突如として出現した未知の怪獣は、ガモスと名付けられた。
ガモスが地中へ逃れた後、ただちに被害調査・・・とりわけ、息をするかのように吐き散らかしていた白い溶解液に関しての被害確認並びに、溶解液の分解、除染措置がただちに実施された。
だが、恐るべき溶解液は現有の化学物質では中和や分解が不可能で、とにかく大量の水で薄めるしか方法がなかった。もちろんその方法にせよ、水で流された溶解液が側溝や道路際にたまり、どんどん浸食していってしまう。
化学班の調査により、化学消火用の砂に吸着させるとある程度安全に取り扱いができるとされたが、その砂も無尽蔵に存在するわけではない。関東から中部、関西の化学工場や消防、軍などからの融通に頼るほかないが、広範囲にまかれた溶解液の量を考慮すると・・・暗澹たる思いであった。
何より、いつまたガモスが現れるのか・・・それは誰にもわからない。町田市及び相模原市は避難警戒のまま、当面怪獣の再来に怯えることとなった。いやそもそも、近隣あるいは他地域へ出現しないなどと、誰が保証できるだろうか。
何より、人々へ与えたガモスの脅威と恐怖・・・それは一見理不尽の極みである避難警戒状態の継続と屋内退避行動に対し、反発どころか住民が率先して実施している実態に現れていた。直近、幾度か怪獣が出現したが、いずれもGUTSが駆除・・・あるいはパゴスのように市街地へ出現した例もあったが、避難が迅速に実施されたことで死亡者はなかったのだ。
そこへきて、今回のガモス出現である。怪獣という未知であり、強大な存在が世界に出現して以来、ときに犠牲者が出てしまうことはあったが、今回ほど大勢の住民が犠牲になったことはなかったかもしれない(正確には、犠牲者の全容を把握できていないのだ)。
混乱と恐怖は、夕暮れから夜の闇に空が移り変わっても続いた。そして厚木のGUTS基地では、最大級の警戒及び出動準備態勢を維持したまま、ガモスの解析が進められていた。
「さて、いま丹沢が話してくれた通りだ」
GUTS司令室に集まった面々を前にして、神崎が口を開いた。
「口から放出される溶解液、強固な外皮、そして側面から背面にかけて生えており、ミサイルのように放つことができる突起物・・・間違いなく、過去出現した怪獣の中でも最大級の脅威と位置づけて良い相手だ」
各自モニターには、ガモスの様子が映し出されている。
「そのうえ」と、今度は丹沢が口を開いた。
「行動から察するに・・・当初出現予測地点からかけ離れた場所へ現れた点から、ガモスは相当知能が高い怪獣といえます。そしてこれは・・・」
「これは、なんだよ?」
言いにくそうに言い淀む丹沢に、口をとがらせる松野。
丹沢は神崎を見遣ると、神崎は首を縦に頷かせた。
「出現後のガモスを徹底的に観測したのですが・・・ガモスは、明確な意思を持って・・・人間に攻撃を加えています」
松野は息を呑んだ。
「じゃあ・・・このガモスってヤロウ、わざわざ人間に溶解液浴びせてきたってことか?」
「・・・はい」
深刻そうに答える丹沢。松野は大きく息を吸うと、噴飯やるかたないという表情になり、二階堂は拳を握り、デスクを軽くたたいた。
「次回出現時は・・・原理は不明ですが、出現予測地点へ一斉に向かってくることを、ガモスは察知する能力があるようです。GUTSファルコンでの攻撃を加えるとして、3機同時に攻撃準備及び待機を実施するのではなく、各自距離をとり、出現がほぼ確実視された地点へもっとも近い機体がまず向かい、攻撃と陽動をしつつ、増援の合流を待つという戦術をとるようになります」
