満ち足りてねぇ俺が行く青春物語 作:ばぐひら/Baguhira
「うぃ〜、ここが…」
暗く淀んだ空気と似つかわしくない電光が辺りを照らし、荒くれ者や指名手配、裏社会の有名人、表で日を浴びれなくなった者達、明日を生きるために全てを費やす者共が各々賑やかに闊歩している。裏取引、転売、恐喝、闇オークション。犯罪こそが合法化される無法地帯。
ブラックマーケット。
転生して数日。俺はトリニティの入学式をほっぽり出してブラックマーケットに足を運んでいた。
え?なんで入学式行かなかったのかって?
理由はシンプル、嫌。トリカスの巣窟とか嫌なのだ俺。陰口権力傲慢保身、陰湿が服着てるような。陰謀渦巻く腹黒い社交場、トリニティ総合学園。
綺羅びやかな外装に、澱み湿った内装。上で仲良く茶会をしながら、その実テーブルの下で互いの靴を踏み合っているような学園だ。正直なところゲヘナとかの方が性に合ってたんだがな。
「にしてもオッサン、何売ってんだここは」
「オッサンは余計だよ。で?見ない顔だが――何をお探しだよ?」
俺は1つのある露店を覗き込み、そんな俺を見てほらよと自慢げに両の手を広げる
そこにはハンドガン、ショットガン、サブマシンガン、それぞれ、そして様々な弾薬、小型爆弾。防弾チョッキにヘルメット、ガンホルダーに保護用ゴーグル。更にはここギヴォトスじゃ使っているやつを見たことがないナイフや薙刀といった近接武器。そして……なんかのキャラのキーホルダーに、ぬいぐるみに――あ、これは知ってる。ペロロじゃん。キモフレンズのグッツもあんのかよ。*1
「いや、品揃え良すぎだろオッサン」
流石に露店にしては色々と揃いすぎて引く。品質もどれもこれも悪くねぇし、中には結構美品なやつもある。
「はは、
「やっぱ世の中金かぁ〜」
親指と人差し指をくっつけて指で輪を作るジェスチャーをする。やはり世界は悲しいほどに金が必要なのだ。
「けどすまねぇな、俺が買いたいもんは見つかんなかったよ」
だが断念だが、俺は店主にそう告げる。
そう。この露店は基本的に武器が売られているが、俺には無縁な物。グラニテとステゴロが俺の武器。銃弾に貫かれない皮膚に鉄骨の壁をぶち抜く腕力、そして出力次第でビルを容易く貫通するグラニテブラスト。
さて、ここで考えてみよう。
銃を使うメリットは?中遠距離の攻撃距離?グラニテブラストの方が威力、範囲、使い勝手共に優秀である。そもそも銃を持つということは手が塞がれるということ。俺は銃を撃つより殴ったほうが強い。腕が封じられると行動の幅が狭くなる、それなのにわざわざ銃を持つメリットが分からない。
それなら盾はどうか。いや重いし邪魔、動きの阻害になるしそもそもとして銃弾食らっても問題ない。ヘルメットは…そもそも着けたらグラニテブラストが撃てない、というより髪型のせいでもとより着けられない。
やはり石流龍。悲しいほどにブルアカ適性がない。ブルアカなのに銃が使えない。というか使わないほうが断然強い。
「そうか……じゃあ――ほらよ」
俺が武器を買う気がないと悟ったのか。店主は一つの商品を手に取ると俺に投げ渡してくる。咄嗟に受け取ったが、俺は意味が分からず店主の方を見る。
「おいおい、こりゃ」
「安心しろよ、勿論タダだぜ?誰が商品を投げ捨て、お前がたまたまその商品を拾っただけ」
無茶苦茶な理屈を言う店主に思わず苦笑いが溢れる。
「んで?本音は?」
「っかー!そういうのは探るもんじゃねぇだろ!まぁ…そうだなぁ………あんちゃん、ここに来んのは初めてだろ」
「よくわかったな」
「まぁ俺も
流石、まぁ考えてみればそりゃそうかってなるけど。そうして店主は言葉を続ける。
「それにさぁ…あんちゃん、強いだろ」
「っ!どうしてそう思える?俺ぁ丸腰だぜ?」
「隠さなくても分かるもんさ、俺は目利きには自信があるんだ!俺が昔見たゲヘナ現風紀委員会委員長とか、アビドスの副生徒会長とかを見た時に感じた圧の重みがある」
このオッサンマジかよ、ヒナとホシノを見たことあるって?それに俺はヘイローも無く銃も持っていない、そんな俺を見てこの店主はヒナやホシノと横並びに見えたってのか。このブラックマーケット、普通は俺が最高のカモにしか見えないだろうに。
