満ち足りてねぇ俺が行く青春物語 作:ばぐひら/Baguhira
「グラニテブラストォ!」
閃光が迸る。熱線となった神秘が空を駆け巡り、空中で突如として四方に爆散。数多くの流星となって空を彩る。だが散らばった光の意志は衰えず、急加速して地面に散弾の雨を落とす。複数に重なる轟音と砂煙、風が大気に舞った砂を運び、そして視界が晴れていく。
「すっ……………スッゴーーーーイ!!!」
純粋無垢に瞳を輝かせている少女を横目に、俺はポリポリと頭をかく。
「いちいち反応いいなぁ。ま、そっちのがこっちもやり甲斐ってのがあるぜ」
「流れ星!お星さまみたいにキラキラって!いっぱいにブワーって!ズドドドドドって!」
「分かった分かったって!ちょ近い近い近い!」
キャーワーと騒ぎ立てる少女に、穢れのない小さな子供がヒーローショーを見てキャッキャとしているのを側から眺めている父親の気持ちになる。でもそういう反応をしてもらうほうがコッチとしても嬉しいし、やってて楽しい。いたずらに力をひけらかすのは性分じゃないが、これはこれでアリだ。それにこう言っちゃ何だが、俺を通して石流を褒められているような気がして、それも嬉しい。
「つか持ち上げてるとこ悪ぃが、ありゃ技というより曲芸だ。実戦での運用は…まぁ駄目だわな」
「なんで!?」
「いや…ただでさえヘイロー持ってて硬いのに、わざわざあんなにエネルギー分散させて撃ったところで「若干痛っ」程度の火力しか出ねぇよ。オートマタ相手ならこれ以上ないくらい効くんだが…」
これは
ただそんなことやっても結局「通常グラニテ数発撃ったほうが良くね?」となってしまうのだ。
俺が命中精度が終わってるノーコン野郎ならいざ知らず。日々のトレーニングのおかげで自賛できる程度には神秘の扱いも上手くなった自信があるし、実際極小グラニテを100メートル先のコップに命中させる程度の精度もある。動かれてたら五分だけどさ…そこはこれから更に特訓繰り返すからそこでカバーする予定。
……まぁ、どっかしらで使い道があるのかもしれないが。だがにしてもグラニテのエネルギーを数百に分散させるのは、本当に曲芸の域だ。三とか四なら、確かに効果的だろうなと思うが。
「というかずーーっと思ってたけど…リーゼントからビームが出てるのなんで???」
「今更だなぁおい」
今更すぎるのである。
「あー…どう説明したもんか……自分の中にあるエネルギーを体の外に放出してて、その放出口がリーゼント。ってわけなんだが」
「へー…リーゼントである必要性あったかなぁ?」
「浪漫」
「なら仕方ないね!」
梔子ユメ、浪漫の分かる女である。多方面への理解に厚い良い先輩なのだ。
「ねぇねぇ!それって私にもできたりするかな!」
「ギヴォトス人なら理論上誰でもできるぞ。あ、ヘイロー持ってる生徒に限るけどな」
グラニテブラストは言うなれば神秘の放出。神秘を知覚さえしていれば生徒全員誰であれ使うことのできる技だ、だが例え全生徒がグラニテブラストを使えるようになったとして、俺の方がギヴォトス中のどんな生徒よりもグラニテブラストを上手く扱える自信があるが。
要は神秘の知覚、それさえできれば後は簡単だ。ギヴォトスは神秘で溢れてるし、生徒は全生徒神秘を持ってるし、更に中には馬鹿みたいに神秘を秘めた奴もいる。それでも神秘を知覚できる奴は極小数、更に神秘を意識的に扱える奴となると居るのかどうかも分からない。
つまりは、そういうことだ。
「へー……でも、私の中にあるエネルギーって言っても……どれ?」
生徒達はヘイロー、神秘を宿している。だがそれに気づけるのが少数なのは、それが当たり前で、それが通常で、それが自然だからだ。そこにある、それが当たり前であるが故の弊害。人だって、体の中を駆け巡る血液の全てを感じ取ることができないように、彼女たちにとって、神秘とは「そこに在る」ものであり、感じ取るものではないのだ。
感じ取れないわけではなく、常日頃から感じ取っているからこそ、自分が感じ取っていると認識できない。
「ふんぬぬぬぬぬぬ……」
「
「っぷはぁ…ホントにあるの?そんな力が私にも…」
「あるある、お前らヘイロー持ってる奴らが銃弾受けて無事なのは何でだと思ってる、そのエネルギー…神秘ってやつが身体を強化してやがるからだ」
