「ヘアっ!」
ウルトラマンは掛け声をあげると、一気に踏み込んでガモスの腹に正拳突きを繰り出した。
ウルトラマンのスピードに対処できなかったガモスだったが、正拳突き程度では多少ひるんだ程度で、鋭い爪を繰り出して逆襲した。
すんでのところで振り下ろされた爪を回避すると、ウルトラマンは素早く蹴りを繰り出す。側面からの攻撃でそれなりに効果があったのか、仰け反って数歩後退するガモス。
そのスキを見逃さなかったウルトラマンは、再度蹴りを放つ。膝から突き上げ、そこからつま先で蹴り上げる、極めて実戦的な蹴りである。
たまらずガモスは倒れ込んだ。だが好機とばかりに追撃を仕掛けるウルトラマンを、尻尾の一閃で薙ぎ払った。強烈な一撃を喰らったウルトラマンは地面に倒れ込み、そのスキに立ち上がるガモス。
仕返しとばかりに、ガモスは溶解液を噴射してきた。横に転がって回避するウルトラマン。ゴルフ場の芝生は一瞬にして溶け去り、傍らのゴルフカートは見る間に朽ちた。
まだ態勢が整わないウルトラマンに迫るガモス。だがそこに赤い光の筋が突き刺さった。やってきた二階堂がファイヤーストリームの一撃を加えたのだ。
『松野隊員、大丈夫?』
ガモスの反撃をかわしながら、そうインカムに問いかける二階堂。
『はい、まだ降下中っす』
たしかに、やや先の住宅街めがけて降りつつあるパラシュートが見える。
『なんとかガモスを押し戻すので、無事降下できたら朝霧隊員の救助をお願い』
『ラジャー』
二階堂はそこから再度、側面攻撃でガモスに攻撃を加えていく。ウルトラマンを援護するわけではないのだが、脅威としては圧倒的にガモスの方が深刻である。
二階堂の機体に注意を向けたガモスの背後に、ウルトラマンは蹴りを打ち込んだ。うつぶせに倒れ込むガモス。尻尾の範囲を見定め、側面からの攻撃を仕掛けようとするウルトラマンに、ガモスは背面の突起物を飛ばした。
4つの突起物は放物線を描いてウルトラマンの周囲に直撃し、激しく爆ぜた。爆発と爆炎に包まれたウルトラマンはたまらず転げまわり、頭を振ってどうにか立ち上がる。そこへ、ガモスの溶解液が直撃した。
「グアアっ!」
ウルトラマンは苦しげにうめいた。ガモスは容赦なく、さらに溶解液を浴びせかける。
ウルトラマンの頑強な皮膚は溶解こそしないものの、あまりの痛みと焼けるような苦痛に地面をのたうちまわる。そして、ウルトラマンの胸についているランプが点滅を始めた。
『・・・あれは?』
二階堂は苦しげにうめくウルトラマンを注視した。
『副隊長、どうもウルトラマンの生命機能らしい。あれが点滅すると、ウルトラマンに命の危険が迫っているということのようだ』
神崎が口を開いた。
『隊長、なぜそんなことを?』
『昔、見たことがあってな』
むかし・・・二階堂が二の句を継ごうとしたとき、『副隊長、攻撃続行してくれ。現在のところ、ウルトラマンは我々の脅威ではない』と神崎が言ってきた。
『・・・ラジャー!』
大きく機体を旋回させると、二階堂は溶解液に苦しむウルトラマンを踏みつけているガモスに照準を合わせた。
一閃、放たれたふたつのミサイルはガモスの肩と脇腹に直撃した。激しい炸裂にガモスは大きくあとずさりする。
苦しみながらもどうにか立ち上がったウルトラマンだったが、怒り狂ったガモスの光線が直撃した。今度はウルトラマンが吹き飛び、ゴルフ場外園の森に倒れ込む。
残り4発のミサイル。二階堂は続けて2発撃った。だがガモスも負けじと背中の突起物を放つ。互いに空中で衝突し、激しく爆発した。
「フウウウゥ・・・・」
どうにか立ち上がったウルトラマンだが、足元がフラついている。ガモスはその凶悪な面構えのまま嗤うように向かってくる。
