POV:スバル
朝の空気を肺いっぱいに吸い込みながら、日課のラジオ体操を終えて大きく伸びをしながら芝生に腰を下ろした。
心地よい疲労感に包まれていると、隣で同じように体操を終えて休憩していたエミリアががぽつりと信じられない報告を口にした。
「ねえスバル聞いた?昨晩地下に閉じ込めていたエルザが勝手に檻を壊して出て行ったらしいの」
「……はい?」
突然の爆弾発言に、一瞬だけ思考がフリーズして間抜けな声が漏れてしまう。あの暗殺者が再び自由の身になったと言う事もそうだが、頑丈な檻を自力でぶち破って脱走したという事に背筋にぞくりと冷たい汗が伝った。
「流石にあいつ人間やめてるだろ……」
「……そうね」
そう呟くエミリアの顔は暗い。体育座りのまま静かに俯いている。
「どったのエミリアたん。やっぱりあの暗殺者について不安?」
「……ううん、エルザの事じゃないの。ラムの事で少しね」
「どういう事?」
俺がそう尋ねると、エミリアは僅かに視線を泳がせる。暫くの間沈黙していたが、少しだけ言いづらそう尋ね返してきた。
「ねえ、私って、そんなに頼りないかな?」
「え?なんで急にそんな事を?」
「……ラムが最近、すごーく何かに悩んでいるみたいなの。なのに私には何も相談してくれないから」
「あぁー……」
苦笑いを浮かべていると、エミリアがぷくっと頬を膨らませていた。
「あぁー、って何? スバルも私のことすごーく頼りないなって思ってるの? わ、私だってほんとはラムよりもお姉さんだし、やればできる子なんだから……!」
「い、いやいや思ってないって。でもほら、エミリアたんってラムにとっての妹ポジになってるから、姉様として守ってあげたい対象になってるんじゃねえかなあ……」
「……私だってラムの力になりたいのに」
つん、と拗ねたようにエミリアは唇を尖らせる。
ラムは若干過保護気味というか、『姉だから』という理由で何でもかんでも無茶しようとする傾向がある。
もちろん、俺が”死に戻り”について他人に言えないように、ラムが知っている”何か”について同じように話せない理由がある可能性は非常に高いが……
「………っていうか、よく考えると俺も頼られてないポジションになるのか?」
「スバルは弟みたいに見られてるのかもね」
「ぐぬぬ」
エミリアに告げた自分の言葉が速攻でブーメランになって帰ってきた。守られる弟ポジに居続けている限り、ラムに頼ってもらえないのは俺も同じだった。
「「はぁ……」」
俺とエミリアの溜息が重なる。するとエミリアの頭の上から笑い声が聞こえてきた。
「はっはっは……悩める子らよ。修行じゃ……修行をして強くなるのじゃ……」
「この声は……老師パック様?!」
腕を組みながら降臨したのは、あの伝説の仙人、老師パック……ではなく大精霊パックだった。
「あ、おはようパック。そうよね……最近は王選関連でご無沙汰だったけど、私もマナの操作について、もう少し練習しようかな」
「ご無沙汰……って言うと、前はやってたのか?」
「うん。と言ってもここにきたのもほんの数ヶ月前の話だからそこまで長くやっていたわけじゃ無いけどね。ラムとレムが訓練している時に何度もお邪魔させてもらったことがあるの」
「へえ……って、やっぱあの二人もそういう事してんだな」
意外、というわけでも無い。レムは明らかに戦闘能力が高かったし、ラムの戦闘技法はかなり特殊で他にやっている人には出会った事がないそうだ。
曰く、あの風を纏う戦い方は、マナの消費を抑えながら長時間戦闘をする為のものらしい。
……と言っても、それは魔法の操作精度がかなり高いラムだからこそできる芸当らしいが。
「……魔法か。そろそろ俺も何となくマナの使い方が分かってきた頃だし、そろそろ次の段階に行ってもいいんじゃね?」
「うーん……そうね。それじゃあ、朝食が終わったら少し相談してみましょうか?」
「だな。そうしてみるか」
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と言う事で、休憩時間まで時間が飛び、庭には俺とエミリア、パック、ラム、そしてベアトリスの4人と1匹が集まっていた。
今朝の事をラムに相談してみた所、複数人でのサポートの元次の段階へ進んでみても良いという話になり、大精霊であるベアトリスも呼び出される事になった。
にわかには信じがたいがこの幼女陰魔法のエキスパートらしい。
……ちなみにラムは病み上がりのため本日の使用人としてのお仕事はお休み。いつもとは異なる装いで庭に来ていた。
「姉様、メイド服とあのパジャマ以外に服持ってたんだな」
「はあ? 当たり前でしょう。どうしてオフの日にまでメイド服を着なくちゃいけないのよ。いやらしい」
「いやらしいってお前……」
……いや、確かにちょっと露出がいやらしいか。
背中の部分がかなり開いていて、レムとラムの後ろを歩くとその綺麗な肌が良く見える。
それに比べて、今のラムの服装は殆ど肌が見えないが―――正直言って滅茶苦茶可愛い。
