ウルトラマンティガ -揺らぐ光-   作:マイケル社長

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ー 第1話 震える光 ー パートC

 

 

 

朝霧澪は、完全に炎に包まれていた。

 

死線をさまよう澪はしかし、炎とは異なる光に包まれつつあった。

 

いや、光に包まれる、というより、澪の身体が光の粒子となりつつあったのである。

 

やがて、炎の中で粒子となった澪は、流れるように空へ舞い上がった。

 

 

 

 

 

一方、さんざん苛つかせた対象が墜落、炎上したことに満足したのか、パゴスは再び市街地を目指し始めていた。激情に歯をくいしばらせていた松野は、再度攻撃に移るためデラムを駆り、パゴスへ向かい始めた。

 

だが・・・。

 

強烈な光が、パゴスのそばに降り注いだ。比較的近くにいた松野はもちろん、やはり激情を押し殺して避難誘導に当たっていた二階堂も、そして避難しようとしている大勢の人々が、あまりのまぶしさに手で顔を覆った。だがまぶしいが、不思議と心地の良い光であった。

 

突然の事象に驚いたのはパゴスも同じだった。もう少しで住宅街へ入る、というところで、やはり強烈な光に進行を止めた。そして光が収縮したとき・・・そこに立っていたのは、銀を基調に紫と赤、そしてゴールドにあしらわれた、巨人だった・・・。

 

「まさか・・・」

 

GUTS基地でその様子を確認していた神崎は、思わず口から言葉が飛び出た。

 

「こ、これは・・・」

 

丹沢はモニターに映し出された巨人をただちに画像解析した。いくつか検索の結果が表示されるのだが、2031年、長野県で発生した、世界初の怪獣災害に出現した、謎の巨人と同一の存在に思えた。

 

そして避難しようとしていた人々は、その銀色の巨人へ向けて、口々につぶやきだした。

 

「ウルトラマン・・・」

 

「ウルトラマンだ・・・」

 

15年前、長野県に人類が記録している限り初めて怪獣の出現が確認された際、その怪獣を倒し、去っていった巨人・・・人々はそれを、「ウルトラマン」と呼んでいた。

 

無論、これは巷で広まった名前であり、GUTSとしても、もしまたいわゆる「ウルトラマン」が現れた場合、兵器の使用を視野に入れた敵対行動を含め、あらゆる可能性を検討していた。

 

だが・・・。

 

「・・・同じだ」

 

神崎がそうつぶやいた。

 

「・・・え?」

 

そう振り返る丹沢にも気にならぬほど、神崎の注目は「ウルトラマン」に向けられていたのだ・・・。

 

 

 

 

 

 

怪獣パゴスは、突如として現れた光の巨人・・・「ウルトラマン」に、ひどく困惑していた。だが、「ウルトラマン」を覆う光がおさまり、はっきり視認ができるようになると、猛然と「ウルトラマン」に襲い掛かった。

 

「・・・ハァ!」

 

「ウルトラマン」は大きく声をあげるが、それよりもパゴスの突進が勝った。自身より低いポジションからの突進に、対応できなかったのだ。あやうく足首に噛みつかれそうだったところを、パゴスの頭を抑え込む形で防いだ。

 

それでも、じわじわとパゴスは押してくる。だが、「ウルトラマン」は必死に足を地面に食い込ませている。まるで、パゴスがそのまま突進し、ふたたび市街地へ向かうことのないように・・・。

 

『マツ、マツ!』

 

眼前に想像もしていなかった光景が繰り広げられ、すっかり見入っていた松野に、神崎が呼びかけた。

 

『マツ、巨人を援護するんだ』

 

「え、援護、ですか・・・?」

 

『状況を判断する限り、巨人はパゴスの市街地侵攻を防いでいる。デラムで攻撃をするんだ』

 

「し、しかし・・・ウルト・・・いや巨人は、我々の味方とも限らないのでは・・・」

 

『15年前だ。わたしは長野県で、あの巨人を目撃している。今回と同じだ、明らかに、怪獣の侵攻を食い止め、そして退治しようとしている』

 

「えっ・・・そんなこと、が?」

 

松野は神崎ともう2年のつきあいになるが、15年前の長野県、初めて怪獣が現れた場所に神崎がいたということは、初めて耳にした。

 

『松野隊員、避難は進んでいるから、攻撃にまわって』

 

二階堂からも指示が飛ばされる。

 

『松野隊員、パゴス背後へ回り込み、背中を狙ってください。巨人が食い止めているおかげで、照準は合わせやすいです』

 

