姉様には転生者説があるらしい。   作:あいあむぬーぶ

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※エルザは原作よりも余裕がないのでお楽しみより仕事優先で手段を選びません


5:剣聖、降臨

 「ああ……いなくなってしまうなんて。それはひどく、残念なことだわ」

 

 精霊のお腹の中を見て見たかったのに、と呟くエルザ。

 ラムも残念である。パックの仕様をすっかり忘れていた頭の弱さが。

 

「……じゃあこの辺りで手打ちにしてくれてもいいけど?」

「そうね……貴方が切腹して許しを請うなら、考えてあげてもいいかも」

「どうせ一考もしないくせに」

 

 適当に軽口を挟む。なんだかさっきとは立場が逆になった気分でなんか悔しい……。

 

 とはいえ。この後も数度に渡って打ち合ったが、戦況は相変わらず優勢のままだった。

 パックが居なくなったとはいえ、ラムとエミリアの完璧な連携によって、エルザの身体はみるみるうちにダメージを負っていっている。

 ラムが攻撃をいなし、その隙をエミリアが咎める。エルザが強引にエミリアの方はと攻撃を向けると、エミリアはすぐさま防御に切り替え、ラムが背後から攻撃しつつ引き再びエミリアとエルザの距離を離させる。

 

 彼女の攻撃は鋭い。けれど―――速さも重さも、致命的な差があるわけじゃない。腸狩りとしての卓越した技術力に対して、僅かにラムの方が劣るというだけだ。

 刃と刃が何度もぶつかり合い、甲高い音が蔵の中に響く。足元に風を集めて踏み込みを加速させ、短剣の間合いを無理やり押し広げる。

 

「いいわね、その戦い方。あなたともっと踊っていたい」

 

 恍惚としたエルザの微笑み。唇をぺろりと舐めるその仕草は艶めかしくてちょっとエロいなと思ったけど、こうして対峙していると怖い方が圧倒的に勝つ。

 

「あらそう、光栄ね」

「でもこっちは二人がかりよ!」

 

 エミリアが叫ぶ。その直後、風を利用して一気に距離を取ると、ラムの頭上から巨大な氷の礫が飛来した。これはエミリアの魔法だ。

 エルザは咄嗟にラムから視線を外し、上を向いてから回避をしようとする。そこへ―――

 

「フーラ!」

 

 タンタンタン、と杖から鋭い風を放つ。

 エルザは強引に体を動かして氷の礫を回避するも、フーラによって開けられた小さな穴から血を流していた。

 

「折角切り合いが楽しいのに、飛び道具を使うなんてズルいわ」

「なにを言っているの。わざわざ杖を持っているんだから、魔法位飛ばすわよ」

「あらそう……それなら私も使わせてもらおうかしら」

 

 両手のククリナイフを仕舞うと、じゃらり、と太ももに取り付けられたベルトから小型の投擲ナイフをいくつも抜き出す。エルザはそれを目にも止まらない速さで投げた。

 

 ラムは1本、2本、3本飛来する投擲ナイフを次々に短剣で弾き落としていく。

 ―――その瞬間。視界の端で、ロム爺の巨体が揺れた。エルザのもう一振りが、明らかにそちらへ向いていた。

 

「――フーラ!」

 

 考えるより先に身体が動いた。風魔法でその一撃を弾き落とす。

 

「す、すまん嬢ちゃん……!」

 

 その様子を見てエルザの動きが止まり、くすりと笑った。

 

「……あら?貴方優しいのね」

「……」

 

 明らかにロム爺を狙った攻撃。卑怯者め、と言った表情で睨みつけると、エルザは小さく肩を竦めた。

 

「いいえ……やっぱり甘いのかしら」

 

 次の瞬間。エルザの腕がぶれる。

 

「――ッ!?」

 

 放たれたのは、先程よりも多い数の投擲ナイフ。

 

「ちっ……!」

「くっ……!」

「ぬうっ…!」

 

 ラムは再び短剣でナイフを弾き落とし、エミリアは直ぐに氷で形成した盾を自分の前に張る。ロム爺も棍棒を振り回す事で迫りくるナイフを叩き落した。しかし。

 

「お爺さん右よ!!」

「っ!?」

 

 エミリアが叫ぶ。ナイフ同士がぶつかり合い、急速に角度を変えたナイフがロム爺を襲う。

 ―――まずい、ロム爺の防御が間に合わない!

