訳ありませんでした。どんな処罰も、受けるつもりです」
レムの顔を見るのが、まだ少しだけ恐ろしい。だけど、勇気を出してその顔を真っ直ぐ見つめてみた。
その顔は、自責の念に駆られて、今すぐにでも死にたいと思っているような顔だった。
……昨日の夜、ラムの腕の中でずっとレムの事を考えていた。天井が崩落して俺が死にかけたあの瞬間に聞こえた、彼女の想定外の声、そして唖然とした表情。
―――彼女はたぶん、本気で俺を殺そうとしていたわけではなかったんじゃないか。
昨日はレムの余りの圧に、あの時は『殺される』と何度も思っていたし、攻撃をされたときはパニックにもなった。
だけどあの時の事を思い返してみると、レムからは一言も『殺す』とは言っていなかったし、攻撃自体も俺の頬を掠めた程度で、その後の攻撃は俺に一発も当たっていなかった。
……しかしそれでも、ラムが助けてくれなかったら俺が死んでいたかもしれないのは事実。俺がレムに対して厳しい処罰を与えたとしても、あの場にいるほとんどがそれに納得するだろう。
だけど―――それじゃあレムは前に進めない。
ラムは、盗品蔵で俺が失敗して命を落とすことになっても、俺の事を罵る事もせず、ただ優しく俺を見つめてくれた。自暴自棄になって、死にたくなっていた俺の手を引っ張ってくれた。
だから俺も、目の前で今にも死にそうな顔をしているこの少女の心を救ってあげたいと思った。
俺は一度、二度と深い深呼吸をする。心を落ち着かせて、レムに問いを投げかけた。
「なあレム。一つだけ教えてほしいんだけど、お前の言う『魔女の臭い』って一体何なんだ?」
「……本当に何も知らないんですね、スバル君は」
「ああ」
力強く頷くと、レムは少しの間目を閉じてから語り始める。
「……魔女の臭いというのは、かつて世界を滅ぼしかけた『嫉妬の魔女』を崇拝する狂人たち―――魔女教徒が纏う独特の瘴気のことです」
「魔女教徒……魔女か。勉強用の本にもなんか出てきた気がするな」
「ええ、彼らは嫉妬の魔女の復活を目論む、残虐な組織だと言われています。……私たちの故郷も、魔女教徒に滅ぼされました」
「故郷が……?それって、どういうことだ?」
「少し、長くなりますが……スバルくんには聞く権利がありますね」
レムはギリ、と奥歯を噛みしめ、自らの辛い過去をぽつりぽつりと語り始めた。
―――それは、魔女教徒によって故郷の村が襲われ、両親や村人たちが無残に殺されたという凄惨な記憶。
そして、何もできない自分を助ける過程で、ラムがその絶対的な力の象徴である『鬼の角』を折られてしまったという事。
レムはその日からずっと、ツノを失ってしまった姉の分まで自分が強くなり、ラムの事を守る事をラムと自分自身に誓ったという。
……ラムは一言もそんな事言ってなかったな。昔の俺だったら、『他の人よりも辛い事があったんだから、優しくされたい』とか、『いつも苦しんでるんだから甘えたって許される筈だ』……とか、そういう言い訳を並べ立てそうだ。
レムは説明をしながら、再びこちらから目を逸らす。
「だから……魔女の臭いを持つスバル君は、姉様を傷つけるかもしれない。だからレムが排除しなければならない……そう思ったんです」
「俺にゃ瘴気なんてもんがある事自体初めて知ったけど……そっか。でも、殺すつもりは無かったんだろ?」
「……それは」
指摘をすると、レムはこくんと素直に頷く。やっぱり衝動的なものだったんだな、と思いながらその理由を待っていると、
「……その、姉様が泣きながらスバルくんの部屋から出ていくのを見て、つい、抑えきれなくなって……」
「おおう……これっていわゆる『ついカッとなって』ってやつだな……お茶の間のニュースになるような事にならなくて良かったぜ」
「それに……あの時、確かに姉様から『悲しい』という感情を感じたんです。それも、とても強く」
「それは、双子テレパシー的な?」
「『共感覚』というものです。普段は意識して制御しているのですが、あまりに強い感情の場合、それを乗り越えてお互いに伝わってしまうこともあるんです」
「なるほどな……」
誤解してしまうような条件はいくつか揃っていた、と言うわけか。
………そもそも、なんで泣いてしまったのか分からないし、泣かせてしまった可能性がある俺にも原因がありそうな予感がする。マジで俺の所為だったらどうしよう、と今更ながらにハラハラしてきた。
それは一旦、置いておくとして……
衝動的な犯行というには余りにもとんでもない行動ではあったが、この数日で築いた俺とレムの絆は、少なくとも嘘じゃなかったことが何よりも嬉しかった。
だったら、俺から言えることは一つだけだ。
