満ち足りてねぇ俺が行く青春物語 作:ばぐひら/Baguhira
「あっ…がぁ…お前、一体何者…」
「なんでもいいだろ、おとなしく倒れてろ」
「アガッ」
砂に埋もれた廃ビルの内部。正面玄関だったものを抜けて直に鎮座する積み上がる人、人、人。その頂に腰を下ろし、欠伸を一つ。辛うじて意識がある者が居たので程よい加減で殴りつければ、白目を剥いておとなしくなる。
「………やりすぎだ、いくらなんでも過剰防衛じゃないのか?」
「いいだろ別に、悪い奴らをノしたんだ。それに意識を失うギリギリでやってる、コイツラみたくいたずらに力を誇示した訳じゃない、とやかく言われる筋合いは無ぇな」
最近知り合ったカンナがそう言って俺を咎めるような言い草をするが、俺の何が悪かった?ん?と開き直る反論に思わずため息をつく。
尾刃カンナ、ヴァルキューレ警察学校の公安局所属の1年。数年先の未来、先生が来た原作軸で公安局の局長にまで上り詰めた少し強面な少女である。
出会いは数週間前。ぷらぷらと自宅付近を当てもなく彷徨いていたわけなのだが、そこで不良生徒のいざこざに巻き込まれた。そして面倒だった俺は喧嘩両成敗理論で両者しばき、結果として駆けつけたヴァルキューレに事情聴取という形で拘束、連行された。そこで出会ったのがカンナ、と言うわけだ。
話すと俺の言い分と周囲の反応、監視カメラの情報などからすぐに俺は巻き込まれただけの部外者だということが判明した。それで解放されるまでの間で少し歓談。その時の会話の流れ的にモモトークを交換した。
「お前の言い分は分かった、だがもう少し自重しろ。お前はヘイローが無いんだぞ?もしものことがあれば」
「こないだも大丈夫だって言ってんじゃねぇか、心配性か?」
「神秘…か」
「そ、神秘の扱いさえ理解してりゃ銃弾の1つや2つくらい食らったところでわけねぇよ」
俺はクルクルと腕を回してアピールをする。実際、目立つような外傷も無いだろ?と。カンナはまた呆れた。
カンナが何故神秘の事を知っているか。それは数週間前の騒動、ヘイローも持っていない俺がヘイロー持ちの喧嘩に割り込むなとカンナから強く釘を刺され、適当に流そうとしてもしつこく言ってくるもんだから、カンナに神秘についてを話したからだ。
神秘とは何か?俺の持論と根拠を話せばカンナは分かったような分からないような顔をしたので、実際に目の前で威力を1割まで抑えた
何故そこまで知ろうとするのかと聞けば、凶悪犯をとっ捕まえて市民の安全を守る為〜などと迷いなく即答したので、俺はそれ以来カンナに神秘操作の講義をちょくちょく行なっている。
「はぁ…実際、驚き半分疑念半分だったんだが…ここ数週間のお前を見てれば直に疑念も吹っ飛ぶさ」
「んだよ〜疑ってたのか?まぁオカルト話か、頭おかしい奴の戯言にしか聞こえねぇだろうがよ、神秘なんざ」
「そういう事だ、リュウ」
「と言っても、俺からすれば銃弾生身で食らって無事なお前らの方がファンタジーだがな」
因みに何故ここにカンナがいるかと言うと、この不良共を引き取りに来てくれたからである。実際いろいろな場所で実害を出してた不良グループらしく、組織全体に賞金がかけられてる。ヴァルキューレも今まで捕まえようと追っていたらしいのだがトカゲの尻尾切りの要領で逃げられ続け、アジトも分からずじまいで手を焼いていたそうな。事実、見つかるわけがない。コイツら主な活動場所がE.U.全域の癖してアジトはアビドス郊外の廃ビルだったのだから。そりゃE.U.内を幾ら探しても見つからない。なかなかに姑息な奴らだ。
「…っしょ、と…これで最後か」
「おう、悪いな。やっぱ俺も手伝ったほうが良かったんじゃねぇの?」
「何を言う。お前が居場所を特定し、制圧までやってくれたんだぞ、回収くらい我々ヴァルキューレがやらずしてどうする。流石に我々の立つ瀬が無いぞ」
そう言って輸送車に不良を投げ入れる。カンナが投げ入れたのを最後に、輸送車が一斉に走り出す。カンナもパトカーに乗り込もうとするが、既のところで何かを思い出したかのようにこちらに顔を向ける。
「折角だ、送ってやろうか?」