「へー」
「おいなんにも分かってない面してんな」
「事実、何も分かりません!」
「一丁前な返事だなおい」
何も分かりませんでしたと額にデカデカ書かれてるユメ、まぁそんなものだろうなと思う。
事実、原作開始時点で神秘を認識していそうなのは学園上位の実力者ばかり。例外としてあの全知とビッグシスター、それと
「神秘、それを認識できるかどうかで結構変わるぞ。各学園で
神秘を扱うか否か。神秘の内蔵量も在るだろうが、これも強さを後押しする要因だろう。神秘がアホみたいに在る奴と神秘を熟知してる奴、基礎ステは間違いなく前者が圧倒的だが、実際戦えば勝率は殆ど五分になる。
MP1000あっても微量な肉体強化にしか使えてない奴と、MP100で色々な魔法使う奴、そういう認識だと分かりやすいかもな。
「へー…ならホシノちゃんもそうなのかな……あ!ホシノちゃんっていうのは私の後輩で、強くて可愛くて良い子なんだぁ!」
「後輩…ホシノ、ねぇ」
だから私ももっと良い先輩になるんだと、そう言ってユメは笑う。
——いい関係だ。
これでも
「——へ?」
気がつけば、ユメの頭にぽんと手を乗せていた。ユメがどうしたのかと見上げてくる。
——本来なら。
実を言えば関わる気はそんなになかった。原作への介入は、しないつもりだった。なにせここはギヴォトス。数々の滅びを内包した箱庭。本編軸、あまねく奇跡の先生は数々の幸運と奇跡の上にあの未来を掴み取った。数々の奇跡があった、勿論先生の活躍や努力もあるだろう、そこは事実だ。でも運もあった、それが現実だ。
そんな薄氷の上に成り立ったハッピーエンドだ。俺の介入で発生するバタフライ・エフェクトなんて、それでハッピーエンドに辿り着けないなんて。そんなの真っ平御免だ。
だから当初はユメを見捨てるつもりだった。ホシノの、アビドスのストーリーにはユメの死という
そう、
「あー、もういいや」
「?」
「そんなに後輩を思ってんなら、しっかりと守ってやれ。最後までな」
原作はもう知らん。俺は俺のやりたいように振る舞う。ここは確かに
「リュウ君に言われるまでもありませーん、私はちゃーんと……ちゃんと…………良い先輩………………できてるよね?」
「なんでそこで不安になるんだよおい、こっち見んな尋ねんな俺が知るわけないだろうが」
恋愛的に好きになったとか、そういう話ではない。ただ少し話して情が湧いた、興味を持った、気に入った。
だからこの程度の干渉はノーカウントだ。OK?
「よし、なら俺が手を貸してやる。お前の思い描く立派な先輩ってやつになれるようにな」
「ホント!?」
「あぁ、と言っても俺が教えられんのは身の守り方。具体的に言えば神秘を教えてやる。強くしてやるっていう話だ。どうだ、やるか?」
「うん!いつまでもホシノちゃんに守られてばっかりじゃ、先輩として頼りないからね!私もホシノちゃんに頼られたいのです!」
「いいねぇ、向上心がある奴は嫌いじゃねぇ。なら俺が納得するレベルまで強くなってもらうぜ?」
ユメを死なせないように、死なないレベルまで強くしてやる。直接アビドスの事情に首は突っ込まねぇ、ただ、間接的にユメを助ける。その布石を敷く。
そんなこんなで、俺に弟子ができた瞬間である。
「教えてもらうわけだし……リュウ君のこと先生って呼んだほうがいいかな!」
「やめろむず痒い、却下」
「ひぃん…」
■
「そんじゃあ第一回、特別講座を開始すんぞー」
「はい!よろしくお願いします!」
郊外、よくあるような廃墟ビル。つい先日俺がぶっ飛ばしたヘルメット団が中心に活動していた元拠点。そこを軽く整理して、適当な机と椅子と黒板を設置することで簡易版教室を再現する。ユメは椅子に座りながら元気よく返事を行う。
「そんじゃ、先ずは座学だ。神秘についてだな」
「神秘…言ってたエネルギーだったよね?」
「そうだな。ここはとある奴の言葉を借りようか。
『到底辿り着くことの叶わないものが「神秘」である』
これが神秘の性質だ。明確にこれだと表現した時点で、それは神秘の性質ではないもの、神秘という情報を掴むことを失敗している。解析できないからこその神秘、理解できないからこそ、それは疑いようもなく神秘なんだ」
