白糸台すずかの思い違い   作:後菊院

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02話

    1

 

 

「――すずか!? あの、ごめん、やりすぎた! 裸踊りとか、しなくていいから! 冗談だから! あのっ、やめてね!? ほんとにやめてね!? お願いだからやめてねっ!?」

 

 サクラさんの――いや、久瑠崎の声が聞こえてきた。

 

 久瑠崎は本当に焦っているようで、声音がぶるぶると震えていた。

 

 そのとき、私はふと、程よい塩梅の復讐方法を思いついた。悪魔的、とまではいかないだろうけど、小悪魔的な仕返し。

 

 私はわざと荒い呼吸をつくり、「はあ、はあ……い、いやでも、もう脱いじゃってますけど……」と、非常に申し訳なさそうに言ってみた。

 

 どうだ?

 

 数秒の沈黙。その後、スマホの向こう側から、悲痛な叫びが聞こえてきた。

 

「わ、わああああっ!?」

 

 効いてる。結構効いてる。

 

「あ、じゃあ私、これから踊りますね、全裸で。わあみんな私のこと見てますよ。私のおっぱいめっちゃ見てます」

 

「駄目、駄目駄目駄目! 駄目だって! お、終わる、人生終わるからァ!」

 

「はい。終わらせるんです。サクラさんの恋人を奪おうとする私なんて、もう死んだ方がいいんです。サクラさん、今までありがとうございました。さよなら……」

 

「ああああああああっ!? ああああああああっ――!!!! 遠い、遠すぎるぅ! チカラが届かないぃ……! あああ、収拾つかなくなるぅ――!」

 

 発狂してる。

 

 かなり効いているようだった。

 

「じゃあ踊りますねー! はい、おっぱいおっぱいおっぱい!」

 

「ああああああああ――!? あああああああああ――」

 

「おっぱい! おまんこ! ちんこうんこしっこケツ!」

 

「あっ、ああああ、ごめん、ごめんよすずかぁ……! 私は、私はなんて取り返しのつかないことを……!」

 

 ヨヨヨと泣き出す久瑠崎。ガチ泣きだった。

 

 そんな久瑠崎の声を聞いて、徐々に私の溜飲は下がってきた。マジで反省しているみたいだし、ここらでネタバラシしてやるかとも思ったけど、はて、どこまでネタバラシすべきかどうか悩む。

 

 記憶改変の能力を破るために、タイマー機能でメッセージをセットしていたことまで言うべきか?

 

 言わない方がいいような気がしてきた。この「対策」は、超能力者である久瑠崎に対抗できる数少ない武器だ。隠していた方が良い。

 

 でも、じゃあなんて言おうか?

 

「――……嘘だよ、久瑠崎」

 

 悩んだ挙句、私はストレートにそう言った。

 

「ああああ、あばばばば、あばば――あ、え?」

 

「裸で踊ってなんていないよ。反省した?」

 

「あ、あ、あ……。え? 私の記憶改変は?」

 

 久瑠崎の困惑した声が聞こえる。正直、愉快だった。

 

「はははは。そんなもの、この私に効くワケないでしょ。対策してんのよ、秘密の対策」

 

「えっ、そんな、まさか! すずか、私のチカラが効かなくなったの!?」

 

「効かない効かない。全部覚えてるからね。えーと、その、諸々のこと全部」

 

「そ、そうなんだ。でもなんか仰々しい喋り方じゃなくなってるんだね。ネトフリのウェンズデー観て以来、ずっと吹き替え版ウェンズデーっぽい喋り方だったのに」

 

「……」

 

 過去の私ぃ。

 

「……あれはイタイからやめたの。これを機にね。わかった?」

 

「わ、わかった。ごめん、ごめんねすずか。ほら、私、かっとなりやすいタイプでしょ? すずかが赤宮くんと一緒にいたの見て、もうわけわかんなくなっちゃって――」

 

「言い訳はいいから。ねえ、さっさと記憶を戻してね? 赤宮くん、あんたの恋人じゃないでしょ?」

 

「う、うん。わかった、ごめん、ごめん……。あの、聞きたいんだけどさ。すずかと赤宮くんって、付き合ってるの?」

 