この店主、もしかしなくとも俺が想像してる以上に大物かも知れない。
「んでよ。そんなお強くて、そして力を誇示するようなやつでもなく、話し合い、交渉もできるような人物なんだ。今のうちにウチをご贔屓にしてもらえなきゃ損だろ?」
「なーるほどねぇ、先行投資かよ」
つまりは投資、今後ともご贔屓にというメッセージだ。改めて投げられたそれを見れば、探偵が着ていそうな服を身に纏いキセルを加えたペロロのぬいぐるみ。
普通のペロロとは違うな?――あ、これもしかして限定品か!?多分何かしらのコラボ品なんだろうけど…
「いいのかよ、これ貰って」
「そこで遠慮するあたり、あんちゃんは良いやつだな。いいんだよ遠慮なんてものは、俺の勝手だろ?」
「………オッサン!また今度、なんかありゃ寄る」
「だからオッサン言うなや!……まぁ金さえあればなんであれ客だ、次はなにか買ってけよ!」
いい笑顔でサムズアップする店主。
気を取り直してブラックマーケット内を練り歩き始める。あの店主、ブラックマーケットに居を構えてる癖にただの気前がいいおっちゃんだったんだが。是非とも今後なにかあればあの店を贔屓にすると決めた。
「さてと、次は何処に行こうか」
んでまたブラックマーケットのあちこちを眺め…メッチャ発展してんなと他人事のように思う。その広さ、巨大さだけでも流石と言えるが、多種多様な悪人、元善人、生徒、大人。会社に企業に組織にグループ。様々な者たちが犯罪を助長する。そして犯罪を犯したものは、更に多くのものを巻き込み犯罪を犯す。犠牲になった者も犯罪を犯し、そうして動く金でここは回ってる。
在り方が既に完結しているのだ、ブラックマーケットだけで。どのような治外法権であれど、ある意味でここまで完成しているのは凄いことだと思う。
「わっ!」
「あ?」
突如として手前の曲がり角から一つの人影が飛び出してきた。制服にヘイロー、女子。つまりは生徒だ。
「あいたっ!?」
「おっと」
その女の子は前を見ておらず、俺に衝突する。咄嗟に神秘で防御したが、そのせいでぶつかった衝撃で女の子は尻餅をつきそうになり、咄嗟に腕で体を支える
「あはは…スミマセン、ぶつかってしまいまして――」
「いやいいんだがよ…お前どっかで」
「怖い人!?」
「は?」
「あ、いえその……あぅ…」
目の前の女子生徒は俺の顔を見た途端に血の気が引いていき、返事も弱々しくなっていく。
……さては怖がられてんなこれ?
「いやちょっと待て、俺ァ――
「なぁ嬢ちゃん、逃げんじゃねぇよ」
………あ?」
どうにもリーゼントに厳つい風貌の俺のせいであらぬ誤解がありそうだったのでどうにか落ち着かせようとするのだが、女子生徒の出てきた角からヘルメットを被った少女達が現れる。
「急に逃げるなんて酷いじゃないか?アタシらはただ困って助けを求めてただけじゃん?」
「そうそう!すこーし金が足りなくてさぁ、これも人助けだぜ?」
「アハハハ!まぁ強制でアンタには拒否権無いけどね!」
「痛い目を見る前にさぁ……賢く生きようぜ?」
「いや、だからっその……あぅ……」
…成る程、だいたいの話は見えてきたな。
つまりは、この少女はこのヘルメット団の奴らからカツアゲされていたのだ。それを逃げ出して、んで俺とぶつかって追いつかれたってワケか。
少女は涙目でヘルメット団と俺とを交互に視線を行き来させる、ガクブルと震えて。おい待てヘルメット団は分かるがなんで俺も同類みたく見られてんの?*2
「ん?アンタは誰」
ヘルメット団のうち1人が俺を見てそう聞いてくる。
「え、えっとあの――
「コイツの連れだ、なんか文句でもあっか?」
え???」
少女が訳がわからないとでも言わんばかりに混乱している。俺はそんな少女とヘルメット団の間に割って入るように移動して、ポッケから片手を出す。
「は?連れ?ってかよく見たら男?」
「ヘイロー無いじゃん!彼女の前だからってカッコつけてんの?ウケるー!」
「なんでもいいけどさぁ…アタシら金に困ってんだ、分かるだろ?な?」
銃口を向けてそう脅しをかけられる。そんな彼女達を見て俺は両手をぷらぷらさせて一歩前へ進む。
「お、彼氏の方は物分かりいいじゃん!」
「え、あっ…」
「安心しろ、俺の前に出るんじゃねぇぞ」
「…え?」
「おいおい何話してん――ガァッ!?
