あれから、またまた数ヶ月の時が経った。
エミリアが屋敷に来てからの日々は、予想以上に穏やかで賑やかだった。
最初こそはまだ緊張が抜けていなくて、少しだけ距離のあったエミリアも、今ではラムと一緒にお菓子を一緒に作ったり魔法の練習をする仲だ。
ただ、レムはまだ少しだけエミリアに距離があるように見える。というのも、ラムとエミリアがおしゃべりしていると、会話に入ってくるでもなくじ~っとエミリアを見たままの時があったりする。ラムがいない時には積極的に世間話をしているようにも見えないし、思ったよりもシャイな妹なのかもしれない。
エミリアは「大丈夫よ、気にしていないから。それにレムが何を考えているのか、すこーしだけ分かるかも……っていうか、ラムって結構にぶちんなとこあるわよね」と苦笑いをされた。
……もしかして、ハーフエルフについての偏見や差別の意識があるんだろうか。もしそうなら、ここはお姉ちゃんとしてビシッと注意しないといけない。偏見、差別、ダメ、絶対。
そんな日常を過ごしていたある日。夕食の際にロズワールががいつもの優雅な笑顔で口を開いた。
「エミリア様。王選の正式な招待状が届いたよぉーうです」
「本当?それじゃあ、また王都へ行く必要があるわね……」
エミリアが少し緊張した面持ちで呟く。今までも少しずつ準備を進めていたとはいえ、いよいよ王選が始まるとなると緊張もするだろう。この小さな肩の上に圧し掛かるプレッシャーがどれほど辛い事かはラムにも少し理解ができる。
「ただ今回私は用事があってねぇ。残念だけど王都には行けなーぁいんだ」
あ、そうなの。
確かに言われてみればアニメでロズワールの姿が無かった気がする。ラムが納得していると、エミリアが横から口をはさんだ。
「じゃあ、ラムは……?」
「もちろん同伴してもらーぁうよ。王選候補者であるエミリア様を護衛も付けずに一人で出歩かせるわけにもいかないーぃしね」
「そ、そっか」
その言葉を聞いて、ちらちらとこちらに視線を送りながら、ほっと安心したように胸を撫でおろすエミリア。
しかしその視界の端で………
「むむむむ……」
レムが少し羨ましそうな顔をしているのに気づいた。もしかして王都に行きたかったのだろうか。
……ごめんね、レム。今度エミリアが王都に用事があるときは、ラムからレムを推薦してあげるから……!!
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というわけで三日後、ラムたちは王都へ向かう竜車に揺られていた。
ロズワール邸から王都までは半日ほどの移動ではある。
竜車……というか、地竜には風除けの加護があり、その名の通り風の抵抗を無視するだけでなく、足場の悪さと言った外的要因さえも無視して走行する力があるため、ファンタジーでよくある馬車揺れの様な苦痛は無い。
とはいえ、流石に地球の車とは違い、シートの快適性が違うため半日も乗っていると流石に疲労も溜まってくる。T〇Y〇TAと地竜がコラボしてくれたら最強なのに……
「エミリア様、そろそろ王都が見えてきます。お身体の方は大丈夫ですか?」
「ラムがいっぱいクッションを敷いておいてくれたから平気よ。ありがとうね、ラム」
「いえ、エミリア様が快適に過ごされたのなら何よりです」
エミリアはくすりと笑い、「そういえば」と話を切り出した。
「前に王都へ来た時は手続きだけでほとんど見て回れなかったじゃない? 今回は少し観光もしたいんだけどいいかしら」
「観光ですか?」
「うん!おいしそうな屋台とか、可愛い小物が売ってるお店とかいっぱいあって……遠くから見ていただけだけど、ずっと気になってたの」
思えば、過去に此処に来た時はロズワールも一緒だったし、王選関連以外で街を歩き回ったりはしていなかった。聞けばロズワール邸に来る前は森に居たらしいので、こう言った所で遊ぶというのは結構珍しい事なのかもしれない。
「そうですね……今回は時間に余裕があると思いますし、構いませんよ。よろしければラムが案内しましょうか? ロズワール様と王都に来ることは珍しく在りませんでしたから、それなりにおすすめのお店なども紹介できると思いますよ」
「本当!?ありがとう、ラム!」
