「なあ姉様、やっぱり病弱キャラなんじゃ……」
「うるさいわねバルス……はっ倒すわよ―――ゴホッ、ゴホッ!」
「こらスバル!ラムは病人なんだから刺激しないの。もっと酷くなっちゃったらどうするのよ」
……まさか、と思っていたら本当に風邪引いていて泣ける。
目が覚めた時には既にベッドの上に転がされていて、エミリアに甲斐甲斐しくお世話をしてもらっている状態だった。
「にしても、鬼族でも風邪は引くんだな。正直意外だった」
「ゴホッ……まあ、ラムは悪い意味で特別だから。本来の万全な状態の鬼族ならそうそう風邪なんてひくことはないと思うわ。ラムの場合は、マナ欠乏症に急激な寒暖差が重なったせいじゃないかしら?」
「いやあ悪いねラム」
「いえ、パック様にとって生理現象のようなものですから仕方な―――っくしゅん! うう……」
「はいラム。ちーんして」
「ふぁい。んん……」
エミリアに促されるように拭き紙で鼻を拭いてもらっていると、エミリアはポーっとこちらを眺めていた。
「……なんかエミリアたん嬉しそうじゃない?」
「え? そ、そんな事無いわよ。弱ってるラムが小さい子みたいで可愛いなって思うだなんてそんな最低な事考えちゃダメでしょスバル!」
「俺はなんも言ってねぇけど!? エミリアたんそんな事思ってたの?」
「お、思ってない!私そんな事思ってないんだから!」
ぶんぶんと首を振って顔を覆うエミリア。そのラムの鼻水付きの拭き紙を早く捨てて欲しいなぁという感想を持ちながらぼんやり眺めていると、スバルが何か気になったのか小さく首を傾げた。
「……そういや、マナ欠乏症って?」
「あれ?スバルは知らないんだっけ……その、ラムの体の事」
「うんにゃ、一応ツノの事についてはレムから少しだけ聞いてる。鬼にとって角は力の象徴で、それが折れちまったから力が無くなっちまったんだろ?」
「まあざっくり言うとそうね……」
てっきりもうスバルには知られていると思っていたけど、よく考えてみたらスバルにはラムの口から話したことが無かった気がする。エミリアには原作開始前からさっさと教えてしまっていたせいですっかり忘れていた。
「……角は力の象徴。これは間違ってはいないけど、正確には少し違うわ」
「というと?」
「鬼の角はマナを体に取り込むための器官なのよ。だから正確には『力が無くなった』というより、『力を出すためのマナが足りてない』と言うのが正解ね」
「ああー……なんとなく理解したぜ。だからマナ欠乏症か」
「ええ。そして鬼の体は常人よりも遥かに強い分、圧倒的に多くのマナを常に消費し続けている。ラムはいくつか段階を踏めるように調節してるけど……結局マナが常に枯渇してる事には変わりないから、鬼としての力や耐性が大幅に落ちているのよ」
「……それってどれ位辛いんだ?」
「……」
スバルの問いに、少しだけ押し黙る。そりゃもう辛い、辛すぎる。もし万が一、
「そりゃもう死ぬほど辛いんじゃないかなあ? 実際、マナの問題ってスバルが思ってるよりも結構深刻なんだよ。ロズワールが居なくてマナ補給が出来ない日なんかは偶に倒れてるよね」
パックがラムの代わりに説明すると、案の定エミリアとスバルがお通夜みたいな顔になってしまう。仕方がないので、此処は何とか空気を切り替える為に、余裕そうなドヤ顔でサムズアップをした。
「……ま、慣れた物よ。ラムは長女だもの。長女は痛みには負けないわ」
「……ううん、ラム。痛みに慣れる事なんてない。せめて私がラムにマナの補給をしてあげられる実力があればよかったんだけど……」
「……」
ラムのジョークはエミリアのマジレスにて撃沈。
おい何とかしろ、とスバルに視線を送ると、スバルはまた別の事を考えていたのか、納得したような表情浮かべていた。
「あぁ! もしかして夜な夜なロズッちの書斎へ行ってるのって……?」
「そう、マナの補給をして頂いているの。補給には四属性のマナを均等に調合したもの……無色のマナを頂く必要があるんだけど、この屋敷でそれを行えるのはロズワール様ぐらいだから」
「そ、そうなのか………てっきりマジで『ドキドキ、ご主人様との秘め事♡』かと思っ―――ぐぇぁ!!」
何を言おうとしてるんだこの男は。鳩尾に拳を叩きこむと、潰れたヒキガエルのような声を漏らして床に転がり落ちる。
「だ、だってお前……凄い18禁な声出してるから、そんなの聞いたら誰だって誤解するだろーが!!」
「―――――は?」
今こいつ、なんて言った?
