闇エルフのお忍びグルメ   作:常夏鳳梨

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副題:コーヒーシリアスタイム

どうも、常夏鳳梨です。
本作は飯テロと共に時事ネタもたまにぶっ込んでいるので、今回は割とシリアス寄りな話になるかもです。
ついでに言えば、オリキャラも出てします。
ちなみに、メドヴニークはいわゆるケーキ系のお菓子です。


メドヴニーク

合成薬物アスピオーネは、元々はエリクシエル剤を再現するためにキャメロットが生み出した薬であった。

つまりところ、この薬はかつてオルクセン側が独占していた奇跡の薬を科学的に模倣したモノで、その当時は強い効果を持つ痛み止めとして使用されていた。

 

しかし、どこの世界でも似たようなことは起こるもので──結果として、アスピオーネは痛み止めの薬から違法なドラッグへと取り締まりの対象となっていた。

その理由はただ一つ、強い依存性を持つが故にアスピオーネ中毒者が続出したからである。

 

今からおよそ3年前の星歴1022年。

センチュリースターでの南北戦争が終結した際、キャメロットやオルクセン連邦などの国々は負傷兵の治療のため、多くの医療従事者を送っていた。

その際、彼ら彼女らが目にしたのは──薬漬けと言っても過言ではない状態の南部兵達の姿で、廃人となった兵士達を見た医療従事者達はすぐさま調査隊の派遣を要請した。

 

そして、センチュリースターの南部軍が兵士達をアスピオーネ中毒にさせた上で、その薬を餌に戦場へと駆り立てていたことが事実として発覚し、国際社会を震撼させた。

それは、起きてはならない非人道的な行為だったからである。

 

やがて、この一件を機に星欧大陸ではアスピオーネという薬品は違法な薬物として扱われるようになり、厳しい規制と摘発が行われるようになっていた。

それはオルクセン連邦も同じだったようで、既に空港の税関などに持ち込もうとして摘発される──ということが数件ほど確認されたためか、その規制はますます強まっていた。

 

ついこの間に至っては、密輸されたアスピオーネ入りのカバンを持ったコボルトが白エルフ街にて逮捕されるという事件が起こり、その事件をキッカケに芋蔓式に関係者が摘発されたため、それを聞いたディネルースは戦争の次は薬物かと頭を痛めていた。

 

「薬は使い方次第では毒となると言うが──まさか、その通りのことが起こるとはな」

 

ヴィルトシュヴァイン内のとあるカフェにて、オルクセン連邦警察の上層部に属する闇エルフのベレニケ・リュミドミアに対し、ディネルースは難しい顔をしながらそう呟くように吐き捨てた。

彼女のその顔には、数十年前の粗悪なエリクシル剤関連のゴタゴタがあったからか、また薬物絡みかと言わんばかりの様子になっていた。

 

近年はオルクセン連邦の努力や警察の奮闘もあってか、今現在では粗製エリクシエル絡みの犯罪は少なくなっていた。

ただ、その代わりにアスピオーネが蔓延するのではないか?とディネルースは危惧していたようで、彼女はカフェのコーヒーを飲みながら眉間に皺を寄せており、また手口が巧妙になりそうだなと思った模様。

 

それはベレニケも同じだったようで、彼女の意見に同意するかのような表情となっており、コーヒーを一口飲んだ後に自らの意見を述べるようにこう言った。

 

「報告によれば、ゼリーやグミなどの菓子類に混入させる形での密輸はもちろん、最近ではそのアスピオーネ入りのグミをネット上で販売している輩もいるようです」

「全く、菓子に薬物を混入させるとは──売人共は何を考えているのだ?」

 

誤って薬物を摂取する人々のことを想像したのか、静かに憤慨した様子でボヤくディネルース。

その意見に同意するようにベレニケもまたコクリと頷いており、白エルフ街での一件があったからか、より一層アスピオーネへの警戒心を強めていた。

 

