遅熟転生者の現代ダンジョン攻略~そろそろフィジカル貧弱なのやめない?~ 作:ayuアユ
相変わらず更新頻度が上がらない…。
said:九条リリカ
アタシは、天才とかいう人種だった。どれだけ遊び呆けていても、テストでは毎回一位、運動神経だって悪くない。顔も、体も、何もしなくても美しいまま。両親は由緒正しき家系で、資産も権力も名声もあった。そして、子供の頃からこの世の道理をある程度は理解していた。そんなアタシを、ママとパパはとても褒めて、周りの人間も両親と一緒になって持ち上げた。最初はちょっと鼻が高かったけど、10になる頃にはちっとも嬉しい状況じゃないことを理解していた。確かにアタシは天才だが、向上心がなかったのだ。周りより賢くて、可愛くて、優れている、ただそれだけ。高尚なことを成したい精神もなければ、全てを捨て去る勇気もない。だから、ただぬるま湯に浸かり、流されることをよしとする人生だった。
とはいえ、そんな状況に飽きるのも早かったので、適当な遊びを探した。生活の中であえて挑発的に、バカっぽく振る舞ってみるとか、スポーツでも、恋愛を頑張ってみようとか。最終的に辿り着いたのが冒険者だった。当然、アタシの将来を安泰に…もとい決めている両親や周りの人間は止めたが、少し考えて理由付けしてやれば信じさせることは苦じゃない。
冒険者歴初日、ダンジョンは確かに刺激的で心が躍った。適当な
そこで、アイツと会った。
同じくらいの年代の男子、手に持った革鎧はアタシの物と勝るとも劣らないくらいの返り血で汚れていて、同類なのかと少し期待した。
だが聞いてみればレベルはまだ一つも上がってないと言う。それは明らかにおかしい、いくら個人差があったとしても、アタシが3つも上がってる中それだけなんて。それからギルドに行く時はよくアイツの姿を探すようになった。レベルは少しづつ上がっているようだったが、素材の量や質を見てみれば明らかに遅い。
…アタシはそれが、なぜか無性にムカついた。アイツの実力が高いのは疑うまでもないだろう。でも、アイツは弱い。身体能力じゃアタシの足元にも及ばなくて、あるとしたらいいスキルでも取ったというのがあるのかもしれないが、結局はそこまで。アイツは、持たざる者というやつだった。そこに憐れみは覚えない、だけど、アイツの目が気に食わない。
周りはそれに気付きもしていない、アイツに期待するばっかりで、本当のとこを見れていない。…なら、今のアイツには誰がいる?弱い者を支えるには誰がいる…?…そんなの簡単、強い奴がいればいい。アイツを守れるくらい、アイツに思い知らせてやるくらいの。
…そう考えた時、アタシは笑っていた。傲慢かもしれない、でも、アタシはそれになりたいと思った。アイツの唯一頼れる存在、守ってやれる存在に!
本当に?
そう考えた時にいつもあの約束が脳裏にちらつく。アタシを迎えに行くといったアイツの顔がよぎる。あるはずがない、アイツがアタシより優ってるところなんて思いつかないし、それはきっと間違ってない。でも…心のどこかでは、その言葉に縋りたくて。
そうして、アイツが迎えに行ったのは、アタシではなかった。
失敗した失敗した失敗した。
アタシ…九条リリカはダンジョンの道を駆け抜ける。変わり映えのない洞窟が視界の端で流れる中、アタシは焦っていた。
あんなこと言いたかったわけじゃない、いや、思っていたかも知れないことだが、表に出したかったわけではない。アイツが、紗良とか言う女とパーティを組んだと知った時。アタシの根幹が崩れた。今まであったはずの柱が、抜け落ちたような感覚だった。
裏切られたと思った。アタシのことを置いて、結局皆と同じなのかと思った。そこからはもう止まらない、アイツを罵倒し、心をへし折ってやることしか考えられない。そうして気づいた時には…アタシの前には誰もいなかった。
ダンジョンの道を駆ける。今でてきたゴーレムを黒焦げにして、ただ、走る。
「アタシは…ただ…ただ…!
