遅熟転生者の現代ダンジョン攻略~そろそろフィジカル貧弱なのやめない?~ 作:ayuアユ
「あいつなんであんな怒ってたんだ…?」
あの後、リリカにスマホを強奪…もとい強引に連絡先を交換させられ、翌日。メールで送られた待ち合わせ場所はダンジョンだった。
「第一決闘ってなんだよ決闘って。私闘…というか冒険者同士が戦うのは公的な大会以外禁止なはずなんだが…。」
色々考え事をしながら電車を乗り継ぐこと約三十分、目的のダンジョンに着いた。
事前にタブレットで調べたところ、ここは主にゴーレムが出てくるダンジョンらしい。
「ゴーレムか…回る効率があんまよくなさそうだった記憶があるな。」
ゴーレム、それは魔力結晶がダンジョンの床や壁の、土や岩を纏って動く自立人形であり、ダンジョンの定番モンスターの一種だ。その特徴はなんといってもその硬さ。攻略において、斬撃はほとんど効かないので魔法か打撃武器で内部ごと砕くことが推奨されている。一応レベルが高ければ腕力次第で真っ二つにもできるらしいが...。
「それこそ俺じゃ絶対無理だな。ただでさえレベル上がらなくて力も足りないのに、なんでクソ硬いやつ相手にしなきゃならんのだって話だよ。」
結局全部そこに行きつくのだ。ちなみにゴーレム自体は火力は高いが足がとても遅いのでファイアリザードが出る例のダンジョンと難易度は同等とみなされている。当初レベル上げのためにダンジョンを厳選していた時に見かけて少し調べたことがあったのだ。まぁ、相性の問題でリザードの方を選んだのだが。
そんなこんなで待っていると見覚えのある金髪ツインテールが視界の端を掠める。その勝気な少女はわざわざ俺の目の前で仁王立ちし、印象的な八重歯を晒して不敵な笑みを浮かべた。
「私より先に来るなんて、殊勝な心掛けじゃない?あんたもそれくらいはできるのね。最も、ノコノコ遅れて現れてたら容赦しなかったけど。」
「そりゃどーも。で、何で俺を呼び出したんだ?決闘って言ってたけど...。」
「文字道理に決まってるじゃない、私がアンタの根性叩きなおしてやるって言ってんの。」
口元に薄い笑みを浮かべて大胆不敵に言い放つ彼女の胆力はたいしたものだろう。人の心を波立たせるのが上手な奴である。
「…第一、別に俺たちそこまで仲いいわけでもなくないか?」
「は?アンタ何言って…?」
「いやだって、確かに初日からの同期ではあるけど絡む場面も特になかっただろ。精々ギルドで話すくらいで…」
「...っ!…誰のせいだと...」
彼女は瞳孔を開いたまま俺の胸元に手を伸ばすが、理性が戻ったのか直前でその手を戻す。
「んん゙!…アタシとしたことが、ちょっと先走っちゃったわね…。そのために、今日アンタを呼んだんだから。…いいわ、そこまで叩き潰されたいなら、応えてあげるだけよ。着いてきなさい。」
「ちょ、まだ話は...!」
ずんずんと振り返ることなく進むリリカに何を言っても無駄だと悟り付いていく。
ロッカーに行きお互い装備に着替えると、迷うことなくリリカは入口の改札をくぐりダンジョンへと入っていった。遅れて俺も入り...。
「ん...?」
違和感を覚えリリカの背中を凝視する。いまなんか、急にリリカの気配が大きくなったような...。レベルが有効になったから?だとしてもこれは、下手すればあの
「何、急に立ち止まって。目的地までまだなんだけど。」
「あ、す、すまん...。」
見えてた?いや、あいつは一度も振り返る様子はなかったはず…気配?いや、俺でもそんなことできないし…?
