それはエミリアがロズワール邸にやってくるよりもずっと前の話。
ある日の朝、ロズワールから『筆頭宮廷魔導士として預かっていた危険な
いやなんで今日中なのよ。
……なんてことは口にせず、素直に従ったラムは、見慣れた道を竜車で進んでいると前方に不自然な土煙が上がっているのを発見した。
目を凝らすと、そこには気の弱そうな商人が飢えた魔獣の群れに取り囲まれていた。どうやら竜車の車輪が壊れ、どうやら強引に突破することも出来ずに窮地に立たされているらしい。
「……仕方ないわね」
こちらにも急ぎの仕事があるとはいえ、流石にこのまま見殺しにするほど冷たい心は持ち合わせていない。
……というか、
竜車を飛び降りてから、太ももに取り付けた両足のレッグホルスターに手を伸ばす。そこに格納されている短剣と杖を抜き、風の魔法を展開して群れの中心へと飛び込んだ。
「うひゃあああ!?」
突然の事で商人が情けない声を上げているのを無視して、魔獣を始末して行く。しかし、襲い掛かる魔獣たちは思っていた以上に群れを成していた。
次から次へ魔獣を切り裂いていったのにもかかわらず、更に木々の奥から魔獣の姿が現れるせいでキリがない。
「ひぃっ!つ、次が来ます!」
「ちっ……面倒ね。もう見捨てていいかしら?」
「えぇぇ!? なんでもしますから最後まで助けて下さぁい!!」
泣きわめく商人に溜息を吐き、再び戦闘態勢を取る。文句こそ言ったものの、ここでこの商人を見捨てる気はさらさらない。
……その後、暫くの間戦闘を行い、何とか魔獣の群れを退けることには成功したものの、想定以上に時間とマナを消費してしまった。
おかげ立っているのも少しキツくなり、ズキズキと痛む頭を押さえていると、先ほどの商人が竜車の陰から這い出てきた。
くすんだ灰色の髪をした中肉中背の青年で、どこか気弱そうで薄幸そうな顔立ち。見るからに貧乏籤を引かされそうな頼りない雰囲気を漂わせている。
「あ、ありがとうございました……おかげで助かりました。あなたは命の恩人です! ……あ、僕の名前はオットー・スーウェン。しがない行商人やってます」
「……ロズワール・L・メイザース辺境伯が使用人筆頭、ラムよ」
「辺境伯……!!」
名乗りを上げると、オットーは目を輝かせる。たぶん、オットーの脳内ではどうやって此処からコネを作って金儲けをしようか考えているのかもしれない。
「というか、どうして地竜に乗って逃げなかったの? 車輪が壊れただけで、地竜自体は無事なんでしょ」
オットーには”言霊の加護”がある。これはあらゆる生物の声を聞くことができる物凄く強力な加護なので、周りに魔獣の気配があったのなら、虫などの声を聞いて早めに逃げだす事だってできたはず。
すると、オットーは目をカッと見開いて主張した。
「だ、だってここにある積荷を手放すわけにも行かないじゃないですか!! ……だから、誰か通らないかなって待っていたらこんなことに……」
「ああもう……」
もじもじと、情けなく指を合わせるオットーの姿に思わず呆れ返ってしまいそうになる。しかし彼は、そのまま更にこちらへ縋りつくようにして詰め寄ってきた。
「そ、そうだ! もう一つだけお願いがあります! 必ずお礼はするので、どうか積荷を王都まで運んでいただけませんか!?」
「は? なんでラムがそんなことまで……」
「そちらの竜車には、まだ少しだけ空きスペースがあるじゃないですか! どうかお願いします! 僕と言う一人の命を救うと思って……」
鼻水を垂らしながら必死に懇願してくる姿は、もはや同情を通り越してもはや滑稽。それでも見捨てれば奴隷にでも落ちてしまいそうな情けない顔を見ていると、どうしても無下に突き放す気にはなれなかった。
「ああもう……勝手に積み込みなさい。ただし王都に着いたらすぐにでも下ろしてもらうわよ。こっちにだってロズワール様に託されたお仕事があるんだから」
「あ、ありがとうございますぅ! この御恩はぜーーーったい忘れませんから!!」
そう言うと、彼はいそいそと荷物を移し替えを始めた。