…一緒にいて欲しかっただけなのに…。」
♦︎
「これでやっと、三体目…」
よろけた拍子に剣を杖代わりに体重を預け、肩で息をする。
硬すぎだろ…。ほとんど剣の攻撃弾かれるし、無理に振ってたらちょっと歪んでるし、これ以上使わない方が良さそうだ。とはいえなんで倒せてるかというと…
「これで…割れろ!」
俺は壁面歩行と跳躍の併用で勢いをつけた体で思いっきりゴーレムに体当たりして壁にぶつける。
ドッ…ガシャーン!!!
あれほど固かったゴーレムは壁にぶつかった衝撃でヒビが入り、中の結晶が丸見えになる。それを壊してやるとゴーレムの体は砂になりダンジョンに還った。
「材質もダンジョンの壁だからそりゃ同じ硬さだよな…。とはいえ、タックルは流石に体が痛い…。」
これもリリカが言ってた付け焼き刃というやつなのだろうか。自分のステータスに合わない攻撃を行っているとボロが出るとはまさにこのことだろう。
「でも、これなら経験値もちゃんと入るし、悪くないかも…。そういや、今のステータスはどうなってるんだ…?」
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一ノ瀬碧
レベル:7
ジョブ:
スキル:【転生者】【剣術Lv7→8】【跳躍Lv5→7】【壁面歩行】【突撃斬りLv4】
SP:2
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レベルは依然としてそのままだが、どうやら【剣術】が1つ、【跳躍】が2つもスキルが上がっていた。最近レベルアップしてないのですっかりステータスウィンドウを開けていなかったが、やはり成長を実感できるのはありがたい。
「でも、ゴーレムは剣使わないからその分経験にならないな…。やっぱりここ効率悪いし、頭も冷えたからそろそろ帰るか。」
しっかし、どうやってリリカに言い訳しようか。あいつから見れば俺は自棄になって惨めに敗走した男なのだろう。いや、その認識に何も嘘偽りないな...。結局何であいつ俺に決闘仕掛けてきた…?
「…今考えることじゃないか。多分、この道を戻れば…!?」
特大の威圧感。さっきまで一本道だったはずの洞穴に、横穴が増えている。ちょうど人1人分くらいは入れそうな、いかにも怪しい穴。その先にいるナニカに対し、本能が警告を繰り返す。
「…行くしかないよな。」
震えながら去ろうとする足に力を入れて、その横穴に入る。俺の冒険欲はこの状況を見逃してくれないらしい。
そうしてしばらく進むと出口があり、広い空間につながっているようだ。その中央には黒い金属のようなものでできた小山があった。よく見れば手や足がついており角張った人形の何かが丸まっているのだとわかる。
「あれもゴーレムなのか…?」
恐る恐る一歩踏み出すとその小山…もといゴーレムは立ち上がる。黒く光る普通のゴーレムの何倍もの巨体はまさに山そのもの。天井に届きうるその身長は目視で7メートルを優に超えるだろう。
そして俺は理解する。
「…絶対今勝てる相手じゃないじゃん!」
急いでさっきまで通ってきた穴に飛び込むと、後ろから大きな衝撃が起こるとともに、さっきまで立っていた場所にその大きな黒鉄の拳が突き刺さっているのを確認する。
危なかった…どうやら穴の中までは来れないらしく、しばらく穴の淵に拳を打ち付けていたが、諦めたのかやがて穴に響く振動も止まった。
流石に色々足りないからな。あの巨体は壁にぶつけて割る、なんてこともできないだろうし…。昨日のグレートリザードなんて、紗良がいなかったら間違いなくやばかっただろうからな。命があるからなんでもできるんだ、うん、そうしよ。
自分を納得させた俺は、穴を抜け元の通路に戻る。そのまま帰り道に行こうとして…