違和感を抱きながらも後ろについて歩いていると大きな広間に出る。どうやらゴーレムはまだ出現しないらしく、奥に道が複数本見える。
「この広間はここのダンジョンの
リリカはくるりと振り返り、その美しい金髪のツインテールがふわりと揺れる。普段突っかかってくるような生意気な雰囲気はもうない。
「構えなさい。」
「おいおい、マジでやるのか…?冒険者の私闘はそもそも禁止で…っ!?」
シュ…バチバチバチバチバチ!!!!
光がすぐ横を通り過ぎた後、耳元で雷が落ちたような轟音が響く。目の前に突きつけられた杖の先からは薄く煙が出ており、紫の結晶はまだ帯電しているのかバチバチと火花が散っている。思わず息が止まり、後ろを向くと...焼け焦げたダンジョンの壁があった。
「二度はないわよ。...構えて。」
「っ...!!」
反射的に剣を構える。目の前の存在はただ光の無い目でこちらを見つめている。その不気味さと先ほどの出来事が否応なく目の前の敵意を証明していた。
「その剣、まだ初期の奴じゃない。ダメでしょ?武器はこだわらないと。アンタは…弱いんだから。」
「言ってろ…!」
二発目の雷を避けるように近くの壁を蹴り...【壁面歩行】、【跳躍】...俺の体は広間の壁を飛び回り躍動する。リリカは見えているのか見えていないのか、目で追ってくることはなくじっとその場に立っていた。
「へぇ、なかなか速いじゃない。アタシがレベル15くらいなら、何もできずに完封されていたかもね。」
「一瞬で終わらせる…!」
俺は彼女の背後の壁に着地し、勢いよく突っ込みながら首元に手刀を振りかざして…その手を掴まれた。
「何…!?」
手を動かそうとしてもビクともしない。その華奢な見た目から想像もつかない、俺の何倍もの握力が手首を締め上げる。予想だにしない反応に俺の体は空中で姿勢を崩し、俺は地に落ちた。
「何?この力。あれだけ速いから期待していたけれど…これじゃ、レベル10にも達してないでしょ。まぁ、
リリカは俺の背中を踏みつける。その脚力に胸が圧迫され、俺は呻き声を出しながら無様に這って逃れようとすることしかできない。
「悔しいでしょう?でも、それは間違いよ。だって、アタシが勝つのは必然だったんだから。…いいわ、この機会に教えてあげる。アタシのレベルは23、
「雷魔導士…?いや、それより23レベル…!?お前、まだ初めて半年なんじゃ…」
「才能があったのよ、あんたと違ってね。だから、
クスクスと笑うリリカの足が急に軽くなり、俺はなんとか這って距離を離し立ち上がる。
「ぐっ…はぁ…はぁ…。つまりなんだ、弱い者いじめでもしようっていうのか…?」
「人聞き悪いこと言わないでよ。アタシはただ、筋通さない調子乗ってる男をわからせてるだけよ。」
「いや、ほんとに誰のことだよ…?」
とはいえ、全く心当たりがないのを置いといて今の状況はまずい、レベルの差は歴然だ。だが…ここまで言われて、冷静でいられるほど俺は強くない。再び剣を構えた。今度は手刀ではな、斬るつもりでいく!