「なぁレム、前に俺はラムの事を『憧れの人』だって言ったよな」
「そう……でしたね」
「俺も……ラムに命を救われたから、あの子みたいに誰かを助けられるように生きていきたいんだ。でもお前の姉様、結構無理するタイプじゃん?だからせめて、俺も頑張ってあの子の力になりたいって思ってる」
「……」
それはレムと同じ、自分への誓い。
だったら―――レムと俺が成るべきなのは敵じゃなく、仲間だ。
静かに俺の言葉を受けるレムに手を差し出した。
「でもさ……俺一人の力じゃまだまだ全然足りない。―――だからレム、お前の力を貸してくれないか?」
「レムの……ですか?」
「ああ、お前の力が必要なんだ」
頷いた俺の言葉に、レムは驚いたように目を丸くした後、大粒の涙をポロポロと溢れさせる。
「レムなんかで、良いんですか……?」
「ああ。きっとお前は、誰よりもラムの事を想ってる。だからレム、お前じゃなきゃダメなんだ。もし、他の人がお前を許さなくても、お前がお前自身を許さなくても、俺が許す」
強く言い切った俺の言葉にレムは小さくしゃくり声を上げながら、ゆっくりと震える手で俺の手を取った。その指先は先ほどまでの緊張で冷たく、しかしもう離したくない、と言うように力強かった。
「はい……はいっ……!レムで良ければ、いくらでも力になります……!ごめんなさい、スバルくん、ありがとう、ございます……」
レムは小さな子供のように、ポロポロと涙をこぼす。
……レムはきっと、俺と同じで未熟だ。そんなレムと、これから肩を並べて行れば、より一層強くなれる気がする。
そんな事を考えていると、涙と鼻水で若干ひどい事になっているレムがハンカチで顔を拭きながら、至極当然の疑問を投げかけてきた。
「……でも、スバルくん。意図的ではなかったとはいえ、レムはスバルくんを殺してしまう所でした。……いくら何でも、こんな簡単に許してしまって良いんですか……?」
「……あー、うん、そこはその……レムは要反省だな。でも、あんまりそういう衝動的な行動を咎めるとさ、俺もすげぇデカいブーメランが帰ってくるから……」
「……??」
「いやまあ、その辺りは一緒にこれから成長してこうっていう話だ。もし俺がそうなりそうだったら、レムが止めてくれ」
「は、はい……分かりました」
無理やり押し切ると、レムは困惑したまま頷く。
……俺自身、衝動的な行動でとんでもない事をやらかす自信しかない。例えば、自分の事を理解してくれない事に苛立って八つ当たりしたり、恩人の言葉の裏を読み取れずに罵ったり……全く身に覚えのない事なのに、今すごい背筋が凍った。流石の俺でもそんな惨めで醜いマネはしない筈だ。
「こほん……とにかく、これで俺たちは仲間だ。こういうの俺のいた場所の言葉でなんて言うんだっけな。ファン……いや、推しってやつか? うん、俺たちは推し仲間だな!」
「……推し仲間、ですか? それはどういう意味なんでしょうか」
「うーん……俺もそこまで詳しいわけじゃないけど、その人にとっての精神的な支柱というか、好き!応援してる!!……みたいな感じの人の事を『推し』って呼んでた気がするな」
「なるほど……じゃあ、スバルくんとレムは、姉様の推し仲間ですね」
「ああ! 今日から俺たちは、姉様激推し同盟だ!」
レムは小さく呟いた後、指先で涙を拭ってから大きく可愛らしい笑みを浮かべた。
この館に来てから、レムの心からの笑顔を見る事が出来たような気がする。それはラムとは違った、明るくて元気な妹の笑顔だった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
POV:ラム
「お”ぇ……」
「ら、ラム、大丈夫?顔が土みたいな色になってるわよ」
スバルとレムが二人きりで別室へと向かってから、どれぐらい経過しただろうか。時計代わりの魔刻結晶では正確な時間が測れないせいで、随分と長く感じる。
胸を締め付けていた重苦しい不安が、少しだけ和らいだような気がした………などと言うラムの独白は撤回したい。
今、ラムは危険な状態である。定期的にぐつぐつ煮えたぎる胃液を押えながら、書斎の中をうろうろうろうろと落ち着きなく歩き回る桃色の怪物と化していた。
その様子を見て、エミリアも先程までの怒気がすっかり消滅して、今はラムの様子に心配や困惑を通り越して若干引いている。
「落ち着いて……ね? レムもスバルもとってもいい子だから、きっと二人でいい話し合いができるはずよ」
「それは分かっています。でも……」
この先レムとスバルがギスギスしていたらどうしよう。レムが皆から嫌われてしまったらどうしよう……という事ばかりを考えてしまっている。