眉を顰めて震えていると、スバルが慌てたように弁明を開始する。
「あ、ヤベ………いや、たまたま!たまたまな!?ロズっちの書斎の扉に耳を当ててたらラムのエロ―――ぶべっ!!?」
「は、はああああ?? 扉に耳までつけて何が『たまたま』よ、いやらしい!!!」
「きゃあ!?ラム、落ち着いて!病人が暴れちゃだめでしょ!」
ベッドから跳ね起きたラムをエミリアが静止するのを無視して、スバルに腰の入った蹴りをお見舞いしてやる。思い切り壁に吹き飛ばされたスバルは、そのままボロ雑巾のように倒れこんだ。
「はぁ、はぁ………ゲホ、ゲホ。……そういえば、メィリィはどうしたの?」
「え?えっと、メィリィの事なら―――」
と、エミリアが説明をしようとした時、コンコン扉がノックされた後、心配そうな顔をしたレムが入ってきた。そしてその後ろには、小さな土鍋を載せたお盆を運ぶメィリィの姿がある。
「失礼します、姉様。具合はいかがですか?」
「あらあ、やっと起きたのねえ」
メィリィが呆れたように肩をすくめながら、ラムのベッドの隣にある机の上に土鍋を載せてから、小皿にその中身を移していく。
「……てっきり、あの隙を突いて逃げ出すかと思ったわ。どうして逃げなかったの?」
「ま、そうしても良かったんだけどねえ」
監視役のラムが気絶していたので逃走の絶好のチャンスだったはずなのに、何故だかメィリィはその選択をしなかったようだ。理由を聞いてみると、メィリィはなんてことないようなトーンで説明をする。
「お姉さんをあそこに放置したら、本当に死んじゃいそうだったからぁ。少しだけお世話してあげることにしたのよぉ。この数日間の貸し借りはナシにしておきたいしい?」
そんなメィリィの言葉を聞き、エミリア様がくすくすと笑い声を漏らした。
「ふふっ。メィリィったら、そんな風に言ってるけど……ラムが倒れた後、大慌てで私たちの事を呼んでくれたのよ。私も、メィリィには感謝してるわ」
「ちょ、ちょっとエミリアお姉さん! 余計なこと言わなくていいのよぉ!」
「……ありがとうメィリィ、助けられちゃったわね」
ぽん、と頭を撫でると、少し照れたようにメィリィは顔を背けてしまった。メィリィがそんな事をしてくれたなんて、正直めちゃくちゃ嬉しい。
「だから、メィリィの事も、今は牢から出してあげてるの。勿論ロズワールからも許可は貰ってるわ」
「そう……」
昨日の晩も思ったけど、メィリィが皆に受け入れられていて良かった。原作とは異なり、人的被害を殆ど未然に防げたのは心象としてかなり大きいのかもしれない。
「その代わりにメイドの仕事で朝からずっとこき使われてて大変よお……レムお姉さんったら容赦ないんだからあ……」
メイドの朝は早く、そして結構な重労働。
メィリィは暗殺者ではあるが、基本的な肉体労働は魔獣に任せている筈なので、それなりに堪えたようだった。明らかに疲れた顔のメィリィに思わず苦笑いを浮かべる。
「……レム、あまり厳しくしないようにね?」
「いいえ姉様。ビシバシ厳しく行かせてもらいます」
説得もむなしく、レムのしごきが確定した。
がんばってねメィリィ!
……ちなみにスバルの事はレムが撤去してくれました。
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雑炊を綺麗に食べ終えて、大人しく薬を飲んで横になっているとロズワールが部屋に訪れた。
どうやら今日は遠出をするため、帰還が明日の朝になるらしい。
その為、今のうちに軽くマナを補給してもらった後、そのままもうひと眠りしようと目を閉じていたのだが……どうやら自分の身体の状態を甘く見すぎていた。
思ったよりも酷い風邪と、日ごろから感じているマナ欠乏症のダブルパンチが苦しくて、全く身体を動かせそうにない。補充したてでこれなら、一度でもマナなんか使った瞬間頭が沸騰してしまうような気がする。
……それからどれほどの時間が経ったのか、自分が眠ったか眠ってないのかも分からないような時間を過ごしていると、不意にがちゃりと扉が開く音が室内に響いた。微かな足音は一直線にこちらへ向かって歩みを進め、やがてベッドのすぐ傍でピタリと止まる。
「だ、れ…?」
レムか、それともエミリアが様子を見に来てくれた?