丹沢からも戦術行動の指示がデラム運転席のモニターに送られてきた。

 

「・・・ラジャー!」

 

松野はそれだけ答えると、デラムを発進させた。瓦礫が散乱する道路は避け、いますこし外周からパゴス後方へ回り込まんとしたのだ。

 

「デアアア!」

 

「ウルトラマン」が大きくうめいた。全力でパゴスを抑え込んでいたものの、とうとうパゴスの突進力に腕が弾かれ、右足ふくらはぎあたりにパゴスが噛みついたのだ。

 

「ありゃあ痛えよな・・・よし、得体は知らねえがまってろ」

 

パゴス背後にデラムをすべりこませ、デグナー砲の照準を合わせる。

 

『松野隊員、いまです!』

 

丹沢から指示が飛ぶ。

 

「ああ。判官贔屓」

 

言いながら、デグナー砲を発射させた。パゴスの背中に炸裂し、衝撃でパゴスは口を離した。

 

怒りに吼えるパゴスだったが、そこへ「ウルトラマン」の左拳が当てられた。噛まれた右足をかばうように膝をついた「ウルトラマン」だが、目線がパゴスと同じになったのだ。

 

仕返しをせんとばかりに、再度大きく口をあけるパゴスだったが、今度は「ウルトラマン」の右拳が顎に当てられた。頭からひっくり返り、仰向けになるパゴス。

 

「なんだぁ、まるで空手の突きだなあ」

 

そんなことをつぶやきながら、松野は再度眼前のスペクタクルに集中する。両者とも動きが激しく、デグナー砲が撃てない。いや、巨人にも当ててよいのなら話は別なのだが・・・様子を見ているうちに、どうも「ウルトラマン」は、神崎の言うように怪獣を押しとどめんとしているように見えるのだ。

 

体勢を立て直したパゴスは、とびかかるように後ろ脚を駆って「ウルトラマン」に襲い掛かる。間一髪、またも頭を抑え込んだ「ウルトラマン」は、そのまま手首をひねり、パゴスを投げ飛ばした。

 

その様子に、避難しようとしていた市民たちも「がんばれぇー!」 「いけぇー!」と、「ウルトラマン」に声援を送りだす。足を止めることなく避難所へ!と言いかけた二階堂だったが、市民の様子に声を上げることなく、市民たちの視線の先・・・パゴスと「ウルトラマン」へ、携行型光線銃・GUTSハイパーを向ける。かなりの距離はあるが、レーザー銃なので空気抵抗や重力による照準のブレがない。

 

パゴスは完全に「ウルトラマン」へ敵意を向けていた。尚も起き上がり、もう一度後ろ脚に力を入れて、「ウルトラマン」にとびかかる。

 

だが・・・「ウルトラマン」はその動きを見切っていた。踵落としの要領で左足を跳ね上げたのだ。ちょうどそこへパゴスが飛んできて、見事土手腹に喰らいこんだ。跳ね飛ばされるようにパゴスは宙に舞い、山腹に激突した。

 

『松野隊員、攻撃態勢を維持してください』

 

丹沢の指示に、「ああ」と、デグナー砲をパゴスへ向ける松野。

 

「なあ、あの巨人は空手の心得でもあるのか?」

 

『ええっ・・・それは、わかりませんが・・・』

 

「なんかさ、空手の型で怪獣攻撃してんだよな」

 

そんなやり取りをしているうちに、土煙の中から大きくパゴスが吼えた。明らかに怒気を含んでおり、「ウルトラマン」に激しい視線を向ける。

 

だが・・・「ウルトラマン」は、両手を水平にクロスさせると、そのまま手を両開きにした。手の軌道を追うように、青白くまばゆい光が追いかける。

 

再度、パゴスが飛び上がった。だが、「ウルトラマン」は両手をL字に組んだ。そこから放たれる、超高出力の青白い光線・・・。

 

突如として白く、そして赤い爆発が巻き起こった。松野も二階堂も、そして固唾をのんで推移を見守っていた市民たちも、皆が目を覆った。次いで、耳をつんざく爆発音。

 

GUTS基地のモニター越しにも、その強烈なまぶしい爆発は神崎と丹沢をたじろがせた。

 

爆炎、そして煙が晴れると、「ウルトラマン」は仁王立ちのまま鎮座していた。パゴスは・・・跡形もなく爆散したのだと、周囲の状況から見て取れた。

 

「おお!」

 