「え?」

 

 

    2

 

 

 結論から言うと、「記憶改変効いてないふり作戦」は失敗に終わった。知らないことを知っている風に装うのには、やっぱり限界があった。

 

「えへへ……。わ、私のチカラが弱まってるってことはないみたいだね……」

 

「……」

 

 久瑠崎と私は、ローザという名前の喫茶店内、端っこの席で向かい合って座っていた。

 

 月野坂高校の近くにある、うちの生徒御用達の喫茶店。なんでもオーナーが月野坂OBだとかで、月野坂の生徒は格安でコーヒーが飲めるのだ。

 

 そんな格安コーヒー・月野坂ブレンドに、久瑠崎は口をつけてずずずと啜る。

 

 ちびちび飲む様子が、なんかこう、卑屈な貧乏娘って感じだった。記憶の中のサクラさんとは、やっぱりギャップがありすぎる。

 

「……でさ」

 

 それほど大きくない声で私が発話したところ、久瑠崎は「はいっ」と背筋を伸ばした。三下っぽい挙動だった。記憶改変なんてとんでもない力を使えるのに、変なの――と思いながら、私はストレートに質問をぶつける。

 

「なんで戻せないの? 記憶」

 

「え……だって、知らないから……。すずかと赤宮くんの関係」

 

「『知らない』って……。単純に、能力解除とかすればいいでしょ? できないの?」

 

「で、できないよ……。一回書き換えた記憶は、基本的にそのままだよ。『元に戻す』みたいな便利なものなんかないよ。まあ、適当に書き換えるだけなら、いくらでもできるけど……」

 

「え、じゃあ私、一生このままってこと? 高校生でお漏らしした記憶とかずっとこのまま?」

 

「あっ、それは変えられるよ。『元に戻す』は駄目でも、上書きは何度でもできるから……ほら」

 

 ほら、と久瑠崎が言った途端、私のお漏らしの記憶は雲散霧消した。「お漏らし」から連想して思い出せたのは、違う記憶だ。そう、それは高校一年生の遠足のとき、バスの中で派手にぶちまけていた久瑠崎サクラの記憶――

 

「漏らしたのお前かよっ!?」

 

「ああ、ごめんっ! ごめんごめんごめん。本当ごめん。なすりつけてごめん」

 

 平謝りする久瑠崎。本当に、能力にかまけているだけのしょーもないやつだということがわかってきた。

 

 まあ、それはともかくだ。

 

「ねえ、どうして赤宮くんと付き合ってた記憶を戻してくれないの?」

 

 私は話題を本筋に戻した。

 

「えっ? いや、だって。付き合ってるかどうかわかんないじゃん? 付き合ってないのに『付き合ってた』って記憶を植えちゃったら、赤宮くんにイタイやつだって思われるよ。ちゃんと裏を取らないと」

 

「付き合ってるでしょ、普通に考えて。だって公園で手ぇ繋いでたんだよ? 付き合ってなかったらヤバい奴らじゃん。というか、私と赤宮くんが付き合ってるふうに見えたから、記憶を弄ったんでしょ?」

 

「い、いやでも。冷静になって考えたら、すずかと赤宮くん、別に喋ってるところとか見たことないなって思ってさ。私の早とちりじゃないかって思って、慌てて電話かけたんだけど……」

 

 こいつ、早とちりだと思わなかったら電話かけてこないつもりだったのかよ。

 

「ふー……。あんたの前では、関係を秘密にしてたんだよ。あんたが赤宮くんのこと好きだったから。あんたに申し訳ないと思って隠してたんだよ」

 

「そ、そんなこと、すずかはしないよ。って、てかそれって、本当だとしたら、親友として最悪じゃない? 最悪だよ。最悪……」

 

 知らねーよ。記憶にないよそんなこと。

 

 とは言っても、久瑠崎としてはショックだったのも、まあわからなくはない。私は「じゃあ、いいよ。わかった。明日、赤宮くんに聞いてみよう。それで全部わかるでしょ」と言った。

 

「……い、いやぁ、どうかなぁ……」

 

「どうかなって?」

 

「え、えへへ……。赤宮くんの記憶も、いじっちゃったんだよなぁ」

 