エミリアはぱっと花が咲いたように笑う。
しかし、直ぐに先ほどの嬉しそうな表情から一転、エミリアは僅かに緊張したような表情に変わっていた。
「……あの、ラム。もう一つ、お願いを聞いてもらってもいい?」
「なんでしょうか、エミリア様」
エミリア様は少しだけ言い淀んだあと、意を決したように口を開いた。
「えーっと、そのね。その時は王都で遊ぶわけだから、『様』付けじゃなくていいし……敬語も、使わなくてもいいわよ?」
あらあらなんて可愛いおねがいなのかしら。……と思うと同時に、
今宵は無礼講だ!と上司が言ったからといってため口で馴れ馴れしくしていいというわけでもないし、本当に無礼講なんかした暁にはbreak allしてしまうのだ。
ラムは一度言葉を選んでから、静かに続けた。
「……それは、少々難しいかと思います。ラムはエミリア様の付き人として、お供しておりますので、公私の区別はきちんと保つべきかと」
できるだけ角が立たないように丁寧に断る。するとエミリアは頬をふくらませ、どこか拗ねたような表情でこちらを見ている。
「……前に、『家族みたいに接してほしい』って……ラムが言ってくれたのに」
「……う"っ」
「確かに言ってたねぇ。ボクもちゃんと聞いてたよ」
「王都にいる間だけでも良いの。ね?お願い」
ふるふると期待したような上目使い。こらエミリア様どこでそんな技を覚えてきたの!!!パックか!?
こんなことをされたら…………
「……わ、わかりました。王都ではそのようにさせていただきます」
「街中じゃなくて、今からでいいわよ?」
「……………エミリア。これで良い?」
「ねえねえリア、折角だし愛称で呼んでもらえば?」
「あ!そうね……確かに、そっちの方が良いかも」
どんどん要求が増えていく……っ!!
パックがこっちを見てニヤニヤと笑っている。掴みかかってやろうかと思ったけど、相手は流石に大精霊様。こちらはグッと堪えるしか無く―――
「………エミリア様。せめて手続きが終わってからにして頂けませんか」
ラムががくりと項垂れながら折れると、「仕方ないなぁ」とエミリアが楽しそうに笑うのだった。
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それから間も無くして竜車は王都に着き、早速手続きを済ませにに行った。
簡単な手続きの後徽章を受けとる以外は特になかったため、想像していた数倍早く終わってしまい、ラム達は早速王都の中央市場へ繰り出す事にした。
色とりどりの布地や新鮮な果物、銀細工の工房等、様々な店が並ぶ通りを歩き、エミリアは目を輝かせていた。
「凄い……どこから見て回るか迷っちゃう」
「……リア、はしゃぐのは良いけど、はぐれない様にしてね?」
もしかしたら原作でもこうしてはぐれて行ったのでは……と軽く危惧しながら、まずは軽く屋台で軽くお腹を満たす。それから何か実用的かつ可愛い小物が欲しいと言う事で、ラムが以前見つけた高級文具店へと向かう事になった。
店先には色とりどりの羽ペンが吊るされ、ショーケースには宝石のように輝くインク壺が並んでいる。
「このインク壺、蓋に小さな精霊の彫刻が入ってるの。魔法で中身が劣化しにくいんですって」
「へぇぇ……あっ、みてラム。この雪の結晶の模様が入ってる。可愛い……でもこっちの星形のも綺麗……」
「時間はいくらでもあるんだし、ゆっくり選ぶといいわ。ラムもいくつか補充しておこうかしら……」
インクは言わずもがなであるが、羽ペンは金属のペン先、羽軸が存在し、それを固定するための金属ホルダーの3つで構成されている。金属のペン先と羽軸はどうしても劣化するので、定期的に交換する必要がある。
……昔は羽ペンといえば羽の先っちょを削って書くのをイメージしていたけれど、実際は万年筆とのハイブリットのような代物であるため、思ったよりも書きやすい。とはいえ、それでもいちいちインク壺にペン先を浅く浸す必要があるのが本当に面倒なので、偶にボールペンが欲しくなる。
残念ながらラムはあまり仕組みについて詳しく調べたことがないし、知ってる事と言えば先っちょにボールがあって、それが回転するぐらいだ。変に色々な知識を持っているスバルがこの辺り知ってたりしないだろうか?