松野が歓声をあげると同時、市民たちも歓声を上げた。だが二階堂は・・・万が一にも「ウルトラマン」が自分たちに襲い掛かった場合を想定し、GUTSハイパーの照準をかまえたままであった。

 

「ヘアッ!」

 

鋭く声を上げた「ウルトラマン」は、天を仰ぐと両手を突き出すようにかかげた。瞬時に、空気を切り裂くような音を発して空の向こうへ飛び去って行ってしまった。

 

二階堂はGUTSハイパーを下ろし、太もものホルダーへしまった。あれほどの速さ・・・確実に音速を上回る速度で移動できる存在が、もしも自分たちに向かってきたら・・・だが、確証、裏付けはないが、そのようなことにはならない気がしていた。

 

『隊長、朝霧の墜落地点へ向かいます!』

 

松野の声に、神崎は唇を噛んだ。

 

『・・・頼む。たとえどうなっていても、朝霧を見つけ出してくれ・・・』

 

それだけ言うと、神崎は席に座り込み、うなだれた。丹沢は何も言えず、松野のヘルメットから送信され続ける動画を確認するにとどめた。

 

『・・・ら・・・ぎり・・・こ・・・ら・・・さぎり』

 

そのとき、ひどくノイズ交じりだが・・・それぞれのインカム、そして司令室に声が聞こえた。もう、二度と聞くことができないと思われた、声・・・。

 

『・・・こちら、朝霧。朝霧です』

 

咳交じりだが、はっきりと聴こえた。

 

 

 

 

 

 

黒煙が柱のように立ち昇るGUTSファルコン墜落現場。だが、さきほどの通信はそこから発されたのだ。はやる気持ちを抑え、松野は山道をデラムで駆け上がった。避難行動をとっていた市民たちは、パゴスの脅威が消失したことで警察や消防に任せ、二階堂も同乗していた。

 

幾度か曲がり角を過ぎ、正面に黒煙と、それを昇らせている炎を背にして、朝霧澪が立っていた。興奮のあまりブレーキを強く踏むと、松野は飛び降りるようにデラムを降りた。

 

「朝霧ー!」

 

大声で呼びかける。顔いっぱい煤にまみれてひどい有り様ではあったが、朝霧澪は自分の足でしっかり立っていた。

 

「朝霧隊員!」

 

二階堂もそれに続いた。

 

「お、お前、大丈夫か!?」

 

松野は澪の両二の腕に手をかけた。

 

「は、はい・・・ギリギリ、脱出に成功したんです・・・」

 

煤だらけの顔で、もうしわけなさそうにはにかむ澪。

 

「なんてヤツだ・・・心配したんだぞお!」

 

安堵と嬉しさで、松野は涙声で澪を揺さぶった。

 

「痛ッ!」

 

澪は右足ふくらはぎを押さえ、うずくまった。

 

「朝霧隊員、大丈夫?」

 

駆け寄ってきた二階堂がしゃがみ込み、澪の両肩に手をかける。

 

「はい・・・ちょっと足を痛めてしまって・・・」

 

隊員服からはうかがい知れないが、血が流れるほどの負傷をしているようだ。

 

「もう、心配かけて・・あなた、歩ける?」

 

二階堂は軽く肩をポンポンすると、澪に訊いた。

 

「・・・なんとか」

 

そうはにかんで答える澪。

 

「おーし、応急処置なら任せろ。オレは元消防士だったからな」

 

ひとまずデラムへ連れていき、中で応急処理を施すことにした。

 

そしてややあって、一連の流れを神崎は司令室で報告を受けた。

 

「了解。朝霧、無事で何よりだ」

 

それだけ告げると、安心したように座り込み、目をつむった。口元は微笑んでいるようだった。丹沢はそんな神崎の表情と、脱出が間に合ったとはいえ、澪の負傷具合が軽いことに怪訝な表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

その夜だった。

 

基地へ戻り、正式な治療を受けた澪(医療班が感心するほど、松野の応急処置は見事だった)。

 

「まずはゆっくり休め」

 

そう神崎に告げられ、自室に戻ると、隊員服のままベッドへ横になった。

 

「・・・どうして、わたし・・・?」

 

誰にともなく、そうつぶやいた。

 

GUTSファルコンが地表へ激突する瞬間、そして直後、全身にすさまじい衝撃が走り、次いで爆炎に包まれるまで・・・そこまでの記憶ははっきりしていた。

 