予想外の足止めで大幅な時間をロスしてしまったことに頭を抱えつつ、再び竜車を走らせて王都へ向かうことになるのだった。
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王都へ到着した後、すぐに竜車を止めてオットーと荷物を投げ捨てる。
そのまま急ぎ足で王城を目指していると、想定以上のに激しい戦闘の消耗と時間の経過が確実に身体を蝕み始めていた事に気づいた。
それでも休むわけにはいかず……と言うか、休んだところでマナは回復できないので、とにかく急いで用事を済ませて帰る事にしたのだが……
「すみません、担当者への取り次ぎに少々お時間がかかっていて……城内でお待ちいただけますでしょうか」
「……」
……マジふぁっく。
内心苛立ちながらも、ようやく魔法器の受け渡しが完了する。しかしその頃にはもう日が傾き、まもなく沈み始めるという頃になってしまっていた。
やっと帰れる……そう思って、竜車を停めた場所まで急ぐ。
しかし、ショートカットの為に路地裏に足を踏み入れてから間も無くして、さらなる障害物にぶち当たる事になる。
「おほ? ……可愛い姉ちゃんがこんな所に」
「いいねぇ、何そのセクシーなメイド服。なぁなぁ俺たちのこともご奉仕してくれよぉ〜」
「てか、なんか汗びっしょりじゃね? 服脱がせて介抱してやらなきゃ行けねぇよなぁ!?」
「……はぁ」
現れたのは、凄い下種バージョンのチンピラ共。
王都の路地裏はやっぱり治安が悪い。
スバルと因縁の出来るトンチンカン以外にも、こんな三人組いるんだとむしろ感心してしまう。
「ショートカットのためとは言え、こんな場所を通るんじゃなかったわ……」
溜息を吐いてからチンピラ共を睨みつけ、レッグホルスターから短剣と杖を抜く。
「言っておくけど、今は手加減できる状態じゃないの。死にたくなければそこを退きなさい」
「おいおい何言って……ってうわ!コイツ武器を持ってやがる!」
「クソ、や、やんのかコラ!!」
……やんないわ!バカ!!退けって言ってるの!
こっちは本当にガス欠寸前、ほんの少しでもマナを使いたくなかったから、脅しのつもりだったのにと思わず歯嚙みしてしまう。
しかし、男たちは一向に引く気配がない。しかたがないので速やかに風魔法を発動し、三秒と掛からないい内に、
流石に短剣を使って殺すわけにも行かないので、全員足技で終わらせてやっただけでもありがたく思ってほしい。
ピクピクと内股で痙攣するチンピラ共を背に溜息を吐きながら、壁に手を付いて歩き出す。しかし、路地裏の通路を抜けるギリギリのところで、とうとう身体の限界が訪れてしまう。
「はぁ、はぁ……もう最悪よ……馬鹿どもに、最後の一滴、持っていかれたわ……」
視界がぐらりと大きく歪んで、呼吸をするたびに肺が焼け付くように痛み、足元が泥に沈み込むようなひどい目眩に襲われる。
それでもなんとか歩みを進めようとしたものの、結局力尽きて冷たい石畳の上へと膝から崩れ落ちてしまった。
………あー、やばい、本編始まる前に死んじゃうこれ。
今日はロズワールの言いつけなんて破って、普通に引き返せば良かった。
というかそもそも、期限当日にお使いを頼むってどう言う事?多忙なのは分かるけど、もっと余裕を持ったスケジュールを組んで欲しかったんですけど? これ、半分ぐらいはロズワールの所為じゃない?もう終わりよあのピエロ。『龍』を殺すための手駒を失って、叡智の書の記述通りの未来にならなくて泣くが良いわ。
と、現実逃避と責任転嫁をしていると、物凄く情けない気分になってくる。
仮にこんなエピソードが書籍化されていたら、多分コメントで『なんか勝手に大変な事になってて草』とか『姉様ポンコツでわろた』とか書かれるんだろうなと思うと、肉体的な死よりも名誉が死ぬ事の方が辛い事なんじゃないかと思えてくる。
貴族が名誉を重んじる気持ちがちょっとわかった気がする。
ついに意識を手放しかけていたその瞬間、薄れゆく視界の中で誰かの足音がこちらへ向かって慌ただしく近づいてくるのを感じた。