「やっとやる気出したわね。…いいわ、来なさい!」
お互い距離を詰め切り結ぶ。互いの武器が接触するとともに火花が散り、位置を入れ替わりながら激しく踊る。
数回剣を振るだけでわかる、こいつの杖の近接は俺ほど洗練されてもいなくば経験も少ない。だが…勝てない。どれだけ不意を着こうとも元の速度が違う、完全に見てから対応されてしまっているのだろう。それに、押し合いではびくともしない、まるで壁を殴っているような無力感が湧き上がってくる。
「ほらほら、もっと踊りなさいよ!今のアンタにはそれしかないんだから!」
リリカのペースが上がりギアが高まる。俺は精一杯になりながら喰らいつくが向こうは汗ひとつ見えない。
「まだ加減してやがるな…!」
「当たり前でしょう!アンタに付き合ってやってるんだから!」
その言葉通り、一瞬本気を出したのか目に見えないほどの速さの杖での薙ぎ払いをなんとか剣で受け、勢いを殺しきれず俺は壁に背中から激突した。
「が…はっ…」
壁にずるずるとへたり込む。実力が違うなんてものじゃない。同じ格にすらいないと我が物顔で証明され続けるのを、黙って見ていることしかできない。
「レベルが全てなのよ。いくらスキルで小賢しくやろうったって、結局はそこに行き着く。…わかってるでしょう?いつもあんなにいっぱい狩ってきて…確かに熱意は認めるわ。でもね、それだけじゃないはずよ。…証明したいんでしょう、自分ならできるって。アンタがなんでか極端にレベルが低いのは認めるわよ、そのレベル帯じゃ分部相応じゃない力を持ってるってことも。…でも、結局はそれで頭打ち。付け焼き刃で誤魔化してるだ…」
「うる…さい…!」
自分でも驚くほど声が出た。本当なら、軽くあしらって、またダンジョンに戻って回ればいいと思っていたのに。そして…ようやく気づく。こいつは俺のことをよく見て、考えている。だから、不安も全て見透かされている。現に、俺は怒っているのだろう。いまだって、冷静に思考していると思い込んでいるだけで、気を抜くと彼女の方に足を踏み込んでしまいそうになる。
「お前は、何がしたい?あぁ、そうさ、今の俺はお前に勝てない、でもそれがなんだ!俺をここまで追い詰めて、弱いものいじめに勤しむ理由ってのは、あるんだろうな…!」
「…気に入らないのよ。…あの約束を反故にしたのはアンタでしょう。」
「は?なんて…」
「ともかく。これに懲りたら大人しく私の下に着くといいわ。」
リリカは敵意を解き、表情を柔らかくして、何か期待しているように優しげの笑みすら浮かべて近づいてくる。俺の元に差し出された手は、砂煙の中で輝いて見えて…
…だめだ、ここで折れれば…俺は、もう二度と立ち上がれない。強さに屈して、他と
「…。」
俺は真後ろの壁を蹴り、広場の奥の道へと跳ぶ。
「はぁ!?待って、それ以上行くと…!」
後ろから焦ったような声が響くが止まらない。あいつは確かにレベルじゃ格上だ。だが、移動の速さではきっと俺の方が上回る。今の俺にはこの速さしかないだから俺を折れさせるにはその速さで決定的に勝つのが効果的だっただろう。でも、リリカはそれをしなかった。彼女はただ反応できるというだけだ、第一、魔法職なら身体能力の伸び幅は抑えめなはず。
その考察があっていたのか、数分壁から壁へ飛び続けると
追ってくる気配はなくなった。ポーションを飲みながら先ほどのことを考える。
『レベルが全てなのよ』『付け焼き刃で誤魔化しているだけ』…か。
「わかってるさ、そんなこと。…でも、俺にはこれしか…」
感傷に浸りかけたその時、奥から足音が響く。人間とは思えない、ガシン、ガシンと大地を踏み締める無機質めいた重い足音。やがて明かりによって影が取り払われ、姿が顕になる。角張った胴体に岩をつなげたような手足。腕であろう胴体の左右についている2本の石の棒の先端には拳を模した一際大きな石が嵌められている。
「ゴーレムか…。…今の俺には、ちょうどいいサンドバックだ。」
剣を構える。本来斬撃ではダメージはまともに入らず、元の身体能力が低い俺との相性は最悪だ。だが…この気分の前では、そんなこと泡沫に消える。壁を蹴り俺はゴーレムに向かっていったのだった。
更新おっっっそ。
とりあえずちょこちょこ書いてます。多分学園編行ったらモチベが戻る…はず。
ちなみに今回の一連のことはリリカも言う通り主人公君が筋通さなかったのが100悪いです。一時的とはいえ約束しといて他の女子にあっさりOKするのは流石に世間は許しませんよ。
前中後編が終わったら新章行くと言ったな。
あれは嘘だ。
もちっとだけ続きます。