ディネルースはディネルースで、50年前に南道洋で終結した戦争に参加していた軍人達がキャメロットに帰還した末に、PTSDや差別迫害から逃れるために薬物に走った──という出来事を思い出したようで、そのようなことがセンチュリースターでも起こるのではないか?と懸念していた。

現に、過去のオルクセン連邦では帰還兵達が粗製エリクシエル剤に依存するということもあったためか、彼女は戦争と薬物は切っても切れない関係なのだなと皮肉気味なことを思っていた。

 

いつの時代も、戦争によって身も心も傷ついた軍人達の中には、自身の抱えるトラウマや厳しい現実から逃れるため、少しでも救われたいとばかりに薬物に手を出す者も少なくなかった。

現に、ベレリアンド戦争や第一・二次星欧大戦の際に帰還してきた兵士達の中には、粗製エリクシエル剤に依存した末に中毒者となる者もある程度存在していた。

そのため、彼女がそんなことを思うのも仕方がないことであった。

 

「デュートネ戦争の際は酒に溺れる輩がそれなりに居たが──今度は薬に溺れる輩が増えるとはな」

「えぇ、最近では市販薬を用いたオーバードーズをする者も一定数いるようなので、我々としても油断が出来ないのです」

 

アスピオーネを筆頭にした医療用薬品のドラッグ化に、風邪薬などの市販薬を使用したオーバードーズ。

ここ数年、オルクセン国内外で薬に纏わる事件が多発していることもあってか、ディネルースはまだまだ世界が平和だとは言えないなと内心ボヤいた後、複雑な世界情勢と亡き夫であるグスタフに想いを寄せつつ、コーヒーをまた一口飲んでいた。

 

ちょうどその時、ディネルース達の下に運ばれてきたのは──ケーキ生地を砕いた胡桃でまぶしたケーキこと、【メトヴニーク】であった。

この【メドヴニーク】というケーキは、生地の間にキャラメルクリームやサワークリームを挟んだハチミツ風味のケーキで、オルクセン連邦ではコーヒーに合うお菓子として親しまれていた。

 

その【メドヴニーク】を受け取ったディネルースとベレニケは、美味しそうなお菓子が目の前にあるだけに、目をキラキラと輝かせていた。

そして、とりあえずアスピオーネ絡みのことは一旦忘れようと思ったのか、フォークを手に【メドヴニーク】を食べ始めていた。

 

【メドヴニーク(エルフサイズ)】

ハチミツ風味のしっとり甘々ケーキ

濃厚な甘味はシリアスに効くぞ!!

 

「──美味い」

 

【メドヴニーク】を一口食べた瞬間、そう呟くディネルース。

その顔には、さっきまでのピリついていた表情はどこかへと消え去っていた反面、その代わりに甘いモノを享受する乙女の顔が映し出されていた。

 

ハチミツの香りが漂う生地の甘みとその間に入っているキャラメルクリームの風味が合わさることにより、広がるのは緊張感すらも和ませる濃厚な甘み。

周りにまぶしてある胡桃は程よい食感なためか、二人は【メドヴニーク】を食べる手が止まらなくなっていたようで、上に立つ者としての疲れが溜まりに溜まっていたのか、ハチミツとキャラメルの甘みが残る口の中にコーヒーを流し込んだ。

 

「──合うな」

 

その結果は言うまでもなく、美味であった。

正確に言えば──甘い【メドヴニーク】と苦味のあるコーヒーの相性は非常に抜群で、ディネルースとベレニケはこの組み合わせを思う存分楽しんでいた。

 

ディネルース自身が軍人であった頃は、とにかく砂糖たっぷりで甘々なコーヒーを飲む機会が非常に多かった。

だからなのか、その反動で砂糖無しのブラックコーヒーを好んで飲むようになり、最近では自分好みのコーヒーを作るのにはどうすれば良いのか?と思い始めたようで、コーヒーミルを買おうかどうかで本気で悩んでいた。