―――そう、偶然にもその薄暗い路地裏を通りかかったのが、命の恩人である彼ら、フェリスとユリウスであった。
「ちょっ……ユリウス、この子、呼吸も浅いしものすごく身体が冷たい……!」
「……急ごう。このままでは命に関わるかもしれない」
フェリスが慌てた声で言い、ユリウスが力強い腕でラムの身体を抱え上げて走り出していく。
そうして担ぎ込まれていくのはカルステン公爵家の別邸。朦朧とする意識のままベッドに転がされ、すぐさまフェリスが治療を開始する。しかしフェリスはラムの身体の中のマナを測ったのか、険しい表情を浮かべた。
「っ……何、どうにゃってるのこの子の身体。殆どマナが残ってにゃいだけじゃにゃくて、マナを全然取り込めてにゃい……」
「それはつまり、ゲートが破損していると言うことだろうか?」
「ゲート自体は問題にゃいみたいだけど……ううん、そんにゃ事よりフェリちゃん達で何とかしてマナを補充してあげにゃいと……」
「マナを? ……しかし、大気中のマナを取り込むのと、他人のマナを取り込むのでは訳が違うだろう? そんな事をして本当に大丈夫なのだろうか」
「……」
ユリウスに問われて、フェリスは押し黙る。
大気中から取り込むマナとは異なり、他人から放出されるマナはゲートを介してしまうため、その人固有の属性のマナに変換されてしまう。
そのため、ただ単にマナを注入するだけでは、属性のバランスが偏り過ぎてむしろ悪影響を及ぼす可能性の方が高い。
……実際の所、ロズワールの行っているマナの補給は限られた人物にしか成し得ない高等技術なのである。
まず前提として、四属性のマナを扱える事と、それを完璧に調合して無色のマナを生成できるほどのマナの操作の精度。そして注入したマナをその相手の中で問題なく循環させるための身体の調整も必要だった。
そして何より、マナの注入などと言う技術を必要としている人間が殆ど存在しないため、この技術自体の認知度がかなり低いのも難易度の一つだろう。
「……ユリウスにゃらできるかもしれにゃい。四属性のマナ、完璧にゃバランスでこの子に入れてあげれば、あるいは」
「完璧……と来たか。フッ、 それならばその期待に応えなければならないな」
少しでも配合に失敗すれば、それだけリスク高くなる。
原作でも、ロズワールの他にエミリアとベアトリスが二人がかりでマナの補給に当たっていた事もあったが、あの二人を持ってしても難しい事だった。
そんな高難易度ミッションを、この二人は見ず知らずのラムの為に行おうと言うのだ。
………正直ちょっと感動している。もしこのシーンが書籍化されたら、フェリスとユリウスの株はうなぎ上りだろうなと思いながら、ラムは限界になって意識を手放すのであった。
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「……ん」
それから正確にどれぐらいの時間が経ったか分からなかったけど、気が付けば窓の外の景色はすっかり夜になってしまっていた。
マナ補給は最低限だったのか、未だにマナ枯渇によって全身の痛みが強い。
重い体を起こそうとしていると、部屋の扉が静かに開かれた。
そこに立っていたのは、男装の麗人、カルステン家の若き当主、クルシュ・カルステンである。
「目が覚めたか」
凛とした声と共に部屋へ足を踏み入れた彼女の姿に、思わず見惚れて息を呑んでしまう。
―――何を隠そう、
マナ補給に関する問題が無かったり、原作の流れを一切無視するつもりなら、この人の下に行きたかったという想いが密かにあった。
イケボ女を好きに成らない女など、居ない。*1
「体の調子はどうだ?まだ随分と顔色は悪いようだが」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。もうすっかり問題ありません」
この時期はまだエミリア陣営になったというわけではないが、何かと忙しいクルシュ陣営の世話になり続けるわけにもいかず、痛みを堪えながら平然を装って答える。