「あそこにいるのは…普通のゴーレムか?」
通路の奥からのそのそ出てきたゴーレムを視界にとらえる。流石に今日は疲れたし、これ以上無理をする理由もないだろう。そのまま脇を通り抜けようとして…左の壁から生えてきた黒い大きな岩石の拳が俺の鼻先を掠め、目の前のゴーレムを叩き潰す。
「…は?」
目の前の状況に圧倒されながら今まさに岩石の腕が生えてきた左の壁を見る。その腕は壁の穴を広げ、向こう側に見えたのは…
「本気かよ…」
さっきの何倍もの大きさになったあの黒いゴーレムだった。
「やばいやばいやばいやばい…!」
今まさに俺はダンジョンの道を全力疾走していた。理由は単縦、後ろから追ってくる
「なんでダンジョンの壁当たり前のように壊してるんだよ!まず壊れないはずだろ!?」
…その瞬間、突如右の壁からあの黒い岩石の腕が生えてきて勢いよく俺のすぐ横を掠めて壁に突き刺さる。
「まさか、壁関係なしに
迷うことなくまた走り出す。俺の今のレベルじゃあいつより少し早い程度、だがこんなことされちゃ差は開くどころか縮まるばかりだ。
「本当ツイてないな…!くそ、何か方法は…」
走りながら考える。出口の方向にはあのゴーレムがいる。かといってこのまま走ればジリ貧だろう。それから数十分走ると、俺の予想とは反対にあいつはまだ追いつけてなかった。それどころか止まってもある程度の猶予さえできる。
「どういうことだ?速度が遅くなってる…。そういえば、アイツ最初に見た時より何倍も大きくなってて…。」
考えていると目の前に通常のゴーレムが出てくる。俺の状況をつゆ知らず、呑気に向かってくる。
「今はお前の相手をしてる場合じゃ…ッ!?この音、もう来たのか!」
耳を済ませる。物音は左後ろから、だんだん近づいてくる。目の前の通路はかなり幅が狭く、通り抜けることは難しそうだ。
しょうがない、ちょっとスキル使って…!いや、待てよ?最初アイツが壁を突き破ってきた時、アイツの腕は俺から狙いをそれゴーレムを潰した。つまり、あいつが俺を感知する方法は謎だが精度はそれほど高くないこと、そして他のゴーレムに攻撃することに躊躇いがない。これをうまく使えば…
「利用させてもらうぞ…!」
ゴーレムの右の隙間を通り抜ける。当然ゴーレムはすぐさま振り返ると、遅いながら十分俺に届くであろう拳を振りかぶり…
左の壁から生えてきた腕に叩き潰された。その間に俺は少し前にそのまま進んでおり被害はない。
「よし、上手く行った!…とはいえ、気休めにしかならないだろうが…。」
そのまま進もうとして…体を駆け上る全能感…慣れ親しんだ感覚で反射的にステータスを開く。その時ようやく薙ぎ払うように迫ってきている岩石の腕に気づいた。
……………………………………………………………………………あー。
目が覚める。どこが折れてるのかすらわからないほど体中が痛い。どうやら何度も壁や床をバウンドしたようで前を見るとところどころ道に血の跡がついている。
ここはどこだ?確か俺は…
「気を取られて、アイツの高潔をもろに食らったって吹っ飛ばされたってことか。…って、そうだ、あのゴーレムは!?」
周りを見渡すがいない…あれほどまでに執拗に追ってきていたゴーレムは姿の形もなかった。念のため壁に耳を当てても何も聞こえない。
「巻いた…のか?今度こそ本当に…?」
剣を杖代わりにして立ち上がるとポーションを体にかける。飲んだ時より魔力回復は控えめだが、治療専門ならこういうふうに使った方が効能は高い。
とりあえず、アイツに合わないように遠回りしながら出口を…うん?
バリバリ…ズシン…ズシン…
遠くから物音が聞こえた。一つは聞き覚えのある重厚な足音。十中八九あのゴーレムだろう。もう一つの音は…雷?
いや、まさかリリカか…!?
