遅熟転生者の現代ダンジョン攻略~そろそろフィジカル貧弱なのやめない?~ 作:ayuアユ
クリスマスの騒動から一週間、世間はお正月ムードで賑わい、退屈を紛らわすために付けた病室のテレビではどのチャンネルでもお正月特番という文字が表示されている。そう、今の俺は絶賛入院中なのだ。
あの後、目が覚めたらダンジョンの入り口の広場に転がされていた。多分だが、リリカが安全な場所まで運んできてくれたのだろう、ポーチの中には例のゴーレムが残した黒い砂(砂鉄?)が詰め込まれており、なんだかんだ世話焼きなのだろう。とはいえ、すべてが無事で終わったわけではない。あの後俺は立ち上がることができなくなったのだ。というのも、原因は明白、足がぶっ壊れたことにある。ポーションをかけても治らず、這って外に出るとタブレットから冒険者用の救急サービスを要請し、そのまま直で病院に入院することになった。
診察してくれた先生のお話によると、なんでも足の中の腱や筋、骨がぐちゃぐちゃであり、ポーションの回復では正常に治る見込みがないらしい。人の手による手術や、高位のポーションと回復魔法を混ぜ込んだ特殊な治療を施してもらい、今はずいぶんマシになったらしい。とはいっても、激しい運動は控えるように言われ、ダンジョン探索などもってのほかだ。
かくして、今では松葉杖有りならゆっくりではあるが歩くことができるようになった。入院中は両親はもちろん、紗良が泣きながら押しかけてきたり、ギルマスの渡辺さんも見舞いに来てくれた。とはいえ、渡辺さんに関しては、あのゴーレムの変異種についての事情聴取が理由の大半を占めていると思うが。渡辺さんや付き添いで来たギルドの人たちは俺の話を興味深く聞いたり、あのゴーレムが落とした黒い砂の一部の研究をすることで、ある程度は解明することができたという。なんでも、あのゴーレムは磁力に関する能力を持っていたらしく、雷魔法を打ち消したりダンジョンの素材を体に吸収する能力はこれに由来するそうだ。個体名はマグネタイト・ゴーレム、そのまんまである。
ちなみに、リリカも討伐に協力したというと驚きながらもどこか納得したようだった。なんでも期待の新人らしく、そのレベルの高さもさることながら、戦闘能力は推定レベル30を超えるらしい。とはいえ人と馴染むことが苦手らしくパーティを組んでもすぐに解散することが多いとか。
立ち上がり、ふらつく体を松葉杖で支えながら窓を開く。まだまだ寒い空気は頭を冷やすのに十分だろう。なんて、割り切れたらいいのだが...
「やっぱ、つれぇわ…。」
ここまでダンジョンに潜れないことが辛いとは。寝る時も食事をとる時も頭の中では、この時間でどれくらい経験値を稼げるか計算するようになってしまった。どこに出しても恥ずかしい、立派なダンジョン中毒者である。なのでもっぱら、動画サイトや掲示板などでダンジョンに適度に触れることで衝動を抑えている。とはいえ、退院に伴ってぐっと活動の幅も戻ってくるだろうし、多少マシにはなるだろう。え、ダンジョン行くつもりかって?はい。(曇りなき眼)
服を着替え、もはや顔見知りになった看護師さん達に礼を言い、玄関口に向かう。両親は俺の代わりにそれぞれの実家に顔を出しに行ってるようで、時間は無限にあるようなものだ。肌寒いので家にコートでも取りに行こうかと思っていた矢先、頭に響く、しかし決して不快ではないソプラノが耳に入ってきた。
「もう、退院する時間くらい事前に言ってくださいよ…。看護師さんに聞いてなかったら機会を逃すところでしたよ?」
明るい色のコートに赤いマフラーを巻いた天使…ではない、紗良だ。周りの目線を気にも留めず抱き着こうとしてきたが、俺の片手の松葉杖を見て我慢したようだった。
「正月だから、お前も忙しいんじゃないかって思ったんだよ。」
「そうでもないですよ。家に居たってお母さんとお父さんは新年の挨拶回りで忙しそうだし、私も連れていかれそうだったから、いい口実になりましたし。それに、一ノ瀬君のお父さんとお母さんから、見張っててくれって頼まれてるんですよ。どうせ、ダンジョンに行くつもりなんでしょう?」
「お前も来るか?」
「ナチュラルに開き直らないでくださいよ、もう。…たくさん心配したんですからね…?」
…上目遣い+涙目は反則だろ…、俺じゃなかったら勘違いしてるところだったぞ。
とはいえ、長い付き合いだからコイツが本気で心配していたのは知っている。ほぼ毎日見舞いに来てたしな。