「しっかしなあ、あのヤロウはマジでスキがねえぞ。正面からは溶解液吐かれて近づけねえし、背面からはあのトゲミサイルを飛ばしてきやがる」
「ええ・・・ですので、有効とされる攻撃法はふたつ。まずは、正面でも背面でもない、側面からの攻撃です」
「オイそんなの、ガモスが身体の向きを変えたら意味ねえぞ」
「1機ではともかく、3機で対応すれば有効と思われます。そしてもうひとつが・・・」
丹沢は言いながら、いくつかキーボードを叩いた。昼の戦闘において、二階堂が取った急降下によるミサイル攻撃の映像がモニターに映し出された。
「副隊長が実施した、上空からのミサイル攻撃です。ガモスも、頭部への攻撃には明らかにダメージを受けていました。この戦術は極めて有効と考えられます」
丹沢の言葉には、ユザレの解析が裏づいている。
「丹沢隊員とユザレの解析を基にした戦術です」
今度は二階堂が、自身のモニターを全員に共有させた。
「こちらの行動がガモスに読まれている以上、GUTSファルコン3機は各々散開して警戒。ガモス出現時には、もっとも近い機体が即応しガモスを攻撃。ここでの攻撃は陽動及び、市街地への侵攻阻止を目的とした誘導とする。仮に機体同士の距離が100キロ離れていた場合でも、10分弱で他の機体が集結。2機で引き続き陽動しつつ、1機は上空から急降下攻撃でガモスへ確実なダメージを与えていく・・・これが、現在におけるガモスへの有効な戦術です」
「よろしい。朝霧、君から何か意見はないか?」
神崎に名前を呼ばれ、澪は身体を少しビクつかせた。
「い、いいえ・・・」
それだけ答えると、澪は顔をうつむかせた。
「朝霧隊員、不慣れなのはわかるけど、こういうときは自分なりに作戦行動を加味して考慮し、意見を言えるようにしてちょうだい」
ブリーフィング、ディスカッションの最中も、まるで上の空な様子だった澪に、二階堂はいい加減苛ついていた。ピシャリと言われた澪は、「すみません・・・」と返事をするのがやっとだった。
「よし。副隊長とマツ、朝霧は本戦術のシミュレーターで訓練開始。午後10時を期して、各自交代で休息をとりながら出動準備にあたること」
「「ラジャー!」」
二階堂と松野がサムズアップして応える。
「朝霧隊員!」
二階堂の叱責で、澪は「ラジャー・・・」と、弱弱しく応答した。
「丹沢、わたしも手伝うから、我々でガモスの攻略法を練っておこう」
神崎は正面で落ち込む澪から目を逸らし、モニターに向かっていた丹沢の肩に手を置いた。
「こ、攻略法、ですか・・・」
「そうだ。他に有効な戦術が取れないか、あるいは、ガモスに何か弱点はないか・・・アーカイブや行動解析データを駆使して、探ってみよう」
「・・・ラジャー!」
そう返事したものの、ここまでユザレによる解析があった上での、精いっぱいとも言える戦術を共有したというのに・・・と言いたい丹沢であったが、自身が所属している組織の意義、何より今回ガモスが拡げた被害を思い起こし、いま一度各種データを集め、ユザレにプロンプトを投げかけた。
「・・・おい、おい!朝霧?」
VRゴーグルをしたまま、松野に肩を揺さぶられた。
「あっ・・・はい」
ゴーグルを離すと、心配そうに松野が覗き込んできた。
「お前、シミュレーター何週してんだよ」
そういえば・・・澪はすっかり上の空で始めたVRシミュレーター訓練を振り返った。思えばけっこうな時間が経過していたが、シミュレーターで学び得たことは・・・。
奥では二階堂がため息をつき、いよいよもって澪にきついお灸を据えようと立ち上がった。
「真里くん、ここからは交代で休息を取ろう。朝霧はいま少し、シミュレーター訓練に取り組むように」
