~AD 2031年 長野県安曇郡梓村~
お家の中にたくさん集まっていた大人たちが、うるさくなった。
お父さんは慌てて立ち上がり、お母さんはスマホをじっと見ている。
おじいちゃんはみんなに何かを大きな声で話し、おばあちゃんは、わたしを抱きしめる・・・。
お外から、大勢の人たちが走ってきた。
みんな、すごい慌てている。
聞いたこともない、すごい音がした。
お腹に響く音と、誰かが口から出しているような、ものすごい吼える音・・・。
わたしは、泣きだした。
あまりに、こわかったから。
おばあちゃんが、必死にわたしを慰めてくれる。
おじいちゃんとお父さんは、みんなとお外に出た。
真っ赤な車が、うるさい音を出して走ってきた。
そのうしろからは、白と黒の、やっぱりうるさい音を出す車。
お家の屋根が崩れてきた。わたしは、もっと泣いた。
お母さんも、おばあちゃんも、ビックリしていた。オロオロしていた。
今日は、お日さまがいっぱい出ていた日。
それなのに、お空が暗い。
すごく変なにおいがしてきた。おばあちゃんが、ゲホゲホしてる。
お空が暗いのは、あっちの方から黒い雲がお空に広がっているからだった。
そして、黒い雲の中から、黒くて大きなものが出てきた。
周りのみんなが、ぎゃーって叫んだ。
黒くて大きいものは、お口から真っ赤な息を吐いた。
村に、お家に、火がついた。
そこから、また黒い雲がいっぱい出てきた。
おばあちゃんはゲホゲホ止まらなくなって、歩けなくなった。
お母さんは、おばあちゃんと、わたしを、頑張ってお手手をひっぱった。
また、大きいものは真っ赤な息を吐いた。
あっちに、おとうさんも、おじいちゃんも、みんなも、赤い車も白黒、パンダみたいな車も行ったのに。
おかあさんとおばあちゃんが、大きな声を出して、泣き始めた。
わたしは、泣くのをやめた。
気がついたら、わたしは知らない大人の人たちにお手手を引かれていた。
「もうちょっとだ、頑張れ!」
知らないおじさんが、そう言った。
なんだか、お手手も、お足も、すごく痛かった。
痛かったんだけど、ぜんぜん泣かないでいれた。
黒い雲の中から、黒くて大きいものが歩いてきた。
わたしたちを、追いかけてるみたい。
鬼ごっこ?あれは、鬼さんなの・・・?
「この子を助けてください!」
わたしを連れてきてくれたおじさんが、白い服を着たおじさんにそう言ったのは、聞こえた。
「よし、すぐ氷を用意するんだ」
白い服のおじさんが、そう言った。
ピンク色の服を着たおねえさんが、冷たいものをわたしのお手手とお足にかけた。
すごく痛くなって、わたしは泣いた。
なんで、かき氷をかけられたのかな・・・。
「大変だ、怪獣がこっちにくるぞ!」
今度は、緑色の服をきたおじさんがいっぱいお部屋に入ってきた。
「しかし、見ての通り負傷者が・・・」
白い服のおじさんがそう言った。また聞こえてきた、あの、黒くて大きなものが、吼えてる声。
動画で、動物園で見た、ライオンさん、トラさん、そんな声より、とってもこわい声。
「もうこんなところまで!」
わたしを助けてくれたおじさんが、そう言った。
窓のあっちに、すごく大きな黒いもの・・・こわい声を出す、かいじゅう?かいじゅうっていうの?
お部屋には、いっぱいお怪我した人がいた。
痛い、痛いって、大人の人も泣いてた。
ピンクの服を着た人が、こわくて泣いてた。
お怪我してたおばあちゃんが、ピンクの服の人を抱きしめてた。
わたしよりちっちゃな、赤ちゃんが、いっぱい泣いてた。赤ちゃんも、お怪我してるんだ・・・。
「とにかく、元気な人たちだけでも・・・」
わたしをたすけてくれたおじさんが、そう言った。おじさんも、少し泣いてた。
みんな、泣いてた。
わたしは、泣くの、やめた。
「おい、どこへいく!」
わたしを助けたおじさんが、うしろから叫んだ。
わたしは、かいじゅう?って呼ばれた、黒くて大きいものに、かけっこした。
夜みたいに暗いお空から、なにかが落ちてきた。
お星さま?すごくきれいな光・・・。
・・・あれ?
わたしは、黒くて大きい、かいじゅう?と、同じくらい大きくなった。
かいじゅう?は、わたしにかかってきた。
こわくない、こわくなんて、なかった。
おじいちゃん家のおとなりのワンちゃんにかかられたときは、すごくこわかったのに・・・。
わたしは、かいじゅう?とケンカしてる。
ケンカなんか、したことないのに、わたしが、ケンカしてる。
かいじゅう?ケンカ強い、わたし、負けちゃう?
でも、お手手からきれいな糸みたいなものが出た。
かいじゅう?あっちへ行っちゃった。
でも、またケンカしにきた。
わたしは、叩かれちゃう前に、かいじゅう?を叩いた。
お足で、やっつけた。
そして、今度はお手手からもっと大きくて、まぶしい糸が出た。
かいじゅう?は、すごい音を立てて、燃えちゃった。
でも、燃えちゃったの、かいじゅう?だけじゃなかった。
おじいちゃん家も、おとなりのお家も、お肉買うところも、元気の良い優しいお兄さんお姉さんがいるお店も、おじいちゃん家にきたときには、いっぱい遊んだ森も。
みんな、燃えちゃった。
燃えちゃった中から、もっと燃えてる人がきた。
わたしと同じくらいおっきい。
燃えてる人、わたしの前に立った。
ケンカ、またやるのかなって、こわくなった。
でも、ケンカしなかった。
わたしを・・・じっと見つめていて、また、燃えちゃった。
燃えちゃって、お空へ飛んでいっちゃった。
わたしは、また、みんなよりちっちゃくなってた。
さっき、みんなより、うんと大きかった気がしたのに。
みんな、わたしを心配してくれた。
でも、わたしはすごく眠くなったから、寝ちゃった。
どこも、痛いのなくなってた。
でも、おとうさんもおかあさんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、どこへ行っちゃったの・・・?