一方、二階堂に戦術シミュレーションを送り続けながら、丹沢は別な画面を開いていた。
「隊長、あ、ええっと・・・」
自身の考えに自信を持てない丹沢は、詰まり気味に言葉を発する。
「どうした?」
「いえ、これは仮説の域を・・・」
「いいから、話してみろ」
戸惑い気味の丹沢の肩を、ポンと叩く。
「・・・これを見てください」
丹沢のモニターに出てきたのは、最初のガモス出現の映像だった。
「なにかつかんだんだな」
「つかんだというか・・・これ、ガモスは一度、相模原市方向へ進もうとしてました。ですが、向きを変えて町田市側へ進んでるんです」
丹沢の指摘通りだった。身体をほんの90度方向転換したに過ぎないが、一瞬向かおうとした先を変えたように見えたのだ。
「もしかして、何かがあって方向を転換したのではないかと思って、いままで周囲を探っていたのですが・・・特筆すべきものは・・・」
今度は上空写真から展開させた、当該地域の俯瞰図だった。
「・・・このパラボナアンテナは・・・」
「国立宇宙科学研究施設の、電波望遠施設です。宇宙空間との相互通信に用いられているものなのですが・・・調べた結果、常時高周波を発しているんです」
「・・・丹沢、お前の言いたいことは理解した」
「いえ、まったくの推論、仮説に過ぎません。ユザレも、情報が不足していて結論を出せないと言ってます。ですが、これは可能性としては低くないというか・・・。ガモスが、続けてゴルフ場に現れた理由も、これなら説明に矛盾がないんです。付近にこうした高周波を発する施設がない、広大な場所で、周囲をうかがいながら街を侵攻できる場所となると、大きな公園かゴルフ場ですから」
「副隊長、きいていたな」
神崎は二階堂に問いかけた。
『はい。高周波なら、ファルコンに搭載されている指向性高周波エミッターが適合しそうですね。ジャミング用ですが、出力的にガモスに有効かどうかは・・・』
「副隊長、指向性高周波エミッターは本来電子戦用の兵器ですが、最大出力なら宇宙科学研究施設のパラボナに匹敵します。あ、いえ、ガモスに有効とは断言が・・・」
『丹沢くん、まずはやってみるからね』
「あ・・・ええっと・・・」
確証のないことを作戦に組み込んで良いものか、丹沢は言葉を詰まらせた。だが神崎は、両手を丹沢の肩にポンと乗せた。
「丹沢、もしもお前の仮説が正しいのなら、ここでガモスの侵攻を食い止め、街も、住民も守ることができる。その可能性があるのなら、やってみよう」
「・・・はい!」
ガモスは倒れているウルトラマンを足蹴にしていた。何度目かでウルトラマンはガモスの足をつかみ、それ以上踏みつけられまいと力を込めていたが、それが精いっぱいだった。胸のタイマーは点滅が早くなり、溶解液を浴びせられたその身体はダメージの蓄積で小刻みに震えている。
そこへ、二階堂が駆るGUTSファルコンが接近してきた。ファルコン先端にある放射器から針のようにアンテナが少し伸び、ガモスの方を向く。
ガモスは残虐で残忍な怪獣だが、それ故に、いまは如何にしてウルトラマンを踏みつけてやろうか、もっと力を込めてやろうか、そこに夢中になっている。
「指向性高周波エミッター、放射!」
二階堂が操縦桿左にあるスイッチを押した。高周波は目視こそできないが、GUTSファルコンのモニターには一直線に伸びていく高周波が映し出された。
突然、ガモスは甲高くうめき、倒れ込んだ。先の出現時、二階堂が実行した脳天へのミサイル攻撃以上の苦しみぶりだった。
『真理くん、放射を続けろ』
『ラジャー!』