……が、彼女は鋭い琥珀色の瞳を細め、僅かに首を横に振って見せた。
「強がるのは勝手だが、私に嘘は通じない。
「そーだよ!!今にも死にそうな状態にゃんだから、無理しちゃだめ!」
クルシュの発言に続くように、後ろで開けられていた扉からひょっこりとフェリスが顔を出した。その隣にはユリウスも控えている。
「……フェリちゃんたちがせっかく助けた命を、自分から粗末にするにゃんて許さにゃいよ」
自分の知っている明るい治癒術師のイメージとは違う本気のトーンで叱られ、思わず肩をビクッと跳ねさせてしまう。
彼らの優しさと真剣な思いを無下にする態度をとってしまったと若干反省して、静かに俯いた。
「……ごめんなさい。それと、助けていただき感謝いたします」
「ん、よろしい」
うんうん、とフェリスは満足そうに頷く。自分の知っているイメージと同じような笑顔を浮かべてくれたので少しだけ安心した。
「それで……君の事を聞かせてもらっていい?にゃんであそこで倒れていたのかと……君の身体がどうにゃっているのか」
「わかりました。その代わり、この話はできれば口外しないようにしていただけますか?」
「ああ、カルステン家の名において約束しよう」
クルシュが言い切り、二人の騎士も同じように頷く。
それから一呼吸を置いて、ラムは話し始める事にした。ここに居る人たちは、原作で一方的に知っているだけではあるが性格的に信頼できる。
まずは自己紹介。ロズワール家のメイドである事を話し、それからその経歴を踏まえて説明を開始した。
かつて鬼族の里が魔女教徒に襲われ、滅びかけた事。
その時、鬼族にとって重要な器官である角が折れてしまってた事によってマナが取り込めず、鬼の肉体が求めるマナ消費には足りていない事。
嘘偽りなく話していくと、ユリウスが口元に手を当てて唸った。
「鬼族、か。確か鬼族は既に滅んだものと、そう聞いていましたが……」
「驚きだネー……」
「……にわかには信じがたいが、どうやら卿の言葉は真実らしい」
唖然としながらも言葉を飲み込む三人を横目に、少し長く話し過ぎたせいか、再びくらくらとした眩暈が襲ってきた。
「っ……」
「大丈夫か?」
「正直に言うと、まだかなり辛いです。先ほどお伝えした通り、鬼族の肉体のマナ消費量は普通の人よりも遥かに多いですから。」
「ふむ……先の話を聞く限り、もう少し回復する必要がありそうだな。フェリス、頼めるか?」
「はいはーい!もちろんですクルシュ様。むしろその為にユリウスにも残ってもらったんですから」
さっきから気になってはいたけど、ユリウスがまるでクルシュ陣営みたいな並びでこの場に残っていたのは、まだマナ補給の続きが必要だと判断したから、と言う事らしい。
「……ご配慮していただきありがとうございます。この恩は何れ……」
「良い。今は卿の体の治療が先だ。卿の顔色を見れば今も尚激しい苦しみと戦っているのは容易に想像がつく」
「そーだよラムちゃん。さっきも言ったけど、病人にゃんだから無理しちゃダメ。……それじゃユリウス、早速治療開始しちゃいますか」
「もちろんだとも。……先の話からするに、マナの補給はここから行った方が効率が良さそうだね」
ユリウスの指先がゆっくりとラムの額に触れ、フェリスもそれをサポートするために手を重ねる。
彼が練り上げた純度の高いマナが、フェリスの誘導に従ってゆっくりと身体の中へ流し込まれていく。
………
…………
しかし、ここで問題発生。
他者のマナを直接注ぎ込まれるという行為は、つまり、そういう事である。
「………!! ………!」
「……? ラムちゃん、顔真っ赤だけど、やっぱり苦しい? もう少し頑張れそう?」
「ん、んんんっ……」
口元を押えて必死に声を殺す。こんな所で
しかし、その様子を見ていたフェリスが何か勘違いしたのか、少しだけ焦った表情でユリウスに声をかけた。
「……ユリウス、今から少し回復の方に手をまわしちゃってもいい? このままだとラムちゃんの方が先に参っちゃうかも」