「お、マジかよありがてぇ」
どうやら送ってくれるらしい。ここまでは歩きできていたので渡りに船だ、俺はカンナの乗った車両の助手席に腰を下ろす。
「……ってーかカンナ、お前免許持ってんのか?」
「勿論だ、というか持ってなかったら乗れんだろうに」
「いや、普通免許って高1から取れるもんだったかなと」
「?取れるものだろう」
「あーそうかい、流石、ギヴォトスクオリティ」
どうなってんだギヴォトス、銃が市販で売られてるから今更といえば今更だけども、高1が免許持ってるの怖すぎんだろ。あーギヴォトス人は交通事故程度で死なないのか、あぁそうか……。
「よし、取り敢えず行き先はヴァルキューレ警察学校だが…どうする?道案内をしてくれるのならお前の家まで寄るぞ」
「あーいんや、その前に少し寄ってほしいとこがあんだよ」
「どこだ?」
カンナの問いに、俺は答える
「カンナ、腹減ってるか?」
■
「おやっさん、邪魔するぜ」
「ここは…」
「ん?珍しいな、初めて見る子たちじゃないか」
店の扉を空けると、モフモフな一人の柴犬が出迎えてくれる。柴大将、ここ柴関ラーメンを営む獣人で、そう遠くない未来のアビドスで天然記念物となっているマトモなオトナだ。
そうして俺らは大将にカウンター席へと案内される。
「ほらよ、メニュー表だ!」
「あんがとさん……っと、俺は柴関ラーメン普通盛りをくれ。カンナはどうする?」
「っとと…それならお前と同じやつを貰おうか」
「あいよ!少し待ってな!」
ここの店の名前になっている看板メニューの柴関ラーメン(高校生の財布事情に優しい580円)を頼んだ俺たち。暫くすると厨房からラーメンのいい香りが漂ってきて程よく空いた腹に溜まり、食欲が刺激される。
「お前は此処に来たことがあるのか?」
「いんや初めてだ、前々から来てぇとは思ってたんだよ、知り合いにも勧められたからよ」
「…なに?お前に私以外の知り合いがいる…だと?」
「流石に居るっての!」
だが悲しいかな、こうやって同じ釜の飯を食う程の友人はカンナしかいない。ブラックマーケットのあの店主は商売関係だし、ヒフミは見知った顔ってだけだからな。
なんやかんやでカンナが一番仲がいい。
「ハハハ、冗談だ冗談、あんまり騒がないでくれ」
「はぁ…お前だって俺以外にこうして飯行ける友人居ねぇくせに」
「んなっ!?リュウお前、それは無いだろそれは!」
軽口を叩きながら料理が届くのを待つ。
「へい、お待ち!」
ゴトン、と俺等の目の前に器が置かれる。俺は割り箸を手に取ると、食欲に促されるように麺を口に運ぶ。
「っ」
まず感じたのは旨味。スープのコク。ラーメンというカロリーの暴力に胃袋を殴られたような感覚。スープを一口、先ほどの旨味が口全体に均一に広がり、さらさらと喉元を通る。余韻に浸りつつ水を手に取り、口に流し込む。
あっさりとした後味はしつこくなく、また一口、また一口と箸が進む。
「――
旨っ。いやなんだこれ、今まで食べてきた記憶の中のどのラーメンより美味いんだが。え、大将、あんたマジ?これを580円で提供してんの?神かよ。
「これは…っ!なかなか………ぁ、いや…美味しい、です」
「アハハハ!口にあったのなら良かったよ、腹いっぱい食べな」
どうやらカンナも気に入ったらしい。隣の席を見れば、麺を啜りはふはふと美味しそうに頬張っている。
大将はそんな俺等の食べっぷりを見て気分を良くしたのか嬉しそうに笑う。
「……ん……はふ」
どうやらカンナは食べるのに夢中らしい、これは食べ終わってからにするかと考え、俺も目の前の一品を食べ進めるのであった。
■
「ご馳走様でした」
「美味かった、ごちそうさん大将」
「あいよ、お粗末様」
ラーメンを食べ終わり、満足感を感じながら店を出る。
「いやぁ〜美味かった!おうカンナ、お前はどう——って、見りゃわかるか」
カンナに視線を向ければ、いつもは気難しそうに眉間にシワを寄せている表情が僅かながらに綻んでいた。なに?いつもと変わらない?どこが違うのか?馬鹿野郎見ろ、口角が少し上がってて、目元も気持ちやんわりしてんだろ?