だが・・・ほんの数秒だったのだと思う。意識が戻ったとき、自分は怪獣パゴスよりも大きくなっていた。

 

パゴスの侵攻を必死で食い止め、右足を噛まれながらも、自身が習ってきた空手の技でパゴスを攻撃したこと。そして幾度かの攻撃で見切りをつけ、そこからは自然と意識して、手から凄まじいエネルギーを持つ光線をパゴスに浴びせたこと。パゴスはひとたまりもなく、爆散してしまい、なおも自然と意識し、空へと飛び去ったこと、そしてまた気がついたときには・・・自身が操縦していたGUTSファルコンの残骸近くに倒れていたこと。それも、本来の自分の姿で・・・。

 

「ウルトラマン」

 

一般にそう呼ばれる巨人のことは、澪もしっていた。学校の教科書でも、SNSでも、今なお語り継がれている存在である。

 

だが・・・まるで自分の死をきっかけに、自分の中の何かが覚醒したような気がした。これまで生きてきて、そんなことは・・・知る由もない、わかるはずもない。

 

「わたしはいったい・・・何なの?」

 

わたしが、ウルトラマン・・・?

 

そんな・・・伝説上の強大な存在が、わたしなんて・・・。

 

澪は両手で目を覆った。ひどい困惑しかない。

 

こんなこと、誰にも言えない・・・。

 

困惑はやがて、畏怖・・・いや、恐怖へと変わった。

 

自分の存在は何なのか、どうして自分がウルトラマンなのか・・・考えれば考えるほど、自分の力が恐ろしくなった。いや、普段・・・というか、いまは澪の姿ではないか。

 

わけもわからない・・・手で目を覆ったまま、澪は泣き出した。

 

だが・・・・

 

暗い視界の向こうに、また現れた。

 

最近夢に出てくる、あの赤い巨人だ・・・。

 

赤い、巨人・・・?

 

赤い巨人は・・・まるで自分・・・そう、自身に似ているのだ。ウルトラマンに、似ているのだ・・・。

 

「これも、夢なの・・・?」

 

そうつぶやいたとき、澪はまどろみの世界から戻ってきた。最近、ようやく見慣れた、自室の天井・・・。

 

あの赤い巨人・・・赤い、ウルトラマン?・・・まるで、何かを語り掛けてくるように、現れるのだ・・・。

 

「・・・ティガ・・・?」

 

自分でも意識していなかった。だが、勝手に言葉が出てきた。脳のひらめきが、言語を発しろと神経が動く前に、口から言葉となって出てきたように・・・。

 

「ティガ・・・わたし、ティガ?」

 

自分でもなぜそんな単語が出てくるのか、理解できなかった。

 

枕は、すっかり濡れていた。汗も混じっているが、かなりの量、涙を流していたようだ。

 

恐怖、困惑、そして、わずかだが、ほんのわずかだが・・・明るさ?希望?

 

わからない。

 

気分を変えようと、スマホでラジオをつけた。ちょうど、午前0時だった。

 

『ヤッフゥーイ!ローズでーす!ミッドナイトローズ、今夜も始まるよ~!』

 

聴きなれたパーソナリティの声だ。

 

『いや~、今日はホント大事件だったよねえ~!怪獣が出てきたんだよね、久しぶりにね。でも、GUTSの活躍と・・・そう、現れたあの巨人、通称ウルトラマンですよ。なんだかさ、ウルトラマンが怪獣を倒してくれたんだよね~。しかしさ、あのウルトラマンだって、強大な力を持っていそうだよね~。世間では、アイツこそ危険な存在なんじゃないか、もしも我々に牙を剝いたら・・・。そんな声も聞こえてきます。正直ね、あのウルトラマンって存在、敵か味方なのかはわかんないよね。でもさ、ここからオレの個人的意見ね。あのウルトラマン、なんだか必死に怪獣を進ませないように、自分の足を嚙みつかせてでも身体張って止めよう、みんなを守ろう、オレそういう風に見えたんだよね~。そういうところはさ、認めてやっても良いんじゃないのかなあ~・・・』

 

 

 

 

 




~次回予告~


子ども食堂のボランティアに出かけた澪を、子どもたちは歓迎する。

特に澪に懐いている太賀少年だが、太賀少年一家に危機が迫る。

凶悪な怪獣に立ち向かう澪、絶体絶命!

澪は光になれるのか、光をつかむことができるのか・・・


次回  『遠いぬくもり』  残酷怪獣ガモス登場

ウルトラマンティガ。その光は、まだ鈍い・・・
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