効果があったことに、二階堂は口元をほころばせた。転げまわるガモスに尚、高周波を当てていく。これまでなら溶解液なり突起物なりと反撃もあったのだが、それすらできぬほどの苦しみようであった。
やがてガモスは口から溶解液ではなく、泡をふきだし始めた。溶解液が変質したものなのか、苦痛によるものなのか、判別はつかないが、少なくともこれまでGUTSが展開したどの攻撃よりも効果があることは、火を見るより明らかであった。
そこから転げまわり、高周波が届かなくなったタイミングでガモスは立ち上がったが、口周りを覆う泡のせいで溶解液がうまく吐き出せない。敵意むき出しに二階堂が搭乗しているGUTSファルコンを睨みつけるガモスに、ウルトラマンは強烈な飛び蹴りを放った。
横っ飛びに転げまわるガモス。そのタイミングで、大きく両手を拡げるウルトラマン。
白いエネルギーが両腕に集約され、そのまま腕をL字に組む。白い光線が右手いっぱいに拡がり、そのままガモスに命中した。
ガモスの巨体は一瞬で蒸発し、やがて周囲を巨大な火焔が包み込んだ。二度、三度と火焔は音を立てて膨れ上がり、ガモスは完全に消滅した。勢いよくガモスがいた周囲は炎上し、やがて炎も尽きた。
「ハアッ!」
胸のタイマーの点滅は勢いを増している。ウルトラマンは掛け声をあげ、上空へ飛んで行った。
『・・・やった』
思わず二階堂は口にした。ウルトラマンという存在に懐疑的な彼女だったが、このときばかりは、ウルトラマンが最終的に勝利したことを喜んだ。
そしてGUTS基地では、結果を目の当たりにした丹沢が大きく息を吐き、一気に肩の力が抜けた。
「丹沢、よくやった」
神崎は丹沢の両肩をがっしりつかむと、力をこめて握った。
「隊長・・・僕は、最後まで自説の確証を持てませんでした・・・」
よほど緊張していたのだろう、まるで軟体動物のように力が抜けた丹沢。
「良いんだ。お前の粘り強さと多様な仮説を構築する力が、今回の勝利につながったんだ。自信持って良いんだぞ」
神崎の笑みに、丹沢も微笑んだ。力のない、だが安堵に満ちた微笑みだった。
『こちら松野!朝霧を発見しました。無事です!』
そこへ飛び込んできた通信。松野だった。
澪は煤だらけだったが、どうにか松野に支えられて立ち上がっていた。
「お前、ホントに運が良いな。ウルトラマンに助けられたんだって?」
澪を支えながら、松野が笑顔で話しかけてきた。
「はい・・・ティガのおかげです」
「あん?ティガ・・・?」
「・・・はい、ティガ。意識朦朧でしたが、そう聞こえました」
「ティガって、あの、ウルトラマンのことか?」
「はい・・・ウルトラマン・・・ウルトラマンティガ・・・」
「ティガ、か。よくわかんねーけど、良い名前だな。すげーな朝霧、お前ウルトラマンとしゃべった最初の人間になるんじゃねーか」
フラつく澪を、松野は支えて歩き出す。
「お前の運の良さわけてもらえたら、オレも宝くじ当たって億万長者かもな!」
おそらく、戦いの恐怖に動揺していると考えた松野は、そんなジョークを口にする。だが澪は、戦いの恐怖におびえているわけではなかった・・・。
翌日になった。
梅雨らしい強い雨が降る中、澪は子ども食堂「まどか」へ向かっていた。
小川さんから、状況はきいていた。
澪は、戦いに勝った喜びも、あるいはギリギリの末の勝利だった畏怖も、なにも考えなかった。いや考えられなかった。
「澪ちゃん!」
「まどか」に入ると、小川さんが駆け寄ってきた。今日は平日の午後。普段なら子どもたちはいない時間だ。だが、2、3人、澪が会ったことがない子どもたちがいる。
「澪ちゃん、大変だったね。怪我とか、してないかい?」
小川さんが目を潤ませて、訊いてきた。