「あぁ、美味しかった。わざわざ食べにこのアビドスまで足を運ぼうかと悩むほどに」
「そりゃあいい、大将も喜ぶぜ」
そして車内に戻ろうとすれば、カンナのスマホが振動する。カンナが「失礼」とスマホを取り出し、俺に目を配る。まぁそういうことだろうと顎をクイッと肯定の意を示せば、カンナは軽く会釈し電話に出る。
「あぁ、私だ。一体どうし——なに?それは先日書類にまとめて提出した筈では……成る程、あちらの不手際か。だが私の他にも対応出来る人物は居るだろう、そもそもソレの管轄は——あぁ…あぁ、分かった、分かったから。私も輸送し終えた帰りだ、勿論手を貸そう、あぁ、ではな」
プツリと通話を終わったカンナが此方に告げる。
「……すまない、少々急用が入ってしまった」
「いいさ、だいたい分かった。んで、直行か?」
「そうなるだろうな……そら、乗れ」
「……あー、いいや、いいさ。俺はもう少しこの辺をぶらぶら散歩しておく。寄りたいとこもあるんでね、後は自分でやる」
「ここの交通インフラは壊滅していなかったか?」
「帰りは歩きだ、いや正しくは歩くんじゃなくて走るけどな」
そう笑えばカンナは呆れたように笑いながら運転席に腰掛ける。エンジンをかけ、窓を少し開けて何かを手渡してくる。手渡されたのは無地の封筒で少し分厚い、中を見てみれば札束が1…2…3…4…5……あー、数十枚ほど。
「今回の奴らの換金額、そっくりそこにある筈だ。確認できるか」
「確認も何もアイツらの換金合計額知らねぇよ。それにお前がそこんとこ、ちょろまかすとは思ってねぇ」
「お前なぁ……はぁ、もう行く。また何かあれば連絡をしろ、ヴァルキューレとして、私個人としても、ある程度なら手を貸してやる」
「おうおう、頼る頼る。なにしろ俺の主な収入源は賞金首だからな。俺が外道になるかお前が首飛ばされるかがなけりゃ、俺とお前の関係は長くなるだろうぜ」
「物騒なことを言うな!私のクビは兎も角、お前と敵対は御免被るぞ」
「私情か?駄目だろ公私混同しちゃ」
「戦力的に今のヴァルキューレではお前を止められないからだ!」
■
まあそんな感じに閑話休題。数分ほど雑談を続けた俺たちだが、流石に長居というわけでカンナはヴァルキューレへと戻るため車を走らせていった。タイヤの回転で巻き上げられた砂が風に流される。
「よぉーし、んじゃまぁ……出てこいよ」
改めて…柴石ラーメンの角にいる人物がビクリと震える。そうして、おずおずと言った感じに姿を表す。
長く、腰まで届く長髪で。淡く柔らかい水色の髪を風でなびかせながら、頭の頂点から長く生えたアホ毛が左右に揺れる。その両手足には無数の絆創膏が貼られており、お人好し、少しおバカっぽい印象を受ける端正な顔立ち。
「えっと……バレてたんだね……」
「まぁな、と言っても気がついたのが店出てすぐだからそれより前から居たのかは知らん。で、なんだ?俺に何か用か」
「わわっ!ただ男の子が物珍しくて……!だからそんなに警戒しないでもぉ…」
「あ?」
「ひぃん!」
——っと、怖がらせちまったか。相手の言い分は一理ある、というか成る程と納得できるようなものだ。ギヴォトスでは生徒で男ってのはイレギュラーな俺くらいなものだし、初めて見る異物ってんで興味を持つのは当然だ。それとしてリーゼントな男だから怖がるのも当然、と。そろそろ慣れねぇとな…時々自分が石流だって自覚が薄れて…いや、ごく自然とリーゼントヘアーのセットしてる時点でなんだかな。
「んむむむむ…………」
「どうした、何か顔にでも付いてるか?」
「はっ!いや、そういうわけじゃなくてぇ…!」
「ハハハ!いやすまねぇな、怖がらせるつもりはねぇんだ。今のはただ聞き返しただけで。んでも…あぁ、先ずは自己紹介からか?」
「えぇっと、そうだよねっ!私はユメ!アビドス高校で生徒会長をやってます!梔子ユメです!」
ユメ。梔子ユメ。アビドスの生徒会長。小鳥遊ホシノの先輩で、ホシノに多大な影響を残した——
——この