「えっ…と……………つまりナニ?」
「それでいいんだよ、神秘を具体的に説明するのが間違ってんだ。そういうものだって思っときゃいい」
「なるほど?」
ゲマトリアの連中が語ったこと。そもそも作中で神秘に触れているのはゲマトリアくらいなもので、恐怖や崇高であれば
だからこそ、
——あれ?座学の勉強だよな?「神秘について勉強しましょう、神秘とはよくわからないものです!」って言ってるの本当に勉強になるか?だが仕方ないだろ、そういうものなんだから。
「神秘を知るに当たって裏面の恐怖とか崇高とかもあったりするんだが…今回は除外。これは知ったところでな部分があるからな」
「ひぃん……なんだか色々あって頭がこんがらがっちゃうよぉ〜」
「それじゃ、神秘に触れるのはこんなもんにして…次は神秘を感じてもらうことだな」
ユメの手を取り、掌を互いに合わせる。そして微弱ではあるが、俺の神秘を掌から僅かに放出する。
「感じるか?」
「…えっ……と……………?」
「あー、もう少し出力上げるぞ」
「……………っ!今なにか、なんだろこれ、これ…」
「感じたか?それが神秘だ」
出力を調整していけば、一定のラインまで行くとユメは何かを感じ取れたようだ。よーし、これで第一関門は突破だ。
「今さっき神秘は解析不能だって言ったが、生徒達に神秘が秘められているのもまた事実だ。神秘は知ることはできずとも、感知することはできる。でなけりゃ神秘なんて名称もねぇ」
「これが神秘…」
「次だ。自分の中にある神秘を知覚しろ。これは今直ぐにできるようなものでもないから期限を設けようか。一カ月だ」
「うぇ!?そうなの!?」
「なんだ?」
「てっきり私…何か不思議な力でバババーってリュウ君がやってくれるものだと」
「怠けんなよ」
俺のことを魔法使いか何かだとでも勘違いしていたようで、結構具体的な特訓日数を持ち出されて不平不満を漏らす。そう簡単に強くなれたら誰も苦労しないわけで…だがユメにも才能は確かにあると思っている。特訓の時間に設定した一カ月というのは
改めて、このブルーアーカイブというゲームにおいて、各ネームド生徒には元となった神性が存在している考察があった。事実、この考察は間違いではないだろう。最たる例として、小鳥遊ホシノと砂狼シロコの存在が挙げられる。
作中でも言及されていたが、ホシノはあの黒服からして「最高の神秘」と言わしめるほどの存在であり、そんな黒服からの呼び名として「暁のホルス」というものがある。地下生活者の発言やアビドス3章での出来事からも、ホシノの中、元となった神性はエジプト神話に登場する、天空の支配者たるホルス神だろう。
では砂狼シロコはどうか。シロコに至っては最終章のシロコ*テラーの存在、シロコ*テラーや無名の司祭、黒服らゲマトリアの言及から、元となった神性はエジプト神話の死の神アヌビスだろう。
この2人の例から、生徒には元になったキャラクターが存在している事が分かる。だがここで気をつけるのは、各学園ごとに元となる出典元が異なる点に在る。アビドスならエジプト神話、ゲヘナであればソロモン72柱、トリニティであれば新約聖書など。であるならば、アビドス生であるユメは当然エジプト神話に関連した神性だろう。
ユメの神秘は並みだ。だが作中でのユメの辿った末路、重なる共通点、セトの憤怒、絆創膏、アビドス、違和感。それに考察していた人もいた。恐らくだがユメの中に眠る神性はオシリス神なのだろう………と俺は考えている。いや実際この説が一番有力だったし。ホルスやアヌビスと肩を並べる強大な神性——いや、神聖。
素質自体は充分だと、そう感じた。これで駄目だったらもう知らん、別のアプローチを考える。そもそも神聖と神秘の繋がりはよく分からんし、作中で明言してくれてないから確証もない俺の妄想、良くても考察だけどマジで考察の域を出ないし………。
まぁ、何事も当たって砕けろの精神が大事だな。
■
4日後。
「できた!できたよリュウ君!」
「
そこには、神秘の知覚を1日で終え、体内の神秘循環を1日でコツを掴み、体外への神秘の放出を2日で実践することのできたユメが、屈託のない笑みで喜びを全身で表現していた。