その考えに思い至った時自然と足はそちらの方向に走り出していた。なんであいつがここまできているのかはわからないが、自意識過剰じゃなければ俺を追ってきたのだろう。確かにリリカは強いが、あのゴーレムは変異種だ、格が違う。もし万が一何かあったら。
「間に合え…!」
スキルを出し惜しみせず現場に行く。そこにはあのゴーレムと相対するリリカの姿があった。
「
彼女がそう唱えると紫の閃光が杖から発生し、黒い巨体に襲いかかる。が、その体に着弾する寸前に瞬時に掻き消えた。
「チッ、やっぱりキリがないわね。本当なんなのよコイツ…!」
リリカの戦い方は隙がない。決して技を出す時に過信せず、引き打ちしながらあの巨体から逃げられる横穴を確保している。杖を持たないもう片方の手はポーチに添えられており、いつでもポーションが取り出せるだろう。
だが、状況は以前劣勢だ。謎の力で魔法をかき消される分、決定打がなくこのままではジリ貧だろう。
「しょうがないわね、ここは一旦引く…!」
そういって彼女は雷の閃光で目眩しさせた後、彼女は横穴に潜ってポーションを飲み魔力を回復する。だがそれは悪手だ。あのゴーレムは光をものともせず拳をリリカがいるであろう直線上の壁に狙いをつけている。またアレをやるつもりだろう。
「間に合え…!」
俺は壁を蹴ってスキルを使いながらその横穴に滑り込むと、リリカを横抱きにしてその場を瞬時に脱出する。
「な、な…!?あ、アンタ何して…!」
「事情は後だ。…見て見ろ。」
さっきまでリリカが隠れていた横穴は、ゴーレムの拳で根こそぎえぐり取られもはやがれきの山が上るばかりだ。さっきまで真っ赤になって腕の中で暴れていたリリカも、この光景を見て流石に黙ったようだ。
「カラクリは分からないがあいつはダンジョンの壁をいくらでも壊せる、追われたら隙はないぞ。」
「…その口ぶり、まさか、一人であいつの相手してたの?」
「え、そうだが…正直ヘイト受け持ってくれてよかったよ、あのままじゃ確実に死んでたな。」
「...またそんな無理して。やっぱり、アンタは私が…。」
ぶつぶつ言ってるリリカを地に降ろし、ゴーレムの方に向かおうとして…服を引っ張られてつんのめる。その間に彼女が俺の前に立っていた。
「いや、ここは俺がかっこよく決める場面じゃ…?」
「そんなもん最初からないわよ。...言っとくけど、あいつはアンタがどうにかできるようなぬるいやつらとはわけが違うわ、正直足手まといよ。」
「お前の魔法だって聞いてなかったろ。魔法職がそれって致命的なんじゃないのか?」
「...まだ本気出してないからよ。そこで指くわえて見てなさい。」
俺をレベルの暴力で横穴に突き飛ばすと彼女はゴーレムの前に立つ。杖に手を添え、魔力を練り上げ始めた。魔力を扱えない俺でも分かるほどの気迫、空間がねじれて杖の先に集約していると勘違いするほど莫大な力の奔流が感じられる。ゴーレムが拳を振りかぶった時、すでに準備は完了していた。
「ぶち抜きなさい、
すさまじいまでの轟音と閃光、杖の先から集約された雷の槍は掻き消えることなくゴーレムの巨体を吹き飛ばして壁に激突させる。着弾地点からは煙が上がって見るからにへこんでおり、最初に見えた純正の黒い金属が露出していた。
「ふふ、どんなもんよ。本気を出したらこんなやつ楽勝...」
「まて、まだ終わってない...!!」
一瞬、俺とリリカは反応できない。さっきまでのろのろ動いていたゴーレムは、起き上がると同時に瞬時に駆け出してリリカを殴り飛ばしたのだ。慌てず俺はもう一度黒いゴーレムを観察する。さっきの一撃がゴーレムの体に絶大なダメージを与えたことは間違いないだろう。だが目に見える範囲で動きに支障はない、というか身軽になっている。考えられるとするならば...肉体が縮小していること。
「…あぁ、なるほど、そういうことね。あいつは壁を壊してるんじゃない、
ゴーレムは通常ダンジョンの壁や地面から体を形成する。変異種というからには、そこをより強化した能力を持っていても不思議ではないだろう。ならば、さっきまで壁を破ることができていたのはダンジョンの壁を吸収という目的で崩し、道を作っていたのだ。