「フッ……無論だよ。先の治療で既にマナの出力調節は完璧に近い。フェリスの補助がなくとも、恐らく問題はないだろう」
「ふーん……流石『最優の騎士』だネ。それじゃ行くよ」
にやり、と目配せをする二人の間には、ドラマで見る医療現場の相棒のような信頼感が見て取れる。そして、フェリスの指先が一度離れたその瞬間―――
「っ……んぁっ!」
一瞬、熱を帯びたマナが血管の隅々まで這い回るような感覚に新たな刺激が起こり、思わず自分でも我慢できない程の声が漏れてしまった。我慢していた分、上ずった声が部屋に響き渡る。
「へ………?」
「む………」
「………」
フェリスとクルシュ、そしてユリウスが目を丸くしてこちらを唖然とした表情で眺めている。
…………あ”あ”、あ”あ”あ”あ”。終わった終わった終わった。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい……!
もう死にまーす!ありがとうございました!
鏡なんか見なくても、火を噴きそうなぐらい自分の顔が赤くなっているのが分かる。羞恥の余り、涙目に成りながら慌てて声を出した。
「し、失礼、しました。思わず、声が……」
「……え、あ、あー!そうだよね!マナを注入される側の感覚ってよく分からにゃいけど、やっぱ変な感じするよネ、うん。ごめんね?泣かないで?」
「そ、そうだったか……私もそう言った経験は無いのでな。察することが出来なくてすまない」
「……いえ。続きをお願いします」
二人の物凄く気遣った態度に、更に居た堪れない気持ちになってきた。もうさっさと終わらせてもらおう……と思ってユリウスをちらりと見ると、ピクリとも動かずに停止していた。
「……ユリウス?」
「………、………あ、ああ。フェリス、なんだろうか」
「いや、『なんだろうか』……じゃにゃくて……続きやるよ?」
「それは、もちろん、分かってるとも」
フェリスが声をかけると、ユリウスが上ずった声で再起動して頷く。再びユリウスの指先がラムの額に押し当てられ、治療が再開された。
………のだが。
「ぁっ……ぅ”っ……ふっ……ん”っ……」
「ちょ、ちょっ……ユリウス!マナが乱れてるってば!治療行為にゃんだからしっかりして!」
「くっ……わ、分かっている! 今、少し出力を……!」
「ふぁっ! ……その、ユ、ユリウス様。申し訳ございませんが、もう少し、ゆっくり入れて頂けませんか……あぅっ……!」
「ゆっ……!? くっ……―――私は騎士、ユリウス・ユークリウス。いかなる状況にも屈さず、この使命を全うしてみせる!」
「それ、ここで言われてもぜんっぜんカッコよくにゃいから!!」
混沌、と呼ぶに相応しい、もはや治療現場とは思えない状況。
その三人から少し離れた位置で、クルシュがやれやれと眉間を押えてため息をついていた。
「……私は別室に居よう。終わったら、呼んでくれ……」
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翌朝、クルシュ邸の入り口の前には、ラムとフェリス、そしてクルシュの三人が並んでいた。
「………クルシュ様、フェリス様。昨晩はありがとうございました。ユリウス様にも感謝をお伝えください」
「いーよいーよ。ユリウスの面白い所も見れたしネー……ぷ、くくくっ」
「フェリス、その話題を出すのは、彼女にも失礼に当たると思うのだが……」
「……いえ、気にしないでください。ラムが悪いのですから……」
「あ、ああ。卿も……まあ、気にするな」
クルシュが庇ってくれるが、ラムは遠い目をしてお空を見上げながら答える。この世界に来て、恐らくこれ以上の羞恥プレイは存在しないだろうという程の辱めを受けた気がした。
……ちなみにユリウスは昨晩治療が済んだら早々に退散していったのだが、その時の彼の顔は真っ赤に染まり、物凄く居心地が悪そうだった。
ともかく、感謝してもしきれないぐらいの恩が出来てしまったので、二人には改めてお礼を言う。
