3章の前の平和な2.5章です。
※ロズワールの別邸に牢屋があるかわかんなかったのであるって事にしておいてくださーい!!
20:その氷点下の温もりは
魔獣騒動を未然に防いだあの日から、あっという間に数日が経過していた。
ロズワール邸には穏やかな日常が戻り、窓を開け放つと心地よい風が吹き込んでくる。
今、ラムの中には圧倒的な達成感が満ち溢れていた。スバルの様子からしても死亡回数は恐らくゼロ。原作で言う第2章は無事クリアすることができた。
スバルとレムが不可解な同盟を結んで以来、二人の関係は劇的に改善されていた。かつての刺々しい警戒心は跡形もなく消え去り、今ではレムの方がスバルを振り回して楽しそうに笑う機会が増えている。
それどころか、いつの間にやらエミリアとレムの仲までも急速に深まっていっているようだった。スバルという存在が加わった事で何か心境の変化でもあったのかもしれない。
「何にせよいい兆候ね」
仲良きことは美しきかな。
という事でラムは今、Stay Aliveを歌いながら綺麗に拭き上げたトレイの上に再び暖かい食事を載せていた。屋敷の住人たちの食事は既に終わっているが、ラムにはもう一人食事を運ばなければならない相手がいる。
トレイを持ち上げて、静かな廊下を抜けて屋敷の地下へと続く冷たい石造りの階段を降りていく。地下の空気は地上に比べてひんやりとしており、魔鉱石の淡い光だけが足元を薄暗く照らしていた。
一番奥にある座敷牢の前に辿り着くと、鉄格子のついた扉の向こう側でベッドに寝転がっていた小さな影が身を起こした。そこには先日捕縛して閉じ込めた幼女、メィリィの姿がある。
「……お姉さんも飽きないわねえ。毎日毎日、ご苦労なことだわあ」
三つ編みのおさげを揺らしながら、メィリィが呆れたような口調でため息をつく。
暗殺者として送り込まれた、凶悪な魔獣使いである彼女だが、今こうして見ればただの年端もいかない少女にしか見えない。
「ラムの仕事の一つだもの。それに、育ち盛りの子供にひもじい思いをさせる趣味はないわ」
「ふうん……」
鉄格子の下にある小さな配膳口からトレイを差し入れると、メィリィは少しだけ警戒するような視線を向けた。しかし、温かい野菜スープから漂う香ばしい匂いに抗えなかったのか、渋々といった様子でスプーンを手に取る。
「一応確認するけど、毒なんて入ってないわよねえ?」
「何度も言ってるけど、そんな回りくどい手を使うくらいならあの時に首を刎ねていたわ。安心して食べなさい」
淡々と事実を告げると、メィリィは「お姉さんって本当に容赦ないわねえ」と肩をすくめながらスープを口に運んだ。
彼女は最初こそ警戒して口を閉ざして居たが、ラムが根気よく通い続けたことで最近はこうして軽口を叩くぐらいの会話はしてくれるようになった。
メィリィ・ポートルート。
彼女は更に幼い頃に捨てられ、腸狩りのエルザの所属する組織で暗殺者として育てられた、と言う過去を持っている。
メィリィは他人からの施しや無償の優しさというものを知らず、常に殺すか、殺されるかというような過酷な世界で生きてきた。
だから、メィリィには少しずつでもいいから、彼女の心に根付いた暗殺者としての常識を解きほぐし、普通の女の子としての感情を教えてあげたい。
……と、思っているのだけど。
流石にものの数日では打ち解けることも出来ず、色んなメスガキムーブをされている。
「どうして私を殺さないのお? もしかして、依頼主について口を割らせたいのかしらあ?ご苦労様ねえ」
スープに浸したパンをかじりながら、メィリィが疑問を投げかけてくるが、ぶっちゃけその辺りについてはそんなに興味がない。聞いたところで何かしらの魔女教徒関連か、ロズワール辺りだろうし、今そんな事を知ったところで特に対策をすることもできない。
「別に、そんな事はどうでも良いけど……そうね、あなたの口から『料理が美味しい』って言わせる事が当面の目的かしら」
「……はあ?意味わかんなあい」
不審そうに眉をひそめるメィリィに対し、ラムはただ静かに微笑みを返すだけにとどめた。メィリィの更生については完全にラムのエゴなので、こんなことを本人が聞かされても困ってしまうだろう。
ちなみにロズワールには、とりあえずメィリィの事は任せて欲しいと直談判して許可をもらっているので安心だ。
「いつも通り食べ終わったら食器はそこへ置いておきなさい。後で回収に来るわ」
「はあい……」
「あと、食べたいものがあれば考えておいてくれる?要望があれば作ってあげるわ」
なんでもよく食べてくれるから気にしてなかったけど、好物とかあるんだろうか。やっぱりお肉系?