「わかったわかった。とりあえず、ファミレス行っていいか?病院食の薄味はずいぶん前に飽きてるからな...。」
「自由になったとたん濃い味食べたくなるなんて、一ノ瀬君はシャバに出た囚人みたいですね。」
「はっ倒すぞ。」
お互いそんな軽口に懐かしさを覚えながらファミレスに入る。正月早々ファミレスにたむろするやつらも少ないようで広めのテーブル席に腰を下ろした。注文を終え、ドリンクバーを取ってきた紗良に向き直る。
「それで、変わったこととかないか?ダンジョンでトラブルが起きたとか。」
「そうですね、困ったことは起きてませんけど...。あ、そうだ、パーティメンバーができたんですよ!」
「へぇ、よかったじゃないか。まだ登録したばっかだから、ある程度知識のあるやつと行動した方が安心できるしな。それで、どんな奴だ?」
「はい、リリカさんっていう人で、一ノ瀬君は知ってますよね。あの時突っかかってきた…」
「がはっ、ごほっ…!」
「え、大丈夫ですか…?むせたならゆっくり水を…」
「も、問題ない…。」
あいつ、紗良とパーティ組んだのか!?渡辺さんから聞いた感じパーティ今は組んでない風だっただろうが…!なんで急に...。…まぁでも、紗良は一日一緒に探索したが、かなり優秀なのは間違いないだろう。なんだかんだリリカもそこを買ったって思えば違和感はない、のか…?
「最初は一ノ瀬君に突っかかってくるただの雌犬だと思ったんですけどね、話してみたら結構面白い人で、それにすごく強いんですよ?ほとんど任せっきりなのに、私のレベル、もう10を超え…」
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ…!」
「今度は過呼吸!?」
いや、考えてみれば当たり前だ、リリカの実力ならば俺よりもっとレベルの高い
「そういえば一ノ瀬君のレベルはいくt」
「ここお前の奢りな。」
「急な理不尽!?さっきからおかしいですって!」
その後、一番高い物を食いまくって紗良の懐にダイレクトアタックを与えた所で何とか気を紛らわせた俺は、店を出て歩き出す。会計を終えたであろう紗羅は、置いてかれそうになっているのに気づき涙目で追いかけてきて横に並んだ。
「奢った側に例に一つもないんですか…!うぅ、お年玉が半分消し飛んだ…。」
「退院祝いってことで。」
「本人が言い出すことじゃないんですって…。そういえば、この道って確かギルドですよね?まさか、こっそりダンジョンに潜ろうとか思ってません?」ジー
「思ってない思ってない。」チッ
「今舌打ちしましたよね!?」
「まぁ、今日は違うから安心しろ。」
ギルドに入ると人はほとんどいなかった。当然だ、新年にまで潜ろうとする奴なんて廃人しかいないし、大体そう言う奴らは、ここらでほっつき歩いたりせず今の時間帯はダンジョンに潜っているのだから。
受付やロッカールームを通り過ぎるさらに奥の売店へ迷わず足を進める。先の戦いでポーションのストックも底をついてきたのである分をいつものように根こそぎまとめ買いすした。金ならリザード狩りまくってる報酬で収支プラスだ。
「買い物しに来たんですか?次一ノ瀬君が潜っていいのはまだ一ヶ月後なのに…。」
「だからだよ。せめて解禁したらすぐに潜れるようにしないと。あ、それと…」
武器コーナーに行き、まとめて置かれている、前まで使ってたのと同じ一番安い剣を無造作に手に取りカゴに入れた。
「まだ一ノ瀬君それ使ってるんですか?と言うか防具も、前連れてってくれた時は初期のものだったじゃないですか。装備は冒険者の命なんですから、ちゃんとこだわらないとダメですよ!」
「いいんだよ、今は。どうせ学園に行ったら、質の高いのがもっと買えるようになるだろうし、オーダーメイドも簡単に受けてもらえるって聞くからな。時期尚早だ。」
「一ノ瀬君がそう言うなら強く言いませんけど…。まぁ、私は武器の心配がないんですけどね。」
「自慢か?」
「自慢です。」
そんなこんなで軽くどつき合いながらも、俺は先のことに思いを馳せながらしばらくの平穏な日常を噛み締めるのだった。
あと幕間をもう一個入れる予定です。ここら辺はダイジェストで行くので内容が薄くなるかも…。
テスト期間の息抜きなので本格的に書こうとするのは一週間くらい空きます。
モチベに繋がるので、評価と感想よろしくお願いします!