見慣れたいつもの印象より柔らかく、なんというか年相応の少女らしさが漂う服だった。
桃色の髪に溶け込むような淡い桜色のようなカーディガンを羽織り、胸元には控えめなリボンがあしらわれた純白のブラウス。ふわりと揺れる膝上丈の軽やかなスカートが、彼女の小柄で華奢な体つきを際立たせていた。
そんな事を考えながら眺めていると、ラムがジトっと半眼で睨んでくる。
「……何をじろじろ見ているの。潰すわよ」
「こえ―よ!! ……い、いや、普通に似合ってるなって思っただけで他意はねぇよ」
「普通には余計よ。ラムは美少女だもの、何を着ていても似合うわ」
「くそっ、折角褒めてやったのに……」
男の子が女の子の服装を褒めるときはそれなりに勇気がいるのに、と内心で思いながら唇を尖らせていると、ふっとラムが口元を緩めた。
「でも、誉め言葉なら素直に受け取っておくわ。ありがとう」
「お、おう……」
思ったよりもストレートな感謝に若干気恥ずかしくなってくる。すると隣からエミリアが楽しそうな表情で入って来た。
「スバル、知ってる? ラムは結構、お洒落とか好きなのよ」
「へえ、そうなのか…?」
俺の知っていたのがパジャマとメイド服の二種類だけである事と、殆どアクセサリーなども付けないイメージがあったのでなんだか意外である。
「うん。よく私の髪型のアレンジとかしてくれたり、部屋着も私に似合うのを選んでくれたの。 ……私あんまりそう言うのに詳しくないから、すごーく助かっちゃった」
「エミリア様も折角の美少女なのですから、美しく着飾ってあげるのも従者の務めです」
二人仲睦まじくオシャレしたり髪に触れ合ったりする光景……良い。お花畑みたいな匂いがしそう。俺も間に挟まりたい。
そんな事を妄想していると隅にいたベアトリスがつんとした声を上げた。
「……いい加減おしゃべりはそこまでにするかしら。ベティまで此処に連れてきたんだから、さっさと要件を済ませるのよ」
「来てくださってありがとうございますベアトリス様。バルスにとって初めての魔法になりますから、できる限りマナの制御を手伝っていただきたくて」
「下手すると大暴走しちゃう可能性があるんだよねー」
「全く……呆れた男かしら。でも、にーちゃからもお願いされてるから仕方なく手伝ってやるのよ」
やれやれと溜息を吐きながら、ベアトリスは俺の頭に手を置く。続いてパック、エミリア、そしてラムまでもが頭に手を置いてきた。
「……なにこれ、なんか凄い変な儀式みたいになってねえ?」
「我慢しなさい」
大変シュールな構図になっているが、仕方ない事だとラムに一蹴される。でもある意味可愛い女の子達に挟まれる(?)という願望は満たされたような気がした。
「それじゃ前も言ったけど、ボクが補助してスバルの中のマナを使うから、魔法自体はスバルのゲートから出るよ。魔法のイメージについては僕が代わりにやるから、今回はしっかりとマナの流れだけを意識してみてね」
「わ、わかった」
みょんみょんみょんみょん……と頭の中でマナの流れをイメージする。ゲートと言っても実際の器官があるわけではないので、大よそのイメージは……NARUTOのチャクラとかその辺りをイメージするのが一番良さそうだ。
「それじゃ行くよ―――シャマク!」
パックが叫んだ次の瞬間、身体の中からスッとマナが放出されるような感覚があり、ほぼ同時に前方にぼふん!と黒煙が放たれた。身体の中で開いたゲートからマナが送り出されて体外へと流れだしていく感覚は、火の魔石へとマナを作用させる時よりも圧倒的に大きかったが、ラムが懸念していた様なマナの暴走は起きていないようだった。
「こ、これは……成功、って事でいいのか?」
くるりと皆の顔を見渡すと、ベアトリスが小さく頷いて答えた。
「……まあ、及第点かしら。まだまだマナの調節が下手だから、まだ一人で魔法を使うには危なっかしいのよ」
「お、お、お………おっしゃあああああ~~!!!!」
初めての魔法が無事発動できた喜びに震えて、ベアトリスの腋に手を滑り込ませて振り回す。ベアトリスの非難の声もガン無視しながらぐるぐると舞踏会のように回転した。
「ちょっ……何をして……下ろすかしら~~!?」
「うはははは!ははははは!」
「全くもう、スバルったらはしゃいじゃって……でも良かった。これで一安心ね、ラム」
「ええ、そうですねエミリア様。……ですが、マナの制御を少しでも間違えれば錆び付いたゲートが直ぐに壊れてしまうと思います。これから少しずつ訓練するとしても年単位はかかるかと……」
「え!?」
ラムの言葉に、喜びの大回転はぴたりと止まる。その影響でベアトリスが少しだけうめき声をあげたので、「悪い悪い」と謝るとそのまま顎を蹴り上げられた。
「ふん!」
「悪かったってベア子……ってかラム、さっきの話ってマジなのか?年単位かかるって……」
「こういうのは本来幼少期から少しずつ慣らしていくものだから、短期間でどうこうなるものじゃないわ」
「そ、そんな……う゛う゛う゛……俺゛は゛……弱゛い゛!」