そう言い残して踵を返すと、背後からメィリィの「……ほんっと。よくわからない人だわあ……」という呟きが微かに聞こえてきた。
その声色は呆れというよりは、本当に困惑しているような声色だった。
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翌日、目を覚ますとそこは冷凍庫だった。
……ではなく、自室の温度が凍えるほどに急降下していた。
「さ、ささ寒……し……死ぬ!!え、なに……??」
……息は真っ白!! 寒くて震えが止まらない!!鼻水も凍ってるし本当に死ぬ!!!
ちらりと窓を見てみれば、白い霜が張り付いて、ピキピキと音を立てて凍りつき始めていた。
「あ……そういえば、パック様の発魔期があったわね。正確な日にちを覚えてなかったけど……っくしゅん!!」
確か、原作では魔獣騒動の後、アーラム村の人たちを巻き込んで雪まつりをするエピソードがあった。
これはエミリアと契約している大精霊パックの『発魔期』による影響であり、彼が体内に溜め込んだ膨大なマナを部屋でこっそり放出しているのが原因だったので、
「……バルスには早々に雪まつりを提案してもらった方が良いわね。まあ、ここのエピソードは平和な話だったし、ラムはゆっくりさせて貰おうかしら―――ん?」
そう思ったところでふと、原作とは異なる部分―――地下の冷たい石造りの牢屋に閉じ込められている少女の存在を思い出した。
あの座敷牢には最低限の寝具程度しかない。屋敷内が冷気に包まれている今、地下の冷たい牢屋は物凄い寒さになってるかもしれない。
しかもメィリィは暗殺者とはいえまだ子供。小さな体では体温も直ぐに失ってしまう。OVAでスバルが鼻からつららを噴き出していたギャグで済んでいたけど、メィリィに関しては本当に命に関わる可能性がある。
「メ、メィリィ!!」
慌てて部屋を飛び出し、凍りつき始めた階段を転がるようにして地下へと駆け下りていく。
太陽の光が一切届かない地下室の寒さは想像を絶するものになっていた。
「メィリィ!大丈夫!?」
ラムが座敷牢の扉の前まで辿り着くと、ベッドの上で薄い毛布にくるまったメィリィが青白い顔をして気を失っていたので、持っていた鍵で手早く鉄格子を開けて迷うことなく冷え切った牢屋の中へと飛び込んだ。
「っ……良かった、まだ生きてはいるみたいね」
ぐったりとしているが、確かに呼吸がある。青白い顔でガタガタと震えるメィリィの小さな身体を自分自身の腕の中にしっかりと抱きしめる。
「とにかく、急いで暖炉で暖めないと……」
自身の体温を分け与えられるよう体を寄せて抱えながら、急いで暖炉のある部屋まで移動する。すぐさま乾燥した薪を暖炉に放り投げ、火の魔石にマナを送って着火した。
「……お、思わぬアクシデントだったわ……っくしゅ! やばい、私も風邪ひきそう……」
歯の根が合わなくなるほどの寒さに震えながら毛布を被る。ひんやりとしたメィリィの身体に、自分の体温がグングン持っていかれるのを感じたが、その場でジッと耐えながら身体を温めるのであった。
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POV:メィリィ
意識の深い底で、私はどこまでも続く真っ白な雪景色の中を歩いていた。
凍えるような吹雪が頬を打ち据える中、隣を歩くのは魔獣達。
このままでは凍えて死んじゃう。
足の裏の感覚はとっくに無くなってるけど、この寒さを凌ぐことのできる場所を探さなくてはいけない。
「ウウ……」
……寒い。
私の事を育ててくれた魔獣達に身を寄せると、魔獣達も私と同じように身を寄せてくる。
魔獣から伝わってくるこの温度は、私にとって唯一確かめられる家族としての証だった。
目を閉じて、また目を開く。
私は再び、どこまでも続く真っ白な雪景色の中を歩いていた。
視界を潰してしまうほどの吹雪が目の前を覆い隠し、積もった雪は私の靴の中を濡らして体温を奪っていく。
「……寒い」
小さく呟いた私の独り言。それは吹雪の中へと消えていくはずだった。
だけど、目の前を歩く黒衣の女性―――エルザがくるりと振り返って、口を開いた。