ここまで聞いたら大概インチキだが、弱点もあるだろう。一つは体が大きくなってしまうことだ。壁を壊すことで否応なく吸収される資源は巨体はさらに大きくし、元のスリムな造形を失わせ、攻撃範囲や質量に優れる代わりに運動神経を犠牲にする。
そしてもう一つの弱点、それは単純に脆くなること。吸収しているとはいえ短時間で元のあの金属の体のようにするのは厳しいのだろう。多分だが壁を砕いて体に混ぜ込み押し固めているだけだ、元のダンジョンの壁の硬さには遠く及ばず、さっきのリリカの大きな一撃が効いたのもだからだろうな。最初の黒い金属の体の傷一つつかない防御力も、吸収で混ぜ込んだダンジョンの土や岩はその密度を低くし硬さを失わせる。
「とはいえ...」
そこを解き明かしても依然として状況はよくならない。下手に体を削ったせいであのゴーレムが元の素早く硬い体系に戻りつつある。吹き飛ばされたリリカを横目で確認すると、俺より何倍もレベルが高おかげか致命傷には至ってない様で、しばらくすれば回復するだろう。思案しているとリリカはポーションを体にかけながら声を張り上げる。
「逃げなさい!アンタが相手できる存在じゃない、死ぬわよ!?」
「かと言って、俺もお前も一緒に逃げ切れる可能性の方が少ないだろ。せめてスキルでも何でも、あと一手欲しいところだが…、…あれ、スキル…?」
さっき腕に吹き飛ばされたことを思い出す。あの時気を取られたのは確か…
「あぁそうか、レベルアップしてたんだ!」
急いでステータスウィンドウを開くといつものように小さいウィンドウが二つ出てくる。スキル選択の時間だ。
「えっと…左が…【体当たり】か、名前そのまんまだな…。ゴーレムを倒した時の経験が生きたとか?そして右が…【加速】?」
前者は効果を想像しやすいが【加速】はあまり想像ができない。自分の速度を加速させるってことか…?。とはいえ、いくらスキル一個もらったからってあいつに勝てるとは限らない。持っているスキルとのシナジーを考えないと…。
「じゃあやっぱ【加速】だな。【体当たり】なんて今の体がぶっ壊れるだけだ。」
右のウィンドウを押すとステータスが更新される。
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一ノ瀬碧
レベル:7→8
ジョブ:
スキル:【転生者】【剣術Lv8】【跳躍Lv7】【壁面歩行】【突撃斬りLv4】【加速】
SP:2→4→1
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これはスキルレベルがないのか。感覚的にアクティブスキルだと思うが…。そう考えていたところで目の前に迫る黒いゴーレムの拳をバックステップで回避する。
「っと、危ない危ない、よそ見は厳禁だな。だが、ちょうどいい、物は試しだ。早速見せて見ろ、【加速】!」
そうしてスキルを発動させて…何も起きない。てっきり速度系のスキルだと思ったのだが…。試しに避けながら走るが確かに速くなっている。なっているが…正直微々たるもの。加速というなら時間をかければ化けるだろうが…。
「スキル選びミスったか...?まぁ、逃げるには十分か、おい、こっちだ!」
ゴーレムをつかず離れずで誘導しリリカから離れさせる。単純な足の速さじゃスキルも含め俺の方が早いから、こういう役割は適任だろう。俺は距離をとって一度立ち止まり、声を張り上げて煽る。
「おいおい、そんなんじゃ一生追いつけないぞ!」
そうしてある程度距離を詰めてきたところでまた反対側に一歩踏み出し…とんでもない勢いを出した俺の体はぶっ飛んでいきつんのめって転んだ。
「ぐはっ…!な、なんだ、急に、すごい速度が出た…?いや、違う、加速する暇もなく速さが出たのか…!」
なるほど、【加速】はこういうスキルなのか、よし、これなら…!
「【壁面歩行】、【跳躍】!」
慣れた動作で壁に足をつけ、黒いゴーレムに向かって跳ぶ。数時間ぶりにポーチから剣を取り出し、すれ違いざまに斬る…のではなく、剣の腹で叩く!
ガンッ、ガンッ、ガンッガンッガンッガンッガッガッガッガッガッガッガガガガガガガ!!!