 

そういえば──我が王(グスタフ)がオススメだと言っていた自家製ブレンドコーヒーがあったが、結局飲めなかったな。

ふと、コーヒーの香りにキッカケにそんなことを思い出したのか、唐突に懐かしい気分になるディネルース。

 

今のオルクセンがあるのは、グスタフという偉大なる王の努力や奮闘による影響が非常に大きかった。

もちろん、今もなおグスタフに敬意や忠誠を誓う国民達も少なくない。

そのためか、時折ディネルースは彼が遺した国を守れているのだろうか?と思うようになっていた。

 

だが、お忍びという形でヴィルトシュヴァインなどの街に向かい、人々の笑顔や優しさに肌身で感じる度に、女王で彼の遺産とも言えるこの国を守ろうという決意がみなぎっていたようで、エネルギー補給とばかりにメドヴニークを食べていた。

 

「──ここの店のケーキは美味いな」

「それに、コーヒーともよく合いますね」

 

そんな会話をしつつ、コーヒーを飲み干す二人。

そして、名残惜しいとばかりに【メドヴニーク】を完食したディネルースは、飲んでいたコーヒーのおかわりを待つ間にアスピオーネ絡みの話を再開していた。

 

ベレニケによれば、ここ最近のアスピオーネ絡みの事件で逮捕された人々はネット経由で募集されたバイト──いわゆる闇バイトのために集められた面々で、首謀者によって脅される形で犯罪に加担していることが発覚。

今現在はある程度は捜査が進んではいるものの、首謀者達は南道洋に潜んでいる可能性が高いことを伝えた。

 

それを聞いたディネルースは小癪な真似をするものだなと声を漏らすと、ベレニケに向けてこう言った。

 

「我々は──粗製エリクシエル剤が引き起こした悲しみに匹敵する悲劇を、薬の誤った使用法による過ちを止めなければならない。この意味は分かるな?」

 

ディネルースはオルクセンの地を愛する女王として、ベレニケに対してそう言ったところ──彼女もまたその言葉の意味を理解したのか、警察官としてその言葉に大きく深く頷いた。

 

ディネルースとベレニケは、かつて粗製エリクシエル剤によって引き起こされた悲劇のことを知っていた。

ベレニケに至っては、その当時の粗製エリクシエル剤絡みの事件の捜査に参加していたからか、その思いは並々ならぬモノであった。

だからこそ──誰よりも国を案じる気持ちは共通していたからこそ、二人は今こうしてこの場でアスピオーネに纏わる話をしていたのだ。

 

「しかし──一体何故、奴らは南道洋に?」

「南道洋はそういった輩には人気の潜伏先なのです。それに──」

「それに?」

「南道洋の国々では未だに賄賂などが横行しているようですので、その点でも居心地が良いのだと思います」

 

ベレニケがそう言った瞬間、今の時代に賄賂かという顔になるディネルース。

オルクセンではそういうことが非常に少なかった反面、エルフィンドでの従軍していた際にそういったことを見聞きしていたからか、彼女は悪い意味でやれやれという顔になっていた。

 

その後──オルクセン連邦を含めた星欧諸国の強い要望により、南道洋の国々は大国に睨まれたくないという理由で重い腰を上げたようで、オルクセン国内で発生したアスピオーネ絡みの事件の首謀者が逮捕された。

ついでに言えば、賄賂を受け取ったと思われる警官達も処罰された模様。

 

「グスタフ──少しずつではあるが、私も女王として頑張っているよ」

 

世界はそう簡単には変わることはないが、少しずつ変化しつつある。

そのことを実感しつつ、ディネルースは今日も今日とて偉大なる魔王の背中を追うように女王の責務を果たすのだった。

 

@YamiDonguri

今日は知り合いと【メドヴニーク】を食べたよ!!

この甘さが心と体に沁みる〜!!

#オルクセン飯




【本日のメニュー】
☆メドヴニーク(キャラメルver)
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