「仕方ない子ね、少しだけ温めてあげるわ」
私は魔獣を操るための道具であり、エルザもまた殺しを楽しむためだけの狂人。お互いの中にあるのは利用し、利用されるだけの関係だった。
……それなのに、冷酷な暗殺者であるはずのエルザが、私の小さな身体を黒い外套で包み込むように抱きしめた。
私は、あの時に感じたエルザの体温だけは何か特別な意味を持っていたような気がして、その微かな温もりにしがみつくように、夢の中のエルザに顔を埋める。
再び目を閉じて、目を開く。
すると、まだ私は誰かの腕の中にいた。だけど今私を抱きしめている彼女からは鉄と血の匂いなどしなくて、甘い花のような匂いがする。
「……って、お姉さん。これは一体……何してるのかしらあ?」
視界に映ったのは、私の事を抱いたまま、僅かに青白い顔をしたラムお姉さんの顔だった。その瞼は閉じられていて、口からは小さな寝息が漏れている。
……確か自分は座敷牢に居て、季節外れの凍えるような寒さに耐えきれず意識を失った。それがどうしてこんな状況になっているのか分からないけれど―――
「暗殺者を前に無防備に寝るなんて、お姉さん馬鹿なんじゃないのお?」
そう呟きながら、私は静かにお姉さんの腕の中から抜け出そうと身を捩った。彼女が隠し持っているはずの短剣を奪って、この細い首に突き立ててやろう。
私は冷たい指先を這わせ、彼女のメイド服のポケットや袖の裏側を慎重に探り始める。その時、私の指先が触れたお姉さんの体は驚くほどに冷え切っていて、小刻みに震えていた。
……まさか、自分の体温で私の事を暖めていた、ということかしらあ?
夢の中で感じたエルザの温もりと、目の前のメイドの温もりが重なる。奪うことしか知らなかった私に、何の対価も求めずにこれほど無防備な優しさを向けてくる人間など、今まで見たことがなかった。
いや―――エルザのはどうだったんだろう。お互いに利害のみを追求する関係、それが仕事仲間というもの。だとしたら、あの時私を抱いて暖めてくれたエルザは私に何かの対価を求めていたんだろうか。
……なんて、考えているのが馬鹿らしくなってきた。
「今日は寒いから……殺すのをやめておいてあげるわあ」
なんとなく……きっと本当に、理由なんてない。ただ、今は彼女の首筋に短剣を突き立ててやるという気分にならなかった。
短剣を探っていた手を止め、私は再びその温もりにすり寄るように顔を埋めた。
すると、私のわずかな動きで気がついたのか、お姉さんの長い睫毛が震えてゆっくりと見開かれた。
「……気が、ついたのね。よかった」
ドキリ、と心臓が跳ねる。
―――寝首を搔こうとした事を気づかれた?
しかしその心配とは裏腹に、お姉さんが私を見つめる表情は穏やかだった。
それだけ呟くと、お姉さんは「くしゅん」と小さくくしゃみをした後、再びうとうとと頭を揺らし、瞼を落とした。
「……そんなんじゃ、本当にあっさり殺されちゃうんだから」
そう呟いたものの、自分がどういった意味でその言葉を呟いたのかが分からない。だけど、不可解な感情に答えを見つけるよりも、今はただこの心地よい温もりに身を委ねたかった。
今はこの甘いお姉さんを利用させてもらおう。
そう思いながら私もゆっくりと瞼を閉じると、余計な事を考える事もなく、すぐに眠りにつくことができた。
イマジナリーメィリィを脳内に飼って、「え~こんな夜中にカップラーメン食べたら太っちゃうんじゃないのお~♡」とか言われたい人生だった。
1話当たりの文字数、どれぐらいが良いですか?(3章書いてたら9000文字連発してしまったので分割しようか悩み中
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4000~7000文字(分割する)
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7000~10000文字(分割しない)
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全然気にした事無いからどっちでもいい