神崎が脇から口をはさんできた。一瞬抗議しようと顔をひきつらせた二階堂だったが、「・・・承知しました」と席を立った。
「マツ、お前も少し休め。仮眠の後、今度は丹沢と交代だ」
「は、はい・・・おい朝霧、何か不安抱えてるんだろうけど、まずは目の前のシミュレーターしっかり頭に叩き込め、そして身体で覚えろ。あとさ、お前どうしても左旋回から攻撃するときに操縦桿を前方へ傾けがちなクセあるぞ。VRでも出てたから、そこんとこ集中して取り組んでみろ」
松野はアドバイスに圧がかからぬよう、努めて明るい顔で澪に声をかける。
「・・・はい」
だが澪は消沈したままだ。優しく肩をポンと叩くと、松野はシミュレーター訓練室を出て行った。
「朝霧、つらいだろうが、実戦は待ってはくれない。シミュレーターに集中するんだ。もう少し、急降下攻撃と、さっきマツから指摘あった攻撃角度の修正をやってみるんだ」
「・・・はい」
こんな弱い返事ばかり繰り返す澪。もう何度目だろうか。だが神崎は澪の目を見てしっかり頷くと、部屋を出て行った。
もう一度シミュレーターを起動させ、イチからやり直そうとするが・・・澪はゴーグルをかけなかった。あれから、太賀くんのお父さんとお母さんのこと、何より太賀くん自身のことが、気になって仕方がなかった。
基地へ帰投命令が出ても、スキがあれば太賀くん・・・いまは太賀くんたちを保護してるであろう小川さんに連絡を取りたかった。あるいは、GUTSの権限を利用して、市役所へ問い合わせても・・・だが、私的な理由でそうした問い合わせをすることは、GUTSの規則が許していない。
もちろん、ガモスへ対抗すべく作戦行動、そして戦術をしっかり頭に叩き込まねば、という意識、使命感はある。だが・・・。
澪は大きく頭を振り、ゴーグルをかけた。松野の指摘通り、たしかに左旋回しながら攻撃する際、機体が降下気味になってしまうクセがある。地表接近を知らせるアラートが鳴ってしまう。入隊試験や訓練のときは、こんなこと気にならなかったのに・・・。
そして急降下攻撃も、いくらVRとはいえかなりの高速で上昇~降下するため、空間認知の歪みと、実際に機体を操作した場合の重力を想像すると神経が参ってしまう。だが、これがもっとも有効とされた行動なのだ。澪は時折こみ上げる吐き気を抑えながら、何度もシミュレーターで訓練行動を繰り返した。
必死になって身体に覚え込ませようとしているのが理由ではある。だが同時に、他のことへ集中することで、太賀くん一家のことを忘れ去ろうとしているのでは・・・そんなことを、つい考えてしまっていた。
一方、丹沢はガモスへの有効打を必死になって探っていた。二階堂が半ば偶然に打ち立てた急降下攻撃の他にも、何か突破口はないか、ガモス討伐の糸口はないか・・・徹底的にガモスの行動記録をAIであるユザレに読み込ませているのだ。
だがいくらやっても、『解析不能』『現段階における有効策の提示はできず』というメッセージが繰り返されるのみ。
丹沢は困り果て、メガネを外して頬杖をついた。それこそアーカイブ映像を1秒ごとコマ送りのように解析を都度試みたのだが、いずれも回答は空しいものであった。
いくら切迫した事態であるとはいえ、だんだん解析を続けることが空しくなってきた。そういえば・・・と、半ばヒマつぶしのようにガモスの現在地を確認する。どうやらかなり地下深くまでもぐりこんだようで、探査衛星からのエコーに反応が鈍くなっている。神奈川県西部深くに潜伏しているとはわかるのだが、10キロ圏内まで所在地を絞り込むことが難しいほどの深さなのだ。