慌てた様子でペコリと頭を下げたユメ。たどたどしく下げられた頭に、つられてこちらも軽く頭を下げる。
「俺は石流リュウ、所属は——まぁ、ねぇな。一応色んな学園自治区をぶらぶらと…あー、ブラックマーケットが基本的な活動場所ではあるんだが」
「ブラックマーケット!?いやそれより——無所属なの?てっきりどこかの学園に通ってるものだと思ってたよぉ私!」
「おう、元々は入学予定の学園があったんだけどな、嫌で入学式すっぽかしちまってな!そもそも学生で学園に通ってないのって言ったらヘルメット団とかそこら辺だし、そう思うのも無理ねぇさ。荒くれ者だって言われちゃ否定もしずれぇが…こう見えてヴァルキューレとも少しだが繋がりがあんだぜ?」
「へー…なかなかに複雑なんだね……!」
「自分で言ってて改めて思った。それな」
振り返ってみれば俺って今、16歳無所属リーゼント男子生徒(ブラックマーケット入り浸り)か。バッチバチに不審者では?よく
「それで?リュウ君はどうしてアビドスに来たの?」
「リュウ君て、初対面でこの距離の近づけ方すげぇなおい。だがそうだな、まぁ…ついでだよついで」
「ついで?」
「おう。アビドス郊外に事情があって居たんだが——そのついで、折角近くに来たってんで寄ったんだ。なんだかんだ柴石ラーメンのこと、気になって前々から来ようと思ってたところだしな」
「まぁね!大将さんのラーメンは美味しいからね!」
「なんでお前が胸張ってんだ?」
ただでさえ主張の強い2つの果実は、胸を張ったことにより更に主張を増していた。だが流石に凝視は紳士にあらず、チラリと横目で流す程度にとどめておく。
我が事の様に「ドヤァ」とでも効果音で付いていそうなユメ。誇らしいのだろう。自分の好きな、生まれ育ったアビドスのことが。大将の屋台はアビドス自治区に構えてるし、広く捉えたら俺の一言はアビドスへの賞賛に変わるのかも知れない。ただまあ、素直に大将の腕を褒められて自分の事のように嬉しいだけなのかもしれないが。
「それで、どうしてリュウ君は残ったの?さっきの人の車に乗らなかったし、そのままあの人は行っちゃったし……まだ何かやることがあるんじゃないの?」
「あー…やること、じゃなくてやりたいこと、だな」
主にグラニテの試運転。広くて丁度いいんだよなアビドス砂漠。
俺は度々アビドス砂漠に来ては、グラニテを乱射しながら訓練を行っている。グラニテは純粋な神秘放出、幾度もやるたびに命中精度やエネルギーの圧縮、放出までの時間短縮、神秘の操作性の向上など、様々なことが同時に鍛えられる。正直なところ、火力面ではこの世界でそうそう必要とされないレベルまで出せる。だから俺が欲しいのはグラニテのエネルギーロスの削減だ。
神秘というのはなかなかどうして奥が深い。洗礼されて無駄なく行使される神秘と、ガサツに行使される神秘とでは天地の差。主に中身が。例えるなら、方や隙間なく食材が敷き詰められている弁当箱。そして方や隙間だらけで色合いも悪く、穴だらけな弁当箱。と言ったところだろうか。
駄目だ例えとか苦手でやろうとするもんじゃねぇ。失礼、忘れてくれ。
兎にも角にも、自主訓練としての用事が砂漠にあったからカンナの折角の誘いも断ったわけだが。
「……あ!思い出した!リーゼントからビーム出してた人だ!!」
突然ユメがそんな事を口にする。聞いてみれば、この前リーゼントからビームを放射する男子生徒をアビドス砂漠で見たという。
「いや忘れてたのかよ」
「だ、だってぇ……」
なんでそんなに濃い出来事忘れてるんだよ、今の今まで気がついてなかった?んなアホな。いやアホか。というか見られてたのかよあれ!駄目だな、気配察知能力をもっと磨かねぇとな。
「それでそれで!リュウ君のやりたいことってなに?」
「砂漠、被害、特訓、リーゼント、ビーム。OK?」
一昔前のグルグル先生での検索欄みたいに簡潔に伝える。意味は伝わったらしい、目をキラキラさせながら前のめりになって興奮した様子で告げる。
「私も!見学していいかな?」
生存報告