「こほん……それでは、クルシュ様、フェリス様。また近いうちに改めてお礼をさせていただきます。機会があれば、ユリウス様にもそうお伝えください」
「ああ。それまで息災でな」
「はいはーい、またねラムちゃん。今度ユリウスを呼んでお茶でもしようネ!」
「はい」
くすりと笑みを浮かべてから、丁寧なカーテシーをしてから竜車を目指して歩いて行くのだった。
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こうして長い長い王都での一幕が終わったのだが、その後もなんやかんやと交流が続き、今でも良き友としての付き合いは続いている。辺境伯の筆頭使用人、と言う事もあって案外王都に来る用事があり、その度に機会があれば挨拶をして回っていた。
「ラムちゃん、どうしたの?」
「ん……ああ、ラム達が出会ったのも、もう随分と前のように感じるなと思って」
「え~、にゃんか年寄りみたい。若人の会話とは思えにゃいんですケド」
「……そうだね。しかし、私たちが出会ったのは何かの運命だったのかもしれない」
「と、言いますと?」
フェリスが首を傾げると、ユリウスがフッと口角を上げた。
「それぞれに王選候補者に据えた主が居るというのは、あの頃は思いもしなかったことだからね。こうして良き友であり、そして良き好敵手として顔を合わせられるのはとても喜ばしいことだよ」
絵に描いたような爽やかな笑顔で、ユリウスが楽しそうに言う。
王選候補者については原作知識で知っていたのでユリウスの感覚とは少し違うけど、確かにラムもこの二人と友人関係になれるなどとは微塵も想像していなかった。
「……そうね。お互いに陣営を背負って、絶対に負けられない立場になってしまったわ」
「ふふん、クルシュ様が一番に決まってるケドね。でも、こうしてたまには敵味方抜きでお話しできるのはフェリちゃんも嬉しいよ」
得意げに胸を張るフェリスの言葉に、思わず小さく吹き出してしまう。立場は変わってしまっても、こうして軽口を叩き合える友人がいる事は素直に嬉しかった。
「ああ。戦いの場では互いに全力を尽くすことになるだろうが、この繋がりは大切にしたいものだ」
「せいぜい、正々堂々と戦いましょう。―――もっとも、最後に勝つのはエミリア様に決まっているけれど」
嵐のような王選が間もなく本格的に幕を開けるというのに、この空間だけは平和で温かい。
これから先、原作と異なる展開になった場合、彼らとは決して相容れない敵同士として対峙する日が来るかもしれない。
それでも今のこの心地よい時間だけは、掛け替えのない宝物として胸の奥にそっとしまっておくことにした。
この関係値で進む第3章がついに始まる。と言う事で2.5章は短かったので、サブエピソードでした。
ちなみにラムは魔鉱石からもマナを集めることができます(WEB版IF調べ)
……が、全て魔鉱石からマナを取り入れようとそれなりの量と四属性分用意する必要があるので、明確にマナの補給が数日できない事が確定している時のみ魔鉱石からの補給をしていると解釈してます。(明確にロズワールから補給がされない状態をどうしているかは明言されていなかったため)
書きまた溜めて来るので、よろしければ評価とかお気に入りとかして頂けるとハゲみになります。
プロットだけは6章まで出来てるけど、3章以降のボリューム感えぐいのでちょっと時間かかるかも……/(^o^)\
1話当たりの文字数、どれぐらいが良いですか?(3章書いてたら9000文字連発してしまったので分割しようか悩み中
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4000~7000文字(分割する)
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7000~10000文字(分割しない)
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全然気にした事無いからどっちでもいい