 

「フーラ!!」

 

 ラムは杖を振りかざし、そのナイフを風で叩き落した。しかし、その瞬間。

 

「―――やっぱり、そうなるわよね」

 

 エルザの声はすぐ背後。囁くような彼女の声に、背筋が凍った。振り返る間もない、その一瞬を狙われていたラムは咄嗟に体を捻るが避けきれない。

 

「ラム!!」

「嬢ちゃん!!」

 

 エミリアとロム爺が叫ぶと同時にラムの右肩から肩甲骨に掛けて、ざっくりとククリナイフが食い込む。

 

「ぐっ…!!!」

「ごめんなさいね。本当はこんな勝ち方はしたく無かったのだけれど……想像以上にあなたが強かったものだから、仕方なく。これもお仕事だから、卑怯だなんて言わないでね?メイドさん」

 

 風を爆ぜさせて無理やりエルザと自分の距離を引き離す。熱を持った右側の腕に力が入らない。

 

……やられた。

 

「一つ忠告しておいてあげる……弱い味方は切り捨てた方が良いわ。その傷はあなたの甘さの証よ」

 

 その言葉に、ラムは小さく息を吐いた。

 ………図星、というわけでもない。ただ少しだけ、耳障りだった。

 

 

 

 ――――()は、この物語(作品)をあまり好きになれなかった。

 

 夢中になっていた弟とは違って、私はどこか距離を置いて眺めていた。

 理由は単純だ。誰かが傷つくたびに、誰かが涙を浮かべるたびに、胸の奥が苦しくなるから。ナツキ・スバルが文字通り命がけで何度も戦い、心を砕いて行っても、何処か報われない。そんな物語だったからだ。

 報われないことも、理不尽なことも、現実にはいくらでもある。そんなことは、嫌というほど知っている。両親がまとめて亡くなった後も、私の中に何処かそういった諦めの心がずっと残っていた。

 それでも―――せめて物語の中くらいは、誰も泣かない、笑顔ばかりであってほしいと、どこかで思ってしまう。

 

 エルザの言う通り、甘いだなんて、そんなの分かっている。

 分かっているけど、それでも目の前で誰かが傷つくのを見過ごせるほど器用じゃないから。

 

 だから、せめて私もこの世界で、あの男(ナツキ・スバル)のように誰かを救う事を諦めたくない。そう思った。

 

 

 

 

「……うるさいわね。それでも、何も取りこぼしたくないのなら―――やるしかないでしょう」

 

 あの男(ナツキ・スバル)が立ち止まらないのなら、ラムだってこのまま終わらせるつもりはない。 ラムは再び身体の周囲に風を纏わせ、そのまま足元へと風を収束させた。

 ぽつりと零した言葉に、エルザは一瞬だけきょとんとしたあと、すぐに、呆れたように肩を竦めた。

 

「……下らないわね。そんな甘い考えで剣を振るうの?命のやり取りをしているっていうのに」

 

 ナイフの切っ先をこちらへ向けながら、呆れたように息を吐く。

 

「綺麗ごとを並べるのにあなたじゃ力不足よ。守りたい、なんて理由で勝てるほど、この世界は優しくないわ。メイドさん」

 

 ラムは肩で息をしながらエルザをにらみ返す。

 そんな事、言われなくても分かってる。だけど、何もかも適当に切り捨てられる性格なら初めから全てを捨てて遠くでひっそり暮らしていた。

 

「来なさい、腸狩り。付き合ってあげるわ」

「ふふ……いいわ。もっと楽しませてちょうだい」

 

 再び、空気が張り詰める。

 その緊張を切り裂くように、エルザが踏み込んだ。その瞬間。

 

「―――待たせたね」

 

 屋根を貫き、ラムとエルザを割って入るように、燃え上がる炎が降臨する。

室内は急激な熱気に包まれ、エミリアも、ロム爺も、そしてエルザすらもその動きを止めた。

 いや、止まらざるを得なかった。

 

 紅の髪をかき上げて登場した、最強系CVのイケメン―――剣聖、ラインハルトが此処に見参した。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 ―――そこから先の記憶は、ほとんどない。

 

 現れたラインハルトが、エルザに名乗りを上げ、剣を構えた。そして次の瞬間、その振り降ろされた剣から極光が放たれて―――

 

 そこで、途切れた。

 どうやらラムは、その直後に気絶して倒れてしまったらしい。

 せめて最後まで立っていたかった、なんて思うけれど。あの状態でそれを望むのは、流石に贅沢というものだろう。その後の顛末は、後から聞いた話だ。

 

 剣聖ラインハルトの一撃によって、戦況は一瞬でひっくり返ったらしい。盗品蔵の壁を吹き飛ばしながら叩き込まれたその一撃でエルザは完全に戦闘不能。しかしやはりというべきか、結局エルザ自体は逃走。しかも最後にエミリアへの一撃付き。