「ご苦労」
ふいに、神崎が丹沢の肩を叩いた。虚をつかれた丹沢は、慌ててメガネをかけて身を持ち直した。
「何かつかむことはできたか?」
「いっ、いいえ・・・」
「ユザレでも解析はできんか」
「は、はい・・・」
すると神崎は丹沢の隣に座ってきた。
「時間も情報も限られた中だが・・・丹沢、マツとレーダー担当交代まで、もう2時間ほど続けて探ってみてくれ」
「しかし、隊長・・・」
「お前が言わんとすることは理解する。いつまたガモスが出現するか判然としない中だ、そんな悠長にかまえていられないのもたしかだが・・・」
神崎は『現段階における有効策の提示はできず』画面で停止しているユザレのページを閉じた。
「ユザレに頼るのも良いが、丹沢。お前自身の感覚でも、なにかつかめないか探ってみるんだ」
「・・・えっ?」
「ガモスの行動や視線、溶解液放出の有無・・・なんでも良い、少しでも違和感あるところに着目してみろ」
「でっ、でも、もうこれまで散々・・・」
「同じことを、お前の感覚で察知してみるんだ。AIがすべて答えを導いてくれるとは限らない。丹沢、やってみろ」
承服しかねる・・・そんな顔をした丹沢だったが、もう一度神崎に肩を叩かれ、言われるがまま目を凝らし始めた。モニターに向かう仕事ゆえ、いい加減目の乾燥が甚だしいが、目薬を射して何度か目をパチクリさせると、もう一度アーカイブ映像を注視し始めた。
ガモス地表に接近の警報が空気をつんざいたのは、すっかり夜が明けつつある翌日の午前4時過ぎであった。訓練後、交代で休憩となり、少しうつらうつらとしていたところだった澪は、ヘルメットをかぶりながら部屋を飛び出して、GUTSファルコンが待機している第3格納庫へ走った。
すでに二階堂と松野は機体に搭乗しており、澪が最後だった。
『3人とも、良いな。さきほどのシミュレーション通り行動すること。出現直前まで、機体散開し警戒すること』
神崎の指示がインカムからきこえてきた。
「「「ラジャー!」」」
そのまま管制塔からの誘導に従って、GUTSファルコン3機は黎明の空へと飛び立つ。西の空にはまだ夜の闇と星空が少しばかり残っている。
『みなさん油断しないでください。こちらの動きを察知して、急に出現場所を変えるくらい知能の高い相手ですから』
お互い30キロ以上距離をとったファルコンを確認しながら、丹沢が告げた。ちなみに、時折仮眠をはさみながらガモスの行動を注視し続けたが、現時点で何も新たな発見はなかった。
『イヤらしいヤロウだよな、オレたちよりも偏差値高い怪獣なんざ』
松野が毒を吐いた。
『松野隊員、この場合は偏差値ではなくて、知能と言ってください』
『細けぇことはいいんだよ』
松野と丹沢の妙なやり取りも、澪は耳に入っていなかった。恐るべき怪獣と対峙することへの恐れもあるが、やはり・・・どうあっても、太賀くんとご両親のことが気にかかってしまうのだった。
『ガモス、急速接近』
丹沢の緊迫した声と、ファルコンのモニターが赤くなるタイミングが同時だった。
『津久井山麓、相模野カントリー付近にガモス現出!朝霧隊員、対応お願いします!』
現在の位置からして、川崎市高津区上空を北へ向かっていた澪の機体が一番近かった。
「・・・朝霧、向かいます」
『おう頼んだぞ。まったく、ゴルフ好きな怪獣だぜ』
そんな松野の軽口も、直後の『松野隊員、変なこと言うのやめなさい』という二階堂の注意も、耳に入らなかった。他の2機がくるまで、たったひとりで対処しなくてはいけない状況への不安もある。そして太賀くん一家のことも気にかかる。それ以上に・・・澪は、ガモスの溶解液によってどのようなことが起きたのか、この目で見ている。そんなことをした対象が現れたことで・・・怒りというより、憎悪の感情がふつふつと燃え上がってきているのだ。