「いじった、って? どんなふうに?」

 

「そりゃもちろん、私と恋人だってふうに。すずかはストーカー」

 

「このヤロー!」

 

 私は久瑠崎に飛びかかった。

 

 もちろん、コーヒーはちゃんとわきにどかしている。いつなんどきでも私は冷静だ。冷静ですとも。でも、ウェンズデーだって不良どもを薙ぎ倒すときがあるでしょ? これはつまりそれ。

 

「やぁ、やめて! やめてよォ! ごめんごめん謝るからァ!」

 

「謝ってすむ問題じゃないでしょこれは! 取り返しつかないじゃん!」

 

 久瑠崎の髪をめちゃめちゃにする。引っ張ってやる。ハゲろ、いっそハゲろこのヤロー! 泥棒猫!

 

「ごめん、ごめんごめんごめん! 悪かったよ本当に! 許して、許してよ――」

 

 数分後。

 

 ひととおり暴れたあと、私と久瑠崎は再びずずずとコーヒーに口をつけた。停戦の合図だ、これは。もちろん、私のほうはいつでもまた放火が可能だけど、久瑠崎があんまりにも弱かったので、いい感じのところでやめておいた。

 

 「サクラさん」はスポーツ万能、文武両道って記憶があったので、結構マジで絡んだら、思った以上に攻撃が通ってしまい、ちょっと反省。

 

 気を取り直して、冷静に話そうと思い、私は久瑠崎に質問を投げかけた。

 

「赤宮くんは、あのあとどうしたの?」

 

「帰ったよ。明日、一緒に登校しようね♡ って約束してからね」

 

「このヤロー!」

 

 私は久瑠崎に飛びかかった。

 

 数分後、私と久瑠崎はぜえぜえと息を整えつつ、またコーヒーをすする。二度目の取っ組み合いだったけど、コーヒーはこぼれず、幸いなことにマスターにとがめられることもなかった。

 

「――とにかく、元に戻しなさいよ。自己認識がおかしくなりそうなんだけど」

 

 「記憶を書き換えられている」という前提を抜きにしたとき、私視点、私は「恩人にわけのわからない理由でキレ散らかしているクズ女」なのだ。理性で押さえつけているとはいえ、さすがにちょっと、つらい。気を抜くと、またサクラさんて呼んでしまいそうになる。

 

「ええ、でも、嫌だ……」

 

「『嫌だ』って……、あんたさァ」

 

「だって、付き合ってないよ絶対! 赤宮くんと付き合えるほど、すずかはイケてないよ」

 

 ナチュラルに失礼だなこいつ。

 

 久瑠崎に友達はいないだろうという確信が、ぐんぐん上がっていく。もちろん恋人も。こいつは絶対に赤宮くんと付き合えない。

 

「……じゃあ、私と赤宮くんが付き合っていたことを証明すれば、ちゃんと『赤宮くんと付き合っていた記憶』で上書きしてくれるのね?」

 

「え、う、うん。それは……まあ。うん」

 

 か細い声でうなずく久瑠崎。いまいち信用ならないけど、信用するしかなかった。久瑠崎が記憶改変なんてSFじみた能力を使えることだけは確かなのだ。私の記憶を戻せるのは、久瑠崎しかいない。すごい嫌だな。

 

「でもまあ、よし。じゃあ問題は、どうやって恋人関係を証明するか、か……うん、どうしよう」

 

 悩む。記憶が全くあてにならないとして、何を頼りに恋人関係を証明するか。証拠品? 証言? ううむ、ぱっと良いアイデアが出てこない。

 

「ほ、他の人に聞いてみるとか? 赤宮くんとすずかが、本当に付き合っていないかどうか。そしたらきっとわかるよ」

 

「他の人ぉ?」

 

「そ、そう。他の人……わかった! すずかのお母さん! すずかのお母さんに訊いてみようよ。すずかに彼氏がいないかってさ」

 

「母さん?」

 

 私は自分の母親について思い出す。基本的にいっつもニコニコしていて、あんまり怒らない。特に深いことを考えないタイプ。人生それなりに幸せならオッケーって感じの人。というのが、私の記憶だけど。この記憶ははたして信用できるの?