熱で霞む思考のまま、ゆっくりと目を開けて傍らに立つ人物の顔を見上げた。
そこに居たのは―――
「あら、お目覚めみたいね」
「……エルザ……グラン、ヒルテ」
豊満な胸元を大胆に露出した黒装束の女、エルザ・グランヒルテ―――『腸狩り』のエルザが、妖艶な笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。
…
……
…………びっくりした。普通に心臓が止まるかと思った。
普段付けている装備は棚の上だし、対してエルザは目の前で抜き身のククリナイフを手に握っているという絶体絶命の状況。
しかしそれでも、無抵抗に殺されてやるつもりは全くない。
「―――フーラ!!」
杖が無く、精度の落ちた風の刃を放つ。一撃で倒すつもりで風の刃を生成したのだが、エルザはナイフを大きく振り払う事でそれをかき消した。
「折角楽しめるかと思ったのに……その様子じゃあの夜の続きは出来なさそうね」
「ハッ……冗談!」
「!」
ベッドの上に覆い被さっていた分厚いシーツを掴み、エルザの視界へ向けて勢いよく放り投げる。布越しに迫るククリナイフの凶刃を躱し、最後の力を振り絞って棚の方へと力強く地を蹴った。
熱で焼き切れそうな肺に酸素を送り込み、棚の上に置かれていた愛用の短剣を素早くその手に握り込む。視界を塞ぐ布が真っ二つに切り裂かれた瞬間に合わせ、エルザの首筋へ向けて渾身の一撃を突き出した。
しかし。
「くっ……」
「ふふっ、痛々しくて可愛らしい抵抗ね。でも残念、それでは私に届かない」
いとも容易く、ククリナイフによって正面から受け止められてしまう。
元より近接戦では分の悪いエルザ相手でも、万全であれば何とか打ち合いをすることもできた。しかし今の身体では、それすらも難しい。
歯噛みしていると、エルザは口元を三日月の様に吊り上げて、ククリナイフを大きく振った。
「ふふっ、痛々しくて可愛らしい抵抗ね。―――でも、これで終わり」
けたたましい金属音と共に手首へ強烈な痺れが走り、力なく弾き飛ばされた短剣が虚しく床を転がっていく。そのまま腹部へ容赦のない前蹴りを叩き込まれ、息を詰まらせながら冷たい床の上へと無様に転がった。
圧倒的な力量差をたった数手で見せつけられ、高熱に浮かされた頭では這い上がることすら叶わない。
「……ぐ、はぁ、はぁ……最悪。ゴホッ、ゴホ……まさか、こんな……間抜けな殺され方を、しなくちゃいけないなんてね」
「……私も残念。あなたとはもっと楽しみたかったのに」
もしかしてロズワールが聖域でやるような事を早めたのだろうか。それとも、他の理由があるのだろうか。
どうしてこんなところにエルザが忍び込んできたのか分からないが、こんな想定外で命を絶たれることになるなんて、と悔やんでも悔やみきれない。
エルザのククリナイフが喉に這わせるように当てられ、そのひんやりとした感触が伝わってきた
その直後。
ばたばたと廊下の方から足音が聞こえ、そしてその足音は扉の前で止まる。当然エルザもその足音に気が付いて、警戒しながら顔を向けた。
「エルザ!? ……ど、どうして此処に?」
部屋に入ってきたのは、メィリィだった。思いがけない人物の登場に、彼女は信じられないものを見るように目を丸くしている。
不意に現れた仲間の姿に、エルザも僅かに驚いたように目を瞬かせた。しかしすぐにいつもの妖艶な笑みを取り戻し、刃を突きつけたまま口を開く。
「あなたを迎えに来たのよ、メィリィ」
「……ああ、そういう事……ゲホッ、ゴホッ……!」
喉の奥から込み上げてきた激しい咳を抑えきれず、大きく身体が跳ねてしまう。その拍子に鋭い刃が薄い皮膚を切り裂き、首筋からツツーッと赤い血が滴り落ちた。
「っ……」
……メィリィを捕らえた事で、エルザの行動が変わったという事だろう。
こちらを見ながら息を飲み、暫く困惑した表情を浮かべていたメィリィが、小さく息を吐いてゆっくりとこちらへ近づいてきた。
「……エルザ、ナイフをおろして」
「メィ、リィ……?」
「ふうん……?」
メィリィは細く震える声だったが、そこにははっきりとした意思が込められていた。困惑するラムと同じく、エルザも僅かに眉をひそめる。
「どういう事?」
理解が及ばないというように、低く冷たい声で疑問をぶつけた。凶器を握る手に微かな力がこもり、痛いほどの緊張感が張り詰める。
「それは……その。お姉さんには借りがあるのよお」
「借り、ねぇ。だからこの子を殺さないで欲しい……そう言いたいのね?」