『朝霧隊員、速度そのまま。ガモスは南下を始めています。周辺住民への避難は即刻通知されてますが、なんとしてもゴルフ場から出さず、対応お願いします』
『・・・はい』
澪の緊張と、そしてそれ以外の感情が伝わり、丹沢は息を呑んだ。
「・・・ゴルフ場・・・」
丹沢は一旦通信を切り、自分の口から出た言葉を反芻した。
「どうした、丹沢」
かたわらの神崎が訊いてきた。
「前回出現時も、ガモスはゴルフ場から地上に現れている・・・」
真剣に考え始めた丹沢。神崎はそれ以上何も言葉を投げかけず、そんな丹沢を見守った。
一方澪は、ガモスを視認できるまでの距離に到達した。相変わらず、狂ったように溶解液を吐き出している。ゴルフ場の木々は瞬く間に枯れはて、朽ちていってしまう。
澪はシミュレーターの通り、側面からファイヤーストリームを浴びせかけた。だがそんな行動などお見通しかのように、ガモスは攻撃を正面から受け止め、溶解液を吐き出してくる。顔を上向きにすることで飛距離が遠くなることを理解しているのだ。
右旋回で回避した澪は、再度側面へと回り込む。だがガモスは、機体正面を向いて尚も仕返しをしてくる。
『朝霧隊員、正面から側面にかけて攻撃を続行してください。背面は例の突起物が放たれるため危険です。溶解液なら距離を保つことである程度回避が可能ですから』
丹沢のアドバイス通りにするが、ガモスもいらだってきているのか、大きく唸り声を上げて澪に接近してくる。操縦桿を握る手が汗まみれになり、グローブからにじんでくるほどだった。
ちょうどそのとき、松野機が接近してきた。二階堂もあと3分弱で到達できる。
『松野隊員、そのまま上昇をお願いします。朝霧隊員は陽動を続けてください』
丹沢の指示通り。ガモスはまだ松野の機体を認識していない様子で、澪に牙を向けてきている。
『よぉーし、いまに見てろよ~』
松野は操縦桿を自分の方へ引き寄せた。強烈な圧を感じながらも、松野は機体を急上昇させていく。
澪は自分の良くないクセである左旋回を極力避け、右旋回でガモスの攻撃を回避していた。シミュレーターの通りに行動すれば良いのかもしれないが、いざ実戦となると、そこまでの余裕がない。より確実な方法を選択していたのだ。
そこへ、今度は降下に転じた松野が空を切り裂いて降下してくる。
『オラぁ、脳天直撃だあ』
そのまま照準を合わせ、機体下部からミサイルを放つべく、トリガーを引こうとした・・・そのとき。
ガモスはふいに上空へ顔を上げた。そして目から一筋のドス黒く赤い光線を放ってきたのだ。
『うぉわああああ!!』
たまらず操縦桿を傾けたものの、光線は松野機の左翼に命中、左翼半分が粉砕され、炎が上がる。
「松野隊員!」
澪が叫ぶ。そこへ気をとられ、ついガモスに接近してしまった。眼前に溶解液が迫る。
「ぐううっ!」
なんとか回避したが、松野機は降下体勢から回復させるも、バランスを失い地表に落下していく。
『松野隊員、脱出をしてください!』
『おう!・・・ったく、とんだ初見殺しだなくそったれ~!』
いつもの軽口にも、焦りが滲んでいる。コクピットが弾かれるように跳ね上がり、そこから射出座席が放出される。
松野が脱出したことを確認すると、澪は再び陽動に回った。
『丹沢隊員、急降下攻撃についてはガモスも対抗してきてる。他の案があれば実行する』
間もなく到達する二階堂からの通信だが、丹沢は口に手を当てて考えごとを始めた。