原作の様な疑念を和らげ、うまくやれてきたと思っていた展開が一夜にして崩壊してしまったショックはかなり大きい。
ロズワールを見ると、彼はただ静かに椅子に座っていた。当主として責任を感じているのか―――あるいはスバルの器を見定めているのか。その表情からは何も読み取れない。
いい加減喉の奥から胃液がコンニチワし始めた頃、ようやく扉が開き、スバルに手を引かれながらレムがぐずぐずと涙を流しながら戻ってきた
「レム!」
「やぁ、お帰り。―――それでスバルくん。答えは決まったかーぁな?」
ロズワールの問いかけに、思わずごくりと唾を呑み込む。しかし緊張するラムとは対照的に、スバルは再びニヤリと口角を上げ、ピンと指先を天に突き出しながら声をあげた。
「ああ……レムへの処罰だけど、これからは俺のことを先輩後輩じゃなくて、対等な仲間として扱うこと! これで手打ちでどうだ!」
「「え……?」」
処罰としては余りにも軽すぎる内容に、ラムとエミリアがぽかんと呆気にとられる。そうしていると、ロズワールが腹を抱えて「ハハハ!」と大声を上げて笑い出した。
「……まったく、君と言う人間はどうにも測りかねる」
「そこは俺の海よりも広い心のお陰って事で……ま、なんにせよ、これで一件落着って事で良いよな?」
「もーぉちろんだとも。君とエミリア様がそれでもいいなら」
ロズワールがちらりとエミリアを見ると、エミリアも笑みを浮かべて頷いた。
「うん、私もスバルがそれでいいなら。……だけどレム、あんまりおいたしちゃダメなんだからね?どんな事があっても、直ぐに暴力で解決しようとしちゃダメ。わかった?」
「エミリアたん……おいたって今日日聞かねぇな……」
「はいエミリア様……反省しています」
「ん、それなら良し」
エミリアも叱りつけるようにレムに言うが、その表情には間違いなく安堵が浮かんでいた。エミリアは優しいから、こんな形で亀裂が入ってしまう事を初めから望んでいなかったんだろう。
エミリア陣営、あったかい。
ぽかぽかの春の風よりも暖かいよ、此処。
スバルが苦笑いを浮かべて、その隣でエミリアがレムの頭を撫でる。
―――そして、二人の笑顔の間で、レムも笑みを浮かべている。
「あー、なんか緊張が解けたらめっちゃ腹減ってきたな……ってうお!?姉様、またお前……」
「は? ……何よ」
スバルがギョっとしながらこっちを見ると、エミリアとレムもこっちを見てわたわたと突然慌てだした。
「ね、姉様、ごめんなさい。レムがご心配をおかけしてしまった所為で……!」
「ラム、もう皆大丈夫だから、泣かないで?ね?」
「……え?」
エミリアに言われて目元を擦ってみると、いつの間にかラムは涙を流していた。心底安堵した、と言うのは分かるけど、なんだか涙もろいお婆ちゃんにでもなった気分で少しだけ恥ずかしい。
ごしごしと目を擦っていると、ロスワールが気を効かせたのか、パン、と手を叩いて椅子から立ち上がった。
「さてさて、皆が無事仲良ーぉくなれた所で、そろそろ遅めの朝食の時間にするとしようかーぁな?」
「お前、情緒とか雰囲気ってもんが……あ」
スバルが苦言を呈そうとすると、スバルのお腹からぐうううと間の抜けた音が鳴る。ロズワールが再び解散を促したので、一度この場は解散することとなった。
その前に、ラムはスバルを呼び止める。
「本当に、ありがとうバルス。……でも、殺されそうになったのに、よくあんなにあっさりと許せたわね?」
「何言ってんだよラム。俺たちは今日から、『姉様激推し同盟』を結成した確固たる絆で結ばれてるんだぜ?」
「……は??」
「そうなんです、姉様!」
「な、何を言ってるの?」
なにそれ怖い。
スバルはニカッと歯を見せて笑いながら意味不明な言葉を返し、レムも涙で目を腫らしながら、同調するように力強く頷いていた。
……なんだろう、何か急に涙が引っ込んだ。
スバルくんは1章時点で一回心折れてから、ラムと言う支柱のお陰で立ち直ってるのでレムより一足先に大人になっていたという話。
レムはなんというか、めっちゃ他所には吠えるけどご主人様大好きなわんこみたいで可愛くて好きです。
あれ……姉様特に今回なにも……して……なくはないな!
いつだって精神的支柱であれ。
台詞の改行について、どっちが良いですか?
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台詞と台詞の間の改行無し(1章)
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台詞と台詞の間に改行有り(2章)