 原作通り、ナツキ・スバルはエミリアを庇って負傷したらしい。結果として、スバルは意識を失うほどの怪我を負い――エミリアの強い希望もあって、そのままロズワール邸へと運び込まれることになった。

 

「……ってのが、事の顛末な訳よ。オーケー?」

「オーケーオーケー、というか、アナタの怪我はもう治ったの?」

「まあなー。エミリアたんは大げさに騒いでたけど、ぶっちゃけ傷はかなり浅かったらしいぜ」

「ふうん……傷は浅かったのに、気絶したのね」

「ギクッ!!!」

 

 気まずそうな顔を浮かべ、スバルはすす~っと目を逸らす。

 

 ―――たぶん、原作と異なり、ラム達との戦いでエルザの体力が残っておらず、エミリアを狙った一撃に殆ど力が籠っていなかったのだろう。

 

 ラムの頑張りで変えられたものはたったこれっぽっちか、と内心で愚痴りながら、半ば八つ当たりの様に鼻って笑った。

 

「ふんっ、ダッッッッッッッ……」

「サ……って言わねぇでくれよ!?俺だってマジで死んだかと思ったんだからね!?」

「男の子ならもっと気張ってシャキッとしなさい」

「ぐっ……言い返してえけど、ここで言い返すと余計ダサくなるジレンマ……!」

 

 大げさに頭を抱えてリアクションを取る、ナツキ・スバル。アニメで見た時から思っていたけど、やっぱり絶妙なウザさというか、鬱陶しさみたいなものがある。だけど―――

 

 何というか、そのウザさが弟みたいで懐かしい。

 

「……」

「え、今笑った?さっき見たいな嘲笑じゃなくて、優しい感じの笑いだったよね、今」

「…………」

「もう一回頼むよ、プリーズ! ツンデレ系美少女が一瞬だけ浮かべる微笑みからしか摂取できない栄養素があんだよ!」

「…………………チッ」

 

 ………う、うぜぇ~~!やっぱうぜぇわこいつ!

 ()がこのアニメにハマらなかった理由の内の一つがこのウザさ!白鯨編は確かに見直したけど……そもそもが根本的になんかムカつく!!

 

「………黙りなさい。幻覚を見るようになったみたいだから、早く部屋に戻って治して貰うと良いわ」

「そこまで言う!? じょ、冗談だって、そんな怒らないでくれよ……」

 

 ギロリと睨みつけると、ナツキ・スバルは両手を合わせてこれまた大げさに謝罪しだした。

 ラムが面倒くさそうに溜息をはくと、ナツキ・スバルはなぜか若干照れ臭そうにしながら言葉をつづけた。

 

「ていうか実は……まあ、用って程じゃないんだけどさ……」

「……何?気持ち悪い。くねくねしないで」

「くねくねなんてしてねぇよ!? じゃなくて、良いから聞けって」

 

 こほん、と咳払いをしてからさらに続ける。

 

「実は、礼を言いに来たんだ。その……なんのこっちゃって感じかもしれねぇけどさ」

「……」

「……ありがとう。今は深い事は聞かないで、このお礼の言葉だけ受け取ってくんね?」

 

 ………何を言うかと思えば。

 

「何よそれ、馬鹿ね。本当になんのこっちゃって感じだわ」

 

 きっと、スバルの言うお礼は、()()()()()()()()に向けられたものだ。一体ラムがこの男に何をしてあげたのか見当もつかないし、この男から語られることも無い。

 

 ―――結局、この男はラムの知らない所で、”死に戻って”いた。ラムはラムなりに上手くやったつもりだったけど、それだけじゃ全然足りなかった。

 

 『綺麗ごとを並べるのに、あなたじゃ力不足よ』―――腸狩りに言われた事が頭に蘇る。全くその通りだった。

 

 だからこそ。

 

 目の前のこの男は耐えがたいほど苦しんだはずなのに、どこか拍子抜けするほど軽い調子で、それでも確かに『感謝』を口にしたことが―――ほんの少しだけ、悔しかった。

 

「……ラム、よ」

「え?」

 

 ぽつりと零した言葉に、ナツキ・スバルが間の抜けた声を返す。

 ラムはわずかに視線を逸らしながら、()()()()()()()()()()を続けた。

 

「私の名前。覚えておきなさい」

「……、ああ!」




くぅ~!これにて第1章は完結です!
次は2章の前にスバル君視点をメインに書いていこうと思います。

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