「悪いが、少し小腹が空いてんだ。バイキングに付き合ってくれや」
他のヘルメット団を先導していた前のやつの横腹に横フックを打ち込み、その衝撃でソイツは横の壁まで叩きつけられる。
「テメェ!これでも食らいやがれ!」
襲われた事を認識し、周囲で固まっていたヘルメット団が襲いかかってくる。銃口を突きつけてくるが、構わずに近くの奴の頭部に握り拳を振り下ろす。技術もクソもない純粋な殴り。ソイツは地面に叩きつけられ、後ろ方向へ数度バウンドする。勿論の事神秘で強化されているためただのヘルメットが耐えられるはずもなく、拳を受けて大きくひしゃげた。
銃口を向けたやつはそれを見て一瞬息を呑む。そしてそれを見逃すほど優しくはない、俺は裏拳で銃を弾き飛ばし、反射で飛ばされた銃を見たソイツの鳩尾に拳を叩き込む。
「ヴォエ!!!」
「女が出しちゃいけねぇ声出すんじゃねぇよ…っと」
「う、うぁ、うわぁぁぁぁ!」
「あ、ちょっ待て!」
一人が恐怖からか逃亡を図る。それを見て俺はある準備をする。
「――ぁ」
誰かが気づく。しかし遅い。俺は神秘をリーゼントへと集め、捏ね、束ねる。ここは直線上の一本道、ならこうすれば手っ取り早く終わる。
「何を――
「ッ!撃て!撃て!!」
異変に気付いた一人が慌てて銃口を構えて撃とうとする。が、2手遅く。チャージが完了した。
「グラニテブラスト」
閃光。光の奔流が、視界を白で覆い尽くす。
“キィィィィィィィン”
「え?」
数秒後、光が収まり視界がひらける。そこには吹き飛ばされ意識を失うヘルメット団、熱線でチリチリに焦げ焼けた壁に軽く抉られた地面。プスプスと音を立てて煙が上がる。
「ノックダウン……いくら生徒、ヘイロー持ちとは言えど、ネームドじゃなきゃ
少しばかりのため息の後、背後で放心している少女へと振り返る。少女は一瞬身構えるも、まだ混乱している様子だ。
「大丈夫だったか?嬢ちゃん、ケガは?」
「え?あっえっと!特に、ない…です…?」
「んで疑問形なんだよ」
「あぁぁいやあのえっと!」
あたふたと返答する少女に思わず笑みが溢れる。見た感じほんとに無事っぽいし別にいいんだが、流石に過剰じゃないか反応が。
「災難だったなお前さんも、まァツイてなかったって事ァ後で良いことあんだろうぜ、元気だしな」
「あ、ありがとうございます…?」
「だからなんで疑問形」
目の前の少女――明るめの茶髪にペロロのバッグを両手に抱えているごく普通の少女は、戸惑いながらもペコリとお辞儀をする。こんなワケもわからない状況で取り敢えず頭を下げられる、この子は恐らくいい子だ。
…少し待て、この子、やっぱりどっかで見たことあるような
「えっと、あの…助けてくれたんですよね?」
「まぁそう言うことになるわな、でもあんまし気にすんなよ?俺がやりたくてやったことだからなアレは。ところでお前さんはなんで
「あはは…でも、それでもありがとうございました……えっと…」
「俺は石流リュウだ」
「あ、はい!リュウさん、ありがとうございました!私はヒフミ、阿慈谷ヒフミと申します!ここに来たのはペロロ様の限定フィギアを手に入れるためです!」
ヒフミと名乗った少女は、笑顔でそう言った。ヒフミ、ヒフミ…ヒフミ……ヒフミ!?