徐々に早くなっていく体は黒いゴーレムを覆い尽くすように打撃の雨を降らせ、ゴーレムの身動きを封じていく。
「はは、信じられるか?これで【跳躍】は最初の一回しか使ってないんだぜ!」
壁を蹴るたびに俺の速度はその分僅かではあるが加算されていく。そう、【加速】の本質は俺の速度に
「とは言え結構きついな…」
【跳躍】を毎回使わない分魔力の節約になる…と思っていたのだが、このスキル、下限の速度が速くなればなるほど維持にかかる魔力が倍々的に増えていく。さらに壁に着地する時に速度がそのまま足の負担になるのだ。【跳躍】使用時の脚部の身体強化には耐久も含まれていたらしく、普段と違う負担が俺のペースを崩していく。
「速く
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
「もう、魔力が…」
カンッ!
先ほどまでの壁を殴るような鈍い音ではなく、甲高く響く音。それを聞いた瞬間、俺は急いで少し離れた場所に着地する。
よし、これで目標は達成できたな。とはいえ、だいぶ剣が歪んでるし、刃もボロボロだ…。まぁ、帰ったら買い替えるか修理するかすればいいだろう。
剣をポーチにしまうと、ポーションを飲んで魔力を回復し、一応足にもかけて疲れを癒やす。そうして万全の
「よく見ておけよ、デカブツ。ここからが、俺の
低い姿勢からクラウチングスタートの要領で駆け出した俺は、丸腰のまま黒いゴーレムへと一直線に駆け抜ける!
迫り来る黒い岩石の拳をステップで躱し、床に手をつくと体を捻るように重心を変えて、そのまま壁へと着地する。
「【壁面歩行】【加速】、そして…【跳躍】!」
そのままゴーレムの体に向かって…ではなくすぐ脇を通り抜け向こうの壁に着地する。
「まだだっ、【跳躍】、
俺は先ほどとは比べ物にならない速度で壁を跳び、またも脇を抜けて反対側の壁に着地した。そうしてその動作を何度も繰り返す。
やっぱり【跳躍】は【加速】と相性がいいな。突発的な加速手段で何度でも使えて、さらに壁にぶつかる衝撃も、強化された足から着地すればある程度は耐えられる。
「三重、四重ッ!!はは、もう目が追い付かないな...」
速く、速く、速く、速く速く速く速く速く、もっと速く!!!
もはやゴーレムが手を出せる領域に俺の姿はない。とはいえ、体の負担は無視できるものじゃない。壁に着地する度、強化でも耐え切れないようで、足が悲鳴を上げ、何かがちぎれる嫌な音がして血が噴き出す。【跳躍】で強制的に跳ばしてなければ、もうまともに歩けないだろう。魔力もとんでもない勢いで削られていく、もって数秒だろうか。だが、準備をできた。
俺は最後に壁を踏みしめてじっと溜めるように留まる。狙いは一点、あのゴーレムを剣で叩いて調べた、
「お別れだ、なかなか楽しかったぜ。」
弾丸のような速度で飛び出し、空中で体をひねり、ドロップキックの要領で両足から一点へと突っ込む。とはいえこのままぶつかっても俺の体がつぶれるだけだろう。だから...
「ここだろ、【跳躍】!!!」
着弾時に俺の足はしっかりと岩の体を踏みしめる、だが、それだけじゃない。このスキルは、
「はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァ!!!!!!」
爆音とともに衝撃は亀裂となって黒鉄の体を走り...パリン...と、奥で何かが割れる軽い音とともに、ゴーレムの体は崩れ、後には物言わぬ黒い砂の山が残った。
受け身も出来ず地面へと落ちた俺は、そんな俺を祝福するような全能感が体を包む感覚に身を任せながら、意識を闇に堕としていくのだった。
♦
「ほんと、無茶しすぎなのよ。...でもまぁ、ちょっとは認めてあげてもいいわ、しばらくはね。絶対迎えに行く...いや、迎えに来させるから、覚悟しときなさいよ?」
静まり返った広間に一つ、少女の足音だけが響いていた。
長かった...今はただ、それだけ...
テスト期間挟むので少し更新が開くと思います。できても幕間を書くかちゃちゃっと過去の話の改稿するくらいですかね。
モチベのためにもアドバイスや修正報告でもいいので感想や評価お願いします!