なんてことを考えながら会計を済ませてエミリアを待つ。するとエミリアは「これに決めた!」と店員に話しかけ、会計を済ませていた。
「リア、結局何にしたの?」
「やっぱり最初に選んだ雪結晶の模様が付いたインク壺にしたの。私達の得意魔法のイメージにもぴったりだと思うし」
「いいと思うわ。ところで、他のものは買わなかったの?」
「あ」
エミリアは口に手を当てて驚いた表情を浮かべている。
「……なら丁度良かった」
ラムは手に持っていた白い箱をエミリアに渡した。
「ラム、これは……?」
「プレゼント。丁度リアみたいな色をした綺麗な羽ペンのホルダーがあったから、買ってみたの」
「ええっ!?」
エミリアが目を見開いて驚く。
中身は上質な銀をベースに小さなアメジストと透明なクリスタルがあしらわれた綺麗な金属ホルダーだ。綺麗な色をしていたから、思わず買ってしまったのだ。
「ラムは元から使っているのがあるし……それに、リアだってこれから色々書類仕事が増えるでしょう。折角ならいい物を使った方が気分も上がるかと思って」
「ラム……」
エミリアは少し頰を赤らめながらも、嬉しそうに受け取った。
「……ありがとう、ラム。大事にするね」
箱を抱きしめながらにっこりとエミリアは笑う。これだけ喜んでくれると、こっちまで嬉しくなってしまう。高級文房具なだけあってそれなりに値は張ったけど、ロズワールからの給金の使い道があまり思い浮かばず、ずっと貯金していた為そこそこお金がたまっているのだ。
その後ラム達は高級文房具店を後にし、再び街を歩き出した。
「次はどこへ行こうかしら……リアは行きたいところはない?」
「そうねぇ……パックは何かない?」
「うーん、それならボクはー――」
その瞬間、人混みの中でエミリアが小さな体とぶつかった。
「きゃっ!」
「おっと……わりーな姉ちゃん!」
元気な声とともに、ぼさぼさの金髪の少女がエミリアの胸元にぶつかって、すぐに離れた。
「ううん、平気。あなたこそ大丈夫?怪我はない?」
「へへっ、平気平気!じゃあな!」
金髪の少女はにっと笑うと、すぐに人混みの中に消えていった。
あの少女は―――フェルトだ。徽章の盗難事件の犯人であり、すなわち原作の第一章がついに始まった、というわけだ。
徽章が盗まれるのを防ぐこともできたけど、スバルと出会うまでのきっかけは原作通りにしたい。護衛としてはNGだけど今回は気付かないフリをした。
「リア、何か盗られたものはない?」
「え……?」
エミリアはハッとした表情で手元を見る。その手には先ほどプレゼントした箱がしっかりと握られており、それを見たエミリアはにこりと笑顔を浮かべた。
「大丈夫!プレゼントは無事よ。大切なものだから絶対無くしたくないもの」
「あはは、我が娘ながら見事な浮かれっぷりだね」
「………」
………違う違うそうじゃない。
「……他のものよ。もっと大事なものがあるでしょう」
「何を言ってるのラム! 私にとってはラムからのプレゼントが一番―――あっ!」
ようやくもう一つに思い当たったのか、エミリアは小さく悲鳴を上げて顔を青ざめさせた。
「徽章が……ない……!どど、どうしましょう!」
「……追いかけるしかないでしょう」
「そうよね……行きましょう、ラム!パック!」
エミリアが走り出し、ラムもその後ろを追いかけた。
この後は原作通り、路地裏で襲われているナツキ・スバルを助ける。その後徽章探しをしてから貧民街の盗品蔵はと移動して、腸狩りと戦っている最中に助けを呼びに行ってもらう……みたいな流れにすればいいだろうか?
今からラインハルトを探せばエルザとの戦いはだいぶ簡単になるが、このタイミングを逃すとスバルがチンピラに殺される可能性がある。
思ったよりもタイトなスケジュールだけど、アニメを横でちょこちょこ眺めていただけなので細かい所はうろ覚え。もう後は出たとこ勝負で頑張るしかない。
―――と気合を入れて、フェルトを追いかける素振りを見せながらスバルを探していたものの、結局夕方近くになるまでスバルを見つけることができなかった。
あれー?
※レムは単純にお姉ちゃんを取られたような気分で妬いているだけですが、ラムは鈍感あんぽんたんなので全然気づいてません。