「す、スバル……元気出して。きっと何かいい方法がある筈だから……」
余りの絶望感にがっくりと跪いて項垂れていると、エミリアが憐みの表情を浮かべる。
おいおいと涙を流し始めようとしたところで、ラムが大きくため息を吐いて首を振った。
「……はぁ、ラムに一つだけ考えがあるから、今はもっとマナの制御を磨いたり、身体でも鍛えて待っていなさい。その代わり、上手く行く保障もないから期待もし過ぎない事。いいわね?」
「はい先生!」
まだ僅かな希望が残っているという事実に涙が引っ込む。
ラムの考えと言うものがどういうものなのか分からないけど、ラムの言っている事なら多分良い感じになってくれるだろうという期待に胸を膨らませていると、今度はベアトリスが口を開いた。
「……大体、お前はそこまでして力を求めてどうするかしら。騎士ならまだしも、お前はただの使用人。
「それは……」
その通りかもしれない。だけど、俺がどうしたいか、それはもうとっくに決まっている。
そう思ったところで、先ほどの会話に聞き馴染みのある単語があった事に気が付いた。
「騎士って言うと、やっぱ
「……まあ、概ねその認識で良いわ。バルスが思っているよりは、騎士の中にももう少し区分や階級があるけど」
「それに、うちの陣営の場合は殆ど人がいないから、レムとラムも騎士みたいな役目になっちゃってるわよね……」
この前の王都でも、ラムが使用人兼護衛として付き従っていたらしいし。結構深刻な人手不足を思い出したのか、エミリアが気まずそうに苦笑いを浮かべた。
どうしてこのメイザース領に殆ど戦力が無いのかと言うと、ロズワールの戦力が余りにも高すぎるせいでそれでほとんど十分にカバーできてしまっているらしい。……ロズワールが動けない状態になったらどうするつもりなんだ?と思わなくもない。
その言葉を聞いて、胸の奥底で燻っていた願望が確かな形を持って燃え上がり始めた。
「騎士か……良いなそれ。どうエミリアたん。俺を騎士として雇用してみるってのは」
「え?どうしたのスバル、突然」
勢い込んで提案してみるものの、案の定返ってきたのは何とも歯切れの悪い反応だった。困ったように眉を下げるエミリアへ、さらに前のめりになって熱弁を振るう。
「俺が騎士になったら、エミリアたんも、ラムも……他の皆だって、全員俺が守って見せるぜ?」
「……おバカ。騎士がまず守るべきは主君たるエミリア様だけよ。それに、エミリア様の事はラムが
覚悟を乗せた俺の宣言は、ラムの冷ややかなツッコミによってあっさりと切り捨てられる。しかし、その発言を聞いたエミリアは目を細めて、真剣な表情で言った。
「スバル……本気で騎士になるつもりなら、もっと強くならなきゃダメ。
「え、エミリア様……?」
エミリアの瞳から真っ直ぐな想いが伝わってくる。ラムはエミリアに釘を刺されて、少しだけ困惑したように目を丸くして言葉を詰まらせていた。僅かに唇を動かしたもののエミリアの有無を言わせないほどの真剣な圧に完全に気圧されている。
いつになく強気な態度を見せるエミリアの姿に、思わず今日の朝に交わした会話が脳裏をよぎる。ただ守られるだけの頼りない存在ではなく、彼女の隣に立つに相応しい主君として、強く在りたいと思っているに違いない。騎士が主君を命がけで守るというのは間違ってはいない。だけど、今のエミリアにとっての地雷ワードをラムは踏み抜いて行った、と言うワケだ。
どんまい姉様、と言ったような視線をラムに送ると、若干バツの悪そうな顔で睨み返してくる。俺は逃げるように視線を逸らし、やれやれと肩を竦めた。
「……ま、とにかく今は強くなれるように練習あるのみだ! そうだろエミリアたん」
「そうね。……必ず、私ももっと強くなる」
「よっしゃあ!頑張るぞ、おー!!」
「おー!」
「……」
ラムを置き去りにして、エミリアと二人で気勢を上げる。その後もベアトリスやパックの指導の元、俺とエミリアはマナ制御の訓練を行う事になった。
誰かを守れる力を手に入れるため、今は地道に泥臭く足掻き続けるしかない。そうして、この賑やかで厳しい魔法の練習は、毎日の欠かせない日課となるのだった。
スバル「どんまい姉様」←こいつ
エミリアに訪れるクソデカ心境やら転生姉様のスバルのゲートに対する策など変化が多数。
次回は2.5章が短かったので、もう1話だけ過去話挟まります。
ユリウスとフェリス+αのお話!
1話当たりの文字数、どれぐらいが良いですか?(3章書いてたら9000文字連発してしまったので分割しようか悩み中
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4000~7000文字(分割する)
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7000~10000文字(分割しない)
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全然気にした事無いからどっちでもいい