『・・・少しだけ時間をください、なにが糸口がつかめるかもしれません』
『どんなことだ、言ってみろ』
神崎が言った。
『まだ確証は・・・でも・・・突然市街地に現れず、ゴルフ場のような広い土地に現れるというのは・・・建造物・・・いや・・・』
『いいわ。わたしと朝霧隊員で側面集中攻撃に回るから』
そんなやり取りをしているウチに、ガモスはゴルフ場を抜けて、間もなく住宅地に迫らんとしていた。迅速な避難警戒と住民の用意が功を奏し、避難は進んでいるようだが、何せガモスは、まるでそれを愉しんでいるかのように人間へ溶解液を浴びせてくる。もしも避難した場所を特定され、そこへガモスが向かったら・・・。
澪は猛然と、機体を推進させた。速度を上げてガモスに接近し、ファイヤーストリームを浴びせていく。ギリギリのラインでガモスから離れ、再度接近を繰り返す。だがやはり、ファイヤーストリームではガモスに対し有効打にはなり得ない。
ガモスも目からの光線を放ってくる。幸いまだ距離を空けたときに放たれるので回避できるが、もしもより近距離で放たれたら、回避が間に会いそうにない。だが、ガモスの進撃は止まる気配がない・・・。
澪は歯を食いしばり、今度は苦手としている左旋回でガモスの注意を引き付けた。効果があったようで、ガモスの注意は澪の機体を追いかけている。そしてそのまま住宅地から、澪を追ってゴルフ場を戻り始めたのだ。
シミュレーターの通り、極端に降下しないように操縦桿を引き上げ気味にしてガモスに対峙する。ガモスに背を向けているときに目からの光線を放たれた際には生きた心地がしなかったが、それでも、機体が発するアラートに対して澪はだいぶうまく対応できていた。
今度は正面切ったまま、機体を少しだけ上昇させ、ガモスの顔面を狙った。多少効果はあったようだが、同時に怒り狂ったように雄たけびをあげるガモス。
澪は緊張と感情の昂ぶりのまま、もう一度顔面を攻撃すべく機体を操作した。ファイヤーストリームがガモスの顔面に命中すると同時に、光線が飛んでくる。左旋回で回避したのだが・・・。
地表接近のアラートが鳴った。澪のクセが出てしまったのだ。
息を呑み、操縦桿を引き上げる澪。だがそれは、ガモスに決定的な反撃の好機を作ってしまった。
今度は機体右側でアラートが鳴る。ガモスの身体がさきほどまでよりも、だいぶ近く見えた瞬間・・・ガモスは右腕を振り下ろした。澪の機体右翼が、ガモスの鋭い爪に叩きつけられたのだ。
「きゃあっ!」
コクピット内に火花が舞い散り、目の前が真っ白になる。思わず閉じてしまった目を開けると、視界の右半分が炎に包まれていた。そして地表がものすごい勢いで迫ってきている。
「うわああああ!」
澪の悲鳴は、墜落の衝撃と爆発にかき消えた。爆炎に包まれた仇敵に、ガモスは満足げに唸った。
だが、燃え上がる炎の中から、青い光が射した。そしてその光はまるで粒子のように周囲を照らした。ガモスも、あまりのことに声も上げられなかった神崎も丹沢も、そのまぶしさに思わず目を覆った。
「・・・ウルトラマン」
どうにか目を開けた神崎がつぶやいた。あのウルトラマンが、そこに立っていた。
ウルトラマンは何かをつかんでいる様子だった。それを地面に下ろした。
「まさか・・・朝霧を助けたのか」
「・・・映像では確認できませんが、その可能性が・・・」
神崎と丹沢のやり取りも、すぐさまガモスに対峙したウルトラマンの姿に沈黙を与儀なくされた。
ガモスは突然現れた存在に、やや戸惑うような咆哮を上げた。
ウルトラマンはまるで空手の構えのように、手をガモスへと向けた。