 

「私の母さん、どんな人?」

 

「どんな人って。すずかのほうが知ってるでしょ」

 

「でも私、記憶書き換えられているんでしょ。あてにならないじゃん」

 

「あ、大丈夫だよ。いじったのは、私と、すずかと、赤宮くんに関する記憶だけだから。それ以外は大丈夫」

 

「……そうなの?」

 

 私が訝しんでそう訊くと、久瑠崎は、「なんでそんなこともわからないんだ」って顔をしながらうなずいた。私はイラっとした。

 

「……まあ、じゃウチに帰りますか。私と赤宮くんが恋人関係だって証明するために」

 

 

    3

 

 

 ピンポーンと、自宅のチャイムを鳴らす。

 

 まもなくして、「はーい、おかえりー」という声がスピーカー越しに響いた。

 

 中央線、月野駅から上り方面に二駅。邦館駅南口から徒歩20分。築20年ぐらいの小規模マンションの1階。私の自宅は、私の記憶通りの場所にあった。

 

 玄関扉がガチャリと開き、中から母さんが姿を現す。

 

「た、ただいま」

 

「おかえりー。ああ、今日はサクラちゃんも一緒なんだね。さ、あがってあがって」

 

「お、お邪魔します……」

 

 にへらと笑う久瑠崎。私のあとにぴったり続いて家に入り、そのまま靴を脱ぎ始める。母さんは「あとでお茶菓子持っていくからね~」と言って、奥のリビングに引っ込んでいった。

 

「……ね、ね? 変わんないでしょ」

 

「まあ、確かに変わんないね」

 

 母さんは全く記憶通りだった。なんの違和感もない姿と所作。私、久瑠崎、赤宮くん以外の記憶はいじっていないという久瑠崎の言い分は、とりあえず信じても良いかもしれない。

 

 そう思いながら私は自分の部屋の扉を開け――「え、ええ?」と声をあげた。

 

 私の記憶によれば。

 

 久瑠崎によってめためたにされた私の「記憶」によると、私の部屋は囚人の独房みたいな内装だった。床は古くて暗い木の板、壁はコンクリ、鉄パイプのベッドに、大正時代の貧乏書生が使ってるような木製の机と椅子。格子窓。もちろんそれは偽りの記憶であって、普通のマンションの一室にそんな絶望的な部屋があるもんかいと思っていて、実際記憶とは全然違っているのだけど、だけど現実の自室は、記憶とは違う方向に衝撃的だった。

 

 どぎついオタクの部屋だった。

 

 真っ暗なカーテンに、逆十字のアクセサリー。天井まで届く本棚には、占星術関係の本とか、なんとかの神話、みたいな本とか、現代語訳古事記とか、やさしい人物画とか、13世紀のハローワークとか、黒魔女さんが通る!! とか、週刊少年ジャンプの漫画とかが並んでいる。壁には、東方Projectの馬鹿でかいポスター。勉強机の書棚には申し訳程度の教科書・参考書が置いてあるけど、肝心の机のスペースの大部分が、デスクトップPCとペンタブレットに占拠されている。ペンタブの横にはコピー用紙が散らばっていて、カグラバチの曽我ヒロトと思しきキャラの落書きが描かれていた。

 

「わあ、久しぶりにすずかの部屋入ったけど、変わんないね……。すずか? どうしたの? まるで殺人現場を見たみたいな顔して――あ、そっか。今のすずかにとってはこの光景は初見か……」

 

「……私って、オタクなの?」

 

 聞いてみた。

 

「オタクだよ。自認ウェンズデーのオタク。あ、でもちょっと前までは、自分のこと博麗霊夢って言ってたけど」

 

「……」

 

「ねえ、どうしたの?」

 

 まずい。

 

 もしかすると、私と赤宮くんは付き合ってないかもしれない。

 