衝撃の事実、助けた少女が実は未来のネームドだった件。とか言ってる場合じゃないんだよなぁこれ。
「へ、へぇー、フィギアなぁ」
「そうなんです!ペロロ様のあの世界的名探偵ニャーロック・ニョールズのオマージュ品!」
「んだそのシャーロック・ホームズのパチモン」
すっごく猫々しい名前だ。ヒフミはそれはもう嬉しそうにペロロ様語りモードのスイッチが入ってしまっているのか、何かよく分からない事を話し始める。
というか、待てよ?
「――それで、コアなファンの間でもその見た目が良いとされて評価もうなぎ上り。しかし建設現場の事情により数百体しか製造されず、まさに伝説!ですが、その過程で模造品も多く生産されてしまい、正規品を見つけるのは至難!コレクター、いえペロロ様好きにはそれはもう伝説どころか存在すらも危ぶまれる幻の様に――」
「おいヒフミ、もしかしてだが…それコレか?」
「………………………えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?そ、それは!!それこそ正しくですよリュウさん!なんで持って――いや今はそんなことより!すみません!これ、手に取って見させてもらっても!?」
「お、おう、別にいいけどよ」
俺は店主から貰ったペロロのぬいぐるみを取り出すと、ヒフミに手渡す。ヒフミの手は震えており、恐る恐ると言った様にゆっくり丁寧に、優しく受け取る。そうしてくまなくあらゆる角度から眺め、一区切りしたのか返してくれる。
「……ふぅ、これは本物です!いいものをお持ちのようで、羨ましいです、どこで手に入れたんですか!?」
「貰った」
「貰った!?いえまぁ良いですよ……ですがリュウさん、しっかりと保管してくださいね!ぬいぐるみは管理を怠ったら直にボロボロになっていますから!それはもう、ペロロ様を、大切に扱って下さいね?私リュウさんを信じてますから」
「……」
ガチだ。目がガチだ。
本気の圧を醸し出すヒフミ。帰ったら適当な押し入れとかに入れとこうと思ってたとか、俺がそんな事考えてたとかヒフミにバレたらヤバい。
…あ、そうだ。
俺はペロロのぬいぐるみをもう一度ヒフミに手渡す。目をパチクリさせるヒフミ、ぬいぐるみを返そうとしても俺は受け取らない。
「え?いやあの…」
「返すな、返さなくてもいい」
「でも」
「でももだってもねぇよ、お前にやるってんだ」
「エッ!?!?」
そう言うとヒフミは大層驚いた表情を見せる。正直なところ、俺が持ってても置き場所に困って結局物入れ行きになるだけだろうし、かといって店主から貰った手前捨てるわけにもいかない。
そこでヒフミだ。ヒフミのペロロ愛は充分…というか異常だから、そんなヒフミだからこそ杜撰に扱わない、いやここギヴォトスでヒフミ以上にペロロを愛している少女はいない。そう断言できるからこそ。
「それに、お前が持ってたほうがそのペロロ――「様を付けてくださいリュウさん」――様、も喜ぶだろ」
ペロロの事になるとヒフミは俺以上の圧を出す。流石
年齢的にこれからトリニティに行くにしても…ヒフミは基本は良い子だし、そんな子を大丈夫と分かっていてもあんなところに送り出すのは少しだけ良心が痛む。けどヒフミがトリニティに居ないと色々と詰むんだよなぁ。
「わ、分かりました…そこまでおっしゃるのなら!ありがとうございますリュウさん!」
色々と言いたいことがあるだろうに、その全てを飲み込んで、その上でお目当てのペロログッツを手に入れた喜びから来るものなのか。満点の笑みで微笑みかけてくる。しっかりと手放さないように両手で抱きかかえながらも、潰れないように微細な力のコントロール。
「それでは…また!」
その後ブラックマーケットの外までヒフミを送り出し、俺も帰路についた。帰り道でケーキを買う、ここらの通りで美味いと有名な店だ。
今日はもう家でケーキ食ってゴロゴロしよう。そう決めたのだった。
他の小説と同時並行でやるから更新頻度はどうしても遅いですけど、それでも良いって人なら大歓迎よ