姉様には転生者説があるらしい。   作:あいあむぬーぶ

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リゼロの醍醐味はやっぱり死に戻り。
転生姉様によって変わってしまった上で、スバルがどうなっていくのかを書いていきます。

※途中で視点が変わる時だけ「POV:だれだれ」みたいに付けていこうとおもいます。


6:王都の長い長い一日(裏)

 俺―――ナツキ・スバルがその世界に放り出されたのは、あまりにも唐突なことだった。コンビニ帰りの夜道。特別な前触れも、光に包まれるような演出もなく、気づけば彼は見知らぬ石畳の街の中に立っていた。

 

 異世界召喚――そんな都合のいい言葉が頭をよぎる。

 

 だが、待っていたのは勇者としての歓迎でもなければ、使命の説明でもない。あるのは、異様なほど現実的な“無関心”だった。

 

 言葉は通じる。しかし、誰も俺を助けてはくれない。

 所持金はゼロ。頼れるものもない。あるのはジャージ姿の自分と、空回りするばかりの期待だけだった。

 

 それでも俺は、どこか楽観していた。

 

 こういう物語には“イベント”があるはずだと。ヒロインとの出会いが、きっとすぐに訪れるのだと。だからこそ、人気のない裏路地に足を踏み入れたのも半ばはその期待ゆえだった。

 

 結果として、それは最悪の選択になる。

「おいおい、兄ちゃん。随分と軽そうな格好してるじゃねぇか」

「やべぇー……強制イベント発生だ」

 

 現れたのは三人の男。下卑た笑みを浮かべ、明らかにまともな人種ではない。

 

「わりぃけど、俺今マジで碌なもんもってねぇんだ。リンゴ……リンガ一つも買えやしない。ギザ10ならあるけど、要る?」

「……俺らを馬鹿にしてんのはわかった。ぶち殺す」

 

 俺は軽口で切り抜けようとしたが、通じるはずもなかった。

 仕方がないから、筋トレ仕込みの格闘術で反撃をしたが、ナイフの存在に一瞬で形勢逆転。土下座をしたが結局、殴られ、蹴られ、地面に転がされる羽目になった。

 

―――クソ、痛い。怖い。苦しい。なんで俺がこんな目に逢わなくちゃなんねぇんだ。

 

 現実感の無さや楽観は、痛みや恐怖にという覚醒によって次第に薄れていく。

しかし、その直後。セミロングの金髪の小柄な少女が現れた。口から僅かに覗く八重歯が小生意気な子供。今の自分からしたら救世主にも見える。だけど―――

 

「お、おお?なんか凄い現場だけどごめんな!アタシ忙しいんだ!強く生きてくれよ!」

「っておおぉい?!ここで見捨てる選択肢なんてアリ!?」

 

 俺の幻想はあっさりブチ壊された。

 そのまま本当に走り去っていく少女の背中を見て、スバルの中にはある種の諦観のようなものが募ってくる。

 

 ―――これ、もしかして天罰か何かか? 無味で、無価値な人生。そうしてきたのは自分の落ち度だ。せめて何か”意味”を持たせたかったと嘆いても、もはや手遅れでしかない。ただ両親を困らせただけの引きこもり、それが俺。

 

 ジワリ、と涙が浮かんでくる。これは死への恐怖じゃない。空虚のな自分への失望感に耐えられずに浮かんだ涙だった。

 

 

「―――見つけたわ」

 

 

 しかし再び路地裏に、静かに響いたの声は、冷ややかなほど澄んでいるのに、不思議と耳に心地よく残る。

 俺ははなぜか、その奥に、わずかな安堵が滲んでいるような気がした。

 

「そこまでよ、悪党」

 

 そして、その疑問は続いて介入した鈴のような声によって断ち切られた。

 

 顔を向けてみると、路地の入口に立っていたのは、銀色の髪を揺らす一人の少女。そして、その隣には桃色の髪をした、小柄なメイドの少女が控えていた。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 救世主現る――と、言いたいところだったのだが。実際に起きたのは、もう少しだけ間の抜けた光景だった。

 

 どうやら彼女たちは、俺を助けに来たわけではなかったらしい。先ほど路地を駆け抜けていった金髪の少女を追っていた最中に、たまたまこの場に居合わせただけ。ついでに言えば、その金髪の少女の件で、俺とこのチンピラ達をまとめて“何かやらかした側”だと勘違いしていた節がある。

 

 状況は救われたようで、まるで救われていない。チンピラたちが必死に自分たちは関係がなく、金髪の少女が屋根伝いに逃げて行ったことを説明すると、銀髪の少女も納得して背を向けてしまった。

 

 何とも切ない状況に再び泣けてきたが。桃色の髪をした、片メカクレ属性のメイドが一言。

 

「どうかしら。こんな薄汚れた路地で狼藉を働く奴らだもの。嘘を付いている可能性だって十分あるわ。一度ボコボコにしてから確かめた方が良いんじゃないかしら」

 

 ―――なんかとんでもなく物騒な事を言ってらっしゃる!?

 

「……そう、ね。もしかしたらその子、徽章を盗んだ相手に心当たりがあるかもしれないし……」

「リア……いちいち助けてあげる口実を探さなくてもいいのに」

「ちがっ……そう言うのじゃないんだから……ああほら、すごーく期待した目をしちゃったじゃない!」

 

―――う、うおおお!?美少女救世主様、万歳!美少女救世主様、万歳!美少女救世主様、万歳!

 

 リア、と呼ばれた少女はぷんぷんと桃髪のメイドに怒りながらこちらをちらりと見ると、

 俺の輝く一番星のように煌めく瞳を見て小さく溜息をこぼした。

 

「もう……仕方がないわね」

 

 ”リア”と呼ばれた少女が恥ずかしそうに唇を尖らせる。その直後、空中に生じた氷塊がまるで八つ当たりのようにチンピラの一人へと叩き込まれ、男が為す術もなく吹き飛んでいった。

 

「て、てめぇやりやがったな!」

「魔法使いか!?クソ、やってやる!」

 

 遅れて残った二人が逆上し、怒鳴り声を上げて少女へと襲いかかろうとした。

 

 ――その瞬間だった。

 気づいたときには、もう背後にいた。桃色の髪をしたメイドが、まるで最初からそこに立っていたかのように自然に間合いへ入り込み、躊躇いなく二人の脇腹に目掛けて杖と指先を翳した。

 

 バン!!破裂するような音と共に、肉が打ち上げられるような鈍く、嫌な音が響いた。

 あまりにも迷いのない一撃に、男たちは声もなく崩れ落ち、そのままぴくりとも動かなくなる。

 

「な、なあ。……あれ生きてんのか?」

「大丈夫でしょ。リアの氷塊をブチこまれても生きているみたいだし。ラムは手加減したもの」

「ちょっと、ラム!私もちゃんと手加減したわよ?考えなしに攻撃したみたいな言い方はやめて!」

「……はいはい二人とも。仲良しなのは良いけど、この子がぽかーんとしちゃってるからねー」

 

 俺は二人の会話に付いていけないで口を開けていると、リアの背後から小さな子猫のようなものがふわふわと浮かび上がってきてやれやれと肩を竦めている。

 

 これがファンタジー……と感心しながらも、まずは二人と一匹と自己紹介を済ませる事になった。

 

 まず、銀髪の美少女―――名をエミリアというらしい。自己紹介をする直前、

 

「……どうしましょう。私、偽名を使った方が良いかしら?」

「リア、じゃダメなの?」

「それは親しくなった人だけに呼んで欲しいし……」

 

 ―――という百合展開ktkrを目の前で繰り広げられたが、ややこしくなるのも面倒だから本名でいいんじゃないか、と桃色のメイドの一声によってエミリアの名を告げられることになった。「じゃあこれからエミリアたん、と呼ばせてもらうぜ」と承諾を取ろうとすると、桃髪の美少女メイド―――ラム、が心底気色悪そうな顔でこっちを見てきた。

 

 えっ……なにこれドM製造機?