 正直、部屋に入れば恋人関係を証明できるようなものがあるんじゃないかと思っていた。赤宮くんとのツーショット写真とかあるかなって。でも甘かった。恋人との写真はおろか、部活とかの写真もなかった。唯一あるのは、本棚の端っこに置いてあった久瑠崎サクラとのツーショットのみ。写真に写る私と久瑠崎、どっちもちっちゃくて、それぞれがサメとタコの形の風船を片手に持っている。私がサメで、久瑠崎がタコ。水族館かどこかに行った写真のようだ。私も久瑠崎も、写真慣れしていない感じの、笑ってるんだか怒ってるんだかよくわからない表情をしている。

 

 く、雲行きが怪しい。

 

 ……まあ、スマホのアルバムに赤宮くんとの写真が一切なくて、どころかカメラ機能を使った形跡がなくて、路線情報のスクショとソシャゲのレアキャラ召喚のスクショ、その他もろもろのスクショ画像しかなかった時点で、だいぶ怪しくはなっているんだけど。

 

 非表示アルバムを見るのが怖くなってきた。

 

「……とりあえず、座ろうか」

 

「そうだね。あ、ちなみに言っておくと、この座布団が私の座るやつで、そこの殿様みたいなひじ掛けつきの座椅子がすずかのだよ」

 

「……了解」

 

 私は、自分の定位置らしい座椅子に腰を落ち着ける。座り心地は非常に良かったけど、あんまり嬉しくはなかった。

 

 小さな座卓の対面に、久瑠崎が座る。

 

「記憶、戻そっか……?」

 

 おずおずと、久瑠崎がそう言ってきた。意図がわからず、私は「え?」と聞き返す。

 

「すずかと、私に関するところだけ、先にさ。普通の幼馴染の関係に戻しておこうよ。ご、ごめんね? 勝手に記憶いじくっちゃって……。ね、ねえ。そっちのほうがいいでしょ……?」

 

「それってつまり、私は自認ウェンズデーの痛い女になるってこと? 友達はあんた一人しかいなくて、赤宮くんとはとくに付き合ってない、暗い陰キャになるってこと?」

 

「う、ん……、まあ、そうとも、言えなくも、ない、けど……」

 

「……」

 

 悩む。

 

 正直、それはそれでありな気がしてきた。久瑠崎を神のように崇めたてまつっていた今の「記憶」は、現実との乖離が激しすぎて、思い起こすたびになんだか頭が痛くなる。囚人の独房みたいな部屋で、毎朝起きてすぐにサクラさんへの崇拝(久瑠崎の家の方角に向かって正座で礼拝)する記憶なんか、特に頭がバグる。あれ? 私って何者なんだっけ? ってなって、そのたびに理屈で自己認識を補正するのに疲れてきた。

 

 でもなぁ。赤宮くんと付き合ってないのを部分的に認める感じがするんだよねぇ……。

 

 思い出すのは、赤宮くんと手をつないでいた記憶。

 

 いや、正確には、赤宮くんの手を、私が両手で握っていた記憶かな? 手相を見るような感じで。え? あれ? もしかして私、手相見てた……? 恋人つなぎとかじゃなかった? いや、でも手相見るような仲だったら、かなり仲いいはず……?

 

 そんなふうに熟考していると、部屋の扉が開かれた。

 

「はーい、紅茶いれたよー」

 

 母さんだった。母さんはお盆を持っていて、お盆の上に紅茶と、紅茶にはあんまり合わなそうなお菓子、じゃがりこを乗っけていた。

 

「あ、ありがと……」

 

「それにしても、久しぶりだね。サクラちゃんがウチに来るの」

 

 母さんは座卓にティーカップとじゃがりこを置きながら言った。久瑠崎は、「え、えへへ……」と、照れくさそうに笑った。

 

「最近、すずかは他のことにお熱だったからね」

 

 母さんが言った。私は久瑠崎のほうを見た。久瑠崎は「?」というマークを頭の上に浮かべていた。

 

「他のことって?」

 

 私が訊くと、母さんは「え~? またまたぁ、とぼけちゃって」と、なぜかやたら嬉しそうに笑う。

 

「彼氏、いるんでしょ?」

 

 母さんがそう言ったとき、久瑠崎はさっそく口をつけていた紅茶をぶっと吹き出した。私はというと、無意識に立ち上がり、ガッツポーズをしながら叫んでいた。

 

「……き、きたァァァァァ!!!!」

 

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