「はい・・・あの、太賀くん、は・・・?」
小川さんは答えようとしたものの、少し間があって、言葉ではなく嗚咽が漏れだした。
ちょうど、「まどか」に来客があった。この辺の子ではないようだ、無表情の子どもを連れた、スーツ姿の女性が2名。
「澪ちゃん、ごめんね。ちょっとお客さん来たから・・・太賀くんなら、2階のお部屋にいるから・・・もしかしたら、澪ちゃんが声をかけてくれたら・・・」
そこで小川さんは、涙が止まらなくなった。それでもどうにか涙をぬぐい、女性2人と一緒の子を中へ通した。
澪は2階へ昇り始めた。太賀くんは、ここで暮らすことになったときいていた。
「・・・太賀、くん」
澪はオープンスペースになっている部屋の一角、太賀くんの部屋で声をかけた。太賀くんは、机の方を向いたままだ。
「太賀くん、遅くなっちゃって・・・ごめん・・・」
澪は部屋へ入った。いつもなら、澪を見ると顔をほころばせて、真っ先に駆け寄ってくるのに・・・。
「・・・太賀くん?」
澪はしゃがみ込み、太賀くんに目線を合わせた。太賀くんは、澪を見ようとしない。俯いたまま、声も発しない。
テーブルには、パンとミルクが置かれている。時間がたっているのだろう、パンはやや乾いている。
「・・・ごめんね・・・ごめんね、太賀くん・・・」
澪は太賀くんを抱きしめ、泣き出した。太賀くんは何も言わない。澪を振り払おうとも、しない。
いっそのこと、怒りまかせに怒鳴ったり、叩いてきてくれたら・・・澪はそう思うのだが、太賀くんは何の反応もしない。ひとしきり抱きしめた澪だが、時間は限られている。
また来るからね・・・そんな言葉も、出なかった。澪は名残惜しくも、階段を降り始めた。ちょうど下の階で、子どもが泣き出した。さっきやってきた子だろうか。
「小川さん・・・」
なんとか涙を拭いた澪は、応接している小川さんに声をかけた。
「澪ちゃん・・・」
小川さんは泣いていた。一緒にいる女性ふたりは仕事なのか、泣く子をなんとかなだめている。だがふたりのうち、若い女性は涙を必死にこらえているようだった。
「澪ちゃん、今日は来てくれてありがとうね。太賀くんの面倒、しっかりみるからね。お仕事、しっかりね」
涙を拭うと、小川さんは無理やりに笑顔を見せた。澪は何も言わず頭を下げ、「まどか」を後にした。
昨日小川さんから連絡があったのは、澪が松野に介抱されて基地へ戻ったすぐ後だった。
「澪ちゃん、太賀くんの、おとうさんとおかあさんが・・・」
それからは、いてもたってもいられなかった。だが出動から帰投後、何もせず基地を離れることは許されない。
両親を喪った太賀くんが、何も話さなくなってしまったときいた澪は、必死に神崎に頼み込み、こうして翌日時間を作ることができた。もしも自分が訪れることで、太賀くんが元気を少しでも取り戻してもらえれば・・・。
だが、それは叶わなかった。
思えば、自分はみんなを守るため、GUTSに入隊したハズだった。
それなのに・・・それなのに、誰も守れていない。
両親を喪った太賀くんは、元気をなくした。
もしも、もしも・・・わたしがGUTSに入らず、太賀くんと一緒にいたら・・・。
たまらず、澪は泣き出した。傘が放り、強い雨に濡れても、澪は泣くのがやめられなかった。
しゃがみ込み、泣き続ける澪。
雨は、しだいに強く、冷たくなっていった。
~次回予告~
守る力をつけるため、澪は努力をかさねる。
そんな澪に厳しく接する二階堂。
本当の強さとは、己が向かう先とは?
澪の自問自答を、状況は待ってはくれない。
次回 『目覚めよ、澪!』 地底怪獣マグラー登場
ウルトラマンティガ。その光は弱く、儚い・・・