 

 ラムは些細を話してはくれなかったが、彼女はエミリアに仕えるメイドであり、家族のようなもの、だそうだ。

 従者なのに家族?と思ったが、エミリアがきらきらと輝く嬉しそうな顔を見るに相当仲はいいらしい。

 

 そしてその光景を見て「やれやれ、リアが楽しそうだからいいんだけど、ちょっと心配にもなってきたなー…」と肩を落とすのがパック。彼はエミリアと契約をしている大精霊と呼ばれる生物(?)で、エミリアの家族らしい。

 

 いやいやエミリアたんの家系図、どうなってるの?これ。

 

「……という事でラム達の自己紹介は終わりよ。身元もはっきりしない怪しい男に対して先に自己紹介をしてあげたんだから、感謝しなさい」

「えぇ……なんかラム、俺に当たり強くないか?そこんとこどーなの、エミリアたん」

「え?うーん……私もちょっとびっくり。私、こんなにとげとげしたラムの事一度も見た事なかったもの」

 

 エミリアにとっても珍しい事だったのか、ぱちくりと驚きに目を瞬かせた。ラムは若干ばつのわるそうな表情を浮かべたあと、「ほらさっさと自己紹介なさい」と催促をする。

 

「それでは改めまして…… 俺の名前はナツキ・スバル! 右も左もわからない上に天下不滅の無一文! ヨロシク!」

 

 ビシッと人差し指を空高く突き上げ、高らかに宣言する。エミリアはその様子をみてきょとんとしていたが、ラムに至っては「げぇ」と明らかに嫌そうな顔をした。

 

「……え、えっと、すごーく変わった挨拶ね」

「わーウザい……」

「悲しいリアクションどうもありがとうね!」

 

 俺は悲しいリアクションの応酬(とくにラム)を浴びて半ばヤケクソに言い放つ。それでもナツキ・スバルにとってはこれがコミュニケーション。今更変えようがない。

 

 ラムはやれやれと肩を竦めたあと、話を戻した。

 

「それじゃあ、良い加減徽章探しに戻りましょう。……あまり夜遅くにはなりたくないし」

「? 夜になんかあんのか?」

「あまり遅くなると、他の人の手に渡って追跡が難しくなるでしょう。そうなる前に捕まえないと」

「……それもそうか」

 

 正直、そのラムの言葉にほんの僅かに別の理由がある様な違和感を感じたが、それがなんなのか、この時はハッキリとわからなかった。

 

「それじゃあ私達はそろそろ行くわね。行きましょうラム、パック――」

「ああ、ちょっと待った!」

 

 何というか、この二人への恩返しをしたい。突然そんな事を思いたって、慌てて声をかける。

 

「徽章探し、俺も手伝うよ。そんな大事な時に時間割いて俺を助けてくれたんだ。俺にもそれぐらいやらせてくれ」

「ええ?そこまでしてもらう必要はないわよ、だって――」

 

 他人を巻き込みたくない様子のエミリアは断ろうとする。しかしラムがすぐさま横から口を挟んできた。

 

「別に良いんじゃないかしら。バルスだって、何かの役に立つことだってあるかもしれないし」

「でも、ラム……」

 

 エミリアがまごついていると、ラムはエミリアを引っ張って、小さな声で話し始める。

 なんだろう?と首を傾げていると、やがてプチ会議が終わったのか、エミリアは緊張した顔でこちらに歩いてきた。

 

「えーっと?会議は終わった?」

「うん。 ……ついてきたって良いけど、これを見てから決めて頂戴」

「……?」

 

 困惑する俺を他所に、エミリアはゆっくりとそのフードを外した。すると、そこから現れたのは人間のそれよりも、僅かにピンとたった長耳―――

 

「えええエルフ耳?!マジで本物?すげぇ可愛い……!」

「かわっ…? う、うん。本物よ」

 

 エルフ!華奢な手足に大きな胸、ときたら、ちょっとエッチなファンタジーの定番!!!俺は大興奮し、対象的にエミリアは想像していたリアクションとかけ離れていたのか、困惑していた。

 

「怖く、ないの?」

「え?なにが?」

「だから私、ハーフエルフなの」

「ハーフエルフ?! じゃあエルフと人間も子をなせるのか……ぐへへ」

「エッチな妄想をしてるんじゃないでしょうね、バルス。やっぱりぶん殴ろうかしら気持ち悪い」

「かか、考えてねーし! ていうかしれっとさっきは聞き間違いかな?って思ったけどバルスって何?!なんで天空の城が崩壊しそうな名前になっちゃってんの俺!?ていうか気持ち悪いって酷くない?!もうツッコミが追いつかねえよ!?」

「うるさいわね。なんとかして10文字にまとめなさい」

「俺 は 健 全 男 子 ス バ ル だ!」

 

 言葉と言葉の応酬。ラムはやたらと棘のある言葉を投げつけてくるが、ラムも本気で嫌がっているという感じでもなさそうで、なんだかじゃれ付くような、どこか親しみがある様にも聞こえた。

 

「ぷっ……」

 

その様子がどうにもおかしかったのか、エミリアはくすくすと笑い出した。

 

「あはははっ、変なの」

「変って……まあいいや。なんかスッキリしたみたいだし、もしかして俺のおかげ?」

 

 初めて見せたエミリアの屈託の無い笑顔。その可愛らしさに、俺は若干気恥ずかしくなったのでいつも通り茶化してみる。そうするとすかさずラムの厳しいツッコミが――

 

「……調子に乗らないの」

 

 入ったのだが、その表情は穏やかだった。少しだけ目を細めて、笑顔を浮かべるエミリアの事を優しく見ている。再び俺は干呆気に取られていたが、すぐにラムの言葉で正気に戻った。

 

「さて、それじゃあ表通りに出るわよ。自ら働くと言ったんだから、≪≪馬車馬の様に≫≫働いてもらわないと」

「あ、ああ。もちろんだぜ」

 

 俺は頷き、人混みのざわめきが、絶え間なく耳を打つ表どおりへ歩いていく。

 

 

 ―――その時の俺には、ラムの発した言葉の違和感に気づけるほどの知識がまだ無かった。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

POV:エミリア

 

―――私にとっても、スバルは確かに悪い人ではない様に見える。それでも徽章探しを手伝ってもらう事にあまり気が乗らなかったのは、自分がハーフエルフだと言う負目からだ。今でこそ認識阻害のできる外套を羽織っているが、これを外したらなんで言われるだろう。その恐怖が僅かにあった。

 

そんな私の様子を察したのか、ラムはそっと、私に耳打ちをした。

 

「……リア、王選が始まったら、ずっと隠している訳にもいかないでしょう。この男は……底抜けのバカよ。きっと偏見の目もないんじゃないかしら」

「……」

「……もしあなたを傷つける様な素振りを見せたらラムがぶん殴るから。ね?」

「そ、そこまではしなくて良いわよ……?」

 

その発言に、私は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

―――ラムってば、ほんのちょっぴり過激……というか、過保護な所があるわよね。

 

自分が頼りない所があるからなのは重々承知ではあるけれど、時々そんな事を考えてしまう。

だけど、ラムがそれだけ私の事を心配して、私の事を見てくれているんだって言う証拠なのかもしれない。

 

そう考えると、すごーく嬉しい気持ちになる。レムの事がちょっぴり羨ましい。

―――ラムが、本当に私のお姉ちゃんだったら良かったのに。

 

「リア?」

「……あ。ごめんね、ぼーっとしちゃってた」

「……大丈夫?」

「うん、平気よ。ありがとうラム。 ……ラムの言う通り、私ちょっとだけ勇気を出してみる」

 

私が微笑むと、ラムも一緒になって笑みを浮かべてくれた。

―――大丈夫。勇気を出せる。ラムが私の事を見ていてくれるから。




エミリアたんのちょっと重たい感情好き
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