その口から必死に紡ぎ出されたのは、暗殺者であるメィリィの会話にしては、苦し紛れでひどく無理のある擁護だった。
エルザは小さくため息を吐く。そして短い言葉で当たり前のことを言い切った。
「ダメよ」
「っ……エルザ!」
「己の敵は容赦なく殺す。これがこの世界を生きるための鉄則。 ……メィリィ、あなたにだってよく分かっている筈でしょう。情に流されているようでは長くは生きてはいけないと言う事を」
「っ……」
冷酷な事実を告げる言葉には、いっそのこと清々しいほどの信念が宿っていた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
POV:メィリィ
『情に流されているようでは生きていけない』―――その言葉には、全くもって賛成だった。
お姉さんは明らかに私情を抱いて接してきており、だからこそ暗殺者から見ればいつでも殺すことの出来るような、隙だらけな少女だと思った。
以前なら、そんな人間は真っ先に死んでいく存在だと冷笑して、直ぐにでも首を搔き切っていたはずだった。
……だけど、この数日で重ねた彼女の温もりがどうしても胸の奥に焼き付いて離れない。
「……やめなさい、メィリィ、もういいわ……」
「ラムお姉さん……?」
息絶え絶えの苦しそうな声が、エルザの背後で転がるお姉さんから聞こえた。エルザと私の間に流れる冷たい空気を感じて、私がエルザに殺されると思っているのかも知れない。
お姉さんは殺される寸前だというのに、むしろ私の命を心配している。なぜだか分からないけど、お姉さんは私のことを大切に思ってくれている。
……もしかしたら、あの日、冷たくなった私を抱きしめて暖めてくれたあの温もりこそが、『愛情』というものだったのかもしれない。
だとしたら―――あの日、吹雪の中で私の事を暖めてくれたエルザは、私をどう思っていたんだろう?
私はゆっくりとエルザに近づき、エルザの手ごとナイフを私の首元に押し当てた。
「エルザは……もし私が敵になったら、私の事も殺すの?」
エルザにとって、私はその鉄則に従って容易く切り捨てられるだけの存在なのか。それともただの道具として育てられた身に、少しでも特別な感情を向けてくれているのか。
……こんな状況で、何をやっているんだと行動してから若干後悔してしまったが、それでも確かめずにはいられなかった。
「……」
エルザは妖艶な笑みをスッと消して、ピタリと動きを止めた。黒い瞳の奥で、エルザが何を思っているのか、私には分からない。
いつもなら迷わずに答えを口にするのに、今のエルザは口を真一文字に結んだままじっとこちらの顔を見つめていた。
答えを促すように、首筋に当てた刃へさらに体重を預ける。チクリとした鋭い痛みが走り首筋からは赤い血が薄く滲み出した。
「……本当に、悪い子になってしまったわね。それとも、この小娘が人を誑かすのが上手なのかしら」
吐息のような小さな呟きと共に、エルザのナイフを握る手へ強い力が込められた。しかしその鋭い殺意は真っ直ぐにこちらへ向けられたものではなく、背後のお姉さんへと向かっていることに気づいた。
お姉さんが、殺される。
言葉で答える代わりに、この迷いの元凶であるお姉さんを速やかに殺害しようとしているらしい。
「っ、エルザ!待っ―――」
そう直感して手を伸ばす。
しかし、エルザの一閃はお姉さんを無慈悲にも切り裂く―――
そう思った瞬間、窓が、壁が爆音と共に吹き飛んだ。
吹き飛ぶ破片の向こう側から、凶悪な棘の付いた鉄球が姿を現す。長く太い鎖をジャラジャラと鳴らしながら、そのモーニングスターは暗殺者の顔面めがけて飛来した。
エルザは間一髪、腕を盾にして何とか攻撃を防ぐもそのまま壁に勢いよく叩きつけられた。
「―――そこまでです悪党。姉様から離れてください」
土煙と冷風が吹き込む壊れた壁の上に、文字通り鬼のような表情を浮かべた青い髪のメイドが立っていた。
これって友情?愛情?レム参上 yeah………
1話当たりの文字数、どれぐらいが良いですか?(3章書いてたら9000文字連発してしまったので分割しようか悩み中
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4000~7000文字(分割する)
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7000~10000文字(分割しない)